出会い(再録、タイトル変更)(シューティー+ヒトモシ)

アニメBWのシューティーと彼のとある手持ちポケモンの出会いを捏造しました。

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 それは夜になって、シューティーが野宿をしようとしていたときだった。
 シューティーは、森の小道の脇の木立の奥で何か光が揺らめくのを見た。
(誰か既にここで野宿しているのか……?)
 しかし周囲に人の気配はない。シューティーはすぐにその可能性を否定した。
(いるとすれば炎タイプのポケモンか?)
 そう考えると何だか気になって、しかし夜遅いから森の中に入るのは危険だという理性と好奇心がせめぎ合うこと数十秒、
(……別に、ポケモンだったら見てみたいという訳ではないんだからな)
 そう自分に言い訳をして森の奥に分け入っていった。
 少し歩くと、
「モシ~……」
 と近くで弱々しい声がした。
(人の声……ではない……ポケモン……?)
 明かりに近づいて行くとその声……そして明かりの正体が分かった。
 一本の木にもたれかかっているヒトモシだった。
「何だ、ただのヒトモシか……」
 シューティーは思わず、ホッと息をついた。
 ヒトモシなら他のトレーナーが持っているのを見たことがある。しかし気になる点があった。
(このヒトモシ、随分と頭の炎が弱くないか……?)
 一度見た他のヒトモシの頭の炎よりだいぶ小さい。今シューティーの目の前にいるヒトモシの炎は、今にも消え入りそうな程に細く、弱々しかった。
 ヒトモシの前にしゃがみ込んでみると、その体に引っ掻き傷がいくつか、ヒトモシの頭の炎に照らされて見受けられた。
「他のポケモンに襲われでもしたのかい?」
「……モシモシ?」
「もしくは通りすがりのトレーナー……」
「モシモシ……」
(成る程、解らん)
 元より野生のポケモンとコミュニケーションなんて成立するわけがないだろ、と我に返ったシューティーは自分に呆れを覚えつつも、
「……仕方ないか」
 そう溜息を吐きつつ、両手でヒトモシを抱えて立ち上がった。
(まださっきの町からそう離れてはいないはず……急いでジョーイさんに見せないと)
 そう心の中で呟いて、シューティーは元来た夜道を走って引き返した。
 その腕の中で、ヒトモシが不思議そうにシューティーを見上げていた。

「あの……すいませっ、ジョーイさん……この、ヒトモシを……」
 ポケモンセンターにたどり着いたとき、シューティーは息も絶え絶えという状態になっていた。若干頬がこけ、声に力が入っていない上に足取りも危なっかしい。
 ジョーイはシューティーのその様子を見て「あら大変!」と声をあげ、
「分かりました。ヒトモシはこちらでお預かりしますのであなたも休んでください。すぐに部屋を用意しますから」
「あ……りがと、ございます……」 
 ヒトモシはタブンネが押すストレッチャーに乗り、治療室に連れて行かれる。
 シューティーはその様子を見送って安堵した表情を見せ、ジョーイに伴われ宿泊用の部屋にふらふらと歩いて行った。その際に、ヒトモシの頭の炎には気を払う余裕はないようだった。
 ヒトモシの炎は、シューティーに出会った時よりも大きく輝いていたというのに。

 ヒトモシは、生命力を人間やポケモンから吸い取ることで活動している。
「そんなの基本だろ……僕は馬鹿か……」
 翌朝、目を覚ましたシューティーは思わずそう呟いて頭を抱えた。
 あのヒトモシは見るからに弱っていた。だから生存本能として、自分に近付いた人間の生命力を吸い取るのは必然とも言える。 当然、生命力を吸い取られた人間やポケモンは最終的に死に至る。
 つまりシューティーは、冷静な判断力を失って自分の命を危険に晒していた、ということになる。
 知識はあったにも関わらず。
 それをうっかり失念していた。
 うっかりではなく、ヒトモシがそうさせたのかもしれないが。
 シューティーは一度深呼吸して気分を落ち着かせた。冷静さを取り戻してから、どうやら自分は部屋に着いてすぐ、ベッドの上で意識を失ったらしいと検討をつける。
 つまりは、目が覚めなければ死んでいたということだ。
 現在調子は良く、体を動かすのに特に支障はない。
(僕としたことが……一時の気の迷いで命を危険に晒すなんて……)
(……まあでも)
 あのヒトモシの命を救うことが出来て良かった、とが思っているのは事実だったりする。
「……まあ、連れて来た手前、あいつの様子を見てやらないとな」
 そう呟き、シューティーは部屋から出た。

