「愁~」
空閑が自宅のリビングの床に座って新聞を読んでいると、後ろにずっしりとした重みと熱を感じた。誰なのかは見ずとも分かるので、空閑は誌面から目を離さない。
「なんだ」
「んだよ、連れねーな」
振り向かずとも、自分にのしかかる彼がどんな顔をしているのかは分かる。拗ねるように口を尖らせ、けれど眼だけはやたらに楽しそうなのに決まっている。
「せっかく地元に戻って来たのに」
「そうだな」
「こっちにいる間くらいはもっと愁と一緒にいられると思ったのにさあ」
「まだ帰って来てから2日目だろうが」
適当に応対はしてやるが、なんせ7月下旬の冷房もかけず窓を開け話しているだけの室内なので暑い。密着している背中がじわじわと汗を描き始める。
「こっちいれんの1週間だけだろ、そのうちの2日ってのは超貴重なんだからな」
その腕が肩越しに空閑の胸の前で交差し、耳元に熱い吐息がかかる。
「な、愁」
名前を呼ぶ声にこもる熱に、嫌でも肩が震える。仕方ない、という体を装ってゆっくり振り向いてやると、幼馴染――虎石のにやにや笑う顔が目に飛び込んできた。空閑は呆れて眉を顰める。
「発情期の猫か、お前は」
「んー、虎だから間違ってねえかも」
「だいたい俺の家で盛るな、誘ってくんな」
「え、じゃあ俺の家だったらいいってこと?」
「……」
というわけで、というわけでもないが。
今にも歌い出しそうなくらい上機嫌な虎石に半ば引っ張られる形で、空閑は虎石の家まで連れ込まれた。歩いて5分かからない程度の大したことない距離なのだが、そもそもどうしてこいつが俺とセックスしたいからって互いの家を行き来しなきゃならないんだろう、と空閑は道すがら冷静になって考えた。しかしいざ誰もいない虎石の家に着いて、よく見知った玄関をくぐり、階段を上がり、虎石の部屋に入るついでに虎石がちゃっかり部屋のエアコンを付け、そしてベッドにじゃれ合うようにして押し倒されて唇を重ねられるとそんなことはなんだかもうどうでもよくなってしまい、空閑は目を閉じて虎石の唇を受け入れた。
いつも虎石の方から誘う事がきっかけで始まるとはいえ、空閑も気持ちのいいことは嫌いでは無かった。相手が虎石ならば、尚の事。
角度を変えながら何度も唇を重ねるうちに、口付けはどんどん深くなる。唇を割って入って来た虎石の舌に自分の舌を絡めてやれば、ねっとりとこすれ合う舌の感触も、触れ合う唇も、時折漏れる互いの熱い獣のような吐息も、浮かされたような声も、否が応でも互いの熱を高めていく。空閑が虎石の唇を貪るのに夢中になってる間に、虎石は空閑のTシャツに右手を滑り込ませて肌をまさぐり始めた。
「んぅ……あ……」
熱い空閑の身体より少しだけ体温の低い虎石の指が妙に冷たく感じて、空閑は体を震わせる。少しごつごつとした指が空閑の鍛えられた腹筋をなぞり、腰骨を這う。その手付きは急いているようで妙に優しい。
しかし心臓の鼓動が高鳴って、おまけに唇を塞がれているせいでだんだん息が苦しくなり、空閑は慌てて虎石の背中を叩いた。
「っぷは……」
「っは……は……」
互いに肩を上下させながら離れた二人の唇を、粘ついた銀糸が繋ぐ。虎石は赤い舌でそれをゆっくりと巻き取った。それが妙に艶めかしくて、空閑は目を離せない。一方で虎石は熱に浮かされた目のまま空閑のTシャツを胸までたくし上げ、うっとり呟いた。
「愁の身体、すっげーキレイ」
「は……んぁ!」
何言ってんだお前、と言いかけたところで左胸の先端をつままれ、間抜けな声を上げてしまう。慌てて唇を引き結ぶと、虎石は空いている方の手で空閑の唇を優しくなぞった。
「声、我慢すんなよ」
「ん……」
虎石の指の心地好い感触に唇を解きそうになるが、どうしても羞恥が優って空閑は首を横に振り、両手で口を塞いだ。
「ふーん」
虎石の目がぎらりと光り、口角がにやりと上がった。空閑は思わずその眼に射竦められて、動けなくなる。ちろり、と肉厚な舌で唇を舐める虎石。
「愁ちゃんは強情だなあ~」
