タグ: FRIEND転生石田家養子化現パロ

とある深夜のキッチンにて

FRIENDが転生して雨竜に引き取られてるパロです。
この話と同じ設定なので、よろしければそちらを先にお読みください。

◆◆◆

 深夜十一時、眠れない夜。
 保護者と言うべきか、養父と言うべきか。とにかく『今』の自分を引き取って養育している人間の方針で、普段は夜の九時にはベッドに入る。
 『前』の自分であれば二十四時間動き続けることも出来たであろうが、『今』の自分は肉体も精神も九歳の子供であり、そしてそんな自分を受け入れなければとうに精神は崩壊しているので、とにかく彼は自身のそんな状態を受け入れて生活していた。
 しかしそれでも、生まれついて持っている『前』の記憶が『今』に与える影響は大きく、『前』の記憶に苛まれて今日のような眠ろうとしても眠れない夜というものが度々訪れる。
 明日も学校がある。学校は隣町にあって、スクールバス乗り場までは歩いて十分、バスに乗ったら片道三十分かかる。朝六時半には起きて支度を始めなければ、バスの時間に間に合わない。早く寝なきゃ、と焦れば焦るほど眠気からは遠ざかり、『前』の思い出したくないことばかり思い出される。
 そうして、吐き気を堪え、ぎゅっと目を瞑り、体にきつく毛布を巻き付けてベッドの上で丸くなっているうちに、ふと、ユーゴーは思った。
(喉、乾いたな……)
 こっそり起きだして向かった先のキッチンには、先客がいた。
「……?」
「あ……」
 背の高い男が、カウンターにもたれながら大きな氷の入ったグラスを傾けていた。バズにはじいさんと呼ばれ、自分を引き取った男からは竜弦と呼ばれている、この屋敷の主。
 存在だけなら『前』の記憶にも知識としてあるが、直接会ったのはこの家に引き取られてからが初めてだ。向こうから話しかけて来ることがあまりないので言葉を交わした回数も少ない。今日の夕飯はこの男とバズを含めて三人の食卓だったが、食前と食後の言葉以外は一言も発しなかった。だが悪い人ではない、ということは漠然と感じる。
「何をしている、こんな時間に」
 夜更かしを咎める言葉ではあるが、叱るでも形式上聞いているでもなく、しかしそこにどのような感情があるのかは読み取りづらい声であった。
 ユーゴーはキッチンの入り口に立ったまま、おずおずと答える。
「眠れなくて……それで、喉が乾いて」
「……そこに座って待っていなさい」
 カウンター前にいくつか置いてある丸椅子を示しながら、竜弦はカウンターにグラスを置くと、コンロの前に立ちケトルで湯を沸かし始めた。ユーゴーは言われた通りに丸椅子に腰を下ろす。
 竜弦は湯が沸くのを待つ間に冷蔵庫を開けて、麦茶が作ってあるボトルを取り出した。そして小さなコップにその中身を注ぎユーゴーの前に置いた。
「喉が渇いているのだろう、先にこちらを飲んでおきなさい。今、温かい飲み物を用意している」
 コップの半分ほど、冷たい麦茶が入っていた。
 ユーゴーはそれを一息に飲んだ。冷たい液体が喉を通り、喉の渇きが少しマシになる。
 竜弦が温かい飲み物を用意している間、手持無沙汰なのでカウンターの上に置かれたグラスを眺める。よく見ると底の方に琥珀色の液体が沈んでいた。
(なんでこの人もこんな時間にお酒を飲んでいたんだろう)
 酒というものがどのようなものか、『前』の記憶で知ってはいる。しかし『前』の自分はあまり酒を飲まなかったので、竜弦の心理はよく分からなかった。
 やがて竜弦は、マグカップをユーゴーの前に置いた。
「カモミールティーを入れた。熱いので気を付けるように」
「ありがとう、ございます」
 マグカップは、いつもユーゴーが使っているものだった。マグカップを両手で包み込むように持つと、手のひらからじんわりと体の芯に熱が伝わる。
 ユーゴーがカモミールティーを一口飲んだのを見届けてから、カウンターを挟んで向かいに立つ竜弦が口を開いた。
「眠れないのは、いつから?」
