「っ……、かわいいから無罪にしといてやる」
「ふふっ……ん、ぁあっ! あ゛っ、」
ぐちゅり、と音を立てて挿入し、少しずつ南條の中を押し開く。指で広げたというのに中はまだきつく、けれど媚肉はうねりながら北原を受け入れている。それでも南條は苦しげに息を吐きながら顔を腕で覆っていた。
「ん、はぁっ……聖、大丈夫か……?」
半分ほど入ったところで一旦押し進めるのを止めて南條の顔を覗き込む。「待って……!」と南條が制止の声を上げるのにも構わず腕を退けると、その顔は赤く染まり、瞳はひどく潤んでいた。顔を露わにされた南條は北原を睨む。
「……待ってって言ったのに……」
「わ、わりぃ……大丈夫か?」
「大丈夫に見えてるの?」
「見えねえ……」
南條は何度か深い呼吸を繰り返し、なんとか呼吸を落ち着かせる。そしてぽつりと呟いた。
「良いんだよ、初めては痛いものだってことくらいの知識はあったし……」
お前あんな経験ありそうな態度しといて初めてだったのかよ、と口から出掛けた言葉はその後に続いた南條の言葉で完全に吹き飛んだ。
「どうせ、廉となら大丈夫になるから」
「……っ!」
熱が体中を駆け巡り、下半身にも熱が集まる。南條は中で大きくなった北原のそれにびくりと体を震わせたが、北原の顔を見て緊張が解けたのかすぐにくすくす笑い始めた。
「あは……は、廉って、ほんと素直だよねえ」
「う、うるせえ」
「ほら、廉」
続き、して。
南條はそう唇を動かし、北原の腰に長い脚を絡めた。北原は自身も一度深呼吸してから、奥へと腰を進めた。
「んん……んぅ、っあ、はぁ、」
南條の唇から途切れ途切れに零れる声は北原の理性を溶かしていくほどに甘い。頬を染めながらぎゅっと目を閉じて快感に耐える顔はひどく劣情を誘う。辛そうに見えても南條の中は北原を受け入れて悦び、腰にしっかり絡みついた脚は北原が離れることを許さない。
どうにか自身を全て南條の中に納める頃には、お互い額には汗が浮かび、呼吸もひどく荒くなっていた。気を抜いたらすぐに達してしまいそうで、北原はぐっと眉を寄せて耐える。
「廉の……、全部、入った?」
南條が恐る恐る目を開けながら聞くので、北原は南條の前髪が汗で額に張り付いているのをどかしてやりながら頷いた。
「入ったぜ」
「あは……は、ほんとだ……」
ふにゃり、と南條が安心したように笑う。その笑顔に北原は、
「っ……」
どくん、と自身が脈打ったのを感じた後の、真っ白になる頭の中、何かが抜け出ていく感覚。しまった、と思った時にはもう遅く。何が起きたのかを理解した南條はニヤニヤ笑い出した。
「……廉、もしかしてイった?」
「っ……!」
いきなり図星を突かれ、北原は悔しさでぎりぎりと歯噛みする。
「ふーん……俺に入れて我慢出来なくなっちゃったんだあ」
「っクソ……ゴム替えるから一回足どけろ」
「ふふ、いいよ」
南條の足が解ける。ゴムを付け替えようと自身を引き抜くと、南條はびくんと体を震わせながら悲鳴のような声を上げた。
「ひっ、ぁあっ!!」
「?! わ、わりぃ!……大丈夫か?」
南條の顔をのぞき込むと、南條は北原に新しいゴムを渡しながら涙の溜まった目で北原を睨んだ。
「ほんっと馬鹿……」
「今のはオレが悪かったからお前は無罪だがマジなトーンで言うのやめろ……傷付く……」
「俺的には、入れる時結構大変だったんだから抜かれる時もこっちは大変だって気付くべきだと思うよ」
「悪かった……次は気を付ける」
「……ふふ、廉は本当に素直だなあ」
萎えちゃったなら俺が勃たせてあげようか?