こり、と空閑の乳首に爪を立てる虎石。電流のように全身を走る快感に、必死で声を噛み殺しながら空閑はびくりと背中をしならせた。
「っ! ん、んんっ」
「愁はこうされるの好きなんだろ? 分かってんだからな」
直接に刺激を与えられたかと思えば焦らすように乳輪をゆっくり撫でられ。緩急を付けながら乳首を責め立てる虎石の手付きに脳が痺れ蕩けたようになり、ざわざわと体の内を何かがせり上がってくる。更に刺激を求めるように、無意識に空閑は体をくねらせた。
「ははっ、今の愁、すげえエロい」
「ん、んん……」
「可愛い、可愛いよ、愁……」
「は、あ……」
虎石の甘い声はするりと空閑の意識に入り込み、媚薬のように脳や体を蕩かせる。口を押える手の力は自然と弱まり、だらりとベッドの上に投げ出された。すると虎石は空閑の胸への愛撫をやめた。
「あ……」
急に刺激がやみ、思わず空閑は声を上げる。愛撫を与えられた左側の乳首だけがぷっくり膨らんでいるが、もっと刺激して欲しかった。右側も触って欲しい。そんな空閑の思いを見透かすように、虎石は見てくれだけは優しく笑いながら空閑の頭を撫でた。
「どうして欲しい、愁? 言ってみて?」
「っ……」
思わず虎石を睨む空閑。しかし自分を見下ろす虎石の瞳に映る顔はひどく蕩けていて、とてもではないが睨んでいるようには見えない。それに気付いた空閑は、急に戻って来た理性から生まれた羞恥で顔が更に熱くなるのを感じながらも、震える唇を開いた。
「っ……触れば、いいだろ……」
「触るって、どこに?」
意地悪く質問を重ねて来る虎石。この野郎後で覚えてろ、と思いながらも空閑は目を閉じて虎石から顔を背けた。
「だから、俺の胸、両方……好きにしろ」
「それじゃお言葉に甘えて」
空閑が羞恥心でいっぱいな一方、空閑を見下ろす虎石はぞくぞくとした興奮を覚えていた。嗜虐心のような、征服心のような、腕の下にいるこの男を自分の思うようにしてしまいたいという獣じみた衝動を堪えながら、虎石はにっこり笑う。
そして、それまで触れていなかった空閑の右乳首に顔を近づけた。そして舌先でぺろりと空閑の乳首を撫でる。
「っあ?!」
びくりと体をしならせる空閑の右手首を押さえつけながら、虎石は空閑の右乳首に吸い付いた。左は先までと同じように手で愛撫を与えてやる。ざらついた舌で舐めてやれば空閑は艶めく声を上げた。
「やめ、ぅ……や、あ、」
舌先で転がし、べったりと舐めてやると空閑はもっともっとと強請るように体をくねらせた。軽く甘噛みしてやれば「んぁっ!」と高い声が上がる。
口では嫌がってても体は正直だな、なんて陳腐なフレーズが思い浮かぶ。虎石はさっきから空閑の乳首を責め立ててはいるが、下には一回も触ってない。それなのに乳首だけでこんなに感じていて、さっきから虎石の腰には大きくなった空閑のが当たっている。
このままだと乳首だけでイッてしまいそうだが、服を着たままだと空閑が後で困るだろう。
「愁、下脱がすぞー」
「ん、あ……」
一旦胸から顔を離して言うと、空閑が早くしてほしいと言いたげなめでこちらを見た。潤んだその眼にこもるこちらを煽るような情欲に、虎石は下半身がずんと重くなるのを感じた。
そそくさと空閑のベルトを解いてズボンを下ろすと、テントを張る黒いボクサーパンツが虎石の眼前に現れた。
「なーに愁ちゃん、乳首だけでこんなにしちゃったの?」
「うるさ……や、あ、」
勃ち上がった陰茎を下着の上から軽く撫でてやるだけで空閑はびくびくと体を震わせる。ズボンを完全に足から抜き取りパンツも脱いでやると、立派に屹立する男根が現れた。先走りでぬらぬらと濡れたそれがひどく卑猥で、虎石は思わず笑みを深くする。しかしそれには触ってやらずに空閑のTシャツも脱がし、ついでに自分も服を全部脱いでベッドの外に放り出す。
お互い全裸になったところで虎石は今度は空閑の左乳首に吸い付き、右乳首は指で弄ってやる。
「いやら、あぅ、んっぁ、」
