少し遅めのランチタイム

(大佐はお若い分私よりよく食べる)

 そんなことを思いながら、向かいに座って大盛りのスパゲティを上品にぱくつくシャアをシャリア・ブルは眺める。
「どうかしたのか、大尉?」
 食事の手を止めたシャアにそう尋ねられ、シャリアは自分が食事の手を止めていたことに気が付いた。
 食堂には他の者はいないが、年若い上官が食べる姿に見惚れていた、などと言うわけにもいかず苦笑とともに返す。
「いえ、健啖でいらっしゃるなと」
「私からすれば君のいつも食べている量こそ少ないように思えるのだが」
「私のこれは通常の量ですよ」
「ふむ……」
 シャアはシャリアの皿と自身の皿を見比べたのち、くすりと笑った。
「私からすれば、君がよくその食事量で体型維持出来ているものだと不思議になるのだが」
 その言葉の意図するところを読み取り、シャリアは溜息とともに返す。
「大佐こそ、そのカロリーはいったいどこに消えていらっしゃるのですか」
 するとシャアは愉快そうに肩を揺らした。
「上官相手にセクハラか」
「先に仕掛けてきたのはそちらです」
「はは、その通り。夜になったら私の部屋に来るが良い」
「……上官であれば、部下の体力をもう少し考慮いただきたく」
 皮肉というわけでもなく、心の底からの本音であった。シャリアとて軍人である故に体力には相応の自信がある。しかし目の前にいる上官は若さゆえにかそれ以上の体力がある。体力を使い果たす可能性を考えていないとも言う。
 果たしてシャアは平然と笑いながらスパゲティを巻く。
「ならば貴公はもう少し体力を付けたまえ」
「三十近い男に何を求めてらっしゃるのですか……」
 こういった時だけ部下の言葉を聞かない振りをするので困ったものだ。ここに他の者がいなくて良かった……と、シャリアは呆れと共にちくりと諫言を呈する。
「私でなければいつか刺されますよ」
「大尉は刺さないのだろう」
 何気ないようなその言葉にたっぷりと含まれた甘えは耳朶を打ち、じわりと脳髄に届いた。この重みが快く、逆らい難いのだ。
「……貴方も人が悪い」
 それだけ呟き、シャリアは再びフォークを動かし始めた。

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