【実写版軸一護+雨竜】「ただのクラスメイト」【映画見た人向け】

「なあ、オレとお前ってなんで知り合いになったんだ?」
「……」
まず目に入ったのは目の前に突き出された購買部のビニール袋。中身はパンと紙パックのジュース。視線を上げれば、オレンジの髪が目に入る。
詰まる所、昼休みに屋上で静かに本でも読もうと思っていたら急に黒崎に絡まれた。
僕は一つため息を吐き出す。
「またその話か……自分で思い出せって何回も言ってるだろ。それとそのパンは何だ」
「思い出せそうで思い出せないから聞いてんだ。パンは俺の奢りだ。お前、たまに昼飯食ってないだろ」
僕の返答を待たずに、ビニール袋が音を立てて僕の太腿に置かれる。今日昼食を持って来ていないのもたまにそういう日があるのも事実なのだが、黒崎に気を遣われているという点も奢りで釣ろうとしている向こうの魂胆もなんとなく癪である。
「気にすんな、俺も今日は購買で買ったからついでだ。6時間目体育だろ、食わなきゃ倒れるぞお前」
そう言いながら黒崎は僕の向かいに座り、自分の分の袋からコロッケパンを取り出した。
「……生憎、君が思ってるほど僕は虚弱じゃない」
「飯を抜くのはそれ以前の問題だろ」
本当にお節介だな、この男は。
しかしありがたいのは事実だし、突き返すのも申し訳ない気がしてしまって、僕は袋の中を見た。焼きそばパン、ジャムパン、りんごジュース。焼きそばパンとりんごジュースのパックを取り出す。
焼きそばパンを齧ると、無視していた空腹感が存在を訴え、しかし直ぐに薄れていく。
「……まあ、少しなら質問に答えてやらなくもない」
本当は、黒崎が自力で思い出すのが1番だと思うが。
黒崎は少し考え込んだ後、口を開いた。
「聞き方変える。お前さ、どうしてそんな急にオレの事気にして来るようになったわけ?」
「…………」
そう来たか。
「オレとお前は、1週間前まではただのクラスメイトだった。なのに急にお前が朝挨拶して来るようになって……てか、その1週間前までの記憶もちょっとモヤモヤしてんだよ。なあ、何があったんだよ」
黒崎が身を乗り出してくる。ここ一週間毎日のように聞いた質問だ。
「……何があったかについては、何回も言ってるけど君が自分で思い出すべき事だ」
「ああ、何回も聞いた。だから、せめて何でオレとお前がダチみたいになってるのかは知りたい」
「は?」
ダチ。友達?君と僕が?
「それは無い。君と僕はただのクラスメイトだ」
友達では、ない。断じてない。
この男の持つ力や人の良さは認めていない事も無い、だが彼が一時とはいえ死神だった以上、友達になる事は無い。例え戦場で力を貸し合う事はあってもだ。
「……そっか。違うのか。オレはなんか、お前とダチになったような気がしてたんだけどな」
黒崎はやや不満そうな顔をしながらコロッケパンの最後の一欠片を口に押し込んだ。
「…………」
ダチになったような気がしていた、って。なんだそれは。そこまで思い出していながら朽木ルキアの事は思い出せないのか。やはり馬鹿なのかこの男。
少し腹が立ってきたが、わざわざそれを言ってやる事も無い。
思い出すべき時が来たら思い出すだろうし、思い出せなければそれで終わり。これは多分、それだけの話だ。後者であれば黒崎は、ただの霊感が強い人間として生きていくのだ。死神になりさえすれば誰でも守れるようなその力を振るうことなく。
……その事を、死神を憎みながらも惜しいと思ってしまうのは、僕のエゴなのだろう。今はただの人間である黒崎が虚と戦う必要なんて、どこにもないのに。
「……一つだけ、教えてやる」
「ん?」
「僕は、君に記憶を取り戻して欲しいと思っている」
だから、これを言わないのは、酷く不誠実な気がした。
別に、黒崎が僕の言わんとする事の意味を理解する必要は何処にもないのだが。最悪一生理解しなくても良い。
ほら、現に黒崎はキョトンとした顔をしている。人の気も知らないで。
やっぱり腹が立つ。
「……なあ石田」
「何」
「お前、分かり難いだけで良い奴なのか……?」
「はあ?」
急に何を言い出すんだこいつ。
唖然とする僕を尻目に、黒崎はチョコパンの封を開ける。
「いや、お前が1番詳しいんだと思ったんだけどさ。お前がそう言うなら多分オレは自分で何とかした方が良いんだろうな。もうお前に聞くのやめるわ、自分で思い出せるようにしてみる」
そう言って、黒崎は何でもなかったかのようにパンを齧る。
何でもないような顔をしてはいるが、きっと本気で僕のことを頼りにしていたのだろう。僕は胸にちくりとした痛みを覚えながらそれに目を瞑り、残半分となった焼きそばパンに齧り付いた。

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原作軸のこの話と対にしています。
この2人は媒体が変わってもこうなんだろうなあ、と思います。

実写版すごく良かったんですけどもうこの2人が最高すぎましたね……ええ……映画その物の出来も良かったしアクションは本当にカッコよかったし何はともあれ石田の顔が良かったのが最高でした……見事なガワの実装本当にありがとうございました……