カテゴリー: ウルトラ

【要再検討】「神の降りた地?!降星町の謎を追う!」

 この地域の民間伝承を研究しているというその男は、石堀と名乗った。
「少し前の話になりますけどね。この町にあった古い神社の辺りで、子供が行方不明になる
事件が起きたんですよ」
 個室居酒屋の広いテーブル上に広げた地図のある地点をとんとんと叩きながら、石堀はそう語り出す。
「と言っても、もう十八年経ってます。当時九歳の男の子がその神社の近くの森で友達と遊んでて、突然姿を消したんですよ」
 石堀は今度はテーブルに、やや年季の入った地図を広げる。
「これは、十五年前の地図です。ほらここ、あるでしょう。鳥居のマーク」
 二つの地図の同じ地点を石堀は指差す。なるほど、最新の地図には描かれていない鳥居のマークが、十五年前の地図には描かれていた。
「その男の子は、神社の神主のお孫さんだった。かくれんぼか何かしてたのかな、いくら探してもその子が出て来ないから一緒に遊んでた友達が神主にそれを言って、そこから警察の出動ですよ。警察犬も何頭か出動して、山を大捜索。それでもその子は見付からなかった。場所が場所なもんだから、神隠しにあったんじゃないかって噂が経ちました」
「まさか、その子は今も?」
「それがね、二、三日経った頃に戻って来たんですよ。自分の足で歩いて山を降りてきた。怪我もなく、服なんかも、いなくなった時そのままでね。ただ何があったのかは何も覚えてなかったらしくて。結局戻ってきたから良しってことなのか捜査も終わり、何で行方不明になってたのかは迷宮入り」
 石堀は机の上に置いていたファイルから、当時の新聞記事のスクラップを引っ張り出して見せてくれた。『行方不明男児発見』、との見出しが全国紙の紙面に踊っている。
「マスコミも一時騒ぎ立てたようですが、ご両親の仕事だかでその男の子は両親と共に海外に移住して、神社側も家族のことだからと取材を受け付けなかった。それからすぐに別の大きな事件が起きて、時の流れと共に事件のことはほとんど忘れられました。一部の事件マニアやオカルトマニアが覚えていたくらいでね」
「それで、その神社が廃社になったのはその失踪事件が関連していると……?」
「いいや、それは直接は関係ない。また別の事件が起きたんですよ」
「別の事件……?」
「事件というか、事故かもしれないけど……十年前、隕石が落ちた。神社の真上にね」
「……え、隕石?」
 あまりに突飛な話に、思わず聞き返す。
「はい、隕石です」
 石堀は大真面目に頷きながら、またファイルから別のスクラップを出す。今度は十年前の地方紙が出て来た。
「神社の本殿は火事で全焼しましたが、神主と御神体は運良く無事だったそうです。その後は神社を廃校となった小学校の校舎に移転しました」
「廃校となった小学校……」
 石堀は十五年前の地図でその小学校の場所を指し示してくれた。神社からは少し距離があるものの、廃校予定の小学校校舎の間借りはこの小さな町ではそう難しくなかったのだろうと推測する。
 そこで私は、小学校の名前を見て声を上げた。
「なるほど、ここが降星小学校……」
「そうです。やはり、この地域に着目したオカルトライターさんならご存知ですか」
「ええ、『闇の支配者』が初めてこの地球上に姿を表したのは確か、降星小学校校舎跡だと……」
「正確には、闇の支配者が降星小学校の校舎を破壊しました。その後ウルトラマンが現れ支配者を退けた……それからは、あなたもご存知でしょう?この地球の各所に怪獣や宇宙人が現出するようになった」
 やれやれ、と言わんばかりに石堀は肩を竦めてから話を続けた。
「降星小学校が破壊された後しばくしてから、神社は正式に廃社となりました。神主がご高齢という事情もあったようですが……神様には天にお帰りいただいた、ということになっているようです」
「つまり、廃社の直接のきっかけは闇の支配者の降臨かもしれない、と?」
「ああ、そう捉えましたか。まあいいでしょう。実はこの降星小学校、失踪した男の子が通っていた小学校でもあるんですよ。私立の小学校ではありましたがとても評判が良く、この地域の小学生の多くがここに通学することを選択していたと」
「へえ、私立なのにそれは珍しい……となると、失踪事件と隕石落下、そして闇の支配者降臨という二つの事件と一つの事故、あるいは三つの事件を繋ぐのが降星小学校ということになるのでしょうか」
「……ここからは、私の勝手な推測なんですが」
 石堀は、失踪事件のスクラップをとんとんと指先で叩いた。
「本当に鍵になるのは、失踪していた男の子かもしれません」
「え……?」
 石堀の言葉に私は思わず眉をひそめた。
「その子、海外に移住したんですよね?もう降星小学校にも関係無いはずでは?」
「いやあ、海外移住したからと言って降星町と関係が途切れたなんてことはないでしょう。数年に一度は帰ってきていてもおかしくはない。ご実家自体は神社として存在していたわけですから」
「それは、そうかもしれませんが……」
「もしかしたらその子はその神社に祀られていた神に愛されていて、神はその子と一緒にいるから一つの場所で祀る必要もなくなったのかもしれない、だから神社は廃社となった、なんて想像も出来てしまうでしょう?」
「ははは、流石に飛躍し過ぎでは……」
 石堀の語る想像は読者が喜びそうなネタではあるし、実際モキュメンタリーのオチにするならウケが良いだろう。だが流石に、今現在も存命であろう人の話をそうやって書き立てるわけにもいかない。
 しかしその神は十分ネタになりそうだ。石堀なら詳しく知っているだろうと私は前のめりになる。
「ですが、その神については気になりますね。詳しく聞かせていただけますか」
「何、この地域の土着神ですよ。神社の名前にも冠されていた」
 そこで私はもう一度、十五年前の地図、そして十年前の地方紙の記事を見る。
「『銀河神社』……」
 神社の名前を口に出した時、ハッとして私は顔を上げた。私の顔を見た石堀は、ニヤリと笑う。
「ね、闇の支配者と戦ったウルトラマンと同じ名前でしょう」
 そう語る石堀は、店の照明のせいなのか、赤い光を宿した昏い目をしていた。

「怪しい事件が複数起きた神社に祀られていた神と、この地球を守るウルトラマンが同じ名前……とてもとても、不思議な『偶然』だと思いませんか?」

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ゲント隊長、冒険野郎と出会う(ゲントとヒカル)

※ブレーザーのギンガ客演回の幻覚。思いついたところだけ。

◆◆◆

「待て!」
 光の収束する先に、ゲントは手を伸ばした。初めて目にした、ブレーザー以外の「ウルトラマン」。
 彼が何者なのか、知りたかった。
 自分以外にも「ウルトラマン」と共に戦う者がいるのではないかというこれまで思いつきもしなかった可能性に、自身の変身が解除されたことも気付かず走っていた。
「なんだ、気付かれるの早いな」
 光の中から笑い混じりの声が聞こえ、やがて光が弾けて人影が現れる。
 オレンジ色を基調とした派手なジャケットを羽織った背中が見える。背の高さと体格から恐らく男……そう検討を付けたゲントは、その背中に声を掛ける。
「君は、何者だ」
 男はゲントの問いにすぐには答えず、質問で返してきた。
「あんたがこの世界のウルトラマン……いや、その相棒だろ?」
「……」
 ゲントは黙り込む。ブレーザーのことは誰にも──SKaRDの部下達にも話していない。それを見抜くということはやはりこの男は……
「俺は礼堂ヒカル」
 男は振り向きながら、そう名乗った。
「あのウルトラマン……ギンガと一緒に戦ってる。よろしく」
 笑顔を浮かべたその立ち姿は緩く自然体に見えるが、全く隙がない。特殊部隊か諜報活動の経験があるのだろうか、エミとはまた違ったタイプだろうが……警戒と共にそう思考を巡らせながらも、ゲントは名乗るために口を開いた。
「……俺は、ヒルマ・ゲント。ブレーザーと共に戦っている」
「ふうん、ゲントとブレーザー……」
 ヒカルと名乗ったその男はゲントをじっと見てから首を傾げた。
「いや、ゲントさんかな?あんた俺より歳上みたいだし」
「どちらでも構わないが……俺も、君のことはヒカルでいいのかな」
「いいぜ、ヒカルで」
 ヒカルは右手を差し出してきた。
「改めて、よろしくな」
 敵意があるようには見えず、ポケットの中のブレーザーも大人しい。ゲントは自身も右手を差し出し、握手に応じた。
「ああ、よろしく」
 互いにしっかりと手を握ったその時、ヒカルの手に確かな体温があることに、どういうわけかゲントはひどく安堵した。

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ヒカルさんとゲント隊長の絡み無限に見たいと思ってるんでこのネタでまたなんか書くかもしれないし書かないかもしれない。

冒険野郎と風来坊(ヒカルとガイ)

