夏のカレンちゃんと夏のエリセちゃん
「あら、よく似合っていますね」
素直な賛辞として送ったその言葉に、目の前の少女は顔を真っ赤にしてあたふたしている。面白い。これはもっと褒めちぎって困らせてあげたくなる。
カルデアに召喚されてから出会った──しかし向こうは自分を知っているらしい──この宇津見エリセという少女は、とにかく褒められ慣れていない。甘やかされるのにも慣れていない。可愛がられるなど以ての外。なのでこうして適度に可愛がるとそれはそれはとても良い反応を返してくれるのだ。
カレンは自分より少しばかり背の高い年下の少女の手を取る。更にあたふたするエリセを密かに堪能しつつ、その指先を見て「あら」と首を傾げた。
「随分お洒落しているのでネイルカラーもしているものかと思いましたが」
「ま、まあ……あまり爪は伸ばしたくないので」
「清少納言さんや鈴鹿御前さんに依頼してみては? 短くても可愛らしく、あなたに似合うように仕上げてくださると思いますよ」
「だ、大丈夫ですっ!」
本気で遠慮しているようだが、可愛がり甲斐がある。
「もう少し褒められ慣れした方が良いですよ、エリセさん。あなたはこれからこのテーマパークの美少女経営者なのですからね」
「は、はい……!」
これはからかいと本気のアドバイスが半々。賛辞を素直に賛辞として受け取る能力もこの少女には必要である。
「それとあなたはもう少しボキャブラリーを増やしましょう、海を舞台としたテーマパークで日本語以外に喋れるのが『ポルカ・ミゼーリア』だけというのはあまりにもお粗末ですから」
「は、はいぃっ……それは、頑張ってます……!」
しかしこれで素直に縮こまるのだからやはりからかい甲斐がある。
「ところで先せ……カレンさんっ」
「なんでしょうか?」
彼女が毎回自分を「先生」と呼んでしまう度、彼女が慕う誰かに思いを馳せてしまう。
「フードコートで出す料理の試作が出来たので、いかがでしょうか。激辛パフェです」
「素晴らしいですね、いただきましょう」
エリセに連れられてフードコートに向かいながら、開園前のテーマパークを眺める。海や航海者達をテーマとしたアトラクション、今向かっている激辛メニューが並ぶフードコート。幼い子供が好きなものを沢山詰め込んで考えたかのような小さな遊園地。
私の知らない誰かはこの景色を見て何を思うのだろう、とカレンは考える。
エリセは、出会ったばかりの頃と比べれば随分色々な表情を見せるようになった。たかだか十四歳の子供にはあまりに重いものを彼女が抱えていることを考えれば、喜ばしい変化なのだろう。
こんな彼女を、私が知らない誰かは私以上に見たかったのではないか……考えても詮無きことだが。
「エリセさん」
「なんですか?」
名前を呼ぶと、エリセが振り向く。小さな三つ編みがぴょんと揺れた。
そのあまりにあどけない表情に、思わず笑ってしまう。
「いえ……いい顔をするようになりましたね」
「ふぇっ、な、なんですか?!」