温泉のやつ

※エグシャリがマチュニャアシュウの引率で温泉に来ている謎時空

 ◆◆◆

(やっぱり、綺麗な人だな)

 と、隣で髪を乾かしているシャリアを横目で見ながらエグザベは思う。
 シャリアの浴衣の袷から除く胸元は湯上りでうっすら湿り気を帯びて、胸元から頬にかけての肌は上気してほんのり赤い。衿から覗くうなじなどひどく煽情的だ、うなじなど軍服でいつも見えているはずなのに。着ているものとシチュエーションの違いというやつだろうか……と、つい先ほどまで浴場で互いの全裸を見ていたこともつい忘れ、エグザベは心臓がばくばくと高鳴り頬に熱が集まるのを感じた。
「エグザベ君、早く乾かさないと風邪をひいてしまいますよ」
 そんなエグザベの様子に気付いてかあるいは気付かぬふりをしてか、髪を乾かし終えたシャリアがドライヤーを置いてエグザベの方を見た。
「あっはい、中……シャリアさん」
 エグザベが慌てて自分の台のドライヤーを手に取ろうとすると、ひょいと掠め取られた。立ち上がったシャリアがエグザベの台のドライヤーを手にしたのだ。シャリアはエグザベの背後に回ると、エグザベの髪に触れた。
「乾かしてあげます」
「ぴゃ!?」
 ぶおお、とエグザベの髪に温かい風が触れる。続いてエグザベの髪を梳くようにしてシャリアの固い指が。
「おや、驚かせてしまい申し訳ない」
「いっいえ、お気になさらずっ」
 意中の相手にそのように触れられて平静を装うなど難しい話なのだが、それでもエグザベは必死で表情を引き締めながらシャリアにされるがままとなった。まるで頭を撫でるような指先は、大切なものに触れるような丁寧で優しい手つきで。目を閉じると、脳内がふわふわと幸福感で満たされていく。
(あったかいなあ、幸せだなあ、ずっとこうしててほしいなあ)
 無意識のそんな願いにも気付くことなく、エグザベはこの状況を大いに甘受していた。
 一方で髪を乾かしている当のシャリアはと言えば、そんなエグザベにピンと立った耳とぶんぶん振られる尻尾を幻視していた。
 エグザベがこちらを見て何を考えているのか、読もうと思わなくともシャリアには筒抜けであった。十一も年上の男の上官しかも監視対象に片思いなど、戦中でもないのに物好きと言うべきか主の未来の政敵に対してお気楽と言うべきか。それでいつ手を出してくるのかと思っても一向にその気配がないのは立派を通り越して奥手すぎるとすら思う。ハニートラップという発想が無いのかもしれない。
 今のように時々それとなくからかってやることもあるが、その度に顔を真っ赤にしながら子犬のように尻尾を振って受け入れているのだから可愛らしいものだ。彼のようなひた向きで心優しい青年であれば絆されてやるのも悪くないかもしれない。
 エグザベの髪から水気が無くなった頃を見計らってドライヤーを止めて声を掛ける。
「ほら、終わりましたよ」
 シャリアが声を掛けると、エグザベはぴんと姿勢を正して勢いよく振り向いた。
「お手を煩わせてしまい申し訳ありません!」
 そう言いつつ必死で表情を引き締めてはいるが、(もう終わりかあ)と残念がる声が聞こえてしまったものだからシャリアはどうにか笑いを堪えた。
「気にしないでください、私が勝手にやったことです。ああほら、髪はちゃんとブラシ掛けた方がいいですよ。癖になってしまう」
「はっはい!」
 エグザベはシャリアの言う通りアメニティのブラシで慌てて髪を梳かす。シャリアはそんなエグザベの様子に目を細めて笑い、エグザベが髪を梳かし終わったのを見届けてから口を開いた。
「若い子達はもう遊ぶか食事にでも行ってしまいました、食事代は渡してありますし、少しだけゆっくりしていきますか」
 シャリアの言葉にエグザベは目を瞬かせた。エグザベはこうした大衆浴場の類に来たことがない。出身地であるルウムにそのような文化は伝わっていなかったし、グラナダは言わずもがな。なのでゆっくり、と言われてもイメージが湧かない。
「ゆっくり……と言うのは?」
「休憩所があるようです。そこで冷たい飲み物でも飲みながら、ゆっくりお話しでもしましょう」
 とん、とシャリアに肩を叩かれてエグザベは跳ねるように立ち上がり、脱衣所を出るシャリアの後を付いて行く。
 そんな様子がシャリアには尻尾をぶんぶん振る小犬のように見えていることなど、エグザベには知る由もないのであった。

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コラボのやつ一回煎じておかねばと思ったんですが浴衣要素も温泉要素も薄いな……