 医者のような聞き方だな、と思うが、そもそもこの家の元の住人は父子揃って医者なのだった、と思い直す。
「時々……今日は、ちょっと長くて」
「雨竜には話しているのか」
「いいえ……いつもは、じっとしていれば、終わるので」
「……それは『前』に起因することか、それとも『今』か?」
「『前』です。『今』は、拍子抜けするくらい何もされませんから」
「…………」
 竜弦が黙り込んだ。何かまずいことを言っただろうか、とユーゴーは温かいお茶を飲みながら思う。カモミールの控えめな甘い香りが鼻をくすぐる。お茶自体も少しだけ甘く、砂糖が入っているようだ。
 しばらく竜弦は何も言わなかったが、やがて口を開いた。
「幸福な記憶を、たくさん作りなさい。私に言えるのは、それくらいだ」
 ぽつりと、どこか噛み締めるような言葉。この人も同じように眠れなくて苦しんだことがあるのだろうか、とユーゴーは首を傾げた。
「……あなたは今、幸せなんですか?」
「恐らく、人並みには」
「それであなたは、大丈夫になったんですか?」
 不躾な質問をしているという自覚はあったが、それを聞いてもこの人はきちんと答えてくれるだろうという不思議な確信があった。
「時々、大丈夫ではないな」
「幸せなのに、ですか」
「ああ。一度でも壊されてしまえば、幸福が零れていくものだから苦労する」
 そう言って、竜弦は自分のグラスを手に取ると中身を一気に呷った。
「……壊されたことが、あるんですね」
「君には、関係のないことだが……何度か壊されても人並みに幸せな生活を送れる可能性はある、という見本にはなるかもしれない。過去の不幸よりは、現在や未来の幸福を重視していた方が建設的で健康で、健全だ。そう自分に言い聞かせなければ立つこともままならなかったが……まあ、『大丈夫ではない』夜をやり過ごせば翌朝には何とか自力で立てるようになった」
 竜弦はそう言うと、ちらりとキッチンの入り口に視線をやった。だがすぐに視線を戻し、ユーゴーを見る。
「あいつが君達を引き取ったのは、君達には私のような無理をせずとも『大丈夫』であって欲しいとあいつが望んでいるからだ。あいつは、君達の幸福を望んでいる」
「……僕が幸福な記憶をたくさん作ることは、あの人の望みだからってことですか。あなた、あの人のこと以外はだいたいどうでもいいって思っているでしょう」
 それは『前』の記憶での情報から得た印象だった。しかしそれを言われた竜弦は「さて」と小さく肩をすくめた。
「あいつの存在にすがらねば生きていけなかった、とも言えるが。君はまだ昔の私よりよほど選択の自由がある。少なくともあいつは小児科医で、子供の心身のケアについては私などより専門的に学んでいる上に君達の事情については誰よりも詳しい。まずあいつの望む通りに、素直に不眠症状の相談でもすることだ。それが出来なければ自分の幸福の追求も不眠の改善もままならないと思うが」
 思いの外真っ向から正論を叩き返され、ユーゴーは口をつぐんだ。しかし嫌な感じはせず、むしろ『今』の自分が子供だからと言って手加減をしない竜弦の姿はほんの少し好ましく映った。
「あれの強さと正しさが堪えるというのであれば分からんでもないが……さて、いつまでそこで聞いているつもりだ」
 竜弦がキッチンの入り口に顔を向け、ユーゴーも同じ方を見た。
「いちいち意地が悪いな……」
 溜息を吐きながら姿を見せたのは、石田雨竜その人であった。今さっき仕事から帰ってきたらしく、表情に疲れが見える。しかしユーゴーの姿を認めるとその表情がふっと柔らかくなった。
「ただいま」
「……お帰りなさい」
 思わず視線を下げる。ユーゴーはこの男が苦手だった。
 嫌いというわけではない。ただ、この男と向き合うと、『前』の自分がこの男に対して抱いていた感情が呼び起こされて胸がざわつく。それは「劣等心」と呼ばれるものだと、『前』の知識で理解している。それゆえ目を合わせることも出来ない。そして同時に、それを許されているという事実が『今』の自分の胸を苛み、余計に向き合うのが苦しくなるのだった。
