FGOの帝都聖杯戦争、ぐだ・オル田出現前の時間軸です。土佐弁勉強中なので間違ってても勘弁してください。
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サーヴァントが夢を見るのかどうか、については諸説あるらしい。それではそのサーヴァントの宝具が意思を持っていた場合、夢を見ることはあるのかどうか。
正直、その辺はお竜にはどうでもいい。だが、 仮に夢を見たのでなくとも唐突に思い出す事はある。
「っ……!リョーマ、リョーマ!」
深夜、丑三つ時を回ろうかという時刻。布団の上で丸まっていたお竜が唐突に飛び起きて隣の布団で眠る男に抱き付くと、「ぐえっ」とお竜の下から蛙にも似た声がした。
「リョーマ、リョーマ」
「ちょ、痛いって……どうした、お竜さん」
お竜は目を覚ましたがまだ半分寝起きの龍馬の顔を無遠慮にぺたぺた触る。感触がある、体温がある、見つめれば見つめ返してくる。
やがてお竜のただならぬ様子を理解したらしく、龍馬はお竜の背中に手を回した。抱き締めて、優しくさする。
「……怖い夢でも見たが?」
「夢……いや、夢じゃない。ただ、思い出した」
「そっか。話したくないなら、話さんでええよ」
「……うん」
ぽん、ぽん、と背中を叩かれ、全身をじんわり包む安心感にゆっくり体の力が抜ける。肩にぐいぐいと顔を埋めると、龍馬は苦笑しながらもう片方の手でお竜の髪をそっと撫でた。
「……大丈夫、今の僕はそう簡単に死んだりしないから」
「そういうところがお竜さんは心配なんだぞ」
「弱くてすいません」
「そうじゃない、リョーマは生きてた頃よりちょっと強くなったくらいで調子に乗りすぎだ」
顔を上げて少しだけ体を起こすと、眼下に龍馬の顔を見下ろす。
龍馬はお竜の視線に少しだけ居心地が悪そうにしながら苦笑した。
「調子に乗りすぎって……」
「サーヴァントになったところでリョーマの体はお竜さんより柔らかいし、リョーマはお竜さんが持てるのより重たい物が持てない。結局お竜さんの方が強い」
「……そうだね、僕よりお竜さんの方が強い」
「それなのにリョーマは前に出るしお竜さんを庇おうとかするし勝手に怪我するし……心配するお竜さんの身にもなってみろ」
お竜の不満げな言葉に、龍馬は少しだけ目を見開いた。
「……ごめん。僕、そんなに前出てた?」
「出てるぞ」
「え……それは、ほんとにごめん」
「分かればいいんだ分かれば。うん、リョーマの悪いところをちゃんと指摘出来るお竜さんはやっぱり出来る女だな」
言うだけ言って満足したお竜はふわりと力を抜くと、龍馬の体の上で寝そべり始めた。
「あの、お竜さん、そろそろ体の上からはどいて欲しいかな……僕が寝返り打つとお竜さん落ちるよ?」
「む、お竜さんがそんな事で落ちるわけない」
「僕が寝れないんだけど……」
お竜は龍馬の不満などどこ吹く風で、龍馬の左胸に耳を当てた。とくとくと確かな鼓動と体温が、服の下、薄皮の下で流れる体温の存在を知らせてくる。
「サーヴァントとは不思議だな、リョーマはもう人間じゃないのに人間みたいだ」
間違いなく一度死んだ人間の龍馬と、竜として天にも昇らず海の底に消えた自分がこうしてサーヴァントとその宝具として二度目の生を受けているのだ。サーヴァントシステムとは奇妙なものだが、嬉しくはある。ので、お竜は僅かな笑みを口元で湛えながら言う。
「リョーマ」
「何じゃ?」
「お前がサーヴァントになるような人間でよかった」
「……本当は、僕が出動しなくて良くなるのが一番なんだけどね」
「むう、一言余計だ」
