虎石和泉は、とある酪農家の一人息子である。
牛や鶏の世話をし、牛乳や卵の出荷を手伝って暮らしている。
しかしある時、彼は出会ってしまった。自分の人生を狂わせることになる牛と。
牧場にやってきたその牛は、和泉の両親にはただの乳牛にしか見えないらしかった。しかし和泉の目にその牛は、人間に見えた。
ホルスタイン柄のビキニとホットパンツを身に纏って、牛の耳のカチューシャを着けて、からころ鳴る鈴の付いた赤い首輪をした、和泉と同じくらいの年頃の少年に。
その牛の名前は、「愁」と言った。
愁と和泉が出会ったのは、和泉が11になったばかりの頃だった。
愁はここ数年生まれた品種の牛(?)らしく、妊娠しなくとも乳を出せるらしかった。特殊な牛が来る、というのは聞いていたが、まさかその牛が人間の姿をしていて、しかも自分にだけ人間の姿に見えるとは、和泉は夢にも思わなかった。
愁が牧場にやって来たその日の内に、もういい年なんだからと、和泉は愁の世話を任されることになった。和泉は愁を厩舎に連れて行き、柵の中の藁のベッドの上で横たわる、どう見ても自分と同じくらいの少年にしか見えないその「牛」に話しかけてみる。
「お前、牛……だよな?」
「牛だ」
なんと答えが返ってきた。なんで会話が成立するんだ、と眩暈を覚える。
「……なあ、オレなんでお前のこと人間に見えるんだと思う?」
「は? 俺は牛だ」
「だよなー! 親父もお袋もそう言うんだよなあ」
オレはどうかしちまったのか、と柵にもたれてため息をつく。だが愁は、そんな和泉を見て立ち上がり、二本足で歩いて和泉に近付いてきた。
「だが、俺はどうやら他の牛と違うらしいな」
愁の表情は乏しく、何を考えているのか分かりづらい。その静かな目で見られると、不思議と胸がざわつく。
「俺はお前達人間の言葉が分かるが、他の牛が何を言ってるのかは分からねえ。人間と話せるわけでもねえけどな」
「……じゃあお前、なんでオレと話せるわけ」
「さあな。お前が俺のこと分かるからじゃねえの」
「そっか……」
納得できたような、できてないような。
「つかお前、牛乳? 出るわけ?」
「出るぞ、ちゃんと」
「……もしかして、胸から?」
「嘘だと思うなら飲んでみるか? 減るもんでもねえし」
「…………」
呆気に取られる和泉にはお構いなしに、愁はホルスタイン柄のビキニをたくし上げた。すると和泉と同い年の少年らしい、華奢さが残る胸が露わになった。しかしいきなり男の胸を見せられても困る。
「……えっ、乳首から、吸えってこと?」
「他になんかあるか?」
「えっ……えー」
本人は牛だと言っているが、和泉の目には同年代の少年にしか見えないのだ。その男の胸から直に乳を吸うというのは抵抗がある。しかし、本当にこいつから乳を搾れるのかとか、そんな好奇心がどうしても強く。
和泉は身を屈めて恐る恐る、愁の胸に顔を近付けた。そっと、乳首を口に含む。
ぢゅっ、と加減も分からないまま吸うと、「んっ」と愁がくぐもった声を上げた。同時に、甘い液体が舌の上に転がり込んでくる。
美味い。
他の牛が出す絞り立ての牛乳にひけを取らない、いや、もしかしたらそれ以上においしい牛乳(?)に、和泉は思わず更に愁の乳首に吸い付く。吸えば吸うほど、甘い液体が舌の上で踊るようだ。
「ん、んんぅっ……」
からん、と鈴の音がする。胸から顔を離して愁の顔を見ると、顔をほんのり紅潮させてはっはっと浅い息を吐いていた。
「……どうだ?」
潤んだ目で自分を見る愁に、思わずどきりとした。艶かしくて、蠱惑的ですらある。和泉のまだ幼い、しかし確かに存在する雄としての本能を刺激するかのようなその表情。和泉は全身の血が下半身に集まるのを感じた。
「……うまかった」
愁の顔を見るのが気恥ずかしくて、口元をごしごし擦りながら愁から目を逸らして言う。
「そうか、良かった」
「……あと三日もしたら、お前も毎朝搾乳器で乳搾りだかんな」
「わかってる。……一つ、聞いていいか」
「なんだよ」
「お前、名前なんて言うんだ」
「……虎石、和泉」
「……虎石、か」
愁が目を細め、頬を緩めた。その顔が笑顔だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「よろしくな、虎石」
「……よろしく」
その笑顔は和泉の脳裏に焼き付き、ずっと離れなくなり、やがて和泉を狂わせる。しかしこの時の和泉はただ、そんなことにも思い至らず、愁の笑顔に見惚れていた。
朝五時過ぎ。
とある厩舎から、今朝も声がする。
「んんっ……ぅ、はっ……」
いつものことながらオレは何を見ているんだ、そんな思いで和泉は厩舎の檻の中で搾乳器に繋がれた愁を見ていた。
愁が出す牛乳(?)は他の牛に比べるととても味がいいという理由で、愁は他の牛とは別の厩舎で生活することになっていた。そして他の牛同様に毎朝、壁際に設置された搾乳器に繋がれて搾乳されているわけだが。
「はっ、はぁ……んっ……」