 思わずぎゅうと手の内のマグカップを握る。だが、マグカップに残る熱にふと心が和らいだような気がして、おずおずと顔を上げる。
 雨竜はグラスに水道水を注いで飲んでいた。「手術は」「なんとか」と竜弦と短いやり取りの後、雨竜はユーゴーを見た。
「明日は、学校休んでみるかい?ちょうど僕も明日は休みだし、風邪をひいたということにして」
「え……」
「こんな時間まで眠れないなら、明日無理やり学校に行っても辛いだろう。違う世界に行ったような気がして意外と気分転換になるものだよ、平日に学校を休むのは」
「え……ええ……」
 思いがけないずる休みの提案におろおろと竜弦を見る。竜弦は「なぜ私を見る」と素っ気ない。
「でもバズは、学校行くんですよね」
「そうだね……君が風邪をひいたのだから、一緒に住んでいる彼も念のため休ませるということは出来なくもないかな。先生も医者の判断にそう口を出せないだろうし。それは明日彼の意思をちゃんと聞いてからだね」
「……学校休んで、何するんですか……?」
「風邪をひいているってことにするから、家の中で出来ることなら何でも。ああでも、学校に嘘を言うが常習化してはいけないから、今回は特別だよ」
「休むなんて一言も言ってないですけど……?」
 この石田雨竜という男が『前』の記憶の中の姿の印象と比べれば随分マイペースな人間であることを、引き取られるまでの三か月、そして引き取られてからの約一か月でユーゴーは十分に思い知っていた。
 こちらが素の姿なのか、それとも時の流れの中で変化したものなのかは分からないが、この時々強引なまでのマイペースさの中にあの頑なな意思の片鱗が伺えるのも事実であった。
 そして、そのペースに乗せられるのはどうにも癪だという思いが、ユーゴーにはあった。それが『前』に由来するものなのか、『今』芽生えているものなのかは、ユーゴー自身にも分からなかった。
「その……僕のために言ってくれるのは、分かるんですけど。今の学校、楽しくなってきたので……風邪引いてないのに、休みたくないです」
 目を合わせることはまだ出来なかったが、それでも手の内でマグカップを握りながらはっきりと言う。
 雨竜は「そう」と微笑みながら頷いた。
「それじゃあ、他のことは、明日君が学校から帰ってきてから話そうか。もう眠れそうかい?」
 その言葉を聞いた途端にふっと肩の力が抜け、そして眠気がベールのようにふわりと意識を覆い始めた。
「はい……多分……」
「それじゃあ、お休み。カップは僕が片付けておくから」
「……お休みなさい」
 椅子から降りる。カウンター越しに竜弦を見て小さく一礼すると、竜弦はこれまた小さく頷きを返してきた。この人とは、近い内にもう少し話をしてみたいと思った。
 雨竜はと言えば、慈しみの籠もった目でキッチンから出て行くユーゴーを見ていた。
 こういう人だから『今』の自分も『前』の自分もこの人のことが苦手なのだろうとユーゴーは改めて思う。
 だが彼と向き合っている間は、少しだけ、いつも以上に自分の輪郭がはっきりする気がし始めていた。『前』の自分とはあまりにも遠いのに、図々しくも寄り添おうとしてくれている変な人。
 キッチンを出て改めて歯を磨いてから、またベッドに向かう。ふと、ベッドの隅に置かれている大きなぬいぐるみが目に入った。
 この家の住人として部屋に通された時には既に置いてあった、ユーゴーの両手でようやく抱えられるくらいの大きさをしたピンクのライオンのぬいぐるみ。
 テレビや動物園で見たライオンより弱そうな顔だが、ふわふわとした触り心地は悪くないと思う。
 そういえば今日はこの子に触ってなかったな、とユーゴーはぬいぐるみを手繰り寄せながらベッドに潜り込んだ。
 ぬいぐるみをぎゅうと抱きしめて、目を閉じる。何か温かなものに包まれているかのような心地になりながら、何も考えず眠気に身を任せた。

