【ちあふゆ】ウマのパロ

※ウマ娘パロ
※どうか深いことは考えないでください
※2ページ目に架空の冬沢亮育成シナリオがある

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 私立綾薙トレセン学園、朝礼が始まる一時間前の教室。
 生徒の多くは早朝のトレーニングに励むか、あるいは登校していない時間だ。そんな静まり返った冬の教室で、冬沢亮はただ一人席に座り本を読んでいた。
 その静寂を、教室のドアを開ける音が破る。構うことなくずかずかと入って来たのは、ジャージ姿の千秋貴史であった。先までトレーニングをしていたのであろう。
「どういうつもりだ」
「……」
 千秋によってバサリと音を立てて机の上に投げ出されたのは、何社かのスポーツ紙。そこに踊る見出しを横目でちらりと見た冬沢は、すぐに手元の本に視線を戻した。
 『冬沢亮、日経賞への出走を表明』『シニア級最強マイラー候補、長距離路線へ転向か?』……それらの見出しを見ても顔色一つ変えない冬沢に、千秋は苛立ちを隠そうともしない。
「お前が得意なのはマイルだろ。これまで入着した距離も長くてせいぜい秋華賞の2000。なのになんで日経賞に出るだなんて言い出した?」
「俺がどのような出走スケジュールを組もうとお前には関係のないことだ」
「なっ……」
 取り付く島もない冬沢に、千秋は言葉を失う。だがすぐに「ああそうかよ」と吐き捨てるように呟いた。冬沢はそんな千秋をちらりと見ると机に本を置いて立ち上がり、その耳元に唇を寄せた。
「……一つ教えてやる。俺はこのシニア級の一年を、有マ記念を目指すために使っている」
「っ……!?」
 千秋の目が大きく見開かれる。
 有マ記念。年末に開催される最も大きなレースだ。その年に活躍した──他のG1レースで優秀な成績を残した──者、あるいはファン投票で選ばれた者のみが出走権を与えられるレースであり、出ようと思って出られるようなレースではない。
 しかしそれは裏を返せば、実績とファン投票を集めれば、有マ記念のコースが脚質に適していなかろうとも出走は可能ということだ。
 同時に、出走権を得たとしても実際に出走するかどうかは別の話だ。有マの距離は芝2500、長距離である。マイルと長距離では要求される技術も走法も異なる。短距離・マイルを主戦場とした者が 無理に走れば大きな負担となることから、出走権を得た者が出走を見送るのは決して珍しいことではない。
 そこで千秋はようやく気付いた。日経賞、芝2500。それはまさしく、有馬記念と同じコース・同じ距離ではないか……
「っ……本気ってことかよ」
「当たり前だろう」
 冬沢がくすりと笑うと、千秋は拳を握りしめた。
「なんで……なんでお前はそうやって……!」
「……なんで、ね」
 冬沢は千秋から顔を離すと、小さく呟いた。
「『オレの行く先に立ちはだかろうとするのか』、って? ああそうだな、お前からしたら俺はさぞかし大した壁に見えているんだろう」
 氷とも炎とも形容し得る目で千秋を睨み付ける。千秋がたじろぎ言葉を失った瞬間に冬沢は机の上に投げ出された新聞を鷲掴みする。そして大きく振りかぶり、音を立てて千秋の胸に投げ付けた。新聞紙のにおいと共に巨大な新聞紙がばさばさと千秋の足元に落ちていく。
「……そうやって一生分からない振りをしてろ」
 千秋ただ一人に向けて、底冷えのする声を残し。
 冬沢は踵を返して教室から立ち去る。後に残された千秋はただ呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
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