兄さんに猫耳が生えるなどします。
魔法って便利ですね……
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アメリカやヨーロッパに比べれば少ない方ではあるかもしれないが、日本でもヒーローとヴィラン同士の戦いが勃発することは決して少なくない。日本に古くから存在する裏社会を苗床にヴィラン達は力を蓄え、彼らが人々に危害を与えようものならアベンジャーズのように世界を股にかけて活躍するヒーローや彼らと親しいヒーロー、あるいは日本のヒーロー達がそれを阻止する。
ある日ヒカルが巻き込まれかけたのもそう言った戦いの一つだった。しかしその戦い自体はあっと言う間に決着がついた。その時ヒカルのすぐ傍にいたのは世界にその名を轟かす雷神にしてアベンジャーズのメンバー・ソーであり、戦いの切っ掛けとなったヴィラン達はさして強くも無い者達だったからだ。
ヴィラン達は大きな銀行を襲おうとして騒ぎを起こし、ヒカルとソーは偶然にもその場に居合わせた。二人が歩いていたのはその銀行の大通りを挟んですぐ向かいの歩道だった。
そして、警察からの要請を受けて日本最強のミュータントであるサンファイアーや、日本のヒーローチームであるビッグヒーロー6が到着したのは、もうソーがヴィラン達を叩きのめした後だった。
ソーはヒカルにすぐ家に戻るよう言い含めてからサンファイアー達に事情を説明しに行った。ヒカルはソーに言われた通りに真っ直ぐ帰宅した。
帰宅してしばらくした後に、浮遊感にも似た強い眠気に襲われた。ソーや、まだ学校に行っているアキラの帰りを待っていたヒカルはふらふらとリビングのソファに倒れ込み、深い眠りに落ちていった。
「……いさん。兄さん!」
「……ん?」
弟の声でゆっくりと意識が明るくなる。いつの間に帰って来ていたのか、制服は着ていない。
目を開けると、アキラが自分を覗き込んでいた。
「あれ、アキラ」
「兄さんどうしたんだよ。もう六時過ぎてるよ?」
「えっ……」
アキラの言葉に一気に目が醒め、ヒカルは跳ね起きた。壁にかかった時計を見ると、時計は6時15分を示している。
「ごめんアキラ!まだご飯の用意してにゃい……!簡単にゃものしか出来にゃいけどいい?!」
「あっ、う、うん……?」
その時のアキラの困惑した声に、ヒカルは気付かなかった。そして自分の発する声のわずかな変化にも。夕飯を作り始める前に顔を洗おうと洗面所に向かい、そして鏡を見て気が付いた。
いつもと変わらぬ自分の顔。しかし頭頂部と両側頭部の間に生えている、自分の髪と全く同じ色の、三角形のそれ。それはまるで、猫の耳のように見えた。
「にゃ、にゃにこれ……?」
思わず後ずさりすると、ぴりり、と尻から背中にかけて微かな刺激が走った。
「ひっ……?!」
振り向くが、そこにあるのは洗面所に初めから備え付けられている収納の戸棚だけ。だが視界の隅に何か異質なものが閃くのを捉えた。パッ、とそれを手で掴む。すると先より強く、びりりとした刺激が背中に走る。
強く目を閉じて刺激に耐え、それを恐る恐る見る。それはどういうわけか、ズボンと己の背中の間の隙間から飛び出していた。毛皮に覆われて細長く自分の髪と全く同じ色をしたそれはさながら、猫の尻尾の様だ。
「え……?へ?」
「ヒカル!」
「ひっ!」
リビングからソーの声が聞こえる。その大きな声にヒカルはびくりと体を震わせた。
「大丈夫か、ヒカル!」
「にゃ、待って……」
思わず制止の声を上げるも、ソーはすぐに洗面所へと足を踏み入れて来た。そしてヒカルの姿を見た途端、
「遅かったようだな……」
と悔しげにつぶやいた。
「へ……?」
「今から説明する。こっちへ」
事態を上手く飲みこめずに固まっているヒカルにソーは歩み寄り、優しく肩を抱いてリビングへと導き、ソファに座らせた。
ソーがヒカルとアキラに語るには、どうやらあのヴィランの中に妖術を操る者がいたらしい。操る……と言ってもまだ未熟だったとか何とか。そして暴発した妖術がヒカルに作用してしまったらしい。その妖術の効果は「術をかけられた者が一時的に猫になる」というもの。現場に居合わせた全員に妖術の影響が出てしまっている恐れもあるので、アメリカからドクター・ストレンジを呼ぼうという話がヒーロー達の間で持ち上がっているようだ。