お竜が頬を膨らませて右手を伸ばして龍馬の口を塞いでやると、「ごめんごめん」と手の下でもごもご口が動いた。
「分からないぞ、普通の聖杯戦争にお竜さんとリョーマが呼ばれて勝ったりしちゃうかもしれない。お竜さんは強いからな、開催地が日本じゃなくてもその辺の英霊まとめてポイだ」
お竜の自信満々な言いように龍馬は肩を振るわせて笑った。手を離してやると龍馬は一度大きく息を吸ってからまた笑い出した。
「はは、そりゃ心強いな。それじゃその時も頼りにさせてもらいます」
「リョーマは聖杯を手に入れたら何を願うんだ?お竜さんは色々、沢山あるぞ」
お竜の問い掛けに、龍馬はしばし考え込んでからゆっくり口を開く。
「そりゃまあ……世界平和とか、皆が笑顔になれる世界じゃないかな?聖杯で叶える願いでもないと思うけどね」
「真顔でそういうこと言うから抑止力にこき使われるんだぞリョーマ」
「ははは、僕は別にそれでもいいとは思うんだけど……お竜さんは嫌?」
抑止力にこき使われるのもいい、という龍馬のスタンスが若干気に入らないお竜は少し口を尖らせながら、素直に思うところを言う。
「お竜さんはリョーマが商売で悠々生活出来るようになる方が嬉しい。そうすればお竜さんはカエルをいくらでも食べられるし、リョーマも余計な傷を作らなくて済む。うん、完璧だな」
「……だからって、聖杯を手に入れても僕の受肉なんて願わないでね?僕、今のあり方結構気に入ってるし……今の時代を動かすべきは僕らじゃないだろ?」
「分かってる、やらないやらない」
いや本当に、坂本龍馬という男はこういうところがままならない。
誰もが幸せな世界とやらの想定に自分が入ってないのだ。最悪自分が消えても皆幸せになれればいい、くらいの心構えなのだ。そんな心構えで戦ってたら抑止力だって都合良くこき使うに決まっている。というか生前からそんな感じだったから抑止力に目を付けられたのだこの男は。
だってサーヴァントなんて過去の英雄の影法師でしかないよ、と龍馬は言うのだろうが、やはりお竜は納得がいかないのだった。
だって人間って、自分が生きることと自分が幸せになることを第一に優先するのが普通じゃないのか。だから自分はあの山に封印されたのだ。いや、今のリョーマはサーヴァントなのだが……とまで考えて、どんどんややこしくなる思考にお竜は考えるのをやめた。
龍馬の上から布団の上に転がり出ると、うーんと伸びをして呟く。
「やっぱりリョーマはお竜さんがいないと駄目だな」
「はは……これからもよろしく頼むぜよ」
くるりと体を丸めると、「体冷えちゃうよ」と龍馬が自分が先程蹴飛ばしたままだった掛け布団を掛けてくれた。
「……なあリョーマ、明日くらいはゆっくりしていいと思う」
「そうかもねえ……それじゃ明日は遠くからの偵察中心にして、蛙でも探しに行こうか」
龍馬からの提案に、お竜は目を煌めかせる。
「よし、デートか。デートだな。お竜さん張り切っちゃうぞ。明日の昼はお竜さん特製愛妻弁当だ」
「僕の分は人間が食べられる物で頼むよ」
「任せろ。お竜さんの才能に震えるといい」
「楽しみにしてるよ、……おやすみ」
「ん、おやすみ」
優しく頭を撫でられる。大丈夫、今度こそ近くに、ちゃんといる。掌から伝わる温度に安堵しながら、お竜は今度こそ眠りに身を委ねた。
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龍馬の声帯とビジュアルに逆らえず放送局の次の日には原作を買って読んでイベントでまんまと帝都ライダー組のオタクになりました。人間×人外好きが逆らえる訳がなかった。
土佐同盟礼装大好き……