「なあ愁、たまには二人でコスプレエッチとか」
「頭打ったのか?」
某大型量販店で買った安っぽいコスプレ衣装の袋を抱えた虎石を冷たく一蹴し、空閑は読んでいた虎石の漫画に視線を落とした。
ここは虎石の実家、虎石の部屋。
短い夏休みの間、僅かな帰省期間ながら、空閑と虎石は毎日のように互いの家を行き来していた。これは高校進学する前からの習慣で、寮に入っても(主に虎石が)互いの部屋に行くのは当たり前、今更それが変わるはずもなかった。
──そして虎石にとっては、この帰省期間こそ色々な意味での大チャンスで。
「なあいいじゃーん、たまにはいつもと違うコトしようぜ?」
肩からのし掛かってみればぐいと押し返され、
「おい虎石、これの続きの巻は」
「おう、そこの本棚に……ってそうじゃなくて」
何事も無かったかのように虎石の発言を無視する空閑。流石オレの幼馴染はハートが強い、と自分がその元凶であることを棚に上げてしみじみとする虎石。
とは言えなんとかして愁にこれを着て欲しい、だって着て貰うために買ったんだから。そう決意を新たにする虎石。
そう、虎石の目的は単純だった。
愁とコスプレエッチがしたい。本当に、そんなただただ単純な動機だった。
虎石は知っている、色事に全く興味が無さそうな空閑が本当は性欲が強いことを。ただ普段はスイッチが入っていないだけで。そのスイッチさえ入れば、空閑は虎石が思わず音を上げるまで虎石を求めて来る。
それでも寮生活を送っている以上チャンスはなかなか望めない。だからこそ、今がチャンスなのだ。今やらなくていつやるのか。
それに、チャンスがあるうちに発散しておかないとお互い辛い。経験で分かる。あまりにお預け期間が長かった後での空閑は、際限ない体力で以て虎石を求めるし、強請るし、絞り取る。普通は抱かれる側の方が体力を使うはずなのに虎石の方がどっと疲れる。
(……仕方ねえ)
だから虎石は、奥の手を使うことにした。
「おっ愁、おはよ~」
「……おい、なんのつもりだ虎石」
昼食後に眠くなった空閑をベッドに寝かせ、爆睡している隙に着替えさせる。一度寝るとなかなか起きない幼馴染の習性を利用した我ながら完璧な作戦だ、と虎石は自画自賛した。
空閑が着ている……というより着させられているのは、紐と体の一部を覆う僅かな面積のホルスタイン柄の布だけで構成された、もう露出度の高さのことしか考えられていないような牛のコスプレ衣装だった。頭にはしっかり耳と角のカチューシャ、首にはベルが付いた首輪。がっしりしていながらもしなやかな筋肉が惜しげもなく晒され、それを見た虎石は満足げに頷いた。
「いやー、よくお前に入ったよなこの衣装。ほぼ紐だからサイズ調節楽だったけどさ」
そして空閑の枕元に立つ虎石が着ているのは、赤と白の薄い布のセーラー服だった。ギリギリまで短くしたスカートに、わざわざ白いハイソックスまで履いている。
体を起こしてそんな虎石を一瞥した空閑は一言。
「ふざけんな」
「いいじゃん、可愛いぜ愁ちゃん」
虎石はベッドに腰掛けてわざとらしく足を組んだ。ちらちらと、空閑に見せ付けるようにして足を揺らす。
「……つーか愁、オレの前だからってちょっと無防すぎね?」
「それもそうだな、次からぜってぇお前の前では寝ねえ」
「じゃ、今日の愁は今日だけのトクベツってことで……」
少しだけ声に熱を込めて、空閑の太腿に手を這わす。
「なぁ愁、オレ今の愁のエロいとこすっげえみたいんだけど……愁はきょーみない? 今ヤったらどんだけ気持ちよくなるか、とかさ」
「っ……」
露出している部分を触られ、空閑は僅かに体を強張らせた。
「いつもと違うカッコの愁、すげえ興奮する。愁は?」
「すげえアホだな、お前のセンスが」
そう言いながらも、空閑の目に僅かな熱が籠もる。
チャンス。虎石は、自分の目が獰猛に光るのを自覚した。そして空閑がしっかりそれを見たことも。
「……仕方ねえな、今日だけだ」
