1_マカロンの話

「オーナー、本日のおやつでございマス」
 お手伝いロボットが色とりどりのマカロンがたっぷり盛られた白い陶磁の皿とティーポットとカップの乗ったトレーを持って部屋に入る。ソファに深く腰掛けてどこか退屈そうに本を読んでいたオーナーは顔を上げると、まずロボットの持つ皿を、マカロンを見る。そして首を傾げた。
「どこの?」
「パリから取り寄せたものになりマス」
「へえ」
 ロボットがテーブルにマカロンの皿を置くと、オーナーは本を脇に置いてマカロンに手を伸ばした。白い指でパステルピンク色のマカロンに手を伸ばし、一口に頬張る。もぐもぐと咀嚼して喉を上下させると、その目尻は蕩けて頬が一気に緩んだ。頬に手を当てながら幸せいっぱいに呟く。
「んん〜♪ おいしい♪」
 ティーセットの用意をするロボットは、オーナーの笑顔を見て僅かに頬を綻ばせた。
「紅茶はインドの物を用意しマシタ」
「ふふ、いい香りだ。やっぱりマカロンには可愛いカップに入れた紅茶でなくてはね」
 アンティークのカップに紅茶が注がれるのを見て、オーナーは肩を揺らして笑った。それからまた新しいマカロンに手を伸ばす。そのマゼンタのマカロンをしばらく眺めた後、それをロボットに翳しながら呟いた。
「お前も食べられたらいいのにね」
「いいえ、私はオーナーの幸せな顔を見るだけで幸せデス」
「そうか、なら私がお前の分も沢山食べないとね?」
 オーナーは首を傾げながら微笑むと、ロボットと同じ瞳の色をしたマカロンを頬張った。

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