「……もう昼の十一時だぞ」
年の瀬という事で実家に帰ってみれば、父はベッドの中にいた。
優秀な医者でありワーカホリックの気があるとは言え、院長という立場故か年末年始はほぼ家にいる。そう聞いてはいたが、まさか自分が帰って来ても起きてないとは思わなかった。
雨竜も朝は弱いという自覚はある。だが十一時まで寝ていた事は無い。そこまで寝るのは流石に寝ている時間が勿体無い。
……まあ、働いている身だからそういう事もあるだろうな。もしかしたら遅くまで働いていたのかもしれない。こういう時でもないとゆっくり眠れないだろうしな。
雨竜はそう無理矢理納得しながら、ベッドでうつ伏せになって眠る父を眺める。呼吸で多少背中が上下しても良さそうなものだが身動ぎ一つしない。穏やかな霊圧を感じる事がなければあわや死んだかと思うかもしれない。
はあ、と呆れながら雨竜は一つ溜息を吐き出し、淡い笑みを浮かべた。
「……おやすみ」
雨竜は踵を返すと、静かに竜弦の部屋から出て行った。
そして雨竜が出て行った後。枕に顔を突っ伏していた竜弦がのろのろと顔を上げた。
「……夢か……?」
29 2018.12