ぼすっ、と音を立てて藁のベッドに愁の体が収まる。その上に覆い被さって唇にかぶり付くと、腰を引き寄せられた。
舌を絡め、唇を重ねる角度を変える度に互いにくぐもった声が漏れる。とろとろとした唾液が互いに混ざり合うが、愁がそれを喉を鳴らして咽下したのを愁の動きから感じて和泉の全身が思わずかっと熱くなる。
愁の体温。固く引き締まった体。全身で抱き絞めるにはちょうどいい、自分と同じくらいの体躯。心を囚われて、逃げ出せなくなる。固くなり始めた自身を愁に撫で上げられ、全身が粟立つような感覚と共に一気に熱くなった。
和泉は自分のベルトのバックルに手を掛けた。服を脱ぐのすらもどかしく、何てことない動作の筈なのに手がもたつく。
「俺がやる」
そう言うと愁は和泉のベルトに手を伸ばした。和泉の手をそっとどかすと、慣れた手つきでかちゃかちゃとベルトを外した。ジーンズを前で留めているボタンも外し、ジッパーを下ろすとくすり、と笑った。
「……随分元気じゃねえか?」
下着を押し上げ始めている和泉の一物を愁が下着の上から嫌らしく撫で上げれば、和泉は小さく呻いて体を震わせた。
「ハッ……、煽ったのはどっちだよ」
和泉も半ば乱暴に愁のホットパンツを脱がすと、勃ち上がり始めた愁の肉棒が姿を現した。指で包み込んで扱いてやると、愁は熱い息を吐き出しながらびくんと跳ねた。
「愁、まずはこっち、いい?」
和泉は下着を下ろして自分のペニスを取り出し、愁のそれと重ねて指の中に握り込んだ。互いのものが僅かに擦れる度にひくりと体を震わせながら、愁は目を細めて笑いながら頷いた。
互いの物をぐちゅぐちゅと擦り合わせながら腰を動かすと、愁は快楽に耐えるようにぎゅっと眉を寄せた。
「どう、愁? っ……気持ちいい?」
全身を快楽がざわざわと駆け巡ると共に掌の内がどろどろと濡れ始めるのを感じながら、和泉は愁に問いかける。愁は腕を伸ばして和泉の頭を抱き込むと、熱い吐息と共に耳元に囁いた。
「……足りねえ」
「ッ……」
ぞくり、と和泉の体が震える。そのまま愁に目を覗き込まれる。草食動物を前にした捕食者のような鋭い視線が真っ直ぐに和泉を射抜いた。
「お前も足りねえだろ?」
「っ……」
「ほら、手ェ止まってるぞ」
「あっ……! 愁、てめっ」
ぐちゅり、と強くなる水音。愁が和泉の手の上から自分と和泉のそれを包み込むと、強く扱き始めたのだ。全身を駆け巡る快感に射精感をもよおされても、和泉は必死に耐えた。かっこ悪いところは見せたくない。
先に出してなるものかと和泉が半ば意地で耐えていると、愁が急に体を起こして和泉をぐいと押し退けた。
「虎石、ちょっといいか」
「は? え、おい、待った愁!」
和泉を押し退けて離れたかと思うと、愁はベッドの上に四つん這いになり和泉の物をぱくりとくわえた。
「ちょっ、愁、待て……無理だって……」
生暖かく柔らかい愁の口内に包まれてひっきりなしに眩暈に似た感覚に襲われ、和泉は首を横に振る。じゅるるる、と音を立てて吸われ、幾度も全体を舐め回される。
「は……っ、ん……」
必死で声を抑えていると、愁が上目遣いで見上げて来た。形のいい唇が和泉の物を口いっぱいに含み、頬にその形が浮き出ている。その背徳感にぞくぞくして、つい自身を大きくしてしまう。愁が眉をしかめたので、ごめんごめんと謝りながら愁の頭を撫でる。すると気持ちよさそうに目を細めながら何度も口から和泉のそれを抜き差しした。
柔らかく責め立てられるように追い上げられるが、和泉は必死で眉を寄せて耐えた。愛おしそうに自身を咥える愁は目尻を赤く染めてひどくとろけた顔をしていて、視覚の暴力でしかない。だがほどなくして限界が近いことを悟り、和泉は声を絞り出した。
「愁、も、無理っ……」
「ん……」
じゅぽじゅぽじゅぽ、と音を立てて口の中で抜き挿しされ、和泉は目の前が真っ白になるのを感じながら達した。しかし吐き出されたものが地面に落ちた気配はなく、一滴残さず愁の喉奥に消えていく。自分が吐き出した精液を愁が嬉しそうに飲み下す姿に、和泉は堪らなくてまた自身を固くする。愁は和泉の肉棒に付いた精液もたっぷり舐め回してからようやく和泉から口を話した。とろり、と唇から引いた糸を舐めながら、愁はにやりと笑った。
「……うめえ」
和泉は「覚悟しとけよ」ととびきりの熱をこめて囁きながら愁を抱き寄せ、ベッドに組み敷いた。
愁の胸を撫でるように触ると、愁は気持ちよさそうに息を吐き出す。
「虎石……」
「なに?」
「吸わねえのか……?」
「……愁、もしかしてオレに吸ってほしいワケ?」
朝からの愁の言動を思い返しながら愁の乳首を親指で捏ねると、愁は「んんっ」と身動ぎしたが、少し不服そうに眉をひそめた。
「お前、こうでもしねえと吸おうとしねえだろ」
「……そりゃ、まぁ」
ここまで色々しておいて今更な気もするが、愁の乳を吸うというのはどうしても後ろめたさを感じるのだ。高級な愁の乳が家計の収入源の一端を担っている以上、自分が吸ってしまっていいのかという迷いがある故、和泉は初対面以降一度も愁の乳を吸っていなかった。
「俺はお前に、俺の乳を吸ってほしい。本当なら、お前にだけ吸ってほしいくらいだ」
「え……」
「でも、俺の乳がお前の家のため必要だっていうなら、誰が俺の乳を飲もうと別にいい。それでも俺はやっぱりお前に吸ってほしいし、それで少しでもお前が元気になるなら何が何でも吸わせてやる」
「愁、お前……」
そんなにオレのことを、と改めて思うと急に顔が熱くなった。自分の体の下にいる男が、愛しくて堪らない。
「随分顔が赤いな」
空閑は微笑みながら、虎石の頭を抱き寄せた。されるがまま、和泉は愁の胸板に顔を埋める。引き締まってはいるが愁の胸板は意外と柔らかく、どくんどくんと皮膚越しに聞こえてくる鼓動に得も言われぬ安らぎを覚える。和泉は愁の体に腕を回した。
「ありがとな、愁……でもやっぱ直飲みは無理」
「駄目か」
「それやったら、愁がオレの家族のために頑張ってるの、オレが台無しにしそうだからさ……オレの、気持ち的な問題。ごめんな」
「……そうか」
「でも、思ったんだけど」
「ん?」
「直飲みじゃないなら少しくらい大丈夫かなって……」
オレ今もしかしてめちゃめちゃ格好悪いこと言ってるんじゃね? と言ってから気付いた和泉は顔を上げたが、その言葉を聞いた愁は目尻を紅く染め、笑みを深めていた。
「じゃあ、飲んではくれるんだな」
「……うん」
ああ、やっぱ敵わねえなあ。
29 2018.5