そう言って蠱惑的に笑う南條の笑顔にまた自身が首をもたげ、それを見た南條がクスクス笑う。
北原は急いでゴムを付け替え、改めて南條に挿入しようと南條の上に覆い被さった。
二度目だからか、挿入は先よりずっとスムーズに行えた。再度北原の物を全て身の内に受け入れた南條は背筋を震わせて熱い息を吐き出す。
「んっ、廉……さっきもだったけど、廉の、すごくあついね……固くて、熱くて……」
「っ……随分喋るじゃねえか」
「……だって、ん、俺の中に廉がいるんだよ……廉と一つになって……嬉しくないわけ、ないでしょ」
南條は目を細めて笑うと、脚を北原の腰に、両手で頬を挟んで北原を引き寄せた。啄むようにキスをしてから、熱でドロドロに溶けたような甘い低音で囁く。
「だから、早く一緒に気持ち良くなろう?」
「可愛いこと言いやがって……!」
「はいはい、廉も可愛いよ」
南條がいつの間にやら余裕を取り戻しているのが悔しい北原。こうなったら思う存分抱いてぐちゃぐちゃにしてやる、と負けず嫌いが首をもたげ始めた。この余裕たっぷりな顔がもっと快楽で溶けていくところを見たい。
「覚悟しとけよ、聖」
低い声で耳元に囁くと、きゅんと南條の中が甘く北原を締め付けた。体はこいつの口よりよっぽど正直だ、と思いたいところだが南條が自分を受け止めようと待ち構えている事実にもう頭がくらくらしてどうにかなりそうだ。
訳も分からないままに少しずつ腰を動かすと、南條は熱い息を吐き出しながら気持ちよさそうに喘いだ。
「は……っ、ぁ、良い、きもちいいよ、廉」
「これくらい、ならまだ大丈夫か?」
「うん……でも、まだ足りないかなあ」
結局のところ北原は経験がないわけで。どうすればセックスの中で相手を悦ばせる事が出来るかなど、AVの中でしか知らない。しかし童貞はAVを参考にするなという意見も見たことがある。もう目の前にいる今まさに自分が抱いている男しか、指標になる物がないのだ。
先程指で中を広げた時のことを思い出しながら、北原は少しずつ腰の動かし方を変えてみることにした。この辺りの筈だ、と、指を入れた時南條が特に強く反応した場所に自身の先を押し付けると、
「あっ、待っ! そこ、はっ……!」
南條の体は弓なりにしなり、中はびくびく蠢いて北原に絡みつく。自身にも襲い来る快楽に眉を寄せて耐えながら北原は口角を上げた。
「そこ、イイんだな?」
自分の声なのかと一瞬疑う程に獰猛な声がした。
何度も何度も南條の弱いところを突いてやるとその度に南條の中は熱くうねって北原に纏わり付いて、吸い付いて、追い上げる。その一方で南條は目にうっすら涙を浮かべ、必死で呼吸しながら北原にしがみついている。
「れん、そこばっか、おくも……!」
「奥?! 奥、だな?!」
「ん、そう、おく……っあ!」
いつもの余裕も無くした南條の痴態に北原は脳を揺さぶられるようで、同時に下半身に直に来る刺激があまりに強く生々しく、理性がどろどろと溶けていく。
南條の望み通りに奥を突き上げると、南條は髪を振り乱しながら譫言のように喘いだ。
「ぁあっ、そこ、きもちいい、廉……!」
南條の色素の薄い肌には紅が差し、汗でじっとり濡れて天井のライトに照らされ僅かに光っている。目尻はとろりとしているが北原だけをしっかり見つめ、だらしなく開いた口の端からは唾液が垂れている。
満たされていく征服欲は、日頃は涼しげな顔をしているのに今はその面影もないこの男をもっとぐちゃぐちゃにしてやりたいという嗜虐心を煽り、北原は南條に噛み付くようにキスをした。
「ぁむ……んっ、ふ……ん、んんっ……!」
「ん、んぅ……はぁ、聖……んっ!」
「ふふ……廉……ん、ぁあ!」
息継ぎの合間に名前を呼ぶと中が強く締まり、名前を呼ばれるとドクンと下半身に血が集まる。互いに舌を絡め口腔の中を舐め回し貪る内に、互いの唾液が混ざり合ってどんどん甘くなっていく。南條の爪が肌に食い込み、背中にぴりりと刺激をもたらしたがそれすら興奮材料になる。
腰に絡みついた長い脚の締め付けが強くなり、媚肉の痙攣が激しくなり始めた。南條の限界が近いことを悟り、自分もそろそろかと北原は眉を寄せた。
「聖悪い、っは、オレもう、んぁ、イキそ……」
「おれも……、れん、いっしょにイこ……」
抱き締めるようにして引き寄せられ、全身に南條の熱を感じる。いや、やはり南條の腕にまとわりつく布が邪魔だ。次は絶対全部脱がせよう、北原は脳の片隅でぼんやりそんなことを思った。
もうどうにかなりそうだ、互いにただ欲に身を任せ、快楽を得るためだけに動いている。それでも互いに目は反らさず、視界の中には抱き合っている恋人しかいない。上り詰めていくような感覚に、北原はこれで最後とばかりに自身をぎりぎりまで引き抜いてから思い切り突き上げる。
「やっ、だめ、イく、イっちゃ、あああっ!」
ビクンと南條の体が跳ね、中が凄まじい勢いで震える。腹に温かい物がかかるのを感じながら、北原は呻きながらゴムの中に思い切り精を吐き出したのだった。
くたりと南條の体から力が抜け、北原を抱き締めていた両腕両足がベッドの上に投げ出される。目から涙をこぼし開きっぱなしの口の端からは唾液がこぼれ、顔のみならず体中を紅く染めて腹は汗や精液でどろどろにした南條の姿はひどく非現実的に思えた。だが頬を撫でると気持ちよさそうに目を細めて頬を自分から押し付けてくるので、やはりこの光景は現実なのだと感じる。
南條の刺激にならないようゆっくり自身を引き抜き、ゴムを外して口を縛ると北原は南條の隣にゴロリと身を投げ出した。
呼吸を整えて南條の方を見ると、顔だけこちらに向けた南條と目が合った。南條はゆるく微笑むと北原に体を寄せた。
「ねえ廉」
「……なんだよ」
耳元をくすぐる甘い低音に急に気恥ずかしさが戻ってきて、少しぶっきらぼうに応えると、南條はくすくす笑いながら北原の引き締まった腹筋をそっと撫でた。
「はじめてだから仕方ないけど……結構あっさりめだったかなあ。次は前戯からがんばろうね」
「っっっ……お前なあ~っ……」
「本番も色んな体位があるよねえ、俺、廉にやってほしいことたくさんあるんだぁ……ふふ」
切り替えが早いと言うべきか、あっという間にいつものペースを取り戻した南條はニヤニヤとサキュバスの如き笑みを浮かべる。
その余裕たっぷりな笑顔を見ていると悔しくなり、北原はその唇を自分の唇で無理矢理塞いだ。至近距離から見た南條の目は大きく見開かれ、けれどやはり隠しきれないほどにとろけていた。
29 2018.5