成る程、至高の魔術師でありオカルト方面のプロフェッショナルであるドクター・ストレンジならば事態解決もすぐであろう。そう思ってヒカルは安心しかけた。しかしその思いはすぐに裏切られることとなる。
「だが、肝心のストレンジに連絡がつかないようでな……今はミッドガルドの外にいるようだ」
「じゃあ、兄さんがいつ治るか分からないってこと?」
「そうなる」
「そっか……」
落ち込むアキラを見て、アキラに心配をかけてしまっている、と僅かに胸が痛む。自分は悪くないと分かっていても、どうしてもそれを気にしてしまう。
その上に、自分は今こんな状態だ。いつ元に戻るのかも分からない。ずっとこんな状態では外に出るのも難しいだろう。尻尾が妙に敏感なのはさっき十分に実感した。自分の身体が自分の知らない間に作り変えられているという恐怖を嫌でも感じる。ヒカルは思わず俯いた。すると頭の耳が一緒に項垂れているのが分かった。
「だが案ずるなヒカル」
ソーの声にヒカルは思わず顔を上げた。
「お前は必ず元に戻る」
ソーが真っ直ぐにヒカルの目を見て言った。その真剣な眼差しに、思わず心臓が跳ねる。
「私が誓おう。このムジョルニアの名にかけて」
その言葉に、強張っていたヒカルの頬が自然と緩んだ。それを言われると、圧倒的な安心感がヒカルの胸いっぱいに広がる。
「……ありがとう、ソー」
「兄さん、困ったことがあったらすぐ俺に言ってよ!俺、出来ることなら何でもするから!」
「アキラも……ありがとう」
ソーの真剣さとアキラの優しさに目が潤んだ。自分がどうなるかは分からないが、きっと何とかなる……そんな気がした。
結局夕飯はピザのデリバリーで済ませたが、どうやらヒカルの舌も変化しているようだった。熱いピザやポテトがなかなか食べられず、食事にはいつもの倍近い時間を要した。
ヒカルがソーやアキラの力を借りつつ検証したところによると、耳は今のところ形だけであり、耳としての機能はまだ自身の耳が果たしている。尻尾はバランス云々と言うより感覚器官としてだけ作用しているようだ。舌はややざらついて猫のそれに近くなっている。その上舌が上手く回っていないのか、時々「にゃ」が言葉の中に混じる。それ以外はまだほとんど人間のままだ。
「……しかし、改めてみるとお前のその姿は新鮮だな。可愛らしくもある」
「恥ずかしいよ、もう……」
夜も更け、ヒカルの部屋でソーとヒカルはベッドの上に並んで腰かけていた。ヒカルはパジャマに着替え、ソーはミッドガルドでの宿泊時に時によく着る半袖のTシャツにスウェットというラフな洋服を着ている。
ソーがヒカルの頭を優しく撫でると、ヒカルがびくりと肩を震わせた。
「待って、やだ」
「どうした、ヒカル」
「わ、分かんない……でも、頭は嫌だ……」
「ふむ……」
日頃であればヒカルはソーが頭を撫でても嬉しそうに受け入れる。
もしかしたら、猫は頭から撫でられるのが苦手なのだろうか。ヒカルもソーも思っている以上にヒカルは猫に近付き始めているのではないか、とソーは憶測する。
「顎とか喉なら、いいかも」
「そうか」
ソーはミッドガルドの猫という動物に触れた回数は決して多くない。だが、触れた時のかすかな記憶を頼りにそっとヒカルの顎を撫でる。
「ん……」
ヒカルは目を閉じ、幸せそうに喉を鳴らす。ヒカルの尻尾がゆっくり揺れるのを見て、ソーの中で好奇心が首をもたげた。
「……ヒカル」
「何?」
「尻尾を撫でても?」
「いいよ」
ソーはヒカルの喉から手を離し、パジャマのズボンから伸びているふさふさした尻尾にこわごわと触れた。すると、
「みゃっ……!」
ヒカルが体を震わせながら丸め、顔を赤くしながら声を漏らした。
「!すまんヒカル」
ソーが慌てて尻尾から手を離すと、ヒカルは首を振ってソーの手を掴んだ。
「大丈夫、だから。もっと触っていいよ」
その声が艶を帯び始めている。ソーは誘惑に耐えきれず、ヒカルの尻尾に手を伸ばした。
尻尾は優しく滑らかな手触りで、触っていてとても心地いい。ソーはその手の中の感触をしばし楽しもうとした。しかし、尻尾を撫でられているヒカルは顔を赤くして口を僅かに開けて浅い呼吸を繰り返している。耐えるように拳を強く握っているその姿は嫌でも劣情を催すもので、尻尾の触り心地どころではない。
