FRIENDが記憶持ちで転生してて雨竜に引き取られてる話です。
◆◆◆
それは、オレがこの家に引き取られた最初の年のクリスマスの朝のこと。
赤い包に金色のリボンが巻かれたその袋は、朝の七時過ぎに目を覚ました俺の枕元に置かれていた。
箱を持って、オイなんだよコレってキッチンにいるそいつに聞いたら、そいつは鍋をかき混ぜながら平然とこう言いやがった。
「さあ、サンタクロースでも来たんじゃないかい?」
余裕綽々の返答が少し気に食わなかったのでその場で包みを開けてやると、中にはオレが欲しかったバスケチームのレプリカユニフォームとバスケットボールが入っていた。
思いがけない中身に思わず声をあげると、そいつは火を止めて俺を見た。
生まれた時から持っていた記憶の中にある、遠くから見た時よりほんの少しだけ老けたそいつは、その時よりよほど穏やかな顔をしてこう言った。
「喜んでいたって伝えておくよ。ユーグラム君を起こしてきてくれるかい?朝食がもうすぐ出来るから」
「お、おう……」
そいつに何か言おうという気がすっかり失せてしまい、オレは開けたばかりの包みを抱えたまま、オレと一緒に引き取られたヤツ……ユーゴーの部屋へ向かった。
「はよー。入るぜー」
ガンガンとノックしてから部屋のドアを開けると、ユーゴーはもう起きていた。
細っこいユーゴーにはデカすぎるように見えるベッドの真ん中に座り込んで何か四角い物を手にしている。
「……おはよ、バズ」
「おっさんが言ってたぜ、サンタが来たってよ」
「サンタって……」
ユーゴーは呆れたような目でオレを見た。
「どうせ僕らが寝てる間に置いて行ったんだろ」
「そう言わずにさあ、サンタってことにしといてやれよ。あのおっさんセンスあるぜ」
「……確かに、そうかも」
よく見るとユーゴーの周りには緑色の包み紙が畳んでおいてある。
「ユーゴーは何貰ったんだよ?」
「チェスセットみたい」
手にしていたものをユーゴーが見せてくれた。木の箱の留め具をユーゴーが開けると、同じ木で出来たチェスの駒が中に納められている。
「へえ、カッコいいじゃん」
「……うん」
そう頷いたユーゴーの目はいつもより少しだけ輝いているように見えて、オレはほとんど衝動的にユーゴーの手首を掴んだ。
「ほら、朝メシ行くぞ!」
「え、あっ」
ユーゴーは少し驚いたようだったが大人しく付いてきた。二人分のプレゼントはベッドの上に投げ出したまま、このだだっ広い家の食堂に向かう。
「おら、ユーゴー連れて来たぜー」
食堂に足を踏み入れると、四人しか住んでいない家には大きすぎるテーブルの上に朝メシが並びはじめていた。
「おはよう」
「……おはよう、ございます」
テーブルに料理の乗った皿を並べながら挨拶してきたおっさんに、ユーゴーは少しだけ目を逸らしながら朝の挨拶を返した。
ユーゴーはこのおっさん──オレ達を引き取って育てているこの男が苦手だ。嫌いとかじゃないって言ってるけど、引き取られてそろそろ半年になるのにまだ目を見て話すのが少し怖いようだ。
「顔は洗って来たかい?」
「僕はもう……」
「あ、オレまだ」
「早く洗っておいで。……ユーグラム君、少し手伝ってくれるかな?」
「は、はい」
ユーゴーをおっさんと二人きりにするのは少し心配だったが、ユーゴーが素直に手伝いに応じたので大丈夫だろう。オレは急いで顔を洗いに行く。
顔を洗い終えて食堂に戻る途中で、あいつとユーゴーの話し声が聞こえてきた。
「サンタクロースは来たかい?」
「はい、あの……ありがとう、ございました。嬉しかったです」
「……そう、サンタに伝えておくよ」
返答はオレの時と変わらず余裕綽々なのに、「喜ばれて嬉しい」という気持ちが少しずつ声に滲み始めている。
今のオレが生まれる前の俺の父上と母上も、俺に贈り物をした時こんな感じだったな……と、ふと思い出す。
ほんと。血が繋がってないどころか、前のユーゴーとは殺し合いまでしたっていうのに、わざわざオレ達を引き取って我が子のように育てているのだから、変なヤツだ。
こんなこと言ったらまた「記憶があるとしても今の君たちはまだ子供だろう」と平然と言われるだけだろうから、ちょっとムカつく。
食堂に足を踏み入れると、おっさんとユーゴーはもうテーブルについていた。
