【ぐだオベ】だってこれは、

※現パロ、双方大学生成人済み、付き合ってない
※オベロンが喫煙者設定
※オベロンが3臨ベースなので2部6章未クリアの方は注意

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「今日は勝った?」
「クソだった」
 駅前繁華街の冷房がよく効いたファミレスのテーブル席に大学の友人同士である男二人、ドリンクバーとフライドポテト、ビール一瓶だけで一時間以上居座りスマホを眺めながら取り留めのない話をする。
「この前は換金出来るくらい勝ってたのにね」
「うるさい、どうせ暇潰しだ」
 藤丸のからかいにオベロンは昼間からビールをあおる。パチンコで負けたやけ酒のように見えるが、オベロン自身はパチンコの勝ち負けとか割とどうでもいいのだということを、藤丸は知っていた。
 勝ったら勝ったで適当に生活費の足しにするか、景品のお菓子をアルトリア(オベロンの近所に住んでいるという小さな女の子)にあげるか。
 趣味とは言ってるけどそれは嘘なのだろうと思うが、実際のところどうなのかは藤丸は特に興味がない。
 ただ、オベロンが打ち終わった後に暇だからと呼び出されてどこかの店に入って適当にニ、三時間駄弁るのは好きだった。どうせ今は夏休み、バイトのない時は基本的に暇なのだ。
「オベロンさあ、来週暇? 再来週でもいいけど」
「暇って言ったらどうするわけ? 俺もそんなに暇じゃないんだけど」
「どうせ暇だろ、どっか遊びに行こうよ」
「どこに」
「えー……っと」
 適当に言い出したので、具体的に何も考えていなかった。藤丸はしばし頭を巡らせ、
「なんか洞窟とか……あんまり観光地化されてない山とか……?」
「なんだその選択肢」
「オベロン海とか普通の観光地は嫌いでしょ、人多いし」
「ああ、嫌いだね……いやだからってその選択肢になるか? 普通」
 オベロンは別段面白くもなさそうに笑っている。
 だが誘えば意外と断られないのを藤丸は知っているので、手元のスマホで候補地を探すことにする。
「あ、ちょっと遠いけどこことかどう? 爆発するらしいよ」
「何が?」
 その後しばらく、テーブルに藤丸のスマホを置いて二人でやいのやいのと遊びに行く先の候補を選んで行く。
 しかしよく考えれば今は夏休みなわけで、どこに行っても人が多いことが予想される。
 オベロンの人間嫌いは筋金入りだ、やっぱり夏休み終わってから誘った方が良かったかなぁと藤丸が思い始めた時。オベロンが自分のスマホをテーブルの上に起き、コツコツとその画面を指先で叩いた。
「?」
 藤丸はオベロンの手元を覗き込む。
 そこに表示されていたのは……

