水着の話
おろしたての服がどこか皺になっていないか気にしながら、姿見の前でくるりと一回転。
実用性とデザインのバランスを取りながらなんとか見繕ってみたセーラースタイルは、鏡越しに見ているだけで不思議とテンションが上がって来る。
うん、やっぱり靴は赤にして良かった。ヘアスタイルだって思い切って三つ編みにして正解。
これを着て人前に出るのは少し恥ずかしいけれど……これが、水着霊基異の私だ。水着霊基とは何なのかは未だによく分からないが。
「よし……よし、頑張ろう」
拳を握って、気合を入れる。思い切って部屋を出れば、もうそこは夏の北極圏。私が運営を任されたテーマパーク。
「やあ、エリセ」
「っ……ボイジャー」
出迎えてくれたボイジャーのいつもと変わらぬ穏やかな笑みに、思わず頬が熱くなる。まさかいきなり出くわすだなんて。
「じゅんびは、できたのかい」
「……うん。出来たよ」
「それじゃあ、いくよ。ぼくも、一緒に」
「……ありがとう。ちゃんと付いてきてね」
ボイジャーが差し出した小さな手をしっかり握って、走り出す。
私が《秋葉原》にいた時のようにボイジャーに手を引かれるのではなく、私がボイジャーの手を引いて。
ああ、夏って、水着って、こんなに気分が高揚するものなんだ。
友人が海と水着ではしゃいでいた理由を、ようやく実感出来た。あいつが聞いたら、理解が遅いって怒られそうだけれど。