※タイガ本編と劇場版の間、ニュージェネメンバーがタイガ世界に滞在していた頃のヒカルとガイの話。

◆◆◆

「ちょっと話をしないか」
「……何だよ急に」
 一人で高台のベンチから見知らぬ街をぼんやり見下ろしていると、いつの間にか背後を取られていた。
 ヒカルが振り向くと、背後を取ったその男──クレナイ・ガイは、手に二本持っていたラムネ瓶のうち一本を差し出してきた。
 ヒカルがそれを受け取ると、ガイは当然のようにヒカルの隣に腰を下ろしてから自分のラムネをぐいと飲んだ。
「ショウのいるところで話すのも気が引けてな」
「別にあいつは気にしないと思うぜ」
「何、俺の心持ちの問題だ」
 だとしても人に気を使うとは、この男にしては珍しい……ヒカルはそう思いながらも口には出さず、ラムネの栓を開けた。
「あんた今、諸先輩方同様に防衛隊で働いてるだろ」
「そうだけど」
「防衛隊として地球で働くのと、ウルトラマンとして地球を飛び出すの、あんたとしてはどっちが楽しい?」
 ガイの問いかけに、ラムネを飲もうとしていた手が止まる。
「……やなこと聞くなあ……」
 そこを突かれると弱い、という自覚があった。
 UPGで仲間と共に平和を守る仕事には無論やりがいを感じている。
 だが、それ以上に、ギンガとなって地球を飛び出して宇宙を冒険するのが、たまらなく楽しいのは事実であった。
 それは今現在やウルトラダークキラー事件のような非常事態時に限った話ではなく。
「……俺には宇宙を旅する方が向いてるって言いたいわけ?」
「まあな。俺は、あんたはどこか一つの地球に留まり続けるよりは宇宙を気ままに旅するほうが向いていると思う。ここ最近で、そう思ったよ」
 ガイの言うことは正解の一つなのだろう……と、ヒカルは思う。
 自分の向かうべき場所は地球の外にある──そんな確信が、ウルトラダークキラーとの戦い以降、静かに膨れ上がっていた。これまでにないほどの長い期間を、地球の外でウルトラマンとして、星々を巡り、仲間達と出会い、共に戦い……そんな時間が、どうしようもない程に楽しかったのだ。
 自分はこんな冒険を求めていたのだと、魂が焦がれるほどに。
「ビクトリーさんは元々、地球にいることを良しとする、地球を守護するために在るウルトラマンだ。ショウも意識としてはそっちだろう。ギンガさんとあんたがそうじゃないのは、見てれば分かる」
「……だからわざわざショウのいないところで、ってことか」
「あんたは元々地球人で、ショウはあんたの相棒とはいえ地球を守護するための存在だ。……それでヒカルは地球外を飛び回ってる方が向いてる、なんて言えると思うか?」
「俺に言うのはいいんだ?」
「一応自覚がありそうだからな」
「ガイはそういうの気にしないと思ってた」
「気にしていたら言わないさ」
「それはそうか」
 手付かずのままであったラムネを一口飲む。爽やかな甘味が喉を抜けていくが、この季節に飲むには少しばかり冷たかった。
「……ギンガと一緒にウルトラマンとして生きて、誰も見たことのない世界を見て、それで宇宙の果ての、ギンガしか俺を見てないような場所で寿命を迎えるのもそれはそれで有りかなって思うんだ。地球には大事な仲間も家族もいるのにさ。変かな」
 自然と、誰にも──ショウにすら明かしたことのない言葉がこぼれた。ギンガの後輩を自称してはいるが、ウルトラマンになった者としては自分より先輩……そんなガイにこそ、尋ねるべきだと。
 そしてヒカルの言葉を聞いたガイは、どこかニヒルに笑う。
「……やっぱりあんたは、ただの地球人にしちゃあまりにウルトラマンに向いている」
「それって褒め言葉?」
「何だ、そう聞こえなかったか?」
 いつの間にかラムネを飲み終えたガイは立ち上がる。
「あとは、あんた自身がどうありたいかを選びな。あんたはウルトラマンとしても地球人としても若いんだ、俺から言えるのはそれだけさ……あばよ」
 ジャケットの裾を翻し、ガイは立ち去る。
 俺こっちでのあいつの寝床知ってるんだけどな……と思いながら、ヒカルは残っていたラムネを飲み干した。
 肌寒い季節に飲むラムネはやはり冷たかったが、それを不快には思わなかった。

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あとがき的な

最近の「どうも自分の地球にろくに帰らずあちこち飛び回ってるらしいヒカル≒ギンガ」のきっかけってギャラファイにあると思ってて、そこでニュージェネ唯一の先輩変身者であるガイさんが背中を押していたらなんかいいなあと思っています。

ヒカルは自ら望んでそうしてはいますが、ショウやタロウやギンガ本人がどう思ってるかについてもそのうち考えたいですね

トレギアとルギエル(完成版)

この話の完成版です。
元の話は2020年にpixivに掲載したものです。
未完成版の文章に若干の修正は加えてあります。

◆◆◆

 気まぐれで乗った時空流の先に繋がっていた宇宙で、トレギアは幼い子供を見付けた。
 小さな星の片隅で空を見上げていをたその子供の体は刺々しく、黒い鎧に似ていた。声を掛けてみても赤い十字の両目で静かにこちらを見るだけのその子供の胸には、ウルトラマンのカラータイマーによく似た赤い光が宿っている。
 その身に宿した邪神の力で、子供の持つ因果の糸を手繰り寄せて覗いてみる。見えたのは、光る槍を掲げた巨人。そしてその巨人が二つに分かたれ、片割れからこの子供が生まれる、奇妙なイメージであった。
 トレギアはその子供に興味を抱いた。もしあの光の巨人がウルトラマンなのだとしたら──少なくともトレギアは初めて見る存在であった──、この子供は一体何者なのだ? ウルトラマンから生まれたにしては、あまりに禍々しい赤い光をその身に宿しているではないか。
「君は何者だい?」
 尋ねると、子供は首を傾げた。まるで、何者、という言葉の意味を考えるかのように。いや、それは子供の仕草からそのような印象を受けるというだけの話なのかもしれなかった。
 兎も角トレギアは、子供の反応を待ってみた。やがて子供は静かに答えた。
「……我が名は、ダークルギエル」

◆◆◆

 きっかけは、その程度のものだった。
 偶然出会った一人ぼっちの子供を拾って、なんとなく自分の旅に連れて行ってはどうかと考えた。トレギアがルギエルを誘うと、ルギエルは静かに頷いた。こうして、一人旅は二人旅になった。旅と言っても大したことをするわけじゃない、ただあちこちの宇宙でちょっとした運命への悪戯をするだけだ。
 その先で何が起きようとトレギアは知ったことではない。そしてそれを、ルギエルはただ見ていた。
 ルギエルはトレギアに干渉せず、トレギアもまたルギエルに干渉しなかった。
 それでもその旅は常に順風満帆というわけでもないから、旅の中でトレギアがルギエルの持つ力を知るのに、そう時間は掛からなかった。
 ルギエルは、生命体の時を止めて人形にするという力を持っていた。初めのうちは一つの対象を一時的に人形に変えるに留まっていたが、次第に一度に人形化させる事が出来る対象数も、時間も、増加していった。
 成長したルギエルであればこの力で宇宙警備隊ですら一蹴出来るであろうことは想像に難くなかった。
 ルギエルは基本的に何も言わない子供であった。それでもトレギアは、ルギエルと旅を共にするにつれて、彼が存外強情な意思の持ち主であることに気付いていたから、ルギエルが付いて来るということはあちらにも何か思惑があるのだろうと考えていた。
 しかしそれを探るのは困難であった。ルギエル自身が喋らない上に、相当に複雑に絡まった因果の持ち主であった為である。
 いつどこで生まれたのか、どこから来たのか、何者なのか、それを追おうと幾度か試みたが、必ずどこかでそれらの糸はトレギアに知覚できる領域から溢れ出し、追跡を不可能とする。
 結局、「ウルトラマンから生まれた者なのではないか」、そんな曖昧な直感だけがトレギアがルギエルの正体について知り得たほとんど全てであった。
 そうしてどれほどの期間を共に旅していたのかは忘れたが、いつの間にかルギエルはいなくなっていた。
 私と共に旅をする理由はなくなったのだろう、とトレギアは思い、ルギエルを探すこともせず放っておくことにした。
 二人旅と言えたものなのか怪しい二人旅はまた一人旅になり、トレギアは何に構うこともなくあちこちでちょっとした運命の悪戯を続けた。
 ある時、トレギアはとある惑星に降り立った。小さな惑星であったが繁栄しているようで、大きな街があった。背の高い建造物が整然と立ち並び、市場には多くの店が軒を連ねていた。
 だが、トレギアがその惑星の住民とすれ違うことはなかった。理由は簡単であった。その惑星の住民は皆小さな人形と成り果て、路地や建物の床、土の上に無造作に転がっていたのだ。その惑星に最早動く生命の気配はなく、トレギアはつま先で人形を蹴りながら呟いた。
 つまらない星だ、と。
 そんなこともありながら、トレギアはまたそれまでと変わらずに旅を続けた。
 そしてある時、面白い噂を耳にした。
『ウルトラマンに似た漆黒の巨人が星を滅ぼして回っている』『滅んだ星の生命は全て人形に成り果てる』──なるほど、あいつはいつの間にやらそんな存在になったか。
 やっている事自体はさして面白みもないが、何故そう成ったのかは興味がある。トレギアは宇宙を旅するがてら、その漆黒の巨人を探してみることにした。
 そして、長年の探索の結果……ということもなく。
 退廃に満ちていると噂に聞いたとある惑星で、その再会は偶然訪れた。
 当然と言うべきか、その惑星の住民達は皆物言わぬ人形となって地面に転がっている。
 たった一つの命の気配を追って、やがてトレギアはその実行犯の下へ辿り着いた。
「全く、つまらないことをしてくれたものだ」
 風の音だけが鳴る湖のほとりに佇んでいたその漆黒の巨人に、声を掛ける。
「久しぶりだねダークルギエル。ざっくり数えて500年か1000年か……それとも3000年だったかな?」
 トレギアの言葉を聞いた漆黒の巨人はゆっくり振り返る。
「……来たか、ウルトラマントレギア」
 その反応は、まるでトレギアの来訪をそこで待っていたかのようだった。
 漆黒の巨人──ダークルギエルの手には、黒い短刀のような武器が握られている。それに込められた暗黒の力を感じ、トレギアはくすくすと笑った。
「その面白い力で、ずいぶんつまらないことをして回っているようだね」
「……限りある命に、永遠の楽園を与えているだけのこと」
「へえ、随分お喋りになったものじゃないか」
 結果はつまらないが、発想は面白い。大方、命を人形として標本化することでその命を永遠のものとしているとでも言いたいのだろう。
 何故そのような発想になったのかと、更なる興味が湧いてくる。
「君は救世主にでもなりたいのかい?」
「我は、遍く全ての生命を救うのみ」
 その言葉にトレギアは「へえ」と笑みを深めた。
 やっていることはともかく、言っていることはあの光の国の連中と同じと来た!
 愉快でたまらない。
 光の国の連中からは悪と断じられるであろうその行動が、光の国の連中と同じような「正義」から生じているのだから。
「それでは君は、私も人形にするつもりなのかい?」
「それも一つの選択肢であろうが……」
 ルギエルの持つ武器から、黒い光が伸びる。短剣から長い柄が伸びたそれは、さながら槍のようである。
 おやおや、とトレギアも掌の内にエネルギーを込める。
「我は思い出したのだ、トレギア。貴様は、我がかつて抱いたいっそう激しい怒りの源泉」
 その言葉に込められた激しい憎悪。
 何かと恨みを買うような事はしているものの、それでもルギエルから向けられるそれに覚えはない。
 だが、その激しい感情を受けた瞬間だけ、身に宿した混沌を通して流れ込んでくるイメージがあった。
 その体の随所を漆黒に侵されながらもがく光の巨人。漆黒をどうにか自らより切り離した光の巨人は光の槍を振りかぶり、漆黒を完全に消滅させようと試みる。だが漆黒は辛うじてその槍の穂先を逃れ、時空流に乗り……
「……は、はは」
 そしてまず唇から漏れたのは、哄笑であった。やがて腹の底から笑いがこみ上げてきた。
「っはははははは‼ ああそうか、ようやく見えたぞ、ダークルギエル。お前はかつてウルトラマンだった者! ウルトラマン自身が光を否定したが故に生まれ、ウルトラマンによって切り捨てられた闇の半身! そしてその感情は、ウルトラマンだった頃のもの!」
 愉快で愉快で堪らない。
 切り捨てねば存在を保てないほどの漆黒をその身に抱えたウルトラマンがいたことも、切り捨てられた漆黒が自我を持ちこうして手の付けられない程の強い力を手にしていることも。そして漆黒そのものである筈のルギエルが、かつてそのウルトラマンが抱いた感情に任せて自分を憎悪していることも!
「ああ、君は間違いなく面白い!」
「……貴様は、必ず我が手で殺す」
 トレギアの言葉を、ルギエルは否定も肯定もしなかった。
 ただ膨大な殺意と共に槍を振りかざしてきたので、トレギアはそれをひらりと躱した。
 なかなか本気のようで、あちらに人形化の術がある以上本気で応戦するのはあまり得策ではないだろう。ここで殺されてはたまったものではない。
 トレギアは足元に転移の魔法陣を呼び出した。ついでに大量の怪獣も召喚して、ルギエルの方に向けてばら撒いておく。
「またどこかで会おうじゃないか。ばいばい、ルギエル」
 ひらりと手を降って、魔法陣の中に落ちる。ワームホールに似せたその空間の奥から、元いた場所でルギエルの槍がトレギアのいた空間をひと薙ぎしたのが見えた。
 それから少しばかり空間を跳躍して、何億光年か離れた場所に出る。
 偶然とは言えなかなかの収穫であった、今後どんなアプローチを仕掛けてやるのが良いか……と珍しく浮かれた心地を覚えながら考え始めたその時、背後から高速で何かが近付いてくる気配を感じた。
 振り向こうとしたその瞬間、ドス、と。
 腹に強烈な衝撃が加わった。
 強い衝撃で吹き飛ぶはずの体はしかし、空中に固定されている。
 見下ろすと、腹から何かが突き抜けていた。トレギアにはそれは、ダークルギエルが持っていた三叉の槍の穂先とよく似ているように見えた。
 油断していたか、それとも襲撃者が速すぎたのか。この際どちらでも構わない。腹を貫かれたまま、ゆっくりと振り返る。
 その槍の持ち主は、『ウルトラマンらしい』赤と銀の体をしていた。胸の中心には光るカラータイマー。その額と胸には、青いクリスタルが光り輝いていた。トレギアは「なるほど」と思わず唇を歪めた。
「君が、ダークルギエルの半身か」
「その力でそこまで見えたか」
 無造作に槍が引き抜かれ、その痛みに思わず呻く。そのウルトラマンはよろけたトレギアを容赦なく蹴り倒した。仰向けに倒れたところで肩を足で押さえつけられ、身動きが取れなくなる。
「随分粗暴だね……ウルトラマンらしくないと言われたことは?」
「さて、お前にはこれで十分だろう」
 そのウルトラマンはトレギアを見下ろしたまま淡々と語る。その声も、表情も、ダークルギエルのそれによく似ていた。
「私とてお前は殺しても構わないと思っているが、今は殺さずにいよう。今のお前をここで殺せば、私達の辿る道程に大きなずれが生じる」
 私『達』?
 このウルトラマン自身と他の誰のことを指しているのか。気になるが、恐らくそれはルギエルの事ではないであろう。トレギアはそう予感した。
「その代わり、記憶は消させてもらう。これ以上お前があれに干渉すると厄介なことになる」
「……ほう、私から記憶を奪えると?」
 邪神をその身に宿した者の記憶と精神に干渉するほどの力がこのウルトラマンにあるのか、興味が湧いた。だがそのウルトラマンは、表情一つ変えずに石突でトレギアの額をコツンとつついた。
「たかだか混沌をその身に宿した程度で思い上がらないことだ」
 やはり、とトレギアは次第に霞みがかり始めた意識の隅で思う。
 このウルトラマンは間違いなく強い。異常なほどに。ルギエルの半身、いや、原型なだけの事はあると言うべきか。
 そしてこの恐るべき力を持ったウルトラマンが光を否定した事で、ルギエルは生まれたのだ。
「……お前は、何者だ?」
「お前が知る必要はない。それと、最後に一つ。あれはお前を、私が抱いた怒りの元凶の一つと看做したようだが。それは間違いだ。あの怒りは、私のものでは無い」
「……大方、君と一つになった人間の物とでも言いたいのだろう?」
 カマをかけてみると、意外にもそのウルトラマンは反応した。
「鋭いな」
「へえ、図星だったか。なに、よくある話じゃないか。ルギエルは、君と、君と一つになった人間の区別が付いていない……同一視している、と言った方が正しいのかな?」
「嘆かわしい」
 そう言いながらも、そのウルトラマンは表情一つ変えない。そしてゆっくりと、光の槍を振りかぶる。
「私の光と、彼の光の区別が付かないなどと。今回のあれは、随分と不出来なようだ」
 「今回の」? その言葉に引っ掛かりを覚えたトレギアが何かを言う前に、その胸を光の槍が真っ直ぐに貫いた。