「だからって付き合ってもない男二人でラブホ来る? 普通」
「非日常、お出掛け、空間内に人もいない。きみと俺の希望がしっかり嚙み合ってるじゃないか」
 オレと二人でラブホ入るのは別にいいんだ……などと言おうものなら蹴っ飛ばされるのは目に見えているので、藤丸は黙ってラブホテルの駐車場に車(レンタカー)を滑り込ませた。
 夏休みの遊び先にオベロンが提案したのはなんとこのラブホテルだった。
 ここはリゾート系内装とサービスで有名なラブホテルで、郊外の広い敷地を生かしてバーやダーツ、スパといったリゾートホテルのような豊富なサービスが持ち味……らしい(公式ホームページ調べ)。藤丸は生まれてこの方ラブホテルなるものを自分で利用したことが無いので他の何とも比較しようがない。
 このラブホテルは普通のホテルとしての営業もしているらしく、予約ページには一人客専用プランも表示されており、男二人でもすんなり予約が取れてしまった。それでも休憩用プランがある辺りちゃんとラブホなんだろうなあ、と思う(漫画とかの知識でのみラブホを知っていた)藤丸であった。
「……まさか若葉マーク外れてすぐにラブホの駐車場に入ることになるとは思わなかったけどね」
 助手席で乾いた大爆笑を始めたオベロンに気が散らされないよう集中しながら車を停める。どこにも擦れず無事駐車出来て一安心。
「ほら着いたから! 荷物持って」
「いやー笑えるー。きみほんと笑いのセンスあるわー」
「原因はそっちなんですが……?」
 車から降りて、荷物を手に連れだって建物内へ入って行く。
 ロビーに足を踏み入れると、観葉植物や鮮やかな花がそこかしこに飾られた東南アジアのリゾートホテルもかくやの内装が目に飛び込んできた。おまけにどこか芳しい香りも漂っている。圧倒されて思わず立ち止まる藤丸だが、オベロンは全く気にせずすたすたとフロントの方へ歩いて行く。
 オベロンはさっさと受付を済ませてキーを受け取ると、数歩遅れて来た藤丸を先導して部屋に向かって行く。
 慣れているのか、それとも初めてだが堂々としているだけか。なんだか釈然としないが、藤丸は黙ってオベロンについて行った。
 どこまでもリゾートホテルのような内装の館内を歩き、滞在先の部屋の扉前に到着する。オベロンは特に勿体ぶることもなく、扉を開けた。
 まず目に飛び込んできたのは、どこか異国情緒漂う短い廊下とそれをさえぎるようなドア。廊下の脇には洗面台とバスルームに続く扉がある。
「あ、入ってすぐベッドのある部屋じゃないんだ」
「元々はヤることヤるためのホテルだしな」
「うーん身も蓋もない」
 廊下の先のドアを開ければ、テレビで見たことのあるリゾートホテルのような内装と天蓋付きのダブルベッドが目に飛び込んで来る。藤丸は思わず声を上げた。
「おおー……すげえ」
「ホームページに載ってたろ」
 オベロンはと言えばテンションは特に変わらず、パチンと部屋の電気を付ける。
 オレンジ色の明かりに照らされた室内は藤丸の目にはいっそう豪華に映った。
「それはそうだけど……わ! 天蓋付きのベッドだよオベロン!」
「わー、入院病棟のベッドのカーテンみたーい」
「何でそんなこと言う!?」
 藤丸が荷物を置いて助走を付けて勢いよくベッドの上に腹からダイブすると、オベロンもベッドの上に腰を下ろした。
「はあ……たかがラブホのベッドでよくそんなにはしゃげるな」
「こんなでかいベッド人生で縁がないんだよ!」
「ふーん」
 俯せになったままオベロンを見上げると、心底退屈そうな目をしているのに口元が緩んでいる。
 退屈そうなのはいつものことなので、藤丸は体を起こして荷物の中身を引っ張り出すことにした。
 大量の菓子の袋にトランプやらUNOやら携帯ボードゲーム盤やらがベッドの上にばら撒かれていく。
「いやー、予想以上に遊ぶ気満々で笑えるわ」
「そういうことしようって最初に言ってきたのもそっちなんだよなあ」
 心行くまで時間を無駄遣いするかの如く遊び倒す……このホテルを行き先として提示してきた時、オベロンが提案したのはそれだけだった。それだけなら別にレンタルルームとかでも良かったのでは、と思わなくもないが。
 プランは休憩・フリータイム、上限六時間だ。そっちがその気なら遊び倒してやる、と藤丸は密かに意気込んでいた。
「あ、灰皿あるよ」
 サイドボードに灰皿を見付けたのでオベロンに見せると、オベロンはしっしっと手を振った。
「今日は吸う気分じゃない」
「え、六時間もニコチン無しで耐えられる……?」
「別に吸わない日くらいある」
「ええー、本当にござるかー?」
 疑わしい、とオベロンを見る藤丸。何しろこのオベロンという男、大学で会う時はいつも喫煙所か学食にいるし、ファミレスでぐだぐだしている時だってさっきまでパチンコを打ちながら吸っていたのであろう煙草の箱がポケットから見えているのだ。
 彼がヘビースモーカーであることは疑う余地がないのだが、まあ本人がいいと言うなら、と藤丸は灰皿を元の場所に戻した。
「まず何して遊ぶ?」
「好きにしなよ」
 オベロンは藤丸が持って来たポップコーンの袋をバリバリと開け始めた。
 藤丸が麦チョコの袋を開けつつ
「じゃあ七並べ」
 と言うと、オベロンは「いやほんっと変なセンスだよねきみ」とニヤニヤ笑い始める。
 かくして男二人は遊び始めた。
 七並べにスピードに戦争にと思いつく限りのトランプゲームをルールが曖昧なままにやり、菓子を肴にジュースを飲み、知育菓子を作り、ボードゲームを大騒ぎしながらやり……そういう、自由を手に入れた小学生のような遊びをひたすらにした。酒は飲まない、車で来たので。
 そうして、

