「……おい貴史、いい加減に起きろ」
冬沢はベッドの前に立って、膨れた掛布団を上から軽くポンポンと叩く。掛布団はもそ……と動き「ううん」と呻き声を上げる。だがその掛布団の中にいる千秋が出てくる気配はない。
一時間前に目を覚ましていた冬沢は、呆れながら時計を見る。朝八時を少し過ぎたところだ。この時間までこの男が起きて来ないと言うのは珍しい。
今日は自分が朝食当番だったので、腕によりをかけた──それでも今布団にくるまっている男に料理の腕は劣るのが悔しいのだが──朝食を用意しているというのに何故起きてこないのか。
名前を呼んでも揺すっても、千秋が起きてくる気配はなく。
仕方がない、寒い朝ではあるが。と冬沢は一つ溜息をついてから、勢いよく掛け布団を引っ剥がした。
「……最終通告だ。起きろ、貴史」
「ッッッッ!」
地を這うような冬沢の声に、千秋は閉じていたはずの目を見開く。そして勢い良く跳ね起きた。
「っ……!亮、」
「おはよう、貴史」
にこり、と微笑んでやると、千秋は今にも冷や汗を掻きそうな顔をして「お、おはよう」と声を引き攣らせた。
「驚いたよ、俺がいくら呼んでも起きないだなんて」
縮こまる千秋の姿に言いようのない愉悦が込み上げるのを覚えながら、冬沢は笑みを深める。
「俺はお前が朝食を作ってくれる時はすぐに起きる事を心掛けているのに、お前の方はどういうつもりなんだろうな?」
「わ、悪い……」
「聞くだけ聞いてやろうか、何故起きなかった?」
千秋が気まずそうに目を逸らす。子供か。
「……寒かったから……」
「布団の中と俺の作った朝食、どっちが大事なんだ?」
「亮の作った朝飯!」
「よろしい。さっさと着替えたら来い」
踵を返すと、後ろからバタバタと千秋が支度をする音が聞こえる。
今日も俺には逆らえないようで何より。
そんな事を思ってまたくすりと笑い。少しだけ弾んだ足取りで、冬沢はまたキッチンへと向かうのだった。
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貴史を尻に敷き続ける亮ちんが好きだなあと思いました。