◆◆◆

 トレギアは、小さな星の片隅で目を覚ました。
 命が根付かないような荒れ果てた惑星で、何故こんな場所に自分がいるのかと考えた。
 だが考えても答えは出なかったので、考えることをやめてまた当て所無く宇宙を旅することにした。
 ただ、遠い昔の子供の頃、お気に入りのおもちゃをなくした時に覚えた寂寥感に似たものだけが、小さく胸の奥に残り続けた。

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次ページに補足(妄想)がある。


トレギアがルギエルの成り立ち知らんのマジで勿体ねえ……と思い続けているので、じゃあ、たまたまでいいので知ってもらうにはどうする?知ったら知ったでどうなる?というのを考えて、文字に起こした。

Here comes The SUN(ヒカルとヒロユキ+トラスク)

ヒカルさんがヒロユキのいる地球にひょっこり現れてヒロユキとサシ飲みしたりする話。
捏造多め。
2022年末のEXPOギャラファイナイトSPステージとツブコン2023ニュージェネTHE LIVEタイガ編の内容を踏まえています。
台詞だけ出てくる人→大地、ソラ、アスカ

◆◆◆

それは、念の為ヒロユキの検査した方が良いんじゃないかなあ……トレギアは完全に分離したとは言え、ヒロユキはただの人間だからね。グリムドの細胞片を取り込んで悪影響が無いとも限らないから。
ああ、待って待って。そんなに慌てなくても、君達のそのタイガスパークに、ヒロユキの危険を知らせるサインなんかは来てないんだろ。だったらそんなに焦らなくても、念の為の検査だよ。ウルトラマンに変身する人間には必要だと思うんだ……人間ドックみたいな……あっごめん、こっちの話。
とにかく、検査はそう遠くないうちにしておきなよ。俺が行けたらいいんだけど、俺はそろそろ俺の地球に戻らないと。そうだなあ……ギャラクシーレスキューフォースならこういう時頼れるかも。……うん、それじゃあ三人とも、またね!
……なに、X。タイガ達相手に先輩みたいな顔してたって?いいだろ、別に。

◆◆◆

なるほど、地球人の検査……事情は分かりました。グリムドのデータはうちにもありますし、検査用マシーンはすぐに用意できると思いますよ。
ただ困ったことに今、人間態になれる隊員が出払っていて……トライスクワッドの皆さん、人間態にはなれます?……タイガさんとタイタスさんはなれるけどフーマさんはなりたくない、と。そういうこともありますよね。
でもどうせなら三人揃ってお会いしたいですもんね、どうしましょうか……あ、そうだ!ヘルプお願い出来そうな方を呼んでみます!皆さん、お知り合いですよね?この方なんですけど……