「まだ四時間か……」

 ぶっ続けで遊び、その間何が面白いのか自分でもよく分からないままに笑い続けていた二人は、疲労困憊でベッドの上に並んで横になっていた。
 男二人が横になってもなおまだベッドの上に残されている僅かなスペースには空になった菓子の袋とトランプのカードが散らばっており、いかにこの二人が遊び倒していたのかを語っていた。
「四時間で意外と遊べるね……」
「よく考えたら何が面白いんだろうな、あの練るだけのやつ」
「え、面白くない? 今度アルトリアにもやってあげようよ、受けると思うよ」
「正気かよ、アルトリアに変なもん見せるな……」
 それきり、オベロンは何も言わなくなった。藤丸が体を起こしてその顔を覗き込むと、瞼は閉じられ僅かに開かれた唇からはすうすうと小さな息が漏れている。
(寝た……)
 疲れたしオレもアラームかけて寝ようかな、と思いながらも藤丸はオベロンの寝顔を眺めるのをやめられない。綺麗な寝顔だな、と、本人に言ったら脛を蹴られそうな感想を抱く。
 そう、顔はいいのだこの男。大学の喫煙所でいつも煙草を吸っていても、パチンコで暇を潰し昼から酒を飲んでいても、いつもつまらなそうで嘘つきで口を開けば暴言の嵐であろうと、どこか王子様然としたルックスは変わらない。眠っている場所が散らかし放題のホテルのベッドの上だろうと、その寝顔はとても絵になる。
 その綺麗な顔を見ているとふと、ベッドの上が散らかりっぱなしなのも何だか悪いような気がしてくる。オベロンは全く気にしないであろうが。
 寝る前にちょっとだけ片付けておくか、と静かにベッドから降りる。
 ほとんど綺麗に食べ尽くされた菓子の袋をビニールに一纏めにしてゴミ箱に捨て、散らばったトランプのカードを回収していく。隙間に落ちてたらどうしよう、と思っていたが運良く全て集め切ることが出来た。
 多少綺麗になった(ただしシーツはぐちゃぐちゃである)ベッドの上で起きる気配のないオベロンを見て満足した藤丸は、自分もベッドで横になる前になんとなく天蓋のカーテンを閉じてみる。すると部屋の灯りが薄い布に遮られ、ベッドの周りが仄暗くなった。オレンジ色の照明の明度が落ちたことで赤い光が強調されているのか、少し部屋の温度が上がったような心地がする。
 おまけに天蓋のカーテンが部屋を全て見えなくしてくれているお陰でベッドが隔絶された空間となって、「狭い空間に二人きりである」という事実が急に実感として襲い掛かってくる。
(あ、これはドキドキするかも)
 なるほどラブホの天蓋ベッドにはこんな効果が……と一人で納得する藤丸だったが、同伴者が爆睡しているのでこの知見を共有することも出来ず。
 そもそも胸が高鳴り始めた理由だって、照明と天蓋の効果とかそんなものだけじゃなくて。
 藤丸はそっとベッドによじ登ると、空いたスペースに横になる。天井を見つめたまま、小さな声で呟く。
「……オベロンさあ、俺がオベロンのこと好きだってとっくに知ってるのにラブホに誘うのほんとどうかと思うよ」
(何でそんなことしたのかなんて、きっと教えてくれないんだろうけど)
 仮にこの呟きが聞こえていたとしても、オベロンはきっと聞こえていなかった振りをする。
 一度だけの告白すら聞かなかったことにされているのだ、それぐらい分かる。
 そう、珍しく二人で酒を飲んでいた時、藤丸は酔いが回って言ってしまったのだ。
 なんでこんな素行不良を絵に描いたような存在であるオベロンに付き合っているかってそりゃ、好きだからだと。
 それを聞いたオベロンは、表情一つ変えず水のグラスを差し出しながらこう言った。
『聞かなかったことにしてやるから、そういうことはお互い素面の時に言え』
 そのまま、聞かなかったことにされた。
(第一あの時オベロン全く酔ってなかったじゃないか、このザル)
 上手を取られているのとは違う、多分逃げられているのだ。そのくせこういうことをしてくる。
(まあそっちがその気なら別にいいけどさ)
 少し不貞腐れながら、藤丸はスマホのアラームをセットする。機会なら今後いくらでもあるのだ、押して引いて、多少偶然を装ってでもアタックを仕掛けてやればいい。
 どうせオベロンには藤丸の本意などすべてお見通しなのだから。
「オレにだってオレのやり方があるんだし、まあやれるだけのことはやるからさ。オベロンにもあんまり油断して欲しくないなあ……まあ、難しいかもだけどさ。いや、意外と簡単だったりするのかな」
 そうして、ふと目を細める。
 遠くを見ながら、最後にこう呟いて藤丸は目を閉じた。

「だって、全部夢なんでしょ? これ」

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