おまけ1

「……振られたな」
「結構本気の提案だったんだけど。明日寝坊したらその時は車で送って行くさ」
「どうなることかと思ったが……保護者の顔になったな」
「それはどうも。まだ課題は山のようにあるんだけど……霊圧が無い子の面倒を見るのは難しいな。あの子が抱えてる問題に気付くのに時間が掛かってしまった。あの子達のことも『彼ら』のことも、僕はまだ何も知らない。知っていかないといけないんだろうね」
「少なくともあの子は、『前』で同じ程度の年の頃に何かしらの虐待を受けている可能性が高い。難しいぞ」
「難しくても、向き合うと決めたのは僕だ」
「……そうか」
「あんたももう少しあの子達と話してあげろよ。やれば出来るんじゃないか」
「…………」
「小さい子の相手は一勇くんで少しは慣れたと思っていたんだけど」
「いったい何を見ていたんだお前は……」

おまけ2

「やあ、急に悪いね黒崎」
「別にいいけどよ……何の用だ?」
「コン君の体を借りたくて……」
「なんて?」
「(採寸メジャーを取り出す)」
「ああ良かったそういう……おーいコン!」
「おとーさん!コンちゃんいしだくんみてまどからにげちゃった!」
「はぁ?!今すぐ追え!!」
「いつ来ても騒がしいね君の家は」
「今回のはおめーが発端なんだよッ!!」

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このパロでユーゴーが竜弦にちょっと(あくまでちょっと)懐いてる理由の話でした。この設定でせめて雨竜視点・竜弦視点までは書きたくなってきたのでそのうち書くと思います。

とある朝に(FRIEND記憶持ち転生石田家養子化現パロ)