◆◆◆

「で、来る途中で怪獣が暴れ回ってる星があったからあの三人はそっちに行って、結局俺だけ先に来たってわけ」
「な、なるほど……」
「俺も加勢すればすぐ終わっただろうし、一緒に来れば良かったのになあ。いつでも繋がってるから大丈夫、だって」
ここは席のほとんどが半個室になっている、とある大衆居酒屋。
僕の向かいの席に座るその人は、そこまで話してからジョッキに入ったビールをぐいと飲んだ。
「ともあれ、ヒロユキには何の異常もなし。大地やソラちゃんにもデータ送って見てもらったけど問題ないだろうってよ、良かったな」
言葉をそう続けてからジョッキが空になっている事に気づいたらしく、その人──ヒカルさんは、注文用タブレットに手を伸ばした。
「ビール追加で頼むけどヒロユキは?」
「あ、僕は大丈夫です」
半分以上残ったウーロン茶のグラスを指しながら僕がそう言うと、ヒカルさんは注文用のタブレットに慣れた手つきでビールのおかわりを注文した。
「来て検査までしていただいたのはありがたいですし、呑みに誘ってくれたのも嬉しいんですけど……ヒカルさん、こっちの地球のお金持ってます?」
僕が全額奢る可能性も一応考慮して誘いに応じているのだが、ヒカルさんは「気にすんなって」と手をひらひら振った。
「心配しなくても結構あるぜ、前来た時少し稼いだのが残ってるし。今日で使い切れるくらいにはある」
「何してたんですか……?」
「移住とか旅行で来てる宇宙人のボディガードとか用心棒してた。ちゃんと相手は選んだぜ」
「それを聞いて安心しました……」
色んな意味で。
「はは、悪い事なんてするわけないし後輩に奢らせたりもしねーよ。ほらヒロユキ、さっきから全然食べてないぞ」
「ヒカルさんこそビールばっかりじゃないですか」
「食べてたら喋れないだろ」
ヒカルさんはそう言ってから、唐揚げとだし巻き卵を自分の小皿によそった。
すぐにヒカルさんの注文したビールが運ばれて来る。入れ替わりに空のジョッキを下げた店員に軽く会釈してから、ヒカルさんは割り箸を割った。
「結構楽しみにしてたんだぜ、こうやって食事すんの久々だから」
「久々って……」
僕もシーザーサラダをよそう。
「誰かと……ってことですか? お仕事忙しいんですか?」
「あっ、いや」
しまった、とでも言いたげな顔になるヒカルさん。気まずそうな顔をしながらも唐揚げを一つ口に放り込んだが、すぐに目を輝かせた。
仕事柄、そのリアクションには見覚えがある。
長い事まともに食事をしていなかった宇宙人が、久し振りに食べ物を口にした時のそれとよく似ていた。
嫌な予感がするので、僕は取り分けたサラダには手を付けずヒカルさんの言葉を待つ。
ヒカルさんは観念したように唐揚げを咀嚼して飲み込み、またビールを一口飲んでから口を開く。
「誰かとっていうか、食事すること自体が久々。体感で二年ぶりくらいかも」
「……はい?」
耳を疑う。
ヒカルさんは人間のはずだ、人間が二年も食事をせず生きていけるわけがない。
「それは、どうやって……?」
「……ギンガになってるとな、宇宙空間だと光の力だけで生きていけるんだよ。光合成みたいな。あとたまに光の国でプラズマスパーク浴びればまあ、エネルギーはだいたい事足りるし」
「……もしかしてヒカルさん、ずっと変身したまま……?」
「まあ、そういうこと。宇宙から宇宙をあちこち飛び回ってるからさ」
「…………」
僕が何を返せば良いのか分からず黙り込んでいると、ヒカルさんは苦笑いした。
「前にも一回そういう事があってさ、その時は三ヶ月くらい変身しっぱなしで地球にも帰ってなくて、それはショウにしっかり怒られた。それが二年前」
「全然反省してないし悪化してるじゃないですか」
思わずそう突っ込むと、「やっぱそう見えるよなあ」とヒカルさんは嘆息した。
「帰りたくないわけじゃないんだけど……なんか呼ばれてるなーって気がしたら体がそっちに動くんだよな。それに宇宙を冒険するの、楽しいし。それを繰り返してたらいつの間に二年経ってた」
助けを求める声に応えずにはいられない、という気持ちは分かる。
だが僕の眼の前で唐揚げやだし巻き卵や枝豆をぱくぱくと食べている人はそれを二年間、ほとんど人間に戻ることなく家にも帰らず、宇宙規模で続けていたのだという。
凄い人だ、と改めて畏敬の念を抱くと同時に、底知れぬ恐怖も覚える。
この人はそれを、この先も続けていくつもりなのだろうか。
そんなことを考えながらようやく自分のサラダに手を付けるが、味がよく分からないくらいには僕は混乱しているようだった。
「なんか悪いな、びっくりさせちまって」
「いえ……」
僕にも、何年か前にタイガ達と共にウルトラマンとして戦っていた時期がある。そしてほんの数週間前に、久し振りにタイガ達と力を合わせて戦った。けれど、ヒカルさんはそんな僕よりずっと長い期間と密度で、ウルトラマンとして戦っている。
そんなヒカルさんに僕がなにか言う資格があるのかは分からない、けれど……
「……ヒカルさんは、それで大丈夫なんですか?」
「え?」
「上手く言えないんですけど……」
ウーロン茶を飲んで口の中を湿らす。
「ショウさんが怒るのも分かる気がして。半年とか二年とか、そんな長い事家に帰らないで人間にも戻らないでウルトラマンでいるのは……僕は、心配になります。ヒカルさん自身の生活はどこにあるんだろう、って」
「……」
僕の言葉に、ヒカルさんは少しだけ黙り込んだ。だがすぐに、人好きのする笑顔を浮かべる。
「そっか、ありがとな」
何かはぐらかされたような気がしてならなかったが、それ以上深く突っ込むことも出来そうになかった。
それからは互いの近況とか、他のウルトラマンの人達の話をした。
どうやら少し前まで宇宙が色々騒がしかったようで、ヒカルさんもタイガ達には今回の件より更に前に会っていたらしい。先輩の皆さんも基本的に相変わらずなようだった。
居酒屋には日付が変わるぎりぎりまで、およそ三時間近くいたが、ヒカルさんはジョッキ何杯ビールを飲んでも全く酔う気配がない。会計の時には奢ると言われたが固辞して、そっちは酒飲んでないだろと言われ押し切られそうになったがこちらも払わせて欲しいと突っぱね、最終的に微妙に傾斜を付けた割り勘で手を打ってもらった。
「ヒカルさん、この後どうするんですか?僕の家、ソファでよければ泊まれますよ」
居酒屋を出てからそう尋ねると、
「え、いいの?じゃあ邪魔しようかな」
野宿するから大丈夫、などと言われたらどうしようかと思ったけど断られなくて良かった。
自宅までのおよそ一駅分を、歩きながら話す。
「人間に戻ってなかったってことは、お風呂にもしっかり浸かってないってことですよね。僕の家今日風呂沸かしてないんで、近所の早朝までやってるスーパー銭湯行きましょう」
「はいはい」
肩を竦めながらも、ヒカルさんはどこか嬉しそうに見えた。
「ヒロユキは明日の仕事大丈夫なのか?」
「社長が特別に休みにしてくれました」
「お、良かったな理解ある職場で」
「僕のこと以外でも弊社は色々あるので……あっ」
ふと、それなりに重大なことに気が付く。
「そういえばヒカルさんお酒飲んでましたよね、お風呂大丈夫ですか?」
「あ、別に気にしなくていーよ。俺、酒に酔わない……っていうか、酔えなくなってるらしいから」
「酔えない?お酒に…ですか?」
「おう」
ヒカルさんは長い腕を広げ、それから大きく伸びをしつつ空を仰いだ。
「アルコールが人間の体に毒になるからじゃねーかな?全然効かなくなってるっていうか……分解が異常に早くなってるらしい。いくら呑んでも肝臓への負担ナシ。前に一回元の世界に戻った時に検査で分かってさ。ずっとギンガになり続けてたのが多分原因。ウルトラマンの先輩にもそういう人いて、そういうことだろうってその人に教えてもらった。俺はちょっと極端な方らしいけど」
ヒカルさんはそれを、何でもないことのように話した。
重大なことを、ヒカルさんはさっきからあまりに呆気からんと話す。酔っていると言われる方が納得するくらいだ。
……僕に聞いて欲しいのか?
「あの、ヒカルさん」
「何?」
「……ヒカルさんとしては、お酒に酔えないのはどう、なんですか」
ホマレ先輩も地球人の僕と比べれば、お酒にはかなり強い方ではあるけど。それはホマレ先輩が元々宇宙人だからであって……
「その、僕はヒカルさんが元々どれくらいお酒に強いのかは知りませんけど」
「……人並みって感じかな。仕事柄もあるしギンガスパークもあるし、出先では飲まないようにしてた」
それなら僕より少し強いくらいか。それでも全くお酒に酔わなくなったということは、結構大きな変化のはずだ。
「だからまあどうかってのは……外でも飲めるようになって嬉しいぜ?酒の味が分かるようになってからで良かった。ノンアル飲んでるのと変わんねーよ」
「そう……なんですか」
本人がそう言うのなら、僕にはこれ以上何も言えない。
ヒカルさんは「人間」から遠ざかりつつあるんじゃないか……そんな予感を、僕は飲み込むことしか出来ない。
「……ヒカルさんが酔わなくなったの、ショウさんは知ってるんですよね」
「そりゃまあ。……流石に渋い顔された」
「……でしょうね……」
もう少し踏み込むべきなんだろうか。きっと僕は今すぐにでも考えないといけない、ヒカルさんがわざわざ僕に今の状況を正直すぎるくらいに明かしたその意味を。
夜が明ければ、ヒカルさんはまた宇宙へと飛び立ってしまうのだから。
「……あの、ヒカルさん」
「何?」
なので僕は、とてもずるいことであると承知の上で。
「銭湯の後で、僕の家で呑み直しませんか」
アルコールの力を借りることにした。

◆◆◆

酒に酔えなくなった?カフェインも効かない?それは多分、ずっとウルトラマンになってるからだと思うが……ヒカルって今ウルトラマンになって何年目だ?……最初に変身してからは十年くらい、連続でギンガになってるのはそろそろ二年か……短……いや人間基準なら長いのか……?俺も効かなくなって長いけどヒカルはそうなるのちょっと早すぎるんじゃないかって気が……前例があんまないからなあ。ムサシや我夢だっていつも変身してるわけじゃないしガイはそもそも地球人じゃないし…………ま、とりあえずだ。たまには帰って元気な顔見せてやれよ。俺なんか帰れなくなってた間に地元で地球を救った英雄扱いされてたらしいからな。帰れるなら帰れる時に帰って、元気な顔見せてやれ。君の相棒は、地球の方にいるんだろ?