「お預かりしていたヒトモシはすっかり元気になりましたよ」
「タブンネ~」
「モシモシ!」
 タブンネが押すストレッチャーに乗るヒトモシは完全に回復しているように見えた。傷はすっかり消えているし、声も昨日に比べ張りがある。
 シューティーがそれを少し複雑な気分で見ていると、ジョーイが
「シューティーさん」
「何ですか?」
「昨日、このヒトモシに生命力を吸い取られましたよね?」
「……ええ、まあ」
 ジョーイは一つ頷いてから、
「そのヒトモシはあなたに拾われたとき、命の危機に瀕していました。ですからあなたが現れた時、生存本能として思わずあなたの生命力を吸い取ってしまったのでしょう。でも、あなたは必死になってそのヒトモシを助けようとしていましたよね?」
「それは……冷静さを失って……」
「そのヒトモシ、あなたから吸い取った生命力を、治療の途中で全部あなたに還元しちゃったみたいなんです。あなたにヒトモシにとって、命の恩人ですからね」
「へ?」
 シューティーは思わず驚きの声をあげていた。
「それじゃあ僕が普通に目覚めることが出来たのは……」
「ヒトモシから生命力が返ってきたから、です。そうでなかったら、今日あなたは寝たきりだったかもしれません」
「そう、なのか?」
 シューティーがヒトモシを見てそう呟くとヒトモシはにこりと笑って
「モシモシ♪」
 と鳴くだけだ。
「別に……僕はただちょっとした気の迷いでなんとなく……」
 何だか気恥ずかしくなって、シューティーはヒトモシから目を逸らして口をモゴモゴと動かした。
 ジョーイはくすりと笑って、
「では、ヒトモシは元気になったので一度あなたにお返しします」
「ですがこのヒトモシは野生の……」
「その子、あなたのことを気に入ったみたいですよ?」
「そんなこと言われても……」
 ゲットするとなれば、ヒトモシは育て上げて進化させるとかなり強くなる。でも生命力を吸い取られるのはちょっと、とシューティーが逡巡していると、
「ああ、そうそう。これは実際にヒトモシやその進化型のランプラー、シャンデラを使っているトレーナーから聞いた話なんですけど」
「?」
「ヒトモシ系統のポケモンは、懐いたトレーナーからは生命力を吸い取ったりはしないそうですよ」

 シューティーはジョーイに礼を言ってからポケモンセンターを出た。
 そしてセンター前の広場でヒトモシを地面に降ろし、こう聞いた。
「キミ、僕のポケモンになりたいの?」
「モシモシ!」
 ヒトモシは勢い良く頷いた。シューティーと一緒に旅をしたいと、全身で言っているかのように。
 シューティーは一瞬虚を突かれた様な顔をしてから、
「……分かったよ」
 微かに微笑んだ。
 シューティーはしゃがみ込み、鞄からモンスターボールを出すと、コツンとヒトモシに当てた。
 パカリとモンスターボールが開き、ヒトモシはそこから溢れた赤い光に包まれてボールの中に吸い込まれた。そしてボールが閉じる。3回ほどふよふよと揺れた後に、ピタリとボールが動きを止めた。
「……ヒトモシ、ゲット」
 小さな声で、少しだけ声に嬉しさを滲ませてシューティーそうは呟いた。
 そして立ち上がり、次の町に向かって歩き出す。
 ちょっとした寄り道で遅れた分を取り戻そうと、少しだけ早足で。

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リアルタイム放送時、シューティーの手持ちにヒトモシがいることにぴんときて書いたもの。
シューティー元気かなあ