タグ: エグシャアシャリ

その愛情はランチボックスの形をしている

 ※最終回後三人交際同棲if

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 手作りのお弁当を持ってピクニックに行きたいです、と。

 何か誕生日に欲しいものはないのか、と、エグザべの誕生日まで残りひと月となった頃にシャアが尋ねた時、エグザべはひどく遠慮がちにそう答えた。
 二十代半ばの青年にしてはあまりに素朴でささやかな願いであった。
 しかしシャアとシャリアはすぐさまその願いを受け入れることに決めた。
 この欲の薄い青年が「手作りのお弁当を持ってピクニック」という、素朴ではあるがそれなりに手間のかかる願望を表に出してきたのは、三人で生活するようになって以降初めてのことだったからだ。

 ◆◆◆

 そういうわけで凡そひと月後、エグザべの誕生日前日。
 シャアとシャリアは、車を走らせ郊外の大型スーパーへと乗り込んだのだった。
 本当はエグザべも連れて来たかったのだが、彼は生憎仕事──子供向けプチモビ教室の講師──に穴を開けられず、今日はシャアとシャリアの二人だけである。
「ピクニックか。経験はあるか、シャリア」
「幼少期を過ごした施設では、一応。遠い昔の話ですが」
「ふむ……まあ私も似たようなものだ。とにかく必要になりそうなものを買っていこうじゃないか、こんな時のためにガルマにアドバイスも貰ったぞ」
 ふふん、と腕を組んで胸を張るシャアだったが、ザビ家のガルマにしろシャアにしろ感覚はどこか世間ずれしている。シャリアは一抹の不安を覚えつつ、何かあったら私が引き締めねばと固く決意した。
 それから二人は食材コーナーを練り歩く。
 野菜、ハムやベーコン、冷凍の塊肉、ピクルス、卵、チーズ、バゲットを次々と籠に入れていく。
 エグザべには厳密な好物というものがない。本人曰く「美味しいものが好き」で、食べられるものなら何でも食べる。
 これに関してはシャリアも似たようなものだったのだが、それではいけないとシャアは三人で生活するようになってからめきめきと料理の腕を上げた。
 今回のメニューもエグザべからのリクエストを汲みながらほとんどがシャアが決めている。
 さて甘い物も、とシャアがチョコスプレッドやピーナツバターを籠に入れた時、シャリアが恐る恐る声を上げた。
「多すぎるのでは……?」
 カゴが三つ乗るカートは既に八割方埋まっている。まだ二十代のシャアとエグザべがよく食べるとは言え、この全てをピクニックで消化しきれるか……そもそもあの大きな冷蔵庫にも入るか怪しい。
 しかしシャアは「何、気にするな」と構うことなくカートを進める。
「ピクニック一回で全てを食べきるわけではないのだ」
「ピーナツバターやチョコスプレッドを使うチャンスがピクニック以外でありますか?」
「……あれば、食べる! エグザべ君もきっと気に入る!」
 つまり深く考えていないらしい。この人は全く……と呆れながらも、シャリアはシャアについて行く。
 シャアはそれから惣菜コーナーでこの日の夕食のおかずや巨大なパックに入ったケーキも躊躇なくカゴに入れようとしたので、ケーキはやめてくださいとシャリアは必死で押し留めた。
 そうしてカートに満載された食材はレジを通過して、どうにか車に詰め込まれ、三人の住む家へと運び込まれたのだった。

 ◆◆◆

「わあ……随分買いましたね……」
 仕事を終えて帰宅したエグザべは、みっちりと中身の詰まった冷蔵庫を見て感嘆の声を上げた。
「ええ、帰りの車の重いこと重いこと」
 シャリアがサラダをボウルに盛り付けながら頷くと、シャアは鍋の中身をかき混ぜながら愉快そうに言う。
「君の願いを叶えるのが楽しくてな、ついはしゃいでしまった」
 エグザべは冷蔵庫の扉を閉めると、どこか恐る恐るシャリアとシャアの方を窺った。
「……いいんですか本当に、こんなにしてもらっちゃって」
「まだ作り始めてすらいないでしょう、甘えておきなさい」
「むしろ我々は、君が常日頃からもう少し我儘になることを望んでいるのだがね」
 二人の返答に、エグザべはパチパチと目を瞬かせる。
 もっと我儘になれ、というシャアとシャリアの願いをエグザべはまだ上手く飲み込みきれていない。
 戦争に巻き込まれ、エゴを捨てもっと大きなものに利用されなければ生き残ることも出来なかったこの青年にとってエゴの再獲得は時間が掛かり、苦痛にすらなり得るだろうとシャリアは考えている。
 それでも彼に人として当然の権利であるエゴを取り戻して欲しいがゆえに、シャアとシャリアは彼の望みを全力で叶えようとするのだ。
 それが人を殺し過ぎたニュータイプとしての一つの責任であり、世界から姿を消そうとしていた二人の手を自らの意思で掴んだ青年への報恩であり、愛情だった。
 まだ時間はかかるようだ、とシャアとシャリアはそっと視線を交わして苦笑いする。
「ともかく明日の朝は早いぞ、三人がかりとは言えあれだけの食材を料理してランチボックスに詰め込むのだからな」
 シャアは歌うようにそう言って、火を止めた。シャアの言葉にエグザべは目を輝かせ、そんなエグザべを見たシャリアは目尻を緩める。
「……やはり可愛いですね、君は」
 シャリアが思わずそうこぼすとエグザべの頬がぼっと赤くなり、シャアは心底愉快そうな笑い声を上げたのだった。