◆◆◆

『ヒロユキ!ヒーローユーキー!』
『ふむ……随分深く眠っているな』
『もう少し寝かしてやった方がいいんじゃねーの?』
僕を呼ぶ三人分の声で意識が引き上げられる。懐かしいけどすっかり聞き馴染んだ声。
「おはよう、三人共……」
『おはよう、ヒロユキ!』
『おはよ、あんちゃん!』
『おはよう、ヒロユキ。ギンガから聞いているぞ。何事も無かったようで何よりだ』
ほんの数年前まで当たり前だったけど、とても久し振りな、トライスクワッド三人からの朝の挨拶だ。
少しだけ頭痛のする頭を起こしたところで、自分がローテーブルの上に突っ伏して眠っていたことに気付いた。
そう言えば昨晩は帰って来てからヒカルさんと晩酌をしていたような……それにしてはローテーブルの上には広げていたはずの缶やおつまみも無く、やけに綺麗だ。ヒカルさんが片付けてくれたのだろうか……と、ここで部屋にいる人間が僕一人であることに気付く。
「……あれ?!ヒカルさんは?!」
『先輩なら、ちょっと野暮用があるってさっき出て行ったけど……』
「野暮用……?!」
まさかもう出発してしまったのでは、と焦って部屋を見渡すと、ソファの上にヒカルさんのジャケットが放ってあった。
ベランダに繋がる窓はよく見れば鍵が開いている。
どこに行ったんだろうと思いながら立ち上がると、卓袱台の上に置いていたスマートフォンが震えた。それと同時に鳴り響く怪獣警報のサイレンの音。
急いでスマートフォンの画面を見ると、出現地区は隣の県だ。速報が出ているはずだとテレビを付けると、防災用ライブカメラのものだという映像が流れていた。
あまり画質の良くないカメラの向こうに、遠くので暴れる怪獣の姿が映っている。
『あれはベムラー……!行くぞヒロユキ!』
タイガの声に、テレビも消さずベランダに駆け出した。
「光の勇者、タイガ──」
『あー待った待った!俺一人で大丈夫だから!』
「えっ」
変身しようとした瞬間、唐突に頭の中に響く声。
「ヒカルさん?!」
『先輩?!』
『テレビで見とけって。ライブカメラくらいならそっちの世界にもあんだろ?』
「確かにありますけど……えっどうやって話しかけて来てるんですか?!」
『タイガに聞いて!』
「タイガ?!」
『ウルトラマンのテレパシーだ!俺達がいるからヒロユキにも聞こえてるんだと思う!』
似たような感じでタロウさんと対面で話したことはあるけど、遠距離でもテレパシー使えるんだ……そんな驚きを覚えながら、ひとまずベランダからリビングに戻って、付けっぱなしのテレビに視線を向ける。
現在怪獣出現地点に向けて自衛隊が出動中、近隣住民はただちに避難を、とキャスターが呼びかけるさなかで、ベムラーの隣に銀色の影が降り立った。
赤と銀の体に、光り輝くクリスタル──ウルトラマンギンガだ。
ギンガは颯爽と立ち、戦闘開始の構えを取ってベムラーに立ち向かっていく。
唖然としてタイガが呟いた。
『ほんとに先輩だ……』
『ベムラーの出現を予測してたってのか?』
『何かしらの予兆があったのかもしれん』
『一応解説しとくと、遊星に乗ったベムラーが地球の周りを飛んでるのが来る時に見えてさ。そろそろ落ちそうだったから……あー、ちょっとこっち集中するから後でな!』
後でと言われても、もうほぼ説明されてしまっている。
あれは三年前に一度だけ目撃されたタイプのウルトラマンでは、とキャスターが興奮気味に語る中、ヒカルさん──ギンガは的確にベムラーの攻撃をいなし、ダメージを与えて行く。
『やっぱり先輩はすげえ……』
『まさしく歴戦の勇者といった戦いぶりだな』
『おおっ、見たか今の流れるような連携技!』
タイガ達はもうすっかりギンガに任せて大丈夫という判断らしい。
本当に大丈夫なのかなあ……とは思うものの、実際ギンガの戦いぶりには迷いも不安もない。
ベムラーの動きが少しずつ弱って行き、やがてギンガはベムラーを頭上に抱えると地上から飛び立ってしまった。
それから間もなくヒカルさんのテレパシーが脳内に響く。
『侵略目的じゃなさそうだし、ちょっと外に放って来る!』
「外?……あっ宇宙にってことですか!」
『そういうこと!すぐ戻る!』
そうしてライブカメラから怪獣が消え、十分ほどの間に警報は注意報に変わり、朝のワイドショーはL字型の注意報画面と共に商店街の名物グルメを紹介し始め、
「ただいまっ!」
ヒカルさんは、颯爽とベランダに降り立って来た。
「ヒカルさん、本当にいつもこんな感じなんですね……」
窓を開けてヒカルさんを部屋に上げると、ヒカルさんは「まあなー」と笑いながらソファに寝転がった。
「ちょっと早起きしたから、一時間くらい寝てから帰るわ」
「えっと……起きたら朝ご飯食べます?良ければ作りますけど」
「食べる!それじゃお休みー」
ヒカルさんは頭からジャケットを被って体を丸めると、あっという間に寝息を立て始めた。
「あのさタイガ……」
そっとソファから距離を取って、以前から薄々予感していたことを、タイガに聞いてみる。
「ヒカルさんってもしかして、人の懐に入るのが物凄く上手い……?」
『それ俺も思った……だってヒロユキと会うのは二回目だろ今回……』
『あー……そういえば昔、父さんが言ってたな。人に好かれる才能は一級品の少年だった、って』
「子供にまで伝えるくらいなんだ……」
『だがこれはこれで、宇宙を旅する者に必要な才能かもしれないな』
「なるほど……」
ヒカルさん本人の性分が、宇宙を旅するのに向きすぎているのかもしれない……そんなことを思いながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中を見る。トーストとハムエッグくらいは作れそうだ……そう思いつつ自分の分の朝の支度をしている中で、ふと気が付いた。
──そう言えば僕、寝る前にヒカルさんとどんな話したんだっけ?

◆◆◆

「ご馳走様!」
きっちり一時間寝て目を覚ましたヒカルさんは、僕の用意したハムエッグとトーストをあっという間に平らげてインスタントコーヒーも飲み干したかと思うと、こんなことを言った。
「出発の前にちょっと散歩したいんだけど、付き合ってもらっていいか?タイガ達も」
林とかあるところがいい、というヒカルさんの漠然としたリクエストを受けて、カーシェアの車で雑木林や植物園のある近場の大きな公園へと向かった。
「うーーーーん……やっぱ上から見下ろすのとはだいぶ違うなあ」
木漏れ日の降り注ぐ雑木林の小道を歩きながら、ヒカルさんは大きく伸びをした。
「やっぱたまには戻んねーと駄目だな。俺、夕べヒロユキに言われたこと結構嬉しかったんだぜ」
「僕に……ですか?」
「おう。たまには地球に帰れ、お前は人間だろ、ってやつ」
「……えっ僕そんなこと言ってました?!」
まるで記憶にない。全身からどっと汗が噴き出した。僕の反応に、ヒカルさんは愉快そうに声を上げて笑った。
「あはは、忘れてたのか。明らかに酔っ払ってたもんな〜ヒロユキ」
『おいおいヒロユキまさか、酔っ払ってギンガに説教したのか……?!』
『酔っ払って自分の先輩に説教……なかなかの度胸だな……』
『酔っ払……?』
「フーマもタイタスもちょっと待って、タイガには後で説明するから」
酒に酔えないと僕に明かしてくれたヒカルさん相手に記憶を失うまで酔っ払って説教だなんて、僕はとんでもないことをしでかしていたらしい。
確かにアルコールの力を借りようと決意した記憶はあるにはある、あるけど。そこまでやる気はなかった、なんて言い訳にもならない。
「本当に失礼なことを……!」
「いいっていいって。ま、確かに忘れてたかもって気付いたよ。俺自身は普通の人間でしかないって」
そう言いながらヒカルさんは雑木林の隙間から空を見上げて、少しだけ遠い目をした。その目はどこか寂しそうにも見えたけど、夜空の星を見上げるかのように輝いていた。
「ただギンガと一緒にいるのも、宇宙から宇宙へと冒険するのも、行く先々で色んな出会いがあるのも、タロウから頼りにされるのも、後輩達に会うのも……そういうの全部が楽しくって、嬉しくってさ。夢中になって、他の大切なものを見落とすかもしれないって思った。だからちょっと帰ろうと思う。次の冒険に行くのは、それからだ」
そう言って僕の方を見て笑うヒカルさんの笑顔は、とても眩しく見えた。
僕はヒカルさんと何回も会ったことがあるわけじゃないけど、こうやって笑うヒカルさんは、きっと凄く自然体なんだろうと思った。
「そこでやめるって言わないの、ヒカルさんらしいなと思いました。今回で会ったの二回目なのに」
「ありがとな」
僕の言葉に、ヒカルさんは少し照れくさそうに笑う。
「ヒカルさんは、なんでそこまで僕に話してくれるんですか。人によっては結構デリケートな話になりそうな部分まで話してくれましたよね」
「なんでって……」
ヒカルさんは少しだけ考え込んでから、首を傾げた。自分にもよく分からない、と言いたげだ。
「……ヒロユキには話しときたいって、思ったんじゃねーかな。別の世界にいる滅多に会えない仲間に、礼堂ヒカルは今こんな感じでやってるし、これからもきっとこんな感じ、って、覚えてて貰えればさ」
「覚えてます、絶対に」
ヒカルさん自身ですら気付かないほどの無意識な何かのサインを、受け取るのが僕で良かったのだろうか。
そう思いはするが、受け取ることが出来て良かったとも思う。
「それで次にあった時にはまた一緒に呑んで、ご飯食べましょうね、絶対ですよ。その代わり、また帰らなすぎてショウさんに怒られた報告とかはしないでくださいね」
「……最後のはちょっと約束出来ねえかもなー」
すると、僕とヒカルさんの会話を黙って聞いていたタイガが我慢出来ないと言った風に口を挟んできた。
『ダメですよ先輩、先輩が故郷にあんまり帰らなかったら父さんも心配します。というかこの前ザ・キングダムと戦った後、帰れる時に帰りなさい休みなさいで解散しましたよね?君が一番帰らなさそうで心配だって父さんに言われてましたよね、俺見てましたよ』
そこまで言われてたんだ、そしてしっかりタイガに見られてたんだ……。
「そいつはそうだけど……そこでタロウ持ち出すのはずるいだろタイガ……」
ヒカルさんが珍しく気まずそうな顔をする。やっぱりヒカルさんの弱点はタロウさんみたいだ、薄々察してはいたけど。
「じゃあ、ショウさんにもタロウさんにも怒られない程度には帰る、という約束で」
「お前らなあ〜」
ヒカルさんはほんの一瞬むくれるが、すぐに堪えきれないといった風に笑い始めた。
あんまり笑い事じゃないんですからね!本当に分かってますか先輩!あはは悪い悪い、なんて騒ぐうちに小道は雑木林を抜けて、街全体を見下ろす開けた高台に出た。
空には一点の曇りもなく、僕は眩しさに思わず目を細めたが、ヒカルさんはむしろ全身で太陽の光を浴びるように腕を広げて深呼吸した。
「……よし、帰るか」
そしてヒカルさんは呟いて、僕達の方に振り返った。
「それじゃ、俺は帰るわ。タイガ達は俺より到着遅れた分くらいゆっくりしてけよ」
「ヒカルさんこそ、なるべく寄り道とかしないで帰ってくださいね」
「小学生か、俺は」
軽口を叩きながらも、ヒカルさんは懐から変身アイテムを取り出した。
変身アイテムを力強く天に掲げて高らかにその名を呼べば、ヒカルさんの姿は瞬く間に光に包まれ、巨人──ウルトラマンギンガへと姿を変える。ヒカルさん──ギンガが僕達を見下ろすと、太陽の光を浴びて、その身に宿したクリスタルが煌めいた。
「今回はありがとうございました!他の皆さんにも、よろしくって伝えておいてくださいね!」
僕が声を張り上げると、ギンガは力強く頷いた。
『任せとけ、ヒロユキも元気でな。タイガ達は……ま、そのうちどっかで会えんだろ』
『なんで俺達にはちょっと適当なんですかー!』
タイガが軽く憤慨すると、タイタスとフーマが小さな声で僕に囁いた。
『あれはギンガなりの親しみだ』
『タイガのやつギンガに可愛がられてる自覚なくってなあ〜……』
「そうなんだ……」
『な、なんだよ三人共!』
『あはは、実際なんか困った時はいつでも呼んでいいからな、タイガ。すぐ駆け付けるぜ』
「ほら、ああ言ってるよ」
呼ばれなくても駆け付けてやる、くらいの勢いはあるような気がするけど。
『ぐぬ……それは、ありがとうございます……』
良いように言いくるめられたタイガは少し悔しそうで、なんだか仲の良い親戚同士みたいなやり取りだ。
『それじゃあな!楽しかったぜ!』
ギンガが地表から飛び立つ。
光を宿したその姿が青空に溶けて見えなくなるまで、僕らは何度も手を振った。
急に現れたかと思えばあっという間に懐に入り込んできてついでにサクッと宇宙からの危機を一つ解決して……振り回されたというわけではないけど、今回の件は思い出としては十分に強烈なものになった。時間としてはたった一日にも満たないと言うのに。
「……凄いね、僕達の先輩はさ」
思わずそう呟くと、タイガが反応した。
『そりゃあそうさ、だって先輩は、俺達のリーダーだぜ?』
「それもあるけどさ」
きっとそれだけではない。
あの太陽のような星のような先輩は、地球を飛び出して宇宙から宇宙へと飛び回る冒険をやめたりはしないのだろう。
その姿に危うさは感じるけど、やっぱりどうしようもないくらい眩しい。
だからこそ、その姿を、ヒカルさんが立ち寄った先にいた僕が覚えている事にはきっと意味がある。
「ヒカルさんと沢山話して、僕も僕の場所で頑張ろうって、改めて思ったよ。久し振りに会えて良かった」
『……先輩に手伝ってもらったのは偶然というか、成り行きなんだけどさ。ヒロユキがそう言うなら、手伝ってくれたのが先輩で良かったぜ』
「うん。タイガ達も、ありがとう」
そして、この僅かな時間の滞在を嬉しかったと、楽しかったとヒカルさんが言ってくれたことが、僕は結構嬉しかったのだ。

