「……なんだ、これは」
「何って、誕生日プレゼントだけど」
テーブルの上に置かれた物を見て、竜弦は眉間に皺を寄せている。
それが何なのかは知識として知っているが、自分の生活に入り込むことはまるで想像していなかった物体を目にして当惑しているといったところだろうと、雨竜は手にしたティーカップをソーサーに置きながら分析する。
掌に収まるほどの藍色の鉢に植えられた、小ぶりながらその枝葉を天に伸ばそうとしている松の木。
世間一般ではそれを「盆栽」と呼ぶ。
「渡す瞬間まで僕の部屋の方に置いていおくつもりだったんだけど、あんたの帰りが遅いからここまで持ってきた」
時刻は既に22時を回っている。帰りは20時と聞いていたのだが。
これは今日はここに泊まりだな、と、雨竜は立ったまま困惑する竜弦を他所に立ち上がる。
「夕飯温めてくるから、少し待ってろ」
そう言い残し、キッチンに足を向ける。
スープ、サラダ、ローストビーフと付け合せ、バゲットを皿に盛り、今日のために買ってきたワインを搭載したカートを押してダイニングに戻ってみれば、竜弦はまだ立ったまま盆栽と睨めっこしていた。
「まだ見てるのか?」
「……お前の考えることは分からん」
「分からないなら分からないでいいさ、大事にはして欲しいけど。道具も一緒に買ってあるから後で渡す」
雨竜はてきぱきと皿をテーブルに並べ、グラスにワインを注ぐ。
「……」
竜弦は盆栽から顔を上げて怪訝そうに雨竜を見たが、雨竜が食事を並べ終えたのを見てようやく椅子に腰を下ろした。雨竜も向かいの椅子に座る。
これだけじゃ伝わらないか、と、静かに食事をしている竜弦を見て思う。
(長生きして欲しいだけなんだけどな)
誕生日に松を贈るというのは我ながら直球すぎるかと思ったものの。
この松がもう少し育つ頃に伝わっていればそれで良いか、と、雨竜は飲みかけのカモミールティーに口をつけるのだった。
14 2025.3