小学生時代和愁。
本番描写はないけど18禁。つまりそういうことです。
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「愁さあ、もう『せーつう』した?」
「は?」
母さんが働きに出ていて家にいない、平日の夕方五時頃。
放課後のそんな時間に虎石が家に入り浸るようになってそろそろ一年になるが、その時の虎石の質問はあまりに突飛で、それも二人で向かい合ってリビングのローテーブルで宿題をやっている時だったから、俺はぽかんとした。
虎石はテーブルに膝を突いてシャーペンをくるくる回しながら、テーブルに広げたノートやドリルではなく俺を見ている。
「だからさあ、精通したかって聞いてんの」
「あー……した、と思う」
総合の時間を使って行われた性教育の授業の内容と自分の記憶を照らし合わせて答えると、「そっかあ」と虎石は頷いた。
「じゃーさ愁、オナニーは? する?」
興味津々といった風で、虎石が身を乗り出して聞いてきた。
「……別に、しねえけど」
「なんで? きもちいよ?」
「興味ねえ」
この言葉は本当だった。そろそろ出そうかな、と思ったら排泄の感覚で出す。それだけで十分だった。
「え~~~~~~っマジかよ」
本気で驚いているらしい虎石だったが、俺はこの下らない話題をさっさと切り上げようとまた漢字ドリルに視線を落とした。
「ほんとにしねえの? ていうかきょーみねえの? マジ?」
「しねえって言ってんだろ」
「ふーん……」
虎石はいったい何が不服なのか、俺をじろじろ見ている。ドリルを見ていてもそれは嫌でも感じる。
「……なあ愁」
「下らねえこと言って宿題の邪魔したら殴る」
「わーったって、宿題の邪魔はしねーから」
口ではそう言いつつも、こっちが宿題を終えたら何かしてくる気満々なのが透けて見える。
そして予想通り、俺が今日の宿題を終えた途端にそれを見届けた虎石がじゃれつくように俺に飛びかかってきた。
「よっし愁!」
「っ! おい虎石」
俺をカーペットの上に押し倒すようにしてのしかかる虎石は、にやにや笑いながらこう言ってきた。
「今日は愁にオナニーの気持ちよさを教えてやろう」
こいつは何を言っているんだ。
俺が言葉も出ずに唖然としているのをいいことに、虎石はローテーブルの上のティッシュの箱をすぐ近くまで引き寄せてから俺のズボンに手を掛けた。
「は? おい待て、虎石」
思わず体を起こして拳を握ると、虎石の手の動きが止まった。
「何する気だ」
「ナニって、男のカラダに生まれた喜びを愁に教えてやろうと」
「なに言ってんだお前」
「いーから大人しくしとけって。今更裸を見られて恥ずかしい仲じゃねーだろ」
確かにクラス合同のプールの授業で同じ更衣室で着替えたことはあるし、互いの家の風呂はよく使う。しかしそれとこれとは話が違う気がする。
「な、愁」
そして虎石ににこりと微笑まれると、何を頼まれても、まあいいか、と思ってしまうのはここ一年で付いてしまった俺の悪い癖だ。
俺が呆れ半分諦め半分で体の力を抜いたのを良いことに、虎石は俺のズボンとパンツを下ろして俺の下半身を剥き出しにした。
「わ、愁のちんこでけぇな」
「そうか……? んっ」
虎石が俺のちんこを握ると、体にびりりと電流が流れたような気がした。
なんだ、これ。俺が自分で触ってもこうはならないのに。
虎石が少し手を動かすだけで体に電流が走り、心臓がばくばく鳴り始める。頬は熱いのに、何故か血の気が引いて体温が下がっていうような感覚がして訳が分からない。
「愁、何かエロいこと考えてみろ」
「っ……エロいこと……?」
「そう。オナニーってのはな、こーやって触りながら……」
急に虎石が俺のちんこを握る手を上下に動かして擦り始めるから、俺は目の前がちかちかするほどの感覚に全身を震わせた。
「んんっ! ひ、ぁ、」
「エロいこと考えて、どんどんちんこを立てていくんだ」
エロいこと。エロいことって何だ。分からない。ただ、虎石に触られていると奇妙な感覚が身体中を走るからなんだか怖い。怖いけれど、嫌ではなかった。
「な、愁、どう? きもちい?」
「あっ……あ、あぅ、」
「お、濡れてきた。きもちいいんじゃん」
きもちいい? 俺は今、きもちいいと感じている?
