【バズユゴ】とある夜【少年期】

「……バズならいいよ」
 暖炉の火を反射してオレンジの光を宿した碧色の瞳が、オレを見た。
「おじさんにされるのは嫌だったけど。バズなら、いいよ」
「──」
 床に座ったまま動けないままでいるオレに、ユーゴーは四つん這いの姿勢でオレににじりよった。
「ね、忘れさせてよ、おじさんのこと……バズなら、出来るでしょ」
 手を床についたその肩は小さく震えていて、その瞳は揺れていた。
「ねえ、」
「……ヤだね」
 真っ直ぐにユーゴーの目を見て言うと、ユーゴーは目を見開いた。
「なんで」
「オマエ怖がってるだろ」
「っ……そんなこと、」
「うおっ」
 ユーゴーがオレの肩を勢いよく掴んだので思わずバランスを崩す。だがすかさずオレもユーゴーの腕を掴むと一緒に床に引き倒してやった。
「わっ」
 ドスン、と音を立てて二人で折り重なるように床に転がる。
 オレはすかさず上に乗っているユーゴーの背中に腕を回してそのままぎゅうと抱き締めた。ユーゴーは抵抗せず、くぐもった声で呟いた。
「……何やってるの」
「こうすると領地のガキが泣き止むからよ」
「……泣いてたらお母様がこうしてくれた、の間違いだろ」
「ハァ?!ちげーし!生意気言うと離してやんねーからな!」
 ぎゅううううう、と抱き締める力を強くしてやると、ユーゴーはそれ以上何も言わなかった。ただ、オレに身を預けるように体の力を抜いた。
 その体はまだ少しだけ震えていたが、震えは次第に止まって行った。
 ユーゴーのおじに、オレは会ったことがない。あの火に包まれて焼け死んだ、とだけ聞いている。
 それでも、ユーゴーはまだおじの影に怯えている。時々、こうして何かを思い出して震えている。

 ……いい加減死んどけよ。
 ユーゴーの心の内に潜むそいつの影に毒づくことしか、オレには出来なかった。

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