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エグシャアシャリ三人交際のエグシャリ部分

※シャア帰還後ifでシャアシャリかつエグシャリ
※ウルトラご都合happy時空、本編の3〜5年後くらい
※じくあ時空ガルマの捏造がある

 ◆◆◆

 若い。

 そんな事を思いながら、貸しているバスローブから覗くエグザべの上半身をシャリアがしげしげと眺めていると、エグザべから困惑と羞恥の念を感じた。と同時に、「あの」とエグザべの正に当惑しきったような声が頭上から降ってきた。
「何か付いてます……?」
「いえいえ、そんなことは。パイロットに相応しい、良い体をしているなと」
 事実エグザべの体は美しかった。
 程よく筋肉の付いたしなやかな体は、彼が除隊後もパイロットとしての鍛錬を怠っていないことを示している。それでいてきめ細やかな肌は滑らかで、旧世紀における若き戦士を象った大理石の彫刻を思わせた。
 ベッドに横たわりエグザべを見上げながら、シャリアは笑う。
「君がまだその肉体を維持してくれていることは、元上官として喜ばしい限りです」
「ッ……体目当てみたいなこと言わないでください、僕のこと好きなくせに」
「おや」
 エグザべの反撃に、シャリアは思わず肩を揺らした。
「言うようになりましたねえ」
「誰のせいですか」
 生意気な口を叩きながらも、その顔は真っ赤である。大方、かつての上官であるシャリアに「しごかれた」日々を思い出し、同時にそんな日々の中で自分が上官である筈のシャリアに恋慕を抱いた挙句、「目的を果たした」シャリアが退役する日に一世一代の告白をした事でも思い出しているのだろう。
 既にジオンの政権はザビ家に無い。ジオン共和国となったサイド3において、シャリア・ブルとシャア・アズナブルは政情の安定後は世間からその身を隠すことを選択した。そして彼らの行方を知るのは彼らから個人的な信頼を得ているごく一部の者であり、その中にはエグザべも含まれていたのだった。
 それから程なくしてエグザべも軍を辞めて、フォン・ブラウンに拠点を置く民間企業に就職した。以来エグザべは度々シャアとシャリアが暮らすこの小さな屋敷を訪れていた。
 シャリアを見下ろしながら、ぽつりとエグザべは呟いた。
「……今日はあの人いないんですよね」
「ええ、地球のご友人に会いに行っておられます」
「じゃあ貴方を独占出来る」
「おや、悪い顔だ」
「あの人のことは嫌いじゃないですけど、時々僕に見せ付けてくるのは嫌なので。今回くらいは独占させてください」
 そう言って、エグザべはシャリアの上に乗り上げた。若さ故の獣性を秘めた目がひどく愛おしく思え、シャリアは「いいですよ」と薄く笑いながらまだ肩に引っ掛かっているエグザべのバスローブに手をかけた。
「私は、あの方と君の物ですから。君に私をどうこうする権利は大いにある」
「……それを言うなら僕だってあの人だって、貴方の物ですよ」
 エグザべの腕からするりとバスローブを落としてしまえば、その肉体が顕になる。これから己を抱く若い雄のしなやかな肉体にシャリアは指を這わせた。触れられたエグザべは小さく体を震わせる。
「今日は君だけですが、満足させてくれますか?」
「ッ……あの人がいなくても満足させてあげますよ」 
 エグザべの口から僅かに犬歯が覗く。その鋭い歯が己の肌を突き破り赤い血を滴らせる様を想像し、シャリアは小さく喉を鳴らした。
 