オレも定位置に座りながら、この家の住人が一人足りないことに気づく。
「あれ、じいさんは?」
じいさんというのは、このおっさんの父親である。実際じいさんって程老けてるわけでもない……ていうか、おっさんよりちょっとだけ年上って言えば全然通りそうな見た目をしているが、他に呼び方も思いつかない。
「夜勤明けで寝てるよ。それとあいつのことじいさんって呼ぶのやめてやってくれないか、まだそんな歳でもないんだから」
「俺らの養父のアンタの父上なんだからどの道じいさんだろ」
「ほんっと口が回るな君は……」
テーブルの上の料理はいつもの朝メシより少しだけ豪華で、毎朝食べるようなパンやフルーツヨーグルトの他に星の形に切られた野菜やツリーの形のマカロニが浮かんでいるトマトスープ、綺麗なオレンジ色をしたサーモン、昨日の夜も食べたローストビーフが乗ったサラダまである。
オレやユーゴーの育った施設でもクリスマスの日の朝ごはんはいつもより少しだけ豪華だったが、施設のヒト達には悪いけどおっさんの作るメシの方が美味い。
三人で手を合わせて、いただきますを言う。クリスマスであろうと、それはいつもと変わらない。
ユーゴーもおっさんもじいさんも口数が多いほうではないので、食事の時間は施設にいた頃と比べたらとても静かだ。でも余所余所しさみたいなものは感じないから、多分オレはこの家での食卓が好きだし、ユーゴーも来たばかりの頃と比べれば表情も柔らかくなってきていると思う。
オレやユーゴーがヨーグルトに手を付け始めた頃、おっさんが口を開いた。
「僕は今日は午後から仕事に行く。夜まで竜弦と君たちしかいないよ。夕食は冷蔵庫に作っておくから」
竜弦というのは、じいさんの名前だ。なんでか知らないけど、おっさんは普段は実の父親であるはずのじいさんを名前で呼んでいる。
「りょーかい」
ユーゴーもこくりと頷く。どういうわけか、ユーゴーはおっさんよりじいさんの方に懐いている。オレもじいさんのことはそんなに嫌いじゃない。オレらみたいなガキの相手がそんなに得意じゃないのが見え見えだけど、適度に放っておいてくれるし、まあヤなヤツじゃないからな。
「外に出るなら気を付けるんだよ、最近インフルエンザも流行っているようだから」
「はーい」
「あ、あの……」
ユーゴーが珍しく朝メシ中に口を開いた。
「なんだい?」
「朝ごはん終わったら勝負、してください。あのチェスで。出来るところまででいいので」
ユーゴーの申し出に、珍しいな、と驚く。ユーゴーからこうやっておっさんに何か頼んだり挑んだりとか、そういうところは滅多に見ない。おっさんも驚いたように目を見開いた。
「ああ、構わないけど……ルールは大丈夫かい?」
「『前』の時の記憶があるので」
ユーゴーの言葉に一瞬だけおっさんの表情に陰りが見えたが、すぐに柔らかく笑ってその陰りは隠れてしまった。
「……それじゃあ僕と君たちで一局ずつ勝負しようか。君たちが僕に勝てたら、大晦日のディナーに希望のおかずを一品追加しよう。バズ君、チェスのルールは?」
急にオレに話が振られたが、舐められたくない一心で返す。
「オレだってチェスくらい分かるし」
施設にいた頃に将棋とかオセロだとかと一緒に少しやったことがあるが、コマの動かし方くらいは覚えている。
「それじゃあ僕は片付けてくるから、君たちは着替えたらチェスセットを持ってリビングにおいで」
おっさんは立ち上がると、少しだけいたずらっぽく笑ってユーゴーを見た。
「僕はこの手のゲームには自信があるから、挑んで来るならそのつもりで来い」
「……大丈夫です、そのつもりなので」
ユーゴーは真っすぐにおっさんの目を見詰め返した。今日のユーゴーはちょっといつもと違う。だがそんなユーゴーを見たおっさんは、嬉しそうな笑顔を浮かべただけだった。
朝メシを終えて、洗面所で並んで歯を磨いてから二人で二階の部屋に戻る。
「なあユーゴー、どうしたんだよ。急におっさんに勝負挑むなんて」
「プレゼントは嬉しいけど、全部あの人の思い通りにするのも、ちょっとむかつくから」
「なんだそりゃ」
「分からないならいいよ」
むかつくと言っている割に、ユーゴーの表情は明るく見えた。
「バズが貰ったのはバスケットボールなんだよね」
