その人をカルデアで初めて見た時、美遊は言葉を失った。
華やかな容貌と美しい蒼を身にまとったその人は、確かに美遊に「エーデルフェルト」の姓をくれた人とよく似ていた。
擬似サーヴァント、という在り方は聞いている。
本来であれば召喚不可能な神霊や召喚困難な英霊が、人間を依代にサーヴァントとして現界するグランドオーダー時の特例。
ならばきっとあの人も、依代として何らかの神性に選ばれたのだろう。
そう頭では理解していても、駆け寄りたいと思ってしまっても、足は動かなかった。
その人はマスターにカルデアを案内されているようで、廊下の向こう側から歩いて来る。
何か。何かのアクションを起こさなくては。そう思えど、何を言うべきなのかが分からない。確かに肉体はあの人なのだろう、それでもきっと、多くの擬似サーヴァントがそうであるように、主人格はどこかの神様な筈で、自分の事など歯牙にもかけない存在であってもおかしくはなくて、そう思うと足が竦んで、
「……あら?貴女……」
「っ!」
あの人にそっくりなサーヴァントが、こちらに向かって歩いて来た。このまま立ち竦んでいてはいけない、と、ぐっと胸の前で手を握る。
「ふふ、そう緊張なさらなくてもよろしくてよ、貴女はどちらの英霊なのかしら?」
優美なその笑みは、やはり自分のよく知るあの人にそっくりだった。
美遊は意を決して、口を開く。
「……私の名前は、美遊・エーデルフェルトです。サーヴァント、ですけど。英霊ではありません。様々な奇跡と偶然が重なって、このカルデアにサーヴァントとして召喚されました」
「エーデルフェルト……」
目を見開いて、姓を呟いた後にその人は笑った。
「ああ、成程。あなたは、私の身体の縁者なのですね。万華鏡のように重なり煌めくどこかの時空で、この少女と貴女はとても奇跡的な出会いをしたのでしょう」
「……はい。奇跡、だったと思います」
私の初めての友達になってくれたのはイリヤだけど。居場所とやるべき事を与えてくれたのは、あの人なのだ。
「ふふ。ええ、きっとそうなのでしょう。……ああ、申し訳ありませんわね。私としたことが、名乗るのを忘れていましたわ」
その人はスカートをつまむと、優雅に一礼した。
「我が名は、女神アストライア。レディ・ジャスティス、正義を司る女神ですの」
「……よろしくお願いします、女神アストライア」
女神アストライア。
その姿はおとめ座に、その秤はてんびん座として存在を知られる、古代ギリシアの女神。あの人にぴったりだ。
「今度お茶でもしましょう、ミユ。貴女の入れる紅茶は悪くない……そんな気がしますのよ」
「はい。是非、ご一緒させてください」
女神アストライアは、優雅に華麗にスカートを翻すと美遊の前から去っていった。その後を慌ててマスターが追い掛けている。
女神様になっても、あの人らしさは損なわれること無く一層輝きを増しているように見える。であればあの人のように我儘で勝気な所もあるだろうし、他のサーヴァントの方達とトラブルにならないかどうかは少し心配だ。例えばイシュタルさんとか、イシュタルさんとか、イシュタルさんとか。
「……イリヤとクロに報告しなくちゃ」
二人ともすぐ知る事になるだろうけど、美遊は足早に二人を探し始めた。
いつもより頬が緩んでいることをクロにからかわれ、イリヤに微笑ましい目で見られるのは、それから数分後の事になる。
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プリヤでのルヴィアさんと美遊の義姉妹関係が大好きなのと、ルヴィアさんの隠れファンなのでアストライア実装でリアルにガッツポーズしました。ありがとう事件簿コラボ。
今後のイベントでちょっとでも美遊とアストライアが絡んでくれたら泣いて喜ぶと思います。