FRIENDが記憶持ちで転生してて雨竜に引き取られてる話です。

◆◆◆

 それは、オレがこの家に引き取られた最初の年のクリスマスの朝のこと。
 赤い包に金色のリボンが巻かれたその袋は、朝の七時過ぎに目を覚ました俺の枕元に置かれていた。
 箱を持って、オイなんだよコレってキッチンにいるそいつに聞いたら、そいつは鍋をかき混ぜながら平然とこう言いやがった。
「さあ、サンタクロースでも来たんじゃないかい?」
 余裕綽々の返答が少し気に食わなかったのでその場で包みを開けてやると、中にはオレが欲しかったバスケチームのレプリカユニフォームとバスケットボールが入っていた。
 思いがけない中身に思わず声をあげると、そいつは火を止めて俺を見た。
 生まれた時から持っていた記憶の中にある、遠くから見た時よりほんの少しだけ老けたそいつは、その時よりよほど穏やかな顔をしてこう言った。
「喜んでいたって伝えておくよ。ユーグラム君を起こしてきてくれるかい?朝食がもうすぐ出来るから」
「お、おう……」
 そいつに何か言おうという気がすっかり失せてしまい、オレは開けたばかりの包みを抱えたまま、オレと一緒に引き取られたヤツ……ユーゴーの部屋へ向かった。
「はよー。入るぜー」
 ガンガンとノックしてから部屋のドアを開けると、ユーゴーはもう起きていた。
 細っこいユーゴーにはデカすぎるように見えるベッドの真ん中に座り込んで何か四角い物を手にしている。
「……おはよ、バズ」
「おっさんが言ってたぜ、サンタが来たってよ」
「サンタって……」
 ユーゴーは呆れたような目でオレを見た。
「どうせ僕らが寝てる間に置いて行ったんだろ」
「そう言わずにさあ、サンタってことにしといてやれよ。あのおっさんセンスあるぜ」
「……確かに、そうかも」
 よく見るとユーゴーの周りには緑色の包み紙が畳んでおいてある。
「ユーゴーは何貰ったんだよ?」
「チェスセットみたい」
 手にしていたものをユーゴーが見せてくれた。木の箱の留め具をユーゴーが開けると、同じ木で出来たチェスの駒が中に納められている。
「へえ、カッコいいじゃん」
「……うん」
 そう頷いたユーゴーの目はいつもより少しだけ輝いているように見えて、オレはほとんど衝動的にユーゴーの手首を掴んだ。
「ほら、朝メシ行くぞ!」
「え、あっ」
 ユーゴーは少し驚いたようだったが大人しく付いてきた。二人分のプレゼントはベッドの上に投げ出したまま、このだだっ広い家の食堂に向かう。
「おら、ユーゴー連れて来たぜー」
 食堂に足を踏み入れると、四人しか住んでいない家には大きすぎるテーブルの上に朝メシが並びはじめていた。
「おはよう」
「……おはよう、ございます」
 テーブルに料理の乗った皿を並べながら挨拶してきたおっさんに、ユーゴーは少しだけ目を逸らしながら朝の挨拶を返した。
 ユーゴーはこのおっさん──オレ達を引き取って育てているこの男が苦手だ。嫌いとかじゃないって言ってるけど、引き取られてそろそろ半年になるのにまだ目を見て話すのが少し怖いようだ。
「顔は洗って来たかい?」
「僕はもう……」
「あ、オレまだ」
「早く洗っておいで。……ユーグラム君、少し手伝ってくれるかな?」
「は、はい」
 ユーゴーをおっさんと二人きりにするのは少し心配だったが、ユーゴーが素直に手伝いに応じたので大丈夫だろう。オレは急いで顔を洗いに行く。
 顔を洗い終えて食堂に戻る途中で、あいつとユーゴーの話し声が聞こえてきた。
「サンタクロースは来たかい?」
「はい、あの……ありがとう、ございました。嬉しかったです」
「……そう、サンタに伝えておくよ」
 返答はオレの時と変わらず余裕綽々なのに、「喜ばれて嬉しい」という気持ちが少しずつ声に滲み始めている。
 今のオレが生まれる前の俺の父上と母上も、俺に贈り物をした時こんな感じだったな……と、ふと思い出す。
 ほんと。血が繋がってないどころか、前のユーゴーとは殺し合いまでしたっていうのに、わざわざオレ達を引き取って我が子のように育てているのだから、変なヤツだ。
 こんなこと言ったらまた「記憶があるとしても今の君たちはまだ子供だろう」と平然と言われるだけだろうから、ちょっとムカつく。
 食堂に足を踏み入れると、おっさんとユーゴーはもうテーブルについていた。
 オレも定位置に座りながら、この家の住人が一人足りないことに気づく。
「あれ、じいさんは?」
 じいさんというのは、このおっさんの父親である。実際じいさんって程老けてるわけでもない……ていうか、おっさんよりちょっとだけ年上って言えば全然通りそうな見た目をしているが、他に呼び方も思いつかない。
「夜勤明けで寝てるよ。それとあいつのことじいさんって呼ぶのやめてやってくれないか、まだそんな歳でもないんだから」
「俺らの養父のアンタの父上なんだからどの道じいさんだろ」
「ほんっと口が回るな君は……」
 テーブルの上の料理はいつもの朝メシより少しだけ豪華で、毎朝食べるようなパンやフルーツヨーグルトの他に星の形に切られた野菜やツリーの形のマカロニが浮かんでいるトマトスープ、綺麗なオレンジ色をしたサーモン、昨日の夜も食べたローストビーフが乗ったサラダまである。
 オレやユーゴーの育った施設でもクリスマスの日の朝ごはんはいつもより少しだけ豪華だったが、施設のヒト達には悪いけどおっさんの作るメシの方が美味い。
 三人で手を合わせて、いただきますを言う。クリスマスであろうと、それはいつもと変わらない。