これ以上ヒカルに無理をさせてはならないという思いと、ヒカルにもっと触れたいという思いがせめぎ合いを始める。
ソーはそっと、ヒカルの尻尾から手を離した。
「?にゃんでやめるの……?」
ヒカルがソーを見上げる。その瞳は潤み、目じりには朱が差している。しまった、と思いつつソーはヒカルに問い掛ける。
「お前は、どうされたい。ヒカル」
ヒカルはソーの目を見ながら、唇を震わせた。
「……もっと、触って……すごく、熱いんだ……でも、ここ家だしアキラも隣の部屋にいる、から……」
どうすればいいのか分からない、そうヒカルは訴えている。
「そうか。ならば、お前の望む通りに」
ソーはヒカルを一度横抱きにすると、ベッドに横たえた。その上に覆いかぶさると、ヒカルの唇に自身の唇を乗せる。浅い口付けを何度か交わした後に、互いの舌を絡め合う。ソーの舌が口腔に触れる度にヒカルが小さく声を漏らし、一方でソーはヒカルのざらついた舌の感触の快さに酔いしれた。
ソーの中心は既に強い熱を帯びている。そしてそれはヒカルも同じようで、ソーはそれを服の布越しに感じた。
早く楽にしてやらねば、ヒカルが辛い。
ソーはヒカルから唇を離すと、手早くヒカルのパジャマの上着のボタンをすべて外した。素肌が外気にさらされ、期待と肌寒さでか、ヒカルの尻尾が僅かに震えた。
普段であればヒカルが堪えられなくなるまで焦らすところだが、今は普段とは状況が違う。いつもと違う自分の身体にヒカルは戸惑っている。不安も感じていることだろう。だからそれを早く和らげてやらねばならない。
ズボンの上からヒカルのそれを撫でると、ヒカルはギュッと目を瞑って身を震わせ、甘い声を漏らした。
「うにゃ、あ……!」
「……愛らしいな」
思わず笑みを漏らすと、ヒカルが目を開けて恨めしそうにソーを見る。
「すまない、思わずな」
そう詫びながらヒカルのズボンに手をかけると、ヒカルがソーのシャツを掴んで引っ張った。
「待って、ソーも……」
シャツを脱いでほしいという事か。ソーは頷き、Tシャツを脱ぎ捨てた。ヒカルはうっとりした目でソーの鍛え上げられた上半身を見る。
「ね、早く……」
「分かっている」
ソーはまずヒカルのズボンと下着を脱がせ、次いで自分のズボンと下着を脱ぐ。ヒカルの足の間で屹立し透明な液体を滴らせるそれを右掌の内に包み込み、何度か度手を上下させる。
「にゃ……!」
ヒカルは目を見開き、体を震わせた。だがすぐに自身の出した声に驚いたのかすぐに両手で口からを塞いだ。ふーっ、ふーっと本物の猫の唸り声のような呼吸音と共にヒカルは肩を上下させている。
ソーは右手の動きを休めることなくヒカルの手を取って口から退け、ヒカルの唇を自身の唇で包み込んだ。その柔らかさを味わう様に何度も唇となぞり、ヒカルは漏れそうな声を必死でソーの内に逃がす。
そしてソーは頃合いを見つつ、己の剛直をヒカルのそれに擦り付けた。
「っ……!ああ、や、んん……!」
喘ぎ声を必死で堪えるヒカルの姿、そして直接的な刺激に、ソーは目が眩むような快楽を感じた。理性が吹き飛びそうになるのを必死で堪える。
ソーが腰を動かす一方で、ヒカルもまた、より強い快楽を得ようと腰を動かし、両足をソーの腰に巻き付けはじめた。
「んん……はあ、そー……」
「大丈夫だ、ヒカル」
不安そうなヒカルの頬を優しく撫で、角度を変えながら何度も口付けを交わし合い、互いの熱を共有するかのように動く。熱は次第に大きくなるが、ソーは眉を寄せて堪えた。
「んあっ……や、ひっ、うあ……!」
時折漏れる生娘のような喘ぎ声は、嫌でもソーの脳を揺さぶる。
「……ヒカル」
「そー、もっと……」
恥じらいながらも、しかし快楽には抗えないのか必死でソーを求めるヒカルの姿は、初めて男を知った生娘のようであり、しかし淫らな雌猫のようでもあった。
「もっと、ちょうだい……」
男でなければ得られない刺激から快楽を得ながらも、生娘のように喘ぎ、人のものではない猫の耳や尻尾を震わせるその姿のなんと背徳的で甘美な事か。
