試合開始【転生現パロ】

※7話のエグザべ専用ギャン見て受信した「エグザべくん育てた顔してるマ・クベ」の幻覚を煎じたものです
※転生現パロでマ・クベがエグザべくんの養父やってる

 ◆◆◆

「実は、紹介したい人がいるんです。今、付き合っている人なんですけど」
 久方ぶりに同じテーブルについての食事。
 運ばれてきた食後のコーヒーを傾けながら、まるで何でもないことのようにマ・クベの養子──エグザベは言った。
「そうか」
 努めて動揺は見せず、マ・クベは頷いた。しかし実際のところ、いよいよこの時が来たかと心臓がバクバク鳴るのを抑えられなかった。
 マ・クベという男は、とある美術品保険会社の重役であった。多忙に見合った十分な収入があり、養子のエグザベを間もなく大学卒業という年齢まで養育してなお、この青年に十分なものを遺せるほどの資産を蓄えていた。
 そしてマ・クベには、前世の記憶と呼ばれるようなものがあった。主に地球とスペースコロニー間の戦争、そして戦後の国家運営に携わった記憶である。
 その記憶について何か大きく思い悩んだことはない。前世の彼が仕えた相手は恐らくこの世界にいない──少なくとも出会ったことはない──のであるし、何より彼が今生きている世界は、その記憶の中にある文明より大きく時代を遡るものである。その前世に拘泥したところで恐らく何も良いことはない──それが、頭脳を頼みに生き続けてきたマ・クベの結論であった。
 だが彼の前世での得難い出会いや出来事は強く記憶に残り、いつしか彼は前世の主に捧げた騎士道を一つの生き方の指針とするようになっていたのだった。
 そうして生きて来た中で偶然出会ったのが、前世で出会った恐ろしく優秀な青年──によく似た、当時小学二年生のエグザベであった。
 エグザベはマ・クベの遠い遠い親戚の子供であった。両親を亡くし、唯一頼れる親戚がそれまで一度も対面したことのないマ・クベであり、それからマ・クベはエグザベの保護者となった。
 彼がいるのならばあのお方も……と、前世で忠誠を誓った主人を探すことも考えてはみたが。何はともあれ自分はこの幼い命に責任を持ってしまったのだからまず彼を立派な騎士に育てねば……! と、当時課長に就任したばかりのマ・クベは奮起した。
 マ・クベの記憶の中のエグザベ青年は騎士であり、また自分が託された幼い命に責任を持つことは彼にとっての騎士道であった。例えマ・クベ個人は子供が苦手であろうとも。
 そして時は流れ、エグザべは心優しい立派な青年に成長した。エグザべが大学入学と同時に家を出た後も、月に一度は共に良い店で食事をする。親子仲が良好なのは、マ・クベの密かな誇りである。
 よくあなたみたいな人のもとでこんなに明るい優しい子が育ちますね、とデリカシーのない部下に昔から言われていたほど、エグザべはよく出来た青年であった。
 こんなにも良く出来た子なのだ、それは周りが放っておかないのも当然だろうとマ・クベは思う。
「それで……どのような人だ?」
「……とても、優しい人です」
 はにかみながらそう言った時、エグザべの頬に微かな朱が走る。
 ああ、この子は良い伴侶を見つけられそうだ……そう、マ・クベはしみじみと思った。
 この時は、そう思っていた。