嫌がるような言葉を口から漏らしながらもその声はホットチョコレートみたいに甘く熱く、色づいた体は少しでももっと多くの快楽を得ようと動いている。そう言う時の空閑が、虎石はたまらなく好きだ。自分しか知らない、自分だけしか引き出すことの出来ない、幼馴染のあられもない姿。
「とら、いし……」
「どうした、愁?」
名前を呼ばれたので、顔を上げて空閑の顔を覗き込む。
空閑は汗に濡れた顔を真っ赤にし、蕩けた焦点の合わない目には涙を溜めて長い睫毛を震わせている。熱い吐息をこぼしながら空閑は唇を開き、消え入りそうなくらい小さな掠れた声で言った。
「キスしろ……」
虎石はすぐにその唇を塞いでやる。舌は入れずに、唇を何度も吸い、少しずつ柔らかくなっていくその感触を堪能する。両手で乳首を弄ってやることも忘れない。空閑の喘ぎ声は全部虎石が飲み込んでいく。空閑の眦から涙が一筋零れた。
「愁、もうイキそう?」
それに気付いた虎石はその涙を優しく舐め取ってやりながら問い掛ける。空閑はこくこくと必死に頷いた。
「それじゃ……」
ぐり、と一際強く両乳首を抓ってやると「うあ! やめろ、あ、」と嬌声と共に空閑の身体が跳ねた。
「今日はこっちだけでイッてみような」
「ばか、やめ、あ、ひっ!」
「愁ほんと可愛い……可愛いし、すっげえエロい」
胸への愛撫を続けながら耳元で熱を込めて囁いてやれば、空閑の身体はびくびくと震えた。
「も、無理、イく、あ、ああ、」
「大丈夫、ちゃんと見てるから」
虎石の眼下で、空閑は絶頂へと導かれて行く。汗が光る滑らかな肌も、喘ぐことしか出来ない形の良い唇も、ガクガク震える体も、今の空閑はひどく淫らで、美しい。
「あ、うあ、ゃ、ふあっ、んん、や、ああ――っ!」
がくん、と空閑の体が一際強く震え、肩で息をしながらぐったりと脱力した。腹筋にぱたぱたと液体がかかる感触に、虎石はにっこり笑う。
「愁、乳首だけでイッちまったな」
わざと意地悪く言ってやると、空閑はとろんとした目で虎石を見た。睨んでいるつもりなのかもしれない。虎石は空閑の 額に優しく唇を落とした。
一方で空閑は、射精した筈なのに妙にぼんやりした意識の中で虎石のキスを受け止めた。正直言ってこれだけでは足りず、後ろが先から疼いている。虎石の脚の間で屹立する太くて立派なモノが自分を貫く瞬間を思うと、欲を吐き出したばかりの筈の男根は嫌でもまた立ち上がりそうだ。
乳首を弄られたりアナルに突っ込まれて気持ち良いと感じてしまうのも全部、虎石にそう覚えさせられたからだ。だがそれは決して嫌では無かった。そして何よりも空閑は、虎石とするセックスが堪らなく好きなのだった。
「愁、挿れてもいいか?」
熱い息を吐きながら訪ねて来る虎石の目は欲でぎらついている。空閑は微笑みながら、答えに代えて手を伸ばし、虎石の頭を抱き寄せて優しくキスをした。
虎石に抱き起された空閑は、目の前に虎石の右手を差し出された。
「舐めて」
空閑はその手をそっと取る。虎石の手は自分のより少しだけ小さいが、指は男らしく太い。けれども無骨ではなくむしろ古代ローマの彫刻のような優美さすら感じられ、きちんと切り揃えた上で磨かれた爪はとても綺麗な形をしている。空閑は虎石の手の甲から指にかけてうっとり撫でた後に、そっとその指に舌を這わせ始めた。指全体を舐め上げて唾液で濡らしてから、じっくり味わうように一本ずつ舐め上げる。
「んぅ……はあ……」
フェラチオをするかのようにわざといやらしく虎石の指を舐めながら、その指を唾液でとろとろにしていく。指の間の皮膚の薄い所を舌先でつついてやると、虎石の身体が震えるのが分かった。舌で指を味わうように舐めるだけでは飽き足らず、口を大きく開けて指全体を招き入れる。
「っ……愁……」
「あむ……んむ……」
舐めて、吸って、甘噛みして、口腔全体で虎石の指を堪能する空閑。上目遣いで見上げれば、獣のようにはっはっと息を吐きながら眉を寄せる虎石と目が合う。こちらを視線だけで抱き潰してしまいそうなその目に、ぞくぞくした興奮が背中を駆け抜けた。
「愁、もういい」