空閑は虎石に顔を寄せた。そして、獲物を捉えた狩人のように目を光らせて笑う。
「来いよ」
虎石はニヤリと笑うと、ベッドの上に乗り上げる。空閑の目の前で膝立ちになってスカートの裾を摘まみ上げると、レースで飾られた黒の女物の下着がスカートの中から覗いた。
「……お前ほんとバカだろ」
「いーじゃん、こういうのは雰囲気だよ」
虎石が何も言わずとも、空閑は虎石が穿いている下着に手を伸ばす。ぐい、と躊躇いなく下ろすと虎石のそそり立つ男根が勢いよく姿を現した。
スカートや女物の下着とは到底不釣り合いなそれに、しかし空閑は動じることなく虎石のそれを両手で支えて頬を寄せた。
ぴたり、と頬が当たる感触に虎石は息を漏らす。空閑はうっとりと虎石のそれの感触を頬で味わってから、ゆっくりと舐め上げた。それを何度か繰り返してから、空閑はそれを口内に誘い込む。
虎石をいっぱいに頬張って歪んだ空閑の顔を見て、虎石は体中の血が熱くなるような気がした。じゅぽじゅぽと音を立てながら、裸同然の服を着た綺麗な顔の幼馴染の口から自分の男性器が出し入れされる様はひどく背徳的で淫靡であった。
ぞくぞくと背筋を駆け上がる快感は虎石の理性を溶かし、虎石は思わず空閑の頭を掴んで前後に揺さぶった。
「んぐっ……!」
空閑は僅かにえずいたが、その舌はすぐまた虎石に絡み付く。
「っあ、やば、愁、すげえイイ……」
譫言のように声が漏れる。夢中で空閑の口内を犯すうちに少しずつ体の内を何かがせり上がる感覚がした。
やばい、とぎりぎり残った理性で慌てて空閑を引き離すと同時に、どくんと自身の内で音がして気付いた時には空閑の顔に白濁が飛び散っていた。
「……相変わらず早いな」
体を起こした空閑がそう呟くので虎石は思わず顔を熱くしてうるせえ、とふてくされる。だが視線は空閑から逸らせない。自分が出したもので顔を汚す空閑はいっそう肉欲を煽り立てる。
虎石のその様子を見た空閑は薄く笑い、顔に付いた白を乱暴に拭うと胸を覆う僅かな布を上にずらして胸を露わにした。
「ほら虎石、今日は吸わねえのか」
唇を舐めながら挑発的に笑う空閑を、虎石は迷わず抱き寄せる。
「愁ちゃん、ノってきた?」
「かもな」
虎石は自分の足に通したままの下着を脱ぎ捨てた。空閑を自分の足の上に跨ぐようにして座らせ、虎石はまず右胸にむしゃぶりついた。空閑の乳首を吸い、舌の上で転がし、出もしない母乳を求めるように一心に。
空閑は熱い息をこぼしながら、自分の胸に夢中になっている虎石の頭をかき抱いた。全身を包み込むような安心感に満たされながら、虎石は左胸も吸い始める。
「んっ……はあっ……」
虎石に胸を吸われながら、空閑はひくひくと体を震わせ体中を熱くする。
空閑が牛の格好をしていることも相まって、本当に愁から母乳が出るんじゃないか、などと虎石の頭を過ぎり、ぎゅう、と一際強く吸い上げる。
「っ、あっ!」
空閑は思い切り仰け反り、びくびくと体を震わせた。
虎石は空閑の胸から口を離し、空閑の股間を見た。股間を隠すホルスタイン柄の僅かな面積の布は濡れ、白い液体が太腿に伝っていた。頬を紅潮させ、ぼんやりとした熱い目で虎石を見ながら肩を上下させる空閑の体は触れると汗で湿っていて、虎石はニヤリと笑う。
「どーよ、JKにおっぱい吸われてコーフンシてイっちゃうエッチな牛さんになったキブンは?」
その言葉に空閑は唇の端を上げる。
「……は、その牛に咥えられて興奮してたのはどこのどいつだ?」
「言ってろ……!」
ぐい、とベッドに押し倒せば空閑は躊躇い無くベッドに横たわる。不敵にぎらつくその目は牛どころか獲物を前にした肉食獣だ。
「来いよ、虎石」
「はっ、泣かされても知らねーぜ?」
「お前こそ途中でへばんじゃねぇぞ」
凶暴そのものな視線が交わった後、二人は噛み付くようにして唇を重ねた。
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牧場を引きずりすぎている