 ◆◆◆
 
「はじめまして、エグザべ君のお父様。私、シャリア・ブルと申します」
「……………………」
 待ち合わせ場所の、少し値段の張るカフェテラス。エグザべが連れてきたのは、エグザべより十一も歳上だという男であった。マ・クベは思わず言葉を失う。
 綺麗に整えられた口髭と顎髭、そして年齢不相応にすら見える穏やかで老成した笑み。そんな男がまだ大学卒業もしていない我が子の交際相手として出てくれば人の親として面食らいもする。
 だが何より。
 マ・クベはその顔に覚えがあった。
 ただし、前世の中で。
 よりによって!!!! 貴様か!!!!!!!!
 そう叫び出したいのを堪え、マ・クベはどうにかよそ行きの笑みを浮かべた。
「……よろしく、シャリア君」
「ええ、よろしくお願い致します」
 シャリアと握手を交わす。シャリアの隣に座るエグザべがほっと安心したような顔をしているが、マ・クベの内心は決して穏やかなものではない。
 な〜〜〜〜〜〜〜にがシャリア君だ。
 このシャリア・ブルという男、マ・クベには「とんでもない危険人物」として記憶されている。と同時に、エグザべがこの男に見事に誑かされて頭を抱える羽目になったことも覚えている。
 ここでか。ここでもか。
「……どのようなお仕事を?」
 父さんは認めんぞ、という古典的な台詞を吐きたい衝動を堪えながらそう尋ねると、シャリアは懐から名刺を取り出した。
「アパレル業界に身を置いています。エグザべ君とは、2年ほど前に大学のサークルのOB会で出会いまして」
 名刺に書かれていた社名は有名アパレルメーカーのものであった。おまけに役職持ちと来た。
 だがその会社がエグザべの就職内定先だったものだから、マ・クベはまた頭を抱えたくなった。
「就活のこととか、色々親身にアドバイスしてくれたんです」
 そう話すエグザべの目はキラキラと輝いていた。この男に騙されてないか? と聞きたい。
 しかしエグザべとてもう数カ月すれば社会人である。相手に誰を選ぶかという問題に親がそう過剰に口を出すべきではないだろう……と、荒ぶる感情を理性で必死で押し込める。ましてや今はあの前世とは違うのだ。
「……それで、君はエグザべのことをどこまで知っているのかね?」
 感情と理性がドッグファイトした結果厭味な姑になってしまった。
 しかしシャリアはどこ吹く風と言った様子で、
「交際を始めてからはまだ半年と経っていませんので、まだ知らないことの方が多いですよ」
 ふん、まだ半年か。……半年は続いているのか。
「エグザべ君が大学を卒業したら同棲を始めて、そこから改めて追々知っていけたらと」
 今同棲と言ったか????
「ちょ、シャリアさん……! 同棲の話は……!」
「おや、失礼。しかしこの話は早いうちにしておいたほうがよいでしょう」
「そ、それは……そうなんですけど……!」
 さてはもう結婚を前提で考えている????????
「出会ってからは2年ほどしか経っていませんが、彼がとても心優しい青年であることはよく存じています。私と出掛けている時など必ず車道側を歩くんですよ、彼」
 知っとるわ、そんなこと。そう教育したのは私だぞ。
 知っているかと聞いたのが自分であることを棚に上げてマ・クベは内心毒づく。  
「……君は、エグザベとの結婚を視野に入れているのかね?」
 聞いてしまえ、これくらい。血の繋がりはうっすらとしか無いとは言え私の育てた子だぞ、親として聞く権利くらいあろう。
 当事者のエグザべはといえば可哀想なほど顔を真っ赤にしている。そんなに初心でよくこんな男と付き合えるな、と我が子ながら心配になる。
 そしてその隣でシャリアは食えない笑顔を浮かべて続けている。
「エグザべ君がそう望むなら、そうしたいと考えております。今後長い付き合いになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
 ……やはりこの男は好かん……!
 カップの持ち手を強く握る。
 そういえば前世で出会ったこの子は、男の趣味だけは壊滅的に悪かった。
 それをここでも再現しなくとも良いではないか……!
 どれほどマ・クベがそう心で叫ぼうとも、エグザベは恐ろしく鈍感なので気付かないのであろう。何しろ先からエグザべがシャリアを見る目は何よりも愛しいものを見つめる目であった。恋は盲目とかそういう段階を明らかにすっ飛ばしている。
 何があったのだ、何が。
 ここでもこの青年を誑かすか、おのれシャリア・ブル……!

 ◆◆◆

 そうしてこの日、マ・クベとシャリア・ブルによる水面下の婿姑バトルの火蓋が落とされた。
 基本的にエグザべの見ていない場所で展開されるそれがこの後思ったより長く続くことになるとは、この時マ・クベもシャリアも予想だにしていなかったという。

愉快な登場人物

マ・クベ

 前世の記憶がある。相変わらず性格が悪いが生まれた世が世なのとエグザべの養父になったことでそれは抑え気味。付き合い長い部下(ウラガン)には性格悪いのバレてる。こっちでも壺が好き。

シャリア

 前世の記憶がある。相変わらず悪い大人と善い大人の反復横跳びをしている。

エグザべ

 マ・クベには黙っているが前世の記憶がある。相変わらず性格と顔が良い。

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