イルミネーション(竜叶)

 大学の近くの大通りでイルミネーションをやっているようだから一緒に行かないか、と叶絵を誘うのは、竜弦にとってそれなりに大きな冒険であった。
 二人で出かける時の行先は叶絵が決めることがほとんどであったし、それにイルミネーションというのは、恋人同士で見に行く先の定番であるという朧げな知識くらいはあるのだ。
 二人でそういった場所に出掛けることへの躊躇いが今更あるわけではない。ただ、初めて自分から誘った先がそう言った場所なのは、気取りすぎではなかろうか、と。好きな相手に少しでも自分を良く見せたいという心理で思うのだ。
 年齢一桁の頃から竜弦の面倒を見て来た叶絵がそんなことを今更気にするわけもないのだが、今現在の竜弦は自分を何より愛してくれる人がいるという事実に救われ、見方を変えれば少しだけ浮かれているので、待ち合わせ時刻よりも早く着いてしまった駅前でそわそわと落ち着かない気分になっていた。
 そもそも二人は雇用主と使用人という立場で同じ家に住んでいるので、待ち合わせという行為自体が新鮮なのだ。竜弦は大学の図書館で時間を潰してから来ているし、叶絵は仕事を使用人の同僚に任せて家を出て来ている筈だ。
 成程これが普通のデートの感覚なのか、と竜弦は新鮮に思いながら、叶絵を待ち詫びていた。

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