◆◆◆

……あっショウ?えっうわっちょ……分かった、俺が悪かったって!流石にやばいと思ったから今から帰る!時間どんくらい経ってる?……そっか。なるべく急いで帰るから、隊長達に伝えといてくれ。
ああ、うん、ヒロユキに怒られてさ。元気だったぜ、ヒロユキ。……え、怒られたことのほうが気になる?なんでだよ別にいいだろ……わーったよ話す!帰ったらちゃんと話すから!
嬉しそうって……そうだな、かなり嬉しいかも。帰ったらお前の説教もちゃんと聞きたいからよろしく。いや、気味悪いってなんだよ!思ったこと正直に言ってるだけだからな!

◆◆◆

だから僕思うんですよ、ヒカルさんはちゃんと自分の世界にたまにでも帰ったほうが良いです!僕だって正月にはちゃんと地元に帰ってるんですからましてやヒカルさんは家に帰ってないってことで相当ですからね!もしタイガ達が地元に全く帰って無いって聞いたら流石に心配になりますよ……まあ12年僕と一緒にいたからその時期は帰ってなかったんでしょうけど……。
……な、何笑ってるんですか。僕の他にもいるんじゃないですか、僕と同じようなこと言う人。ショウさんだってヒカルさんが全く帰らなかったら怒ったんでしょ。
それに……体質まで変わって、食事をしなくても大丈夫で……それじゃヒカルさん、人間じゃない時間のほうが長くなってるみたいじゃないですか……失礼なこと言ってるかもしれないけど、ヒカルさん自身は人間なのに……。
……ごめんなさい。ヒカルさんはウルトラマンでありたいと思ってるから、ウルトラマンギンガになってるんですよね。僕よりずっと長くウルトラマンやってる人にこんな事言うのは失礼ですよね……え、そんなことないって?
そんな僕に遠慮し……てるわけないですね、ヒカルさん僕に遠慮してたことないですもんね!だからなんで笑うんですかそこで!
まあ……僕の余計なお節介で笑ってくれたなら、それでいいです。心配してる人がいるってたまに思い出してくれれば……。
僕が言いたいのはそれだけなので……すみません、ちょっと眠くなってきました……ヒカルさんもちゃんと寝てくださいね……

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◆◆◆

次ページ、ヒロユキ視点のために反映しきれてなかったり話とは直接関係ないけど想定してた部分などの補足。
だいたい捏造妄想だし蛇足かもしれないので別に読まなくてもいい。

トレギアとルギエル(※書きかけ未完の一部)

 気まぐれで乗った時空流の先に繋がっていた宇宙で、トレギアは幼い子供を見付けた。
 小さな星の片隅で空を見上げていたその子供の体は、刺々しく黒い鎧に似ていた。声を掛けてみても赤い十字の瞳で静かにこちらを見るだけのその子供の胸には、ウルトラマンのカラータイマーによく似た赤い光が宿っている。
 その身に宿した邪神の力で、子供の持つ因果の糸を手繰り寄せて覗いてみる。見えたのは、光る槍を掲げた巨人。そしてその巨人が二つに分かたれ、片割れからこの子供が生まれる、奇妙なイメージであった。
 トレギアはその子供に興味を抱いた。もしあの光の巨人がウルトラマンなのだとしたら──少なくともトレギアは初めて見る存在であった──、この子供は一体何者なのだ? ウルトラマンから生まれたにしては、あまりに禍々しい赤い光をその身に宿しているではないか。
「君は何者だい?」
 尋ねると、子供は首を傾げた。まるで、何者、という言葉の意味を考えるかのように。いや、それは子供の仕草からそのような印象を受けるというだけの話なのかもしれなかった。兎も角トレギアは、子供の反応を待ってみた。やがて子供は静かに答えた。
「……我が名は、ダークルギエル」
 
 きっかけは、その程度のものだった。
 偶然出会った一人ぼっちの子供を拾って、なんとなく自分の旅に連れて行ってはどうかと考えた。トレギアがルギエルを誘うと、ルギエルは静かに頷いた。こうして、一人旅は二人旅になった。旅と言っても大したことをするわけじゃない、ただあちこちの宇宙でちょっとした運命への悪戯をするだけだ。その先で何が起きようとトレギアは知ったことではない。そしてそれを、ルギエルはただ見ていた。ルギエルはトレギアに干渉せず、トレギアもまたルギエルに干渉しなかった。
 それでもその旅は常に順風満帆というわけでもないから、旅の中でトレギアがルギエルの持つ力を知るのに、そう時間は掛からなかった。ルギエルは、生命体の時を止めて人形にするという力を持っていた。初めのうちは一つの対象を一時的に人形に変えるに留まっていたが、次第に一度に人形化させる事が出来る対象数も、時間も、増加していった。成長したルギエルであればこの力で宇宙警備隊ですら一蹴出来るであろうことは想像に難くなかった。
 ルギエルは基本的に何も言わない子供であった。それでもトレギアは、ルギエルと旅を共にするにつれて、彼が存外強情な意思の持ち主であることに気付いていたから、ルギエルが付いて来るということはあちらにも何か思惑があるのだろうと考えていた。
 しかしそれを探るのは困難であった。ルギエル自身が喋らない上に、相当に複雑に絡まった因果の持ち主であった為である。どこから来たのか、何者なのか、それを追う事も叶わず、ただ「ウルトラマンから生まれた者なのではないか」、そんな曖昧な直感だけがトレギアがルギエルの正体について知り得たほとんど全てであった。
 そうしてどれほどの期間を共に旅していたのかは忘れたが、いつの間にかルギエルはいなくなっていた。私と共に旅をする理由はなくなったのだろう、とトレギアは思い、ルギエルを探すこともせず放っておくことにした。二人旅と言えたものなのか怪しい二人旅はまた一人旅になり、トレギアは何に構うこともなくあちこちでちょっとした運命の悪戯を続けた。
 そんなある時、トレギアはとある惑星に降り立った。小さな惑星であったが繁栄しているようで、大きな街があった。背の高い建造物が整然と立ち並び、市場には多くの店が軒を連ねていた。
 だが、トレギアがその惑星の住民とすれ違うことはなかった。理由は簡単であった。その惑星の住民は皆小さな人形と成り果て、路地や建物の床、土の上に無造作に転がっていたのだ。その惑星に最早動く生命の気配はなく、トレギアはつま先で人形を蹴りながら呟いた。
 つまらない星だ、と。
 
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

ギンガとルギエルって多分トレギアがめちゃめちゃ好きなパターンなのにトレギアが知らない(知りようもない)のもったいないなーと思って書きかけたやつ。
この後成長したルギエルとギンガとトレギアでなんやかんやするんだと思います。
そのうちもうちょっとちゃんとした形にしたい。

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後輩には見せられない(ギンガS組)

※ショウと友也(+ずっと寝てるヒカル)です
※ニュージェネクライマックス後

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「こんばんはショウ君。遅番お疲れ様でした」
「友也か。どうした? お前はとっくに時間外だろう」
「僕の部屋で礼堂君が潰れたので、自分の部屋に帰るついでに回収してくれないかなと……」
「ああ……」