「ん……」
虎石に言われたのでそっとその指から口を離す。そしてわざとゆっくりベッドに仰向けになると、見せ付けるように足を開いて膝を抱えた。
「……来いよ」
虎石は答えの変わりに空閑の菊門の縁をそっとなぞった。これまでに何度も虎石を受け入れてきた空閑のそこは、縁を撫でるだけで愛しい男を求めるようにひくついた。空閑は期待でごくりと唾を飲み込む。
「入れるぞ」
まず人差し指がぷつりと音を立てて空閑の中に入ってきた。
悔しいが、虎石は指を入れて解すのが上手い。空閑が痛い思いをしないようにとゆっくり空閑のアナルを綻ばせながら、空閑が悦ぶところを刺激しては快感を引き出していく。空閑も自然と、もっと気持ち良くなりたいと腰を揺らした。
「あっ、とらい、ひ、」
「指増やすぞー」
「ん、はうっ……」
増えた指を動かされて、空閑はびくびく体を震わせる。虎石の指をくわえ込むように襞がうねった。だらしなく開いた口からは涎がこぼれ、酸素を求めて浅い呼吸を繰り返している。
「気持ちいい?」
虎石に尋ねられながら優しく頭を撫でられると、頷かざるを得ない。でも、指だけじゃまだ足りない。
「お前の、早く欲しい……」
「もうちょっと待っててな。痛い思いさせたくねーから」
欲に満ちた目をしているくせに、それを隠そうともしない上でこんなことを言ってくるのだから堪らない。こういう時だけ妙に紳士なのはずるい、と空閑は思う。どうすれば空閑が気持ち良くセックス出来るのか、虎石には自然と分かっているかのようだった。
ばらばらと指を動かされると、刺激を求める腸壁がうねって虎石の指を締め付けた。
「はは、せっかちだな愁ちゃんは。そういうとこすっげー可愛い」
「う、るさい……」
空閑が虎石を求めているように、虎石は空閑に早く入れたくてうずうずしていた。しかしはやる気持ちを抑えて空閑の中を解していく。照れからかそっぽを向いてしまった空閑がまた可愛くて、虎石はわざと前立腺をとんとんと叩いてやる。
「もー少しだからな」
「んぁっ、やめ、ひっ!」
空閑は面白いように体を震わせ、その拍子にぽろぽろと濡れた瞳から涙が溢れた。
「ふ、ああ、はっ……」
ぐちゃぐちゃにしてやるくらいに、けれど丁寧に掻き回してやれば空閑の屹立からはだらだらと先走りが流れ空閑は泣きながら喘ぎ声を上げる。
そろそろ良いだろうと思い、虎石は指を空閑から引き抜く。
「それじゃ、愁……」
耳元に唇を寄せて、飛びっ切り甘い声を出す。
「一気にと、ちょっとずつ、どっちがいい……?」
「っ……はや、く……」
「ん?」
「……っ、いちいち焦らすな、っ、早くいれろ!」
「りょーかい」
口調こそ荒いが目はとろんとして、頬を紅潮させる空閑はひどく厭らしい。虎石は空閑の額に優しくキスをして、ひたりと、解れた空閑のそこに己の陰茎をあてがう。
「行くぞ」
「ん……」
そんな期待した目で見られると、堪らない。空閑の腰を押さえると望み通り、ずんと一気に貫く。
「ぁああっ!」
空閑は一際高い声を上げ、目を大きく見開いて背中を反らす。しかしその肉肛は虎石をスムーズに受け入れ、嬉しそうにうねりながらくわえ込んだ。
虎石が汗で顔に張り付いた髪をそっとどかしてやると、充血した目が良く見える。労るように頬を撫でると、空閑は肩で息をしながらも幸せそうに目を細めて頬を寄せてきた。そんな可愛いことされたら、堪らなくなる。
腰を動かし始めると空閑は「あぁっ」と高い声を上げながら体を震わせた。
ピストンのスピードを上げていくと、空閑はぎゅっとシーツを掴みながらぼろぼろ涙をこぼした。
「っあ、は、」
「はっ、愁、気持ちいい……?」
空閑はこくこく頷きながらきゅっと虎石を締め付けた。射精を促されるが、虎石は眉を寄せて耐えた。こぼれる涙を舌で掬いながら、空閑が特に感じるところを重点的に抉ってやる。
「ひうっ、あ、らめ、そこは、や、」
「駄目じゃねーだろ、喜んでるくせに……な、愁、気持ちいいだろ?」
「は、きもちい、や、」
