「サイド6と言えば、ここのチェーンは安定して美味しいんですよ」
「はあ……」
シャリアが指差した店舗の看板を見てもいまいちピンと来ず、エグザべは首を傾げた。
「イズマコロニーの文化のベースでもある日本の定食屋ですね。今日のランチはここにしましよう。もちろん私の奢りです」
そうしてシャリアに連れられて、エグザべは初めての定食チェーンへ足を踏み入れた。
(こうやっていつもご飯を奢ってくれるのは嬉しいけど、この人は僕を懐柔しようとしている可能性だってあるんだ)
エグザべは緊張感を抱きながらも、シャリアと共にタブレットでメニューを眺める。椀に盛られた米、味噌のスープ、日本風ピクルス、一種か二種のおかずを一つのセットとしているようだ。
(わ、何だこの揚げた肉? 美味そっ)
最初にエグザべの目を引いたのは、茶色い衣の付いた肉が皿に盛られた写真であった。カラアゲというらしい。それからすぐ隣にある写真にも目がいく。
(でもこのトンカツとかいうやつも美味そうだ……迷うなあ、どっちも食べられるか……いやそれは流石に食べ過ぎか? あっ単品もある)
「決まりましたか? ……少尉くらい食べる人には、定食だけだと足りないかもしれませんねえ」
メニューを眺めていたシャリアがぼそりと呟いた。その言葉に背中を押されたかのように、エグザべは真剣な眼差しでメニューから顔を上げた。
「……唐揚げ定食に、豚カツ単品でお願いします。定食のご飯は大盛りで」
エグザべの注文に、シャリアはニコリと微笑んでタブレットに注文を打ち込んだ。
さて、エグザべの心の声はジオン最強のニュータイプであるシャリアには丸聞こえであった。
この青年がキシリア派から自分の監視のために派遣されたスパイであることは薄々察していたので特に驚きも無かったのだが、一つ予想外だったのが、
(エグザべ少尉を見ていると癒されますねえ……)
エグザべはその人柄にとにかく裏表が無さ過ぎた。思っていることと顔に出ていることが大体イコールなのである。
人間誰しも少なからず本音と建前というものがある。意識せずとも人の心が見えてしまうシャリアにとってはそれが当たり前の世界であったので、このエグザべ青年が過酷な経験をしながらもその驚くほどの善性と素直さを失わずここまで生きてきたというのはあまりにも眩くかけがえの無いものに見えた。
そんなエグザべを見て癒やされる感覚は、犬や猫を眺めている時のものと近い。人間に対して抱く感想として失礼なものであることは百も承知であるが。
店がそう混んでいないこともあり、定食はすぐに運ばれてきた。
エグザべの前には唐揚げ定食と皿に乗った豚カツ、シャリアの前には野菜の豚肉巻き定食。
「こちら一つ差し上げます。野菜も食べましょうね」
口を付ける前に、自分の皿から野菜の肉巻きを一つエグザべの皿に乗せるとエグザベは見るからに狼狽した。
「ええっ、よろしいんですか!」
(大事なおかずを一つくれるなんて……四つしか乗ってないのに! いい人だ!)
「構いません、私には少し多いくらいなので」
「あ、ありがとうございます!」
(後でお腹減らないのかなあ……)
(やっぱりこの子は面白いな……)
キシリア閣下の騎士でさえなければ、とシャリアはしみじみ思う。シャリアはこういう素直な人間が好きであった。
(なんだこの肉柔らかいっ。衣だけじゃなくてお肉にもちゃんと味が付いてるじゃないか! これだけのものをチェーン店で出しているなんてどれだけの企業努力を重ねてきたんだ……わ、こっちの豚カツは衣がサックサクだ!)
シャリアの考えることなど露知らず、エグザべはどこまでも大真面目に唐揚げや豚カツに感動していた。
これはおかずを一つあげて正解だったな、と思いながらシャリアは味噌汁を飲む。
ソドン乗艦時に共に食事をしていてもそうだが、エグザべの食事中の脳内実況を聞いているとそれだけで腹が満たされる心地になるのだ。きっとこの青年が食事という行為の有り難さを知っているからなのだろう。
(そろそろ肉巻きをいただこう……ん、思ったより甘い味付けだ、こういうのもありなのか……あっ思ったより色んな種類の野菜が入ってて色んな歯応えがする! それに肉の脂が旨味になってておいしい!)
野菜の肉巻きも気に入ってもらえたようで何よりである。
「ご馳走様でした!」
綺麗に完食したエグザべが手を合わせたのを見て、シャリアは「気に入ってもらえたようで何よりです」と頷いた。
「美味しかったでしょう?」
「はい! とっても……全部美味しかったです! 中佐の連れて行ってくれるご飯、どこも美味しいです!」
(すっごく美味しかった! 中佐は美味しい店を沢山知ってるんだなあ!)
キラキラ輝く瞳と食後で血色の良い頬。可愛い子だな、と考えていることは悟られぬよう、シャリアは麦茶のコップを傾けながら微笑んだ。
「もう少しだけ休んだら出ましょうか」
「はい!」
この後はまた二人で捜査に出て、外泊申請も出しているので夜も外食となる。
さて今夜はこの子に何を食べさせようか。寿司、しゃぶしゃぶ、焼肉も良いな……と、今から業後のささやかな楽しみに思いを馳せるシャリアであった。
06 2025.6
