【ちあふゆ】千秋がベーコンを焼く話

※卒業後の話。
※付き合ってはいないが千秋が冬沢の家にご飯作りに行ったりはしているいつもの感じのやつ。

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 ふと、猛烈にベーコンを食べたいという欲が湧き上がって来た。
 ので、フライパンを出してベーコンを焼くことにした。
 油を敷かずにフライパンにベーコンを並べ、弱火で少しずつ火を通していく。ふつふつと、やがてじゅわじゅわと音を立てて身を縮ませながら焼けていくベーコン。引っ繰り返すとふわりとベーコンの匂いが立ち上る。塩気のある肉が焼けていく香ばしい匂いだけで米を食えそうだ。
 肉が食えないという幼馴染の家に定期的に飯を作りに行ってはいるが、こちらは実家暮らしの身であるので肉類はこうして食べたい時にいつでも食べることが出来る。なので自宅にいる時は一人でも食べたくなったら食べることにしている。やたらと肉の代用食品に詳しくなったりはするが。
 それでも本物の肉の味を知っている身からすると大豆の加工品などはどうにも物足りなく感じるもので、それを当人に向かって言ってみると「俺はお前のせいで肉を食べられなくなったんだが?」と言わんばかりの目をされた。
 俺のせいとか言われても、なあ。俺だってお前のせいで餅食えなくなったし。割とお互い様な気がするんだが。いや、餅と肉じゃ食べられなくなった時の影響のでかさがだいぶ違う気はするが……。
 あいつのことを考えているうちにベーコンの端が焦げ付き始めたのでフライパンから引き上げる。キッチンペーパーで軽く油を拭いてから、家にいるのは自分一人だしまあいいかとそのまま口に運んで噛み締めると、まあ、期待通りの、程よい塩みと肉のうまみと油が口いっぱいに広がった。しかし熱い。すげえ熱い。口の中がめちゃめちゃ熱いので(少々行儀は悪いが)はふはふと口の中に空気を取り込みながら一枚丸ごとなんとか食べ切る。
 確かな満足感を覚えつつそのままフライパンの片付けを始めるが、どうにも一度あいつのことを考え始めてしまったのが止まらない。そう、代用肉であればあいつは別に喜んで食べるのだ。肉の風味にかなり近いものであってもそれの原料が植物性たんぱく質であれば。
 それにまあ、その食べている時の顔を見ていると悪い気がしないから飯を作りに行っているのも、なくはないわけで。
 ……今度何か、ベーコンの代用になるものでも探してみるか……

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