blessing for you(再録)(ぐだダビ)

 ダビデの調子が悪い。
 藤丸立香がそれに気が付いたのは、ダビデが日課としているレクリエーションルームでの竪琴演奏をしなくなった日のことだった。
「今日はダビデいないの?」
 いつもならレクリエーションルームの隅のソファに座って竪琴を鳴らしている彼の姿が見えなかったので思わずそう声を上げると、ナーサリーとジャックに絵本を読み聞かせていたマリーが「あら、こんにちはマスター」と微笑みかけてきた。
 こんにちは、と慌てて返すと、「そうなのよ」とマリーは首を傾げた。
「私も、ダビデ王のあの素敵な竪琴を聞きたくなってここに来てみたのだけれど……今日は来ていらっしゃらないみたいなの」
「王様、いつもいるのに今日はいないのよ。どこか悪くていらっしゃるのかしら?」
「おうさま、だいじょうぶかな?」
 ナーサリーとジャックも口々に心配そうに声を上げた。
 その声に藤丸も不安が掻き立てられる。この二人はここでよくダビデの竪琴を聞いているんだった、と、しゃがみ込んで尋ねてみる。
「ねえ、二人から見てダビデにおかしなところはあった?」
 ナーサリーもジャックも首を横に振る。
「ううん、昨日のおうさまはいつものおうさまだったよ」
「昨日は私とジャックが好きな曲を弾いてくれたのよ」
「そのあとでアタランテに声をかけて、すごくいやがられてたよ」
 成る程、いつものダビデだ……と呆れ半分安心半分と共に、マリーの方を向く。
「マリーはどう?」
「私とダビデ王では顔を合わせる機会が少なくて……一昨日食堂で見かけたけれど、元気そうだったわ」
「そっか……ありがとう。俺ちょっとダビデと話がしたかったからさ……自分で探してみる」
 立ち上がると、「あなたがダビデ王と無事にお話出来るよう、そしてダビデ王に何事もないことを祈っているわ」とマリーが微笑みで送り出してくれた。