 UPG隊員である礼堂ヒカルは、酒に強いわけではない。
 だが特別弱いということもない。人並みに飲めるし、人並みに飲めない。
 酒が回ると平時より少し陽気になって、ある境を過ぎると急に静かになって、そして糸が切れたように寝る。そのまま朝まで起きない。彼は自分がそういう酔い方をする人間であると自覚はしているし、とある「貴重品」を常時携帯している都合もあり、外出先で酒をほぼ飲まない。
 ただ、信頼する友人の家に上がり込んでいる時は話が別なのである。
「珍しいな、最近はここまで飲むことも無かったが」
「ええまあ……久しぶりなので驚きました……」
 地球防衛機構のとある寮棟。その自室にUPGの隊員であるショウを招き入れつつ、友也は部屋の隅で丸まっているヒカルを見て深々溜息を吐いた。
 部屋に上がったショウは、床に転がっているヒカルを覗き込む。
「今日はどうだった?」
「今日ですか? 概ねいつも通りですが……久しぶりに一緒に飲みたがってたので呼んだらこれです」
 友也の言葉にショウは首を傾げた。
「こっちに帰って来て糸が切れたか……?」
 ほんの二週間ほど前まで、ヒカルとショウはとある別の宇宙に滞在していた。それも数ヶ月という、初めて体験するようなそれなりの長期間だ。
 友也側の感覚ではひと月ほどしか経過していないのだが、長期間に渡るその宇宙への滞在でヒカルが常時気を張っているような状態だった事はショウから聞いているし、それなりの付き合いがある友也としても想像にも難くない。
 ただ、彼はとても器用な人間である。五年ほど前ならともかく、今の彼は自分の感情や精神状態のコントロールが非常に上手い。いくら気を張っていたからと、帰って来た途端にあっさり酔い潰れるほどにまでなるとは考え難く。
 友也の想定を超えるような事態だったと言えばそれまでなのだが、常に近くにいるショウが異変に気付かないほどに「燃え尽きる」ものなのかと、友也にはいささか信じ難かった。
「礼堂君に限ってそんなことありますか……?」
 友也が呟くと、ショウは押黙る。二人はしばし沈黙し、各々にここ数ヶ月のヒカルのことを考える。そして、
「……無いとは言えないな……」
「タロウ絡みならこうもなるかもしれないですね……」
「そうだろうな……」
 当人が聞いていたら全力で否定しそうな納得と共に、ショウは丸まったヒカルの背中を揺すぶった。
「おいヒカル、起きろ」
「…………」
 だがその程度ではヒカルは起きない。ただその長身を丸めてすやすやと眠っている。友也は感心しながら言う。
「一回り大きくなって帰ってきたような気がしていたのですが、相変わらず寝付きの良さと眠りの深さは一級ですね。これで昔と比べて朝ちゃんと起きることが出来るようになったんだから驚きです」
「感心している場合か、運ぶのは俺だぞ……」
「君は運べるからいいじゃないですか」
「意識の有る無しで運びやすさがまるで違う」
 ヒカルの部屋は友也の部屋と同じ階の三軒向こう、そしてショウの部屋はその更に向こう、ヒカルの部屋の隣である。この部屋の物理的な近さも彼らが頻繁に互いの部屋を行き来している理由であり、友也がヒカルが潰れた時にとりあえずショウを呼んでいる最大の理由とも言えた。ちなみに彼らの先輩にあたるゴウキ(本日は当直につき不在)もこの階に入居している。
「……ヒカルの部屋の鍵は……」
「いつものポケットでは?」
「……あった」
「今更ですが、なんで僕達礼堂君が部屋の鍵持ち歩く時に使うポケット知ってるんでしょうね」
「全くだな」
 ショウは革のキーケースをヒカルのジャケットの内ポケットから引っ張り出して友也に渡す。そしてヒカルをどう担ぐか、ああでもないこうでもないと考えた末に、シンプルに横抱きすることにしたらしい。ヒカルの膝下と背中に手を差し入れてひょいと抱え上げて立ち上がる。
 身長が190cmを超えるヒカルを彼よりも背の低い(それでも友也から見れば十分に背は高い)ショウが簡単に抱えてしまうというのはなかなか迫力のある光景なのだが、友也はすっかり見慣れてしまった。ショウが言うにはヒカルは痩せているので見た目より軽いらしい。
「ほら、さっさと行くぞ」
 いくらショウでもヒカルを抱えたままではドアの開け閉めが難しい。友也はショウの先を行く形で部屋のドアを開ける。夜の寮の廊下は薄暗く、常夜灯だけがぼんやりと廊下を照らしていた。黙って廊下を数十秒歩けば、あっという間に「礼堂」と表札の掛かったドアの前だ。友也は迷いなくドアの錠に鍵を差し込んだ。
「そう言えば礼堂君、帰ってきてすぐの頃に模様替えしたって言ってましたよね」
「ベッドの位置変わってたりしないだろうな」
「変わってるでしょうね」
 もっとも寮の部屋は基本的に1Kなので、ベッドの位置が変わったところで特に問題があるわけではないのだが。
 ヒカルの部屋の鍵を開け、部屋の中に足を踏み入れる。友也が照明のスイッチを入れると、ヒカルの部屋が露わになる。あちこちに世界各地の民芸品が並べられ、壁のコルクボードには写真が何枚も飾られている。物が多く雑然とした印象を受けるが散らかっているわけではない、そんな部屋であった。
 記憶の中の二ヶ月ほど前のヒカルの部屋を思い出して、やはり、と友也は頷く。
「家具全般の配置が変わってますね、あとコルクボードの場所も」
「相変わらず物が多いな……」
 ショウは窮屈そうに部屋の中を通り抜けて、ベッドの上にそっとヒカルを横たえた。時間にして二分ほどショウによって運ばれていたが、ヒカルは相変わらず眠ったままだ。
 ショウはヒカルに掛け布団を掛けてやりつつ、やれやれと零す。
「後輩の数も増えたっていうのにいつまでも相変わらずだな……」
「礼堂君らしくていいんじゃないですか、こういう時くらい肩の力を抜いていてもらわないと」
 ヒカルがUPGに入隊してから数年になるが、UPGの隊員の人数はヒカルの入隊当初から遥かに増えていた。世界各地に支部が設立され、ここ日本支部のメンバーも増えている。ヒカルは二十代前半という若さながら、日本支部の古株として多くの隊員から尊敬を集める立場にあったさ。
 別の宇宙にも、「ウルトラマンギンガ」であるヒカルには何人かの後輩がいる。そちらでのヒカルがどうなのか、友也は直接見てはいないが、ショウの話を聞く限りではこちらにいる時とそう変わりはないらしい。
 彼の立場はウルトラマンになったばかりの頃や入隊当時からは様変わりしていて、友也やショウの目から見ても彼は「立派な先輩」なのだろうと思える。だが同時に、友也はこうも思うのだ。
「……礼堂君は器用すぎて、強すぎて、背負えるだけの物を背負えるだけ背負ってしまいますから。僕らから見たらとっくに潰れていてもおかしくないだけの物を一人で背負って、それでも自然体で笑っているのが礼堂君です。だけどもしかしたら、こういう酔い方をするのは、実は自覚してないだけで背負い切れてない、もしくは重さを負担に感じてる時があるからなんじゃないかって、僕は今日の礼堂君を見て思いました」
 友也の言葉に、ショウは黙り込む。思い当たる節は大いにあるのだろう。今日潰れたことだって、帰って来て彼の中で何かの糸が切れたからではないかと分析していたばかりだ。
「ですからまあ、たまにこうやってダメになってる所を僕らが面倒見るくらいでちょうどいいんですよ、きっと。それは多分僕らでないと出来ないことです。それでも背負い切れないような時になれば自分で気付けますし、辛い時は辛いと自己申告出来ますから、礼堂君は」 
「……そうだといいんだがな」
「まだ何か不安でも?」 
「いや、俺もお前とだいたいは同意見なんだが、この寝顔は何も考えてなさそうに見えるからな……こちらの考えすぎじゃないかと思う時もある」
「それはそれで礼堂君らしい気もしますけどね……」
 無いとは言えないから困る、と友也は苦笑する。そして、さて、と話を切り替える。
「今日はどっちが鍵の番します?」
「ああ、そう言えばそうか……」
 彼らはヒカルが鍵を持ち歩く時に使うポケットは知っているが、合鍵を持っている訳では無い。外から鍵を閉めることが出来ない以上、どちらかが中に残るしかないのだった。
 そしてヒカルは自分の酔い方を自覚して以降、自分が酔い潰れた時の為に寝袋を部屋の隅の分かりやすい場所に置いておくようになった。申し訳なく思う心はありつつも信用している人間に対して甘えるのがやたらに上手い、とは友也とショウの共通の見解である。
「……まあ、ショウ君は上がったばかりで疲れているでしょうから。僕が見てますよ。寝る準備だけして来るので、少し待っていてください」
「俺の方が部屋が近いのに悪いな」
「大して変わりませんよ、同じ階なんですから」
 寝る準備とは言えヒカルが潰れた時点で晩酌の片付けはしている。寝巻きと持ち出し用の洗面用具だけ持って自分の部屋の戸締りさえすればあとは一晩ヒカルの部屋の寝袋の中にいればいいだけだ。今日に限らず、ヒカルが潰れた時は友也かショウがそうするのがいつの間にやら当たり前になっていた。
 なお、この辺りの事情をヒカルをよく知る友人達に何気なく話したところ「二人して甘やかしすぎ」などと言われた。
 そうして友也はヒカルの部屋と自分の部屋を往復する。
 朝食の用意くらいはして貰わないと割に合わない。ヒカルはこれまで同様の酔い方をしても二日酔いをした事はないので大丈夫だろう。
「全く……いつまでもこんな事じゃ困りますよ」
 そう呟きながらも、困った気はしない。ただ後輩には見せられたものじゃないな、とは思う友也であった。

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

最近は強度高めの頼れるお兄さん像が定着してるヒカルさんですが、元の世界での人間関係内では基本的に世話焼かれる側の人だと思ってます。
思ってるんですけど、これ書いたの2021年くらいだったと記憶してるんですが元の世界にちゃんと帰ってない疑惑が2022年末辺りから浮上してきている。どうして

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アクセス・フラッシュ!(メビウスとヒカリ)

※グリッドマンネタ

「プライマルアクセプター……いいな!」
「急に何を受信したのヒカリ!?」

「……というわけで、プライマルアクセプターの試作品を作ってみた」
「受信から行動までが早すぎる……」
 宇宙科学技術局、ウルトラマンヒカリの研究ラボ。作業台の上に広げられたブレスレット型のアイテムを見てメビウスはげんなりと呟いた。
「確かに同社だけどこれはウルトラマン向けのアイテムじゃないよ……」
 ヒカリが開発したプライマルアクセプターの試作品、プライマルアクセプターという名を冠するだけあり、プライマルアクセプターそのままであった。そう、かのアニメに登場した変身アイテムそのままのデザイン・形状・色彩。大人向けレプリカ系玩具として今すぐ売り出せそうである。
「何を言う、ちゃんとウルトラマン向けの調整はするさ。俺がしたいのは、このアクセプターの機能のウルトラマンに向けた形での最適化だ」
「機能……最適化?」
「お前も昔やったことあるだろう、電脳空間内に自分のデータを送り込んでその中で怪獣との戦闘」
「うん」
「電脳空間内への転送機能はメビウスブレスにたまたま備わっていたからいいものの、全ての変身用アイテムに備わっているわけではない。変身アイテムを使用しない者もいる。そこでこのプライマルアクセプター」
 ヒカリはアクセプターを自分の顔の前に掲げた。
「宇宙警備隊員達が安全かつ確実に電脳空間内で戦闘出来るよう、今後これが必要になる時が来るのではないかと俺は思う」
「はあ……」
 ヒカリがそう言うならそうなのかもしれない。そんな気がしてくるメビウスだったが、ヒカリの押しの強さは並大抵のそれではないことを思い出す。そしてここで自分がこの驚きの押しの強さに負けてしまうと誰もヒカリを止められなくなるのだ。そう、ゾフィー隊長ですら。ヒカリが暴走した時最後に(物理的に)止められるのはウルトラの父だとかウルトラマンキングだとかそういうポジションの方々になってしまう。
 つまり自分が最後の砦なのだ、そうメビウスは自覚していた。
「いや、そうだね、そうだけどヒカリ……」
「なんだメビウス」
「せめてデザインは変えようよ……」

 こうしてヒカリによる『プライマルアクセプター配備計画』は『ウルトラランス電子変換機能搭載計画』へと形を変えることになるのだが、それを知っている者はメビウスとヒカリのみである。

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真冬HEAT(ゼロ師弟)

「今夜はパリパリナイッスよゼロ師匠!!!!!!!!」
「うわどうした急に!」
 ゼロの部屋に突如押しかけてきたゼットは、白いファーがあしらわれた真っ赤な服を着て巨大な白いずた袋を担いでいた。「地球では今頃クリスマスというお祭りだとハルキから伺いまして!」
「よし帰れ、ろくな予感がしないから今すぐ帰れ」
「何ッスか師匠!ヒドイ!」
 グイグイと部屋に乗り込もうとするゼットを押し返すゼロ。ゼットは抵抗したが力ではやはりゼロの方が上である。
「俺はもうサンタなんて信じるような歳じゃねーんだよ!」
「何の話ッスか!」
「うるせえ!クリスマスに俺にプレゼントをくれたサンタの正体はアストラだと親父から聞かされた時の俺の気持ちがおめーに分かんのか!?」
「なんかゼロ師匠が心にトラウマを抱えてる事だけは分かりました!」

 今日もゼロの周りは(主にゼット一人が)賑やかである。

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はたなかさんの真冬HEATっていう曲、Z後期EDのカップリングなんですけど良い曲なので聞いてください。パラパラクリスマスソングです。パラパラクリスマスソングって何?