 ユーゴーもおっさんもじいさんも口数が多いほうではないので、食事の時間は施設にいた頃と比べたらとても静かだ。でも余所余所しさみたいなものは感じないから、多分オレはこの家での食卓が好きだし、ユーゴーも来たばかりの頃と比べれば表情も柔らかくなってきていると思う。
 オレやユーゴーがヨーグルトに手を付け始めた頃、おっさんが口を開いた。
「僕は今日は午後から仕事に行く。夜まで竜弦と君たちしかいないよ。夕食は冷蔵庫に作っておくから」
 竜弦というのは、じいさんの名前だ。なんでか知らないけど、おっさんは普段は実の父親であるはずのじいさんを名前で呼んでいる。
「りょーかい」
 ユーゴーもこくりと頷く。どういうわけか、ユーゴーはおっさんよりじいさんの方に懐いている。オレもじいさんのことはそんなに嫌いじゃない。オレらみたいなガキの相手がそんなに得意じゃないのが見え見えだけど、適度に放っておいてくれるし、まあヤなヤツじゃないからな。
「外に出るなら気を付けるんだよ、最近インフルエンザも流行っているようだから」
「はーい」
「あ、あの……」
 ユーゴーが珍しく朝メシ中に口を開いた。
「なんだい?」
「朝ごはん終わったら勝負、してください。あのチェスで。出来るところまででいいので」
 ユーゴーの申し出に、珍しいな、と驚く。ユーゴーからこうやっておっさんに何か頼んだり挑んだりとか、そういうところは滅多に見ない。おっさんも驚いたように目を見開いた。
「ああ、構わないけど……ルールは大丈夫かい?」
「『前』の時の記憶があるので」
 ユーゴーの言葉に一瞬だけおっさんの表情に陰りが見えたが、すぐに柔らかく笑ってその陰りは隠れてしまった。
「……それじゃあ僕と君たちで一局ずつ勝負しようか。君たちが僕に勝てたら、大晦日のディナーに希望のおかずを一品追加しよう。バズ君、チェスのルールは?」
 急にオレに話が振られたが、舐められたくない一心で返す。
「オレだってチェスくらい分かるし」
 施設にいた頃に将棋とかオセロだとかと一緒に少しやったことがあるが、コマの動かし方くらいは覚えている。
「それじゃあ僕は片付けてくるから、君たちは着替えたらチェスセットを持ってリビングにおいで」
 おっさんは立ち上がると、少しだけいたずらっぽく笑ってユーゴーを見た。
「僕はこの手のゲームには自信があるから、挑んで来るならそのつもりで来い」
「……大丈夫です、そのつもりなので」
 ユーゴーは真っすぐにおっさんの目を見詰め返した。今日のユーゴーはちょっといつもと違う。だがそんなユーゴーを見たおっさんは、嬉しそうな笑顔を浮かべただけだった。
 朝メシを終えて、洗面所で並んで歯を磨いてから二人で二階の部屋に戻る。
「なあユーゴー、どうしたんだよ。急におっさんに勝負挑むなんて」
「プレゼントは嬉しいけど、全部あの人の思い通りにするのも、ちょっとむかつくから」
「なんだそりゃ」
「分からないならいいよ」
 むかつくと言っている割に、ユーゴーの表情は明るく見えた。
「バズが貰ったのはバスケットボールなんだよね」
「おう、ブレイブファイアーズのやつ。今度1on1やろーぜ」
「うん、いいよ」
 ユーゴーの部屋に置きっぱなしにしていたオレの分のプレゼントを回収して部屋に持って行く。パジャマから着替える時、ボールと一緒に貰ったユニフォームを着るかどうかちょっと迷った。なんかはしゃいでるみたいで恥ずかしいような気はしたが、オレやユーゴーがプレゼントを喜んでいることに喜んでいるあのおっさんの表情がそう嫌なものでもなかったので、セーターの上に重ね着することにした。
 リビングに降りると、おっさんもユーゴーもまだ来ていなかった。
 リビングに飾られたクリスマスツリーは、オレとユーゴーが飾り付けたものだ。クリスマスツリーを飾るのは二十年ぶりだっておっさんが言っていた。
 アンタの家クリスマスやってたんだ、意外、とツリーを飾り付けながら言ったら、ちゃんとやるようになったのは僕が生まれてかららしいよ、と何てことはない風に返された。
 暖炉の上にはクリスマス期間限定で、変な顔をしたサンタとトナカイのスノードームと、赤い花(ポインセチアというらしい)の刺繍が入った写真立てが置かれている。スノードームはおっさんが昔友達に貰ったもので、刺繍はおっさんがガキの頃から家にあったものらしい。
 すぐにユーゴーがチェスセットを抱えて降りてきた。オレの着ているユニフォームをちらりと見て、ぼそりと呟く。
「バズってそういうところ単純だよね……」
「なんかわりーかよ!?」
「別に……」
 ユーゴーはテーブルの上にゆっくりとチェスセットを広げていく。盤上に綺麗に駒を並べ終わった頃、おっさんがリビングに入ってきた。
「ああ、準備してくれていたんだね」
 チェス盤を置いたテーブルを挟んで、ユーゴーとオレが座っているソファの反対側に小さい椅子を置いておっさんは腰を下ろした。長い脚を組んで、どこか余裕のある笑みを浮かべながらわざわざこのために持ってきたのであろうコインをオレたちに見せた。
「それじゃあ始めようか。先攻後攻はコイントスでいいかな」
「いいですよ」
 でもこのおっさん、オレらが負けてもどうせ食べたい物聞いてくるんだよな……と、コインを弾くおっさんを見てちらりと思ったが、ユーゴーの目が真剣だったので黙っていることにした。
 ユーゴーにとって大事なのはこの勝負そのものだってのは、分かり切ったことだから。
 それに、おっさんも楽しそうだし……こういう時間は居心地が良くて、オレも嫌いじゃないのだ。