「おう、ブレイブファイアーズのやつ。今度1on1やろーぜ」
「うん、いいよ」
ユーゴーの部屋に置きっぱなしにしていたオレの分のプレゼントを回収して部屋に持って行く。パジャマから着替える時、ボールと一緒に貰ったユニフォームを着るかどうかちょっと迷った。なんかはしゃいでるみたいで恥ずかしいような気はしたが、オレやユーゴーがプレゼントを喜んでいることに喜んでいるあのおっさんの表情がそう嫌なものでもなかったので、セーターの上に重ね着することにした。
リビングに降りると、おっさんもユーゴーもまだ来ていなかった。
リビングに飾られたクリスマスツリーは、オレとユーゴーが飾り付けたものだ。クリスマスツリーを飾るのは二十年ぶりだっておっさんが言っていた。
アンタの家クリスマスやってたんだ、意外、とツリーを飾り付けながら言ったら、ちゃんとやるようになったのは僕が生まれてかららしいよ、と何てことはない風に返された。
暖炉の上にはクリスマス期間限定で、変な顔をしたサンタとトナカイのスノードームと、赤い花(ポインセチアというらしい)の刺繍が入った写真立てが置かれている。スノードームはおっさんが昔友達に貰ったもので、刺繍はおっさんがガキの頃から家にあったものらしい。
すぐにユーゴーがチェスセットを抱えて降りてきた。オレの着ているユニフォームをちらりと見て、ぼそりと呟く。
「バズってそういうところ単純だよね……」
「なんかわりーかよ!?」
「別に……」
ユーゴーはテーブルの上にゆっくりとチェスセットを広げていく。盤上に綺麗に駒を並べ終わった頃、おっさんがリビングに入ってきた。
「ああ、準備してくれていたんだね」
チェス盤を置いたテーブルを挟んで、ユーゴーとオレが座っているソファの反対側に小さい椅子を置いておっさんは腰を下ろした。長い脚を組んで、どこか余裕のある笑みを浮かべながらわざわざこのために持ってきたのであろうコインをオレたちに見せた。
「それじゃあ始めようか。先攻後攻はコイントスでいいかな」
「いいですよ」
でもこのおっさん、オレらが負けてもどうせ食べたい物聞いてくるんだよな……と、コインを弾くおっさんを見てちらりと思ったが、ユーゴーの目が真剣だったので黙っていることにした。
ユーゴーにとって大事なのはこの勝負そのものだってのは、分かり切ったことだから。
それに、おっさんも楽しそうだし……こういう時間は居心地が良くて、オレも嫌いじゃないのだ。
◆◆◆
設定
バズ
十歳前後。施設育ちで親は不明。風邪を拗らせて病院にかかった際雨竜に見つかってユーゴー共々引き取られた。前世の記憶はあるがそれが自分と完全なイコールとはあまり思っておらず、雨竜のことも最初は警戒していたが今は認めている(変な奴だとは思っている)。滅却師としての能力は持っていない。
ユーゴー
十歳前後。バズと同じ施設育ち。前世の記憶を自分と同一視している節があり、時折フラッシュバックを引き起こす。今度こそバズとちゃんと友達でいたい。雨竜のことは嫌いではないがちゃんと話すと前世のコンプレックスが刺激されるのでちょっと苦手。仲良くなりたいという意識はある。バズ同様滅却師としての能力は持っていない。
雨竜
アラサーの小児科医。バズとユーゴーを引き取る前はマンションで一人暮らしをしていたが、引き払って実家に戻った。バズ・ユーゴー共に前の存在とイコールとは全く思っておらず、一貫して「偶然彼らの記憶を持っているだけの普通の子供」として扱う。バズにおっさん呼ばわりされていることは特に気にしていない。
竜弦
アラフィフの院長。急に息子が実家に戻ってきたと思ったら前世が星十字騎士団の子供を二人も引き取ると言い出したので当然困惑したがまあ雨竜帰ってくるし……子供に罪はないし……と受け入れている。子供に怖がられがちという自覚があるので少し距離は置いているが二人のことは気にかけている。バズにじいさん呼ばわりされていることはちょっと気にしている。
◆◆◆
アニメのFRIEND回で強めに脳を焼かれたので書きました。私にできるのはもうはぴはぴ転生現パロを書くことしかねえ。
なんでユーゴーが竜弦にちょっと懐いてるのかとか一応考えてはいるので、気が向いたらまたこの設定で書くかもしれないし書かないかもしれないです。