「与えよう。お前が望むものなら何でも」
ヒカルの耳元で囁き、首筋に吸い付く。
「んにゃ……ああ……っ」
ヒカルの身体は震え、気持ち良さそうな声が上がった。ソーは暫しヒカルの首筋に吸い付いた後、顔を離してヒカルに印が残ったことを確かめる。
「ここも……良いのだったな」
続いて、普段床で行為に及ぶ前にしているように、ヒカルの胸の突起を指で優しく捏ねた。
「みゃっ!や……」
大きな声を出すまいとしながら、肩で大きく息をし、押し寄せる快楽を細い体で受け止めているヒカル。愛おしさは嫌でも募る。
「……愛している、ヒカル」
耳元でそう囁けば、ヒカルは微笑みを返す。
「ぼく、も……」
微笑むヒカルの目尻から、涙が伝う。
ソーは腰をより一層強くヒカルに向けて動かした。
「ああっ!あ、んあ、はっ、ん、んん、や、ああっ……!」
びくり、とヒカルが強く体を震わせた。強く目を閉じ、体を弓なりにしならせて。ソーもまた限界を感じ、目を閉じて体を震わせた。互いの放ったそれで、二人の腹は白濁で汚れる。
ソーは自身も荒い息をしながら汗で額に張り付いたヒカルの前髪を優しく額から退けた。ヒカルは肩で息をしながら、申し訳なさそうに笑う。
「ごめんね……急に僕の家で、こんにゃ……」
二人で床を共にし、その上で行為に及ぶ時は、必ずどこか家以外の場所に行く。ヒカルが家族と暮らしているから……というのが大きな理由だ。そしてヒカルの家でこうして行為に及ぶのは初めての事だった。
「気にするな……私が変な好奇心を起こしたせいだ」
ソーは立ち上がってティッシュの箱を手に取り、まずヒカルを、次いで自分の身体を拭く。
「どうする?風呂に入るか?」
「ううん……疲れちゃったから、寝るよ……」
「そうか」
ソーはティッシュをゴミ箱に捨ててティッシュの箱を元の位置に戻すと、部屋の電気を消した。ベッドの上に乗ると、ヒカルの傍らに横たわり掛布団を肩まで引き上げて二人の身体の上にかける。ヒカルが甘えるようにソーに擦り寄るので、ソーは自分の二の腕にヒカルの頭を乗せさせた。
ヒカルの猫の耳が僅かに鼻に触れ、そのこそばゆさにソーは笑みを漏らす。
「……ゆっくり休め、ヒカル」
「うん……おやすみ……」
それから程無くして、ヒカルの口から寝息が漏れ始めた。ソーはヒカルの頬を優しく撫で、自分も目を閉じた。
翌朝、目を覚ましてすぐにヒカルはソーと共に自分の身体に何か変化が起きていないかどうか確かめた。あまり大きな変化は起きていないので安心はしたものの、早くドクター・ストレンジに解いてもらいたいかな、とヒカルは苦笑いした。
ヒカルとソーがアキラを学校に送り出してから1時間ほど経った頃、マンションのエントランスから通じているインターホンが鳴った。誰だろうと思いつつヒカルが出てみると、なんとドクター・ストレンジその人だった。
異次元に行っていたストレンジはサンファイアーから連絡を受けていたことについ先ほど気付いたのでここへ来た、と言った。町全体を「視た」ところ、どうやらヒカルだけが術にかかっていたらしい。
「案ずることはない、この程度の呪いであればすぐに解ける」
ストレンジはそう言って、ヒカルの額に指先を当てた。ソーが見守る中、淡い光がヒカルを包み込み、ものの1分もしないうちにだろうか、ヒカルの頭から生えていた猫の耳と尻尾は綺麗になくなった。
「これで治ったはずだ、鏡を見て来るといい」
ストレンジに言われるままにヒカルは洗面所に行き、自分の耳と尻尾がなくなっていることを確かめた。
「あ、ありがとうございます……」
あっと言う間に治ったことに戸惑いながらヒカルが礼を言うと、
「至高の魔術師である私には容易い事。君達は我が友だ。何か困りごとがあればいつでも行ってくれたまえ。では、さらばだ」
そう言い残し、ストレンジはテレポートでどこかへ消えてしまった。
ソーとヒカルは顔を見合わせ、相変わらずな人だ、と笑った。
ヒカルの耳と尻尾は消え、またいつも通りの生活を送れるようになった。
「数時間だったけどね、すごく不安だったよ……ソーとアキラがいてよかった」
そう言って笑うヒカルが堪らなく愛おしくて、ソーは思わずヒカルを強く抱き締めた。頭を優しく撫でると、ヒカルは嬉しさで肩を揺らした。