2/8に開催されたエグシャリオンリーの無配です。
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じ……っと、視線を感じる。
しかし僕はあえて無視して、コモリから貰った生チョコにピックを刺して一つ口に運んだ。
(いい、エグザベ君。中佐のような困った察してちゃんのことは無視していいんだからね。というか中佐は普通にお菓子食べ過ぎだから)
そんな言葉とともに渡された生チョコの小さな箱は、コモリ少尉が友人と出掛けた先で買ったのだという。
一人につき限定二箱までだったからこっちをいつも頑張ってるエグザベ君に、と。
そう、このチョコは僕が貰った僕のものだ。
そしてこのチョコとそれを食べる僕を先から凝視している中佐は、ただ見ているだけ。見ているだけだ。それ一つくださいとも何も言ってないのだから、応える義務も無い……無いよな?
いや、このチョコが僕のものなら一つくらいあげてもいいのでは? そう考えたところで、はたと思い出す。
『ふふ、医者に怒られました。飲酒を控えろと。私はこれから何を食べればいいのでしょう』
定期検診を受けたシャリアさんがどこか遠い目で笑っていたのはほんのひと月前のこと。
『お酒をやめればいいのでは? あと怒られたの糖分もですよね』
それを聞いたコモリ少尉の言葉は突き放すようだったが、シャリアさんの健康に気を遣っての言葉でもあった。
『いえ、糖分は推奨量以上を摂るのを辞めろと言う話だったので』
『三食と間食全部甘い物はどう考えても推奨量以上です』
甘い物は完全に駄目というわけではないが、控えるに越したことはない。そういう扱いの筈だ。
じゃあやっぱりこれは中佐にあげない方がいいな、健康のためにも。うんうん。それにしてもこのチョコレートは美味しいなあ、甘さの中にほのかなお酒の香りがあって凄く上品だ。リーフには確かラム酒と書いてあった。
「ラム酒の香り……ですか」
「勝手に読むのやめてくれますか?」
「なら何故ここで食べるんですか」
「ここはあなたの家かもしれませんが、僕の家でもあるからです」
「くっ……私が禁欲生活を強いられているというのに目の前でそのように限定チョコレートを深い感慨もなくぱくぱくと……!」
「禁欲生活はあなたがどうせことが終われば死ぬ予定だからとお酒飲みすぎ砂糖摂りすぎ生活をした結果でしょう」
「なんて酷薄な」
よよよ、と泣き崩れる振りだけするシャリアさんに、流石に食べづらいなあ、と思いながら三個目の生チョコを口に運ぶ。これで生チョコは残り半分。一度に全部食べるのも勿体ないので箱に蓋をする。
「勝手に食べたら怒りますよ。これは僕の物なので」
「分かっています。君の物に手は出しませんよ」
冷蔵庫に常設している付箋に僕の名前を書いて箱に貼ってから、冷蔵庫に入れる。
理由はよく分からないが、これは僕の物です、と主張すれば、シャリアさんは服にもお菓子にも一切手を出して来ない。つまみ食い常習犯なのに。
「ほらシャリアさん、甘い物は食べられないかもしれませんが僕はもうすぐフリーになりますから。歯磨いて来ます」
「早く戻ってきてくださいね……君まで取り上げられたら私はおしまいです」
「大げさな……」
また変なこと言ってる。でも悪い気はしないので、僕はそそくさと洗面台へ向かう。
歯を磨いていると、鏡の中の自分と目が合った。着古したTシャツに、緩んだ目元。
シャリアさんと一緒に生活するようになってから、家じゃ僕の心は緩みっぱなしだ。
安心して過ごせる場所なんてここ数年どこにもなかったのに……そう思っただけで、シャリアさんを抱き締めた時の体温が恋しくなって、僕は急いで歯磨きを終わらせた。
「ほらシャリアさん、あなたのエグザベ・オリベがフリーになりましたよ」
そう言いながらリビングに戻ると、シャリアさんが僕に抱き着いて来た。
