「……こんな時間が、ずっと続けばいいのにね」
燃え上がるような夕陽を前にして陳腐な言葉しか言えない自分の貧弱な語彙が惜しい。それでも、ベンチの隣に座るダビデ王は「そうだね」と言って笑ってくれる。
レイシフト先でダビデの魔力を使ってカルデアからのありとあらゆる追跡手段を絶つことで手に入れた、たった一日限りの正真正銘の二人きりの時間。
一日だけでいい、ダビデと二人きりになりたかった。理由は分からない、曖昧なままここまで付き合わせてしまったのに、結局二人きりで一日過ごしても分からなかった。
「……ありがとう。俺の我が儘に付き合ってくれて」
「僕は君のサーヴァントだからね。満足出来たかい?」
「……うん」
「それは良かった」
ダビデは微笑むと、飲んでいたカフェオレの缶をベンチに置いた。
「……さあ、そろそろ時間だよ、マスター」
燃えるようなオレンジの光がダビデに降り注ぐ。若草色の髪は光に呑まれ、一瞬光の色に染め上がった。どこか悲しげだが優しい笑顔の中若草色の瞳だけがそのままで。
俺が声を上げる間もなく、意識はぷつんと途切れ闇に閉ざされた。
29 2018.5