足の間から次第にぐちゅぐちゅという水音が聞こえてくる。これが射精の前段階だということは知っている。でも自分で触っている時はこんな感覚にはならない。
ぐり、と虎石が俺のちんこの先を指先で強く押した。
「っあ! ああ、あ、」
体の内から何かがせり上がってくるような感覚に襲われ、俺は身をよじる。
「とらいし……も、やめっ、」
「なんで? きもちいーだろ?」
「きもち……いい……?」
「愁は慣れてないだろ? 今愁が感じてるのはきもちいいからだ」
「きもちいい……から……」
ぼんやりと虎石の言葉を反芻する。きもちいい。俺が今感じているのは、きもちいいから。
「じゃ、愁やってみ」
虎石の手が離れたと思ったら、俺の手を取って俺のちんこを握らせてきた。そして俺の手を上から包んで上下に動かす。
「んぁ、はっ、あ、」
おかしい。今触れているのは俺の手の筈なのに、まだ虎石に握られているように感じる。体の内から外へとせり上がってくるような感覚はどんどん大きくなる。
きもちいい、きもちいい。
一度脳に入り込んでしまったその言葉が今の感覚と結び付いて、虎石によって動かされる自分の手の動きを鋭敏に感じ取ってしまう。
「どう、愁?」
「っ……きもち、いい……」
言葉に出すと、手の中のそれがいっそう大きくなった。すると虎石がにやりと笑う。これはろくでもないことを思い付いた時の顔だ、と頭に僅かに残った冷静な部分で判断する。
「なあ愁、オナニーってほんとは一人きりの時にやらなきゃいけないって知ってた?」
「……?」
やろうって言ったのはお前だろ、と冷静な部分が思っても、大部分が熱に浮かされた頭ではそれは言葉にはならない。
「愁はオレにちんこ握られて、オレの前でちんこ立てて、オレ達今イケナイコトしてると思わねえ?」
「イケナイ……コト……?」
俺達はイケナイコトをしている、でもきもちいい、イケナイコトなのに、きもちいい、正反対の気持ちがぐるぐると頭の中を回って、
「……でも、きもちいい……」
勝手に口からぽろりと出た言葉。その直後、目の前が真っ白になるような快感が背筋から脳天を駆け上がった。思わず体をしならせる。
「んぅっ!!」
排泄感に似た、体の中から何かが抜けていく感覚。呼吸を整えるうちに、頭の中が少しずつクリアになっていく。
「ほら愁、出た」
虎石が白い液で濡れた俺達の手を取って笑う。
「きもちよかった?」
無邪気な笑顔のまま、濡れていない方の手を使ってティッシュで精液を拭う虎石。
イケナイコト、恥ずかしいこと、の筈なのに、虎石相手なら嫌ではないことに気付いてしまう。しかしこのにやけ顔にそれを言えば調子に乗るのは目に見えている。だから俺は、虎石が拭っていない方の手をその額に伸ばした。そして勢いよくでこピンしてやる。
「いってえ!」
額を押さえて転がる虎石。俺はさっさとティッシュでちんことその周りを拭いてからパンツとズボンを上げた。
「なにすんだよ愁!」
「テメェこそいきなりなにしてくんだ」
「いやだった? ならごめんな。でも愁きもちいいって言ってたじゃん」
「っ……」
それを言われると、思わず頬がカッと熱くなる。そう、虎石にちんこを触られて射精までさせられたということ以上に、自分で触る時はそうじゃないのに、虎石に触られてきもちいいと感じてしまったという事実がなによりも恥ずかしかった。
そもそも、オナニーって一人でやるもんだろ。一人できもちいいって感じるためのもんだろ。
なのにそもそも、お前に触られないときもちいいって感じられないなんて、
「あれれ~どした愁、顔赤いぞ~」
「うるせえ!」
赤くなった顔をこれ以上虎石に見せたくなくて、背中を向ける。とりあえず顔を洗おう、そうすればこの熱もなんとかなるはずだ。洗面所に向かい、鏡の中の自分の顔を見る。蛍光灯を付けていないから薄暗い、それでも分かるくらい赤い顔が映っている。
――きもちいい……。
ふと、さっき虎石にちんこをしごかれていた時の自分の声を、全身の熱を思い出してしまい、いっそう顔に熱が上る。
なんなんだ、俺になにが起きてるんだ。
冷たい水がこの熱を誤魔化してくれることを祈りながら、俺は蛇口をひねった。