和愁牧場(★)(再録)

「たっだいま~♪」
 学校から帰宅後、すぐに制服から作業用のツナギに着替えて首からタオルを下げ、掃除道具一式を手に愁の厩舎へ顔を出す。しかしそこに愁はいない。
「……あれ、まだ放牧中?」
 まじかー、寂しいなー、と大きな一人言と共に、和泉は厩舎の掃除を始めた。愁の世話は和泉の担当なので、学校にいる間は親に任せているものの、帰って来たらすぐ愁の厩舎へ顔を出すようにしていた。愁は自己管理が出来る牛(?)だが、それでも和泉は世話係としてきちんと愁の面倒をみないといけないし、何より愁の顔を見ないと落ち着かない。
 なので、帰って来ても愁が厩舎にいない、なんて日がたまにあるとちょっぴり寂しくなる。
 ただいま、と言って、自分達にしか分からない言葉でおかえり、と愁が言ってくれる瞬間はいつも、温かなもので胸がいっぱいになるような気がする。そしてその感覚はもう、和泉にとっては無くてはならないものになっていた。
 さっさと厩舎を綺麗にして、牧場に放された愁を探しに行く。
 厩舎の外に出ている時の愁は牧場の片隅の大きな木の下にいることが多い。しかし、牧場には他の牛の姿は見当たらない。不思議に思いながらいつもの木の下に行くと、木にもたれかかって愁が眠っていた。
 さては、寝てたせいで厩舎に戻るのを忘れたな。可愛い愁ちゃん。
 和泉は愁のそばにしゃがみ込むと、肩を掴んで揺らす。
「おーい、愁~、もう戻る時間だぞ~」
「……ん……」
 長い睫毛が震え、愁が目蓋を上げた。ぼんやりと焦点の合わない瞳に和泉の姿が映る。
「ほら、戻って飯食うぞ」
「とらいし……」
「ん?」
「続き」
「は?!」
 視界が反転したと思ったら、どさりと音を立てて地面に押し倒された。
「朝の続き」
「は?!」
 愁はうっとりと和泉の頬を撫でた。
「だから、朝の続き」
「……ったく、外だぞココ」
 和泉は思わず唇の端を上げて、親指で愁の唇を撫でた。
「我慢出来なくなっちゃった?」
「お前の帰りを待ってたからな」
「ありがと。オレも愁に会いたかったぜ」
 愁の頭を引き寄せてキスをすると、愁は嬉しそうに唇を開き、舌を差し入れてきた。