【ちあふゆ】触れ合う季節・その向こう側

「さっむ……」
 駐車場から劇団の稽古場に向かうまでの道すがら、千秋はマフラーに首をうずめながら小さく呟いた。マスクをしているから幾分ましとは言え、肌を刺すような寒気を感じなくなるわけではない。むしろマフラーやコートを容赦なくすり抜けては肌をちくちくと刺してくる。
 落ち葉が風に吹かれてくるくると路面を舞う。ほんの少し前までニュースやワイドショーでは紅葉の名所を紹介して盛り上がっていたというのにここ数日で一気に冷え込んだ首都圏は、すっかり冬の様相を呈し始めていた。
(そろそろ二人一緒に飯を食える日は鍋でも作るか……)
 豆乳キムチ鍋ならあいつも食えるかな。そんなことを考えながら、千秋は今日も稽古場に向かう。

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