ソラちゃんはかわいい(ヒカリとソラ)

※ウルフェス2018のステージのストーリー前提。ソラがリブットと一緒にGRFに転属する前

「君の研究とこの試作品、原理は画期的で非常に素晴らしい物だが……汎用性には少々欠けていると言わざるを得ない」
「ええ、分かってます。歌いながら戦うウルトラマンなんて、そうそういませんよね」
 上司であるウルトラマンヒカリの言葉を、私は仕方がないと受け止めた。
 歌声をエネルギーに変換する。それが私の長らくの研究だった。それは一度確かに効果を発揮してウルトラマン達の力になったのだが、この装置は歌唱者が直接操作しないとならない。
 つまり、ウルトラマンが戦う時のエネルギーにするには、戦うウルトラマンが直接歌うか、歌唱者が戦場に居なければならない。それ以外に転用するにしても、歌唱者がずっと歌っていないと持続的にエネルギーを発する事は出来ず、まあ発電装置とかそういう物への転用も難がある。
 そう言った点を総括して汎用性に欠ける、とヒカリ博士は評したのだ。
「だが決して役に立たない訳では無い。これまで行われてきた音をエネルギーに変換する研究の中では、君のこれは確実に最先端を行っている。素晴らしいと思うよ」
「ありがとうございます、ヒカリ博士」
「しかし、君自らこの装置の試験台になるとは驚いた。君の歌の上手さにもね」
「そう……ですね。歌には少し、自信が」
 私が人に誇れるようなものなんて、歌くらいだけれど。
「……昔、幼馴染が褒めてくれたんです」
 私は私の歌声は誇っていいのだと教えてくれた人がいるから、私は私の歌を、誇りに思えるのだ。
 願わくばこれが彼の力になればいいな、なんて。

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diver(R/B、イサミ)

 地球からほんのひとっ飛び。
 軽い力で地面を蹴れば、ウルトラマンの力であっという間に大気圏を飛び出して、体ひとつで宇宙の中に飛び込める。
 デブリを掻き分けるようにしてもっともっと深く潜れば、頭のてっぺんからつま先まで、心地よい静寂と、上も下もない暗闇の中を遠くから届く星々の瞬きで俺の世界が満たされていく。ダイビングってこんな感じなのかな、やったことないけど。
 小さい頃はただ天体望遠鏡越しに見上げるだけだった星にだって、この力があれば手が届く。火星に本当に水があるのかも、実はそんなに綺麗じゃないらしい木星も、土星の環も、今ならきっと簡単に見に行ける。太陽系の外まで飛び出してみれば宇宙の果てを旅しているボイジャー1号にも会えるのかな? 会ってみたいな。
 もっと深くまで行けるものなら行ってみたい、好奇心の赴くままに進もうとすると、俺を呼ぶ声がした。
「イサミ!」
 振り向くと、地球から追いかけて来たらしいカツ兄が真っ直ぐこちらに向かって来て、俺の手首を掴んだ。ぐい、と手を引かれる。
「ほら、そろそろ帰るぞ。なかなか戻って来ないと思ったら……」
 口調こそ怒り気味だけど、その顔には少しだけ焦りが浮かんでいる。ちょっと悪いことしたかな。
「ごめーん」
「全くしょうがないやつだな……」
 でもカツ兄は、謝れば許してくれる。まったく、優しすぎだっつの。
 カツ兄に引っ張られて、地球まで引き上げられる。さっきまで俺が潜っていた宇宙と比べたら、地球の青はずっと明るかった。地球自体が明るい光を放っているようだ。地球は恒星じゃないのにね。地球の青が眼前に近づくにつれ、俺はもう一度後ろを振り返った。
 どこまでも広がる、どこまでも潜っていけそうな宇宙がそこにはあって。でもどことなく、今の俺は宇宙に潜って行くにはまだ早すぎるんだろうな、という気がした。
 行くのは簡単かもだけど、戻って来るのは大変かも。それこそ今みたいに、カツ兄がいなきゃ戻れないかもしれない。

 ──また今度な!
 
 宇宙に潜るのは、もう少し強くなってから。その時はカツ兄も一緒がいいかな。
 宇宙に一つ手を振って、俺は今度こそ地球の青に飛び込んで行った。

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

イサミは好奇心の強さと行動力に対してブレーキがぶっ壊れてる印象があるのでR/Bだとカツ兄がストッパーになれてるけど他のシリーズ(特に平成)に生まれてたら結構危なっかしいことになってそうという勝手なイメージがあります。
イサミがR/Bのキャラでよかった。

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プロフェッショナル──文明監視の流儀(マックスとゼノン)

 文明監視員の朝は早い。

「おはようございます」
 M78星雲・光の国、文明監視本部。
 早朝にその門をくぐる、一人の男。
 ウルトラマンマックス……光の国が誇る、エリート文明監視員である。

 ──朝はいつもこれくらい早いんですか?
「いえ、こんなに早いのは出張に出る時くらいですよ。私も年次が上になってしまったものですから最近は若手に任せる事も多いんですが、まだ現場には出ていたいもので」
 ──出張とは?
「星に生まれた文明がどのような発展を遂げるのか、監視しに行く……我々の本業です。時には宇宙警備隊や宇宙科学技術局、はたまた他の惑星からの要請を受けて、宇宙全体に悪影響を及ぼしかねない文明を監視することもあります」
 ──監視するだけ、なのでしょうか。
「はい、基本的にはその星の文明には干渉しません。どのような発展をしようとも」

 マックスは出勤すると必ず、モーニングルーティンの一環としてフリースペースでコーヒーを一杯飲む。砂糖やミルクは入れず、ブラックである。
 そしてコーヒーと共に、既に頭に入れてある出張先の情報を何度も再確認する。
「地表の九割が水で覆われ、水中に住む種族が地上に住む種族を支配……根源的破滅招来体に由来する技術を所持……」
 そこに現れたのは、マックスと同じく文明監視員のウルトラマンである。
「おはようマックス、出張の時は相変わらず早いな」
「おはよう、ゼノン」
 ウルトラマンゼノンである。
「……ああ、お前の取材は今日だったか」
「そうだよ」

 ──ゼノンは、文明監視員としてどのようなお仕事を?
「マックスとそう変わりませんよ。ただ私は肩書き上では彼の上司に当たるので、基本的に光の国に常駐しています。時々現場に出ている監視員のフォローに向かうこともありますが」
「私も昔は助けられました」
「ははは。早く返せよマックスギャラクシー」
 ──上司と部下にしては、親しいご様子ですが
「歳が近いですし、年次もそう変わらないので。こいつが現場にいたがるものですから、仕方なく私が上司役になりました」
「本当に、ゼノンには助けられてばかりですよ」
「助けに行った先でゼットンに殺されかけた事もありますけどね」
 ──文明監視員であっても、怪獣との戦いは避けられないのでしょうか
「ケースバイケースです」
「おいマックス、ちゃんとクルーさんの方を見て喋れ。まあ、現場に出た先でウルトラマンを狙う通り魔的な奴に襲われることもありますよ……こいつの話ですが」
「平和な星を観測していたら通り魔に襲われて鏡に閉じ込められました。後輩のお陰で助かりましたが……」
 ──後輩というのは、文明監視員の?
「ああいえ。もっと広く、他の宇宙で活躍しているウルトラマンの後輩ですよ」
「こいつ、なまじ強いせいで文明監視員なのによく前線に出て行くんですよ……宇宙警備隊から引き抜かれかけたこともあるくらいで」
 ──それだけ強いのに、何故文明監視員に?
「簡単な話です。私はただ、この仕事が好きなんですよ」
「大した物好きですが、我々は何かと助かってますよ」

 そう語るマックスの横顔は、プロフェッショナルとしての誇りに満ちていた。そしてそれを見るゼノンもまた。
「さてマックス、そろそろミーティングの時間じゃないのか」
「そうだな」
 マックスは、出発前のミーティングに出席した。
 そこでは文明監視員達によって、監視先の文明の概要や環境、滞在期間の最後の確認が行われる。
「星の表面を覆う水についてですが、成分サンプルを解析したところ有毒性は無いため潜行は可能なものと思われます」
「重力・気圧についても活動可能な数値ですが大気の層が厚く、長時間地表付近に留まるのは難しいかと」
「滞在期間は予定通り、光の国基準三ヶ月で問題ないか?」
「問題ない」
 最後まで、全員が真剣な眼差しでミーティングを行っている。
 文明監視員は、怪獣や星人達から狙われる事も少なくない。命の危険と隣り合わせだが、命の危険を事前に回避出来るよう、現場に出る者に対するバックアップは万全に行われる。無論、現場に出る者も万全の準備を行った上で出発する。

 ──貴方にとって、文明監視員とは?
「……遺し、語るための仕事、ですかね。文明はいずれ滅びるかもしれません。星にも寿命はあります。避けられない滅びも、時にはあります。それでも、彼らがそこにいたのだということを、私は覚えていたい。そして後世に伝えたい。文明とは、彼らが確かにそこにいた証なのですから」
 ──そこにいた証、ですか。
「はい。少しでも彼らがそこにいたことを後世に伝えられたら、彼らがそこにいた事実は消えることはなく、彼らの存在が次の世代に繋がれていく……そう、思っています。勿論、滅びないに越したことはないですがね」

 マックスはゼノンに見送られ、異次元宇宙に繋がるゲートより光の国を出発した。
 その背中はどこまでも、プロフェッショナルとしての誇りに溢れていた。
 マックスを見送ったゼノンはこう語る。
「あいつは過去に一度、監視対象の惑星の原住民に干渉してしまったことがあります。ですがそれは、彼がどこまでも愛情を持って文明を見ていることの証明だと私は思っています。まああの時は若かったですし、私もその件で相当苦労させられましたが……」
 どこか遠い目をして苦笑しながらも、ゼノンはこう締め括った。
「すべての文明に愛を持って接しているから、いつか滅びるのだとしても彼らが忘れられること無いよう記録に留めておきたい……それがあいつの、プロフェッショナルとしての在り方なんですよ」

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これ書いたのギャラファイ2の前だったから「マックスはゼノンもしくは職場からマックスギャラクシーをずっと借りパクしている」って思ってたんですけどそんなことなかったですね。