『駅まで傘を持って来い』
メッセージアプリに届いたそのたった一言に、駅まで来れたんならビニール傘でも買え、と返すことが出来れば良かったのだ。それが出来ないから早春の雨の中を傘を差してもう片方の手に閉じた傘を持って駅に向かっている。
土曜日の午前だけの授業を終えて帰宅する生徒達と同じ方向を、鞄を持たずに、挨拶には片手を上げて返しながら少し早足で歩く。
湿った生温い空気を掻き分けるようにして学園側の改札まで来ると、屋根の下に溜まっている人混みの中でも一際目立つ燕尾の立ち姿が目に飛び込んできた。
文句の一つでも言ってやろうと、つかつかと歩みを早めると、こちらがまだ傘を差している段階でターコイズの目がこちらを捉えた。
こちらから向かっていたはずなのに気付かれてしまった、とどこか矛盾した思いを抱くと同時に、屋根の下にいるそいつはどこか勝ち誇ったように唇の端を上げた。
……やっぱ嫌いだわ、お前のこと。