diver(R/B、イサミ)

 地球からほんのひとっ飛び。
 軽い力で地面を蹴れば、ウルトラマンの力であっという間に大気圏を飛び出して、体ひとつで宇宙の中に飛び込める。
 デブリを掻き分けるようにしてもっともっと深く潜れば、頭のてっぺんからつま先まで、心地よい静寂と、上も下もない暗闇の中を遠くから届く星々の瞬きで俺の世界が満たされていく。ダイビングってこんな感じなのかな、やったことないけど。
 小さい頃はただ天体望遠鏡越しに見上げるだけだった星にだって、この力があれば手が届く。火星に本当に水があるのかも、実はそんなに綺麗じゃないらしい木星も、土星の環も、今ならきっと簡単に見に行ける。太陽系の外まで飛び出してみれば宇宙の果てを旅しているボイジャー1号にも会えるのかな? 会ってみたいな。
 もっと深くまで行けるものなら行ってみたい、好奇心の赴くままに進もうとすると、俺を呼ぶ声がした。
「イサミ!」
 振り向くと、地球から追いかけて来たらしいカツ兄が真っ直ぐこちらに向かって来て、俺の手首を掴んだ。ぐい、と手を引かれる。
「ほら、そろそろ帰るぞ。なかなか戻って来ないと思ったら……」
 口調こそ怒り気味だけど、その顔には少しだけ焦りが浮かんでいる。ちょっと悪いことしたかな。
「ごめーん」
「全くしょうがないやつだな……」
 でもカツ兄は、謝れば許してくれる。まったく、優しすぎだっつの。
 カツ兄に引っ張られて、地球まで引き上げられる。さっきまで俺が潜っていた宇宙と比べたら、地球の青はずっと明るかった。地球自体が明るい光を放っているようだ。地球は恒星じゃないのにね。地球の青が眼前に近づくにつれ、俺はもう一度後ろを振り返った。
 どこまでも広がる、どこまでも潜っていけそうな宇宙がそこにはあって。でもどことなく、今の俺は宇宙に潜って行くにはまだ早すぎるんだろうな、という気がした。
 行くのは簡単かもだけど、戻って来るのは大変かも。それこそ今みたいに、カツ兄がいなきゃ戻れないかもしれない。

 ──また今度な!
 
 宇宙に潜るのは、もう少し強くなってから。その時はカツ兄も一緒がいいかな。
 宇宙に一つ手を振って、俺は今度こそ地球の青に飛び込んで行った。

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イサミは好奇心の強さと行動力に対してブレーキがぶっ壊れてる印象があるのでR/Bだとカツ兄がストッパーになれてるけど他のシリーズ(特に平成)に生まれてたら結構危なっかしいことになってそうという勝手なイメージがあります。
イサミがR/Bのキャラでよかった。

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