「これは夢だ」
夏だというのに奇妙に涼しい夜の森。
仄甘い空気に満ちた夜の森。
夜露に濡れた芝生をベッドにして音もなく舞う蛍の光を纏いながら、お前は立ち尽くすオレを見ながらそう言って笑う。
「シェイクスピアじゃあるまいし、夜の森に二人きりなんてことがあるか? だからこれは夢なんだ」
シェイクスピアなら四人と妖精だろ。
言い返すと、お前は少しむくれたような顔をした。
「お前は本当に俺の揚げ足を取るのが好きだな」
まあいい、とお前は体を起こすと、立て膝の上に顎を乗せてオレを見上げた。
「どちらにしろ、俺達はこの夜の森の中に二人きり。そしてこれは夢。朝のひばりが鳴けば覚めてしまう、無かったことになる夏の夜の夢。さて、お前はどうしたい?」
「は……」
突然の問い掛けに息が詰まる。
お前はくすくすと笑い、片腕を広げて見せた。
「お前は俺に何をしたっていい。俺もお前に何をしたっていい、夢なのだから」
蛍に囲まれながら笑うお前は、この森に住む妖精の王のようで。
妖精なんかより、よっぽど悪魔のようだった。
分かっていてもその誘惑に抗う気すら起きず、膝を突く。手を伸ばすと、お前はオレの手に指を伸ばして指を絡めてきた。
ぐい、と手を引かれると、空気が揺れて立ち上る芳香に目がくらみ、オレはなすがままに引き倒される。
気付けばオレと地面の間には、わざとらしく無防備に横たわっているお前がいた。
「さて、どうする?」
返答代わりに、お前のその白い首筋に噛り付く。
そう、だってこれは夢なのだから。