ハロウィン竜弦が吸血鬼だったらのIF

※ハロウィンソサエティ設定+独自設定
※CPではないが距離が近い

 父の血なら飲める。
 その思い付きは、突如天啓として石田雨竜に降り注いだ。
 滅却師であり吸血鬼、だが信念の都合により吸血出来ない。雨竜はそんな難儀な業をかかえている。
 牛乳を飲んではいるものの日頃から貧血に悩まされており、いい加減吸血をしろと友人のとあるフランケンシュタインの怪物に言われてしまう。
 己の全力を振るえないということは屈辱ではあるものの、死神の色である赤い血を飲むのもそれはそれで屈辱。
 だが同じ滅却師である父の血なら飲めるのではないか。飲める気がする。
 そんなわけで、雨竜は手っ取り早く父・竜弦(職業:モンスターハンター)の寝込みを襲うことにした。

 そうして、あっさり返り討ちにされた。

「馬鹿なのか、お前は」
「っ……」
 ついさっきまで眠っていたはずの竜弦は恐ろしく機敏に雨竜の襲撃に対応し、その細い手首を掴んでいとも簡単にベッドに押し倒した。
 雨竜を見下ろす竜弦の色素の薄い瞳が、開け放たれた窓から差す月光を反射して鈍く光る。雨竜は竜弦を睨みながら抵抗しようとするが、どういうわけか体に力が入らず、拘束されていない足を動かすことすらままならない。
「なっ、これ……」
「催眠術の応用だ」
 掛けられてから気付くか、と竜弦は溜息を吐き出した。
「吸血鬼だというのに血も飲まず、馬鹿な拘りを持つからそうなる」
 吸血鬼の基本能力の一つである催眠術。それを父が使いこなしていることに、雨竜は戦慄する。
「あんたまさか、吸血鬼の力を……!」
「なんだ、吸血鬼の父親が吸血鬼で何かおかしいことがあるか?」
 竜弦は雨竜の顎に指を滑らせる。手首の拘束が解けてもなお、雨竜の手はベッドに投げ出されたままだ。
「さて、吸血鬼としてハンターを襲ったのだから、相応の報いを受ける覚悟はできているのだろうな」
 竜弦の瞳が光る。なす術もなく雨竜はその光を直視してしまい、ぷつりと意識の糸を途切れさせてしまった。
 瞼を閉じて力なく眠る雨竜の顔を竜弦はしばし眺めたのち、ベッドから下りるとサイドボードの引き出しから小さなナイフを取り出す。
「……『起きろ』」
 支配者としての竜弦の声に雨竜はゆっくりと瞼を上げ、そしてどこかぎこちなく上体を起こすと体の正面を竜弦に向けた。その瞳に光はなく、その心身が完全に竜弦の支配下に置かれていることを示していた。
 ちょっとした催眠のつもりがここまで強く効くとは、と嘆息したい気持ちを抑えながら竜弦はシャツの左袖を捲くりあげる。そして右手にナイフを持つと、躊躇いなく自身の左下腕にナイフの刃を滑らせた。
 赤い一直線の軌道に赤い雫が膨らむ。竜弦は左腕を雨竜の顔の前に差し出し、淡々と命じる。
「『我が血を啜れ』」
 雨竜は小さく口を開くと竜弦の白い腕に唇を寄せ、竜弦の傷口にゆっくりと舌を這わせ始めた。
 素直に言ってくれば催眠を使うこともなくこうしたものを……そんな竜弦の思いも知らず、雨竜はいずれ自身の力の源となる血を舐めている。肉親かつ真祖の血を濃く受け継ぐ竜弦の血は雨竜の力により強く働きかけるだろう。自分が何をされたのか、本人が気付くのは少し後になるが。
 雨竜の前では冷たい目を見せていた竜弦であったが、大人しく竜弦の血を舐めている雨竜の姿を見ながら目を細める。
「全く、手の掛かる……」
 呆れながらもどこか愉しそうに呟きながら、血を舐める雨竜の黒い髪を梳くように撫でる。その髪は、竜弦の亡き妻──雨竜の母親であった人間によく似ていた。
「『今日はここまで』」
 胸に押し寄せる寂寥を振り払って雨竜の耳元で囁くと、雨竜は竜弦の傷口から顔を上げた。
「『そのまま窓から出て、宿から一時間分飛べ。そうすればお前は眠りから覚める』」
 催眠の解除を仕込んでやってから、雨竜を帰らせることにする。雨竜は竜弦の言う通りに立ち上がり、窓枠に手を掛けた。
 催眠の中とは言え血を吸わせてやったのだ、蝙蝠に変化することくらいは出来るだろう……そう思いながら竜弦は窓枠に立つ雨竜を見送ろうとする。
 ふと、窓枠に足を掛けながら雨竜が振り向いた。
 その瞳に変わらず光はない。だが夜空にいつも浮かんでいる白い月の光がその瞳の青を浮かび上がらせた。
『──これが襲った報いだって言うなら、あんたは随分優しいんだな』
「な……」
 雨竜は口を動かしておらず、その表情は催眠を掛けた時と変わることなくひどく静かだ。
(テレパスだと……?)
 そのような能力、雨竜は持っていない筈だ。まさか父の血を取り込んだことで早くも新たな能力を開花させたというのか。何よりも今の雨竜は、まだ催眠の中にいるはず──。
 訝しむ竜弦を他所に、雨竜はふわりと窓の外へ身を踊らせる。竜弦が窓に歩み寄ると、一匹の蝙蝠が月の光の方へと飛び去っていくのが見えた。

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◆◆◆

原作49巻で雨竜が空座総合病院に担ぎ込まれたくだりあるじゃないですか、あの時絶対輸血受けてるけどその血多分竜弦の血だよね?と勝手に思い込んでいるところをいつか出力しようと思い続けた結果これになりました。
吸血鬼とか真祖の設定は月姫や吸死を参考に勝手に盛り盛りしました。