「はあ……可愛い、すっげー可愛いよ、愁……」
自分の下で淫らに蕩け乱れる幼馴染みの姿に、自然に恍惚としてしまう。こんな時しか見られない姿だ、瞬きするのすら惜しい。
普段はクールで硬派な幼馴染みが男に抱かれて快感に喘ぐ姿は自分しか知らないし、これからだって自分以外に知られてほしくない。愁を抱いていいのは俺だけだ。そんな独占欲を隠そうともせず虎石は何度も空閑を突き上げた。
「あぁっ! ひゃ、やっ、虎石……」
「ん?」
空閑がすがり付くように虎石に向かって腕を伸ばして来た。虎石はすかさず、空閑が腕を回しやすいように上体を屈める。空閑の手が背中に回され、更に腰に脚が絡まる。更なる深い繋がりを求めるような幼馴染みが愛しくて、虎石は思わずその首筋に唇を落とした。吸い付いて、甘噛みして、印を刻むように痕を残していく。
「愁、愁……ん、可愛いよ、愁……」
「は、とらいし……ぁっ、」
空閑は揺さぶられる視界と明滅する意識の中で、熱に浮かされたような虎石の声を聞いていた。全身に感じる虎石の熱と際限なく与えられる快楽に、虎石と完全に融け合って一つになったかのような錯覚すら感じる。
こいつとなら一つになってもいいか。どうせ小さい頃から一緒なんだし。ああでも今は一つになるのは駄目だな、もうすぐ合宿だし。
意識の片隅でぼんやりそんなことを考えていれば、一度ぎりぎりまで引き抜いた虎石の肉棒が勢いよく空閑の最奥を穿つ。
快感が電流のように全身を駆け巡った後、それはとめどない波となって空閑を襲った。
「あ、がっ! だめだ、そこ、んあ!」
虎石は何度も何度も、空閑の体に己を覚えさせようとしているかのようにピストンを繰り返す。
空閑は目を見開いてびくんと体を海老反りにし、屹立からどろりと白濁を吐き出した。けれど虎石は突くのをやめない。絶頂しても無理矢理与えられる快楽に陰茎はまた立ち上がり、空閑はぼろぼろ涙をこぼしながら喘ぎ続けた。理性はすっかり焼き切れてしまっていた。
「あう、ひ、きもちいい、あぁあ、らめ」
「きもち、いいっ……? 俺もだよ……」
優しく涙を舐め取られても、目尻を這う舌のぬめりとした感触と顔に当たる獣じみた息遣いが更に空閑の興奮を煽る。
もっともっとと、空閑は虎石をきゅうきゅうと締め付けた。空閑の後肛は虎石の形をはっきりなぞり、虎石にいっそう強く吸い付いた。虎石の男根の形を感じて、空閑は熱い息を吐き出す。
「っ……愁、俺もう……っ」
切羽詰まったような虎石の声に、空閑は必死で応える。
「とらいし、あぁっ、はぁ、お前の……俺に……早く……」
「愁……っ!」
がつがつと抉られながら噛み付くようなキスをされ、空閑は唇を開いて虎石を受け入れる。互いの唇の感触をたっぷり堪能した後、虎石は空閑の唇から離れて呟いた。
「もう、出そう……」
「来て……虎石の、俺に、くれ………」
熱く囁くと、虎石は頷きながら力任せに叩き付けるように空閑の最奥を貫いた。
「んああっ!! ああああ、あっ、ぁああ……」
空閑はピンと足を伸ばし、ガクンと体を震わせた。全身を強烈な快感が駆け巡ったかと思えば下腹部が甘く痺れ、その痺れはざわざわと空閑の全身を駆け巡る。持続する絶頂の感覚に空閑は大きく目を見開き、はあはあと息をする。射精することはなく、その陰茎からは透明な蜜がだらだら溢れているだけだ。そして強い締め付けに虎石は小さく呻きながら、空閑の中にどろりとした欲望を吐き出した。
空閑は朦朧とした意識の中、腹の中に感じる熱に愛しさを、同時に自分の中で無駄になる子種に僅かな切なさを覚えた。
虎石はそっと空閑から陰茎を引き抜く。アナルからはとぷりと白濁が溢れ、空閑が微かに物惜しそうな声をあげると虎石は笑って空閑の唇に唇を重ねた。触れるだけの優しいキスの後、空閑は呟く。
「……虎石」
「ん、何? 愁」
「好きだ」
「……俺もだよ」
優しく頭を撫でられながらそう言われ、空閑は自然と頬が緩んだ。そして全身を包み始めた幸せな眠気に逆らうことなく、そっと目を閉じたのだった。