◆◆◆

 一方その頃地球。
 旧友のガルマ(事実上の亡命中)と楽しく食事中であったシャアが、きゅぴぴんと何かを受信したかのように空を見上げた。
「む、シャリアがあの男にうつつを抜かしている気がする」
「どうしたシャア、何か悪い予感でもするのか」
「……いや良いのだ、私のマヴが別の男と寝ている気がするが私も認めた男だからな」
「……君、恋人となんだかとても不健全な付き合いをしているんじゃないのか?」
「三人交際など今どき不健全でもなかろう」
「三人交際???!?!!??!」

 ◆◆◆

このifの軽い設定

シャア

三人交際をやろうと言い出した張本人。
刻を見て異なる時空の己の顛末を知ったことで、帰還後に革命ぶち上げてジオンを共和制に転換させた後はシャリア共々雲隠れを選択した。
シャリアは私の父であり母であり恋人になってくれた男。
エグザべの事も大いに気に入っている。自分に少し生意気なところが特に。年も近く、故郷も家族もないという点にかつての己とシンパシーを感じるので気の置けない関係になりつつある。それはそれとしてシャリアと自分の仲を見せ付けまくるのは楽しい。
本名と顔はシャリアは勿論エグザベにも公開済。
地球にいるアルテイシアとは連絡を取り合っているが、三人交際をしていることを口を滑らせた際の「何言ってんだこの馬鹿兄」みたいな視線が若干トラウマ。でもアルテイシアは一応分かってくれたし三人交際はやめない。三人交際がどうと言うよりアルテイシアに見下されるのがトラウマ。
最近の趣味は家庭菜園。

シャリア

エグザべの好意と告白を有り難く思いながらも自分には既にあの人が……この子の将来のためにも……とはっきり断ろうとしたら近くで聞いてたシャアが割り込んで三人交際を提案してきたので大混乱のまま流されて現在に至る。
そもそもこの人がエグザべの事もちゃんと好きであることをシャアが勘で察したがゆえの三人交際だったりする。
若くて綺麗な男二人が自分を求めているのに悪い気はしないが、根が常識人なので彼らの人生に自分がいることが少し申し訳なくなる瞬間がある。そして毎回それを察した若者二人に分からせられるというループ。
退役後はとあるコロニーでシャアと共に慎ましく暮らしている。収入源は資産運用。
まだアラフォーなのにほとんど自分の人生上がったような気分でいる。
最近の趣味は料理と日曜大工。

エグザべ

公国軍時代からシャリアへの片思いを募らせ、シャリアが退役するその日に一世一代の告白したらなんか近くで聞いてた赤い人に三人交際を提案され、どんな形でも恋人になれるならと不承不承提案を飲んだ。
その際の不承不承顔がシャアの好みにぶっ刺さっていることは知る由もない。
現在は軍を辞めて月面都市フォン・ブラウンの民間MS製造企業で専属テストパイロットとして働いている。
フォン・ブラウンとシャア&シャリアが暮らすコロニーは往復二日掛かるので彼らに会えるのは月に一度か二度。もっと近くに転勤したい。
シャアは同じ人を愛する同志でありライバルであり、そして口には出さないが人としては割と好き。(シャリアにはバレてる)
軍にいるコモリとは友人同士で度々連絡を取り合っており、コモリも事情は知っているのでエグザべを応援している。

ガルマ

地球で暮らしている。
軍を辞めイセリナと結婚して地球で慎ましく暮らしていたらいつの間にかザビ家が倒れてジオンが共和制になったので、事実上の亡命扱いになっている。
シャアの三人交際COにはちょっと引いたが、まあ友が幸せなら……いやいいのか……? 本当に……? でも幸せそうだし……幸せの形は人それぞれだし……

アルテイシア(セイラさん)

シャア(キャスバル)の生き別れの妹であり伝説の連邦軍のニュータイプ。今は除隊して地球にて資産運用で生活している。
兄とは完全に縁を切るつもりだったが、帰還後に会った兄の憑き物が取れたような顔を見て拍子抜けし、以来度々連絡を取り合っている。
三人交際COをされた時は素直に引いた。でも多分依存先が二人以上ないと絶対何かやらかすのよねこの兄……と思ったので受け入れた。
多分シャリアには会ったことがあるし、「兄が何かやらかしたら刺してでも止めてください」って言う。

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全体的に軽い感じで書きましたが、シャア・シャリア・エグザべという帰る場所が自分の愛する人の隣しかない男三人の共依存三人交際です。三人ともそのことは承知してるし、互いに幸せだからまあこれでいいかという状態。そのうちセイラさんが絡むやつも書きたいですが本編の展開によるかもしれない。