ビキニをたくし上げ、両胸に搾乳器を付けて地面に座り込む愁。顔を赤くして目を潤ませ、息を荒くするその姿は、さながら発情しているかのようだ。
(やべえ……)
その姿から目を離せず、和泉は目を見開いて愁を見ていた。
「ん、んん……見るな……」
和泉に見られているのがやはり気になるようで、愁は和泉から目を反らしながら内腿を擦り合わせた。
「……もしかして、見られて興奮してる?」
「は……?」
和泉は檻を開け、愁に歩み寄る。
「お乳吸われて、オレに見られて、興奮してんだ?」
「違っ……あ、何を、」
和泉は愁のホットパンツに手を伸ばす。布越しに股間を触ると、その下に大きな男根の存在を感じた。
「っ!!」
からん。
ぎゅっと目をつぶってびくりと跳ねる愁。鈴の音が厩舎に響く。その反応が可愛く見えて、和泉は何度も愁の股間を揉む。
「あぐっ、う、やめろ、あ……!」
「気持ちいい?」
「やめ、あ……」
調子に乗って愁のホットパンツを下にずらすと、先走りに濡れた陰茎がぶるりと姿を現した。屹立するその陰茎を直に握り込んで上下にぐちゅぐちゅ扱くと、愁はいやいやをするように首を振った。
首輪の鈴がからころと激しく鳴り、音が恥ずかしいのか愁は鈴を両手で押さえた。
「愁はエッチな牛さんだなぁ~」
尿道口をぐりぐりと苛めてやると、愁は体をくねらせて声を上げる。
「んあっ、あ、やめ……」
艶かしいその声に、ずんと下腹部が重くなる。
あ、やばい。可愛い。
和泉は思わずその肩を掴んで、唇に噛み付くようにキスをした。
愁が和泉の牧場に来てから五年が経った。初対面の時から愁に対して欲情しているのを感じていた和泉はいつしか、その思いを隠さなくなっていた。
そして愁は、あまりにもあっさりとそれを受け入れた。くらくらする程の色香を放ちながら、嫌がることもなく、むしろ嬉しそうに。
表情に乏しい愁の顔がほんのり色付き、全身が快楽に蕩けていく様を見るのが、和泉はたまらなく好きだった。
勿論愁は、和泉以外の目から見ればただの牛である。両親にでも見付かれば大変なことになるのは分かっているが、それでも和泉は愁を求めるのをやめられなかった。どう考えても異常だ。自分以外には牛にしか見えない相手と週に何回もセックスしてます、なんて。それでも、愁を前にすると、そんな異常さへの自覚はどこかへ行ってしまう。
抱くなら「人間の」女の子の方がいい筈だ。どこにでも一緒に行けるし、柔らかくていいにおいがする。それでも、和泉は、愁の固くて引き締まった体を、決していいにおいとは言えない厩舎の中、チクチク体を刺す藁のベッドの上で抱くのが好きだった。
愁がどうして自分を好いてくれるのか、和泉には分からない。だが、体を重ね、時には重ねることなく、互いが通じ合っていると感じる瞬間が和泉は堪らなく好きだ。幸せだと感じる。愁に触れていると、他の誰かでは決して得られない充足感を覚える。
だから和泉は、愁を求めることをやめられなかった。
「んっ……愁……」
「んむ……んぅ、はぁ、」
和泉は一旦愁を苛めるのをやめると唇を合わせ、舌を絡めた。混ざり合った二人の唾液がぼたぼたと地面に落ちていく。
搾乳器が外れないよう、ゆっくりと愁を藁のベッドに押し倒すと、愁は期待するようにごくりと喉を鳴らした。
「愁、こっちのミルクも一回出しとこうな」
そう言ってぱくりと愁のペニスの先端をくわえると、「ああっ!!」と声を上げながら愁の体が仰け反る。じゅるじゅると先走りを吸ってから、ぬっぽぬっぽと抜き挿しをすると愁の体は面白いように跳ねた。その度に鈴の音がからんからん鳴り、うるさいくらいだ。
「あ゛っ、うぁ、やめ、ひっ……!」
和泉はやめない。抜き挿しだけでなく、亀頭を甘噛みし、裏筋を舐め上げて、どんどん愁を追い立てていく。
「虎石、も、やめろっ、……っっ!」
一際強く愁の体が跳ねる。ぶるりと震え、和泉がくわえたペニスからとくりと白い液体が吐き出される。和泉はそれを一滴も溢すまいと口の中で受け止め、ごくりと飲み下した。ゆっくりとペニスから口を離し、
「……はは、美味しいぜ」
ぺろりと唇を舐めて言うと、愁は肩で息をしながら物欲しそうな目で和泉を見る。
「虎石、挿れ……」
「まだ朝だからだーめ」
和泉は愁の唇に人差し指を当てると、立ち上がって檻から出た。厩舎に備え付けの手洗い場でしっかり手を洗って消毒してから、搾乳器を止めに行く。もう今日搾る分は搾り終わっている。搾った乳はタンクに入れて、母屋に運んで殺菌なんかをしてから出荷することになる。
搾乳器からミルクタンクを外し、台車に乗せる。厩舎を出る前に、藁のベッドの上で力無く横たわる愁のところへ戻って、額に小さくキスを落とす。
「……続きは、オレが帰って来たらな」
愁の耳元で飛びきり熱を込めて言ってやると、愁は恨めしげに和泉を見た後、胸ぐらを掴んで引き寄せて、その首筋に吸い付いてわざと痕を残した。
和泉はそんな愁をあやすように額にキスをすると、厩舎を後にした。