ナイトティンバーから知らない音声が再生される不具合(ヒカリとビクトリー)

「ナイトティンバーが壊れた?」
「ああ。ビクトリーナイトになるには支障無いんだが、どうも調子が悪くてな……メンテナンスをして欲しい」
「いいだろう、見てみよう」
 M78星雲・光の国、宇宙科学技術局。その一室で、ウルトラマンビクトリーがナイトティンバーを手にウルトラマンヒカリと向かい合っていた。
「どのような不具合だ?」
 ビクトリーは静かにナイトティンバーを操作した。するとヒカリの声が朗々と室内に響き渡った。
『奏でろ‼‼‼‼ 勝利のメロディー‼‼‼‼』
「まず再生されるシステム音声がやたら大きい」
「確かに私が設定した時の倍以上は大きい気がするな」
「先日とうとうギンガから苦情が出た。正直うるさいと」
「由々しき事態だな」
 ヒカリは手元の端末に、不具合を記入する。ナイトティンバーの設計を思い出しながら、どの辺りの不具合なのか見当を付ける。
「システム音声のボリュームが大きいというと……音声の再生系統に不具合が出ているのかもしれないな」
「それだけではない」
「まだあるのか」
「ああ」
 近接戦で使うような武器だから丈夫に作ってあるし、そう簡単に不具合が出るような設計にはしていないつもりなのだが……内心でそう首を傾げながら、ビクトリーの言葉に耳を傾ける。
「全く覚えのないボイスが流れる」
「全く覚えのないボイス……?」
「見てもらった方が早い」
 ビクトリーがナイトティンバーのカバーを一回スライドさせた。
『ワン‼‼‼‼』
 続いて、二回。
『ツー‼‼‼‼』
 そして三回。
『スリー‼‼‼‼』
「ここまではいい」
「そうだな、仕様通りだ。しかしうるさいな……」
 別のシステム音声だからと言って音量が下がるわけでは無いらしかった。
「問題はここからだ。先日手元が狂って四回スライドさせてしまったんだが」
「まあそういうこともあるな」
「今までもそういうことはあったんだが……そういう時でも『スリー』までだった」
「そうなるように設計したからな」
「それがだな……」
 ビクトリーは渋い顔になり、ナイトティンバーのカバーを四回スライドさせた。
『こちらの動作はサポートされておりません』
 先までと打って変わって、静かな人工音声が流れた。
 聞き覚えのあるその音声にヒカリはしばし記憶を辿り、やがて思い出してぽんと手を叩いた。
「これは、科学技術局がライブラリに常備している汎用システム音声というやつだな」
 どこかで使うかもしれないと思ってナイトティンバー用音声データの中に入れておいた記憶が無くはない。
 ただ結果的に使うことは無かったし再生設定もしていないので、この音声が流れることはない筈だった。
「この声が出ても技は使えるんだが……ナイトティンバーからヒカリ以外の声がすると壊れたのではないかと思ってしまう」
「ああうん……それはそうかもしれないな……」
 まあこれは開発者の意図していない動作というやつなので立派な不具合という認識で相違ないのだが。
 ナイトティンバーはヒカリ自身がシステムボイスとして声を吹き込んでいる。ナイトティンバーは開発を急いでいたせいで他の誰かに固有システムボイスの吹き込みを頼む時間もなかったのだった……ということにしているが、正直吹き込むのは楽しかった。所謂深夜テンションだったと言える。メビウスには心配された。
「とりあえず私に見せてくれ。ナイトティンバーをどこかに強くぶつけたりとかは?」
「剣なので戦闘の度にだが……」
「……そうだな」
 ビクトリーから渡されたナイトティンバーはところどころ塗装が剥げ、傷や汚れも伺える。よく使い込まれているようで、開発者としては嬉しい限りである。メンテナンスついでに綺麗にしておこう。だがこの程度の傷なら想定の範囲内で、不具合が起きるような傷にも見えない。
「少し中を見てみないと分からないな……まず検査のために一日ほど預かりたいのだが構わないか?」
「ああ、俺もそのつもりで来ている」
 ビクトリーから承諾を受け、ヒカリはナイトティンバーの解析に取り掛かった。まず内部をスキャンし、不具合が起きている箇所を特定する。
 幸いにも今回の不具合の原因となっていそうな箇所はすぐに特定出来た。予想通り、音声再生系統の不具合のようだった。組み込んだマイクロチップの回路に傷が付いている。
 大方どこかで戦闘した怪獣の出す怪音波だか怪電波だかに当てられでもしたのだろう、とヒカリは結論付けた。無論それらへの対策は厳重にしているが、ナイトティンバーほど使い込まれていれば外部からの衝撃などで何らかの脆弱性も生まれるし、実際こういうことはナイトティンバー以外の武器でもよくある。
 ジードに持たせている諸々も一度メンテナンスが必要かもしれないな……そんなことを考えながら、ヒカリはナイトティンバーの修理を行う。現状で使用できる者がビクトリーしかいない特殊な武器だが、可能な限り替えのきくパーツを組み合わせて作っていた上に、その他の替えのきかないパーツが壊れている訳ではないのが幸いした。パーツの交換や簡単な修理、表面のクリーニングを行うことで、修理はすぐに完了した。
 翌日、改めて研究室を訪れたビクトリーにナイトティンバーを手渡す。
「幸いにも大した故障ではなかったからな、直しておいた。表面のキズなんかも綺麗にしておいたぞ」
「ありがとう」
 ナイトティンバーを受け取ったビクトリーは、すっかり綺麗になった愛刀をどこか嬉しそうに眺めている。やはり彼に預けて正解だったな、と心の内で頷きながら、ああそうだ、とヒカリは最後に付け足した。
「ついでにシステム音声全般のボリュームを初期設定から二段階ほど下げておいた」
「助かる」

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この話とは特に関係ないですがタイガスパークに闇落ち前のトレギアおじさんが声を吹き込んでたら大変なことになってたと思います。

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