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◆◆◆

設定

バズ

十歳前後。施設育ちで親は不明。風邪を拗らせて病院にかかった際雨竜に見つかってユーゴー共々引き取られた。前世の記憶はあるがそれが自分と完全なイコールとはあまり思っておらず、雨竜のことも最初は警戒していたが今は認めている(変な奴だとは思っている)。滅却師としての能力は持っていない。

ユーゴー

十歳前後。バズと同じ施設育ち。前世の記憶を自分と同一視している節があり、時折フラッシュバックを引き起こす。今度こそバズとちゃんと友達でいたい。雨竜のことは嫌いではないがちゃんと話すと前世のコンプレックスが刺激されるのでちょっと苦手。仲良くなりたいという意識はある。バズ同様滅却師としての能力は持っていない。

雨竜

アラサーの小児科医。バズとユーゴーを引き取る前はマンションで一人暮らしをしていたが、引き払って実家に戻った。バズ・ユーゴー共に前の存在とイコールとは全く思っておらず、一貫して「偶然彼らの記憶を持っているだけの普通の子供」として扱う。バズにおっさん呼ばわりされていることは特に気にしていない。

竜弦

アラフィフの院長。急に息子が実家に戻ってきたと思ったら前世が星十字騎士団の子供を二人も引き取ると言い出したので当然困惑したがまあ雨竜帰ってくるし……子供に罪はないし……と受け入れている。子供に怖がられがちという自覚があるので少し距離は置いているが二人のことは気にかけている。バズにじいさん呼ばわりされていることはちょっと気にしている。

◆◆◆

アニメのFRIEND回で強めに脳を焼かれたので書きました。私にできるのはもうはぴはぴ転生現パロを書くことしかねえ。

なんでユーゴーが竜弦にちょっと懐いてるのかとか一応考えてはいるので、気が向いたらまたこの設定で書くかもしれないし書かないかもしれないです。