「珍しい形のパスタが売っていたので買ってきました」
パスタ売り場から合流したシャリアが掲げたそのショートパスタの袋を見て、大きなショッピングカートの持ち手を握ったままのエグザベは「はあ」とぴんと来ていないことがありありと分かる返事をした。
「ファルファッレと言うらしいです。名前の由来は『蝶』だとか」
シャリアの言葉に、エグザベは改めて袋から見えるパスタの形をまじまじ見る。四角いハンカチの中心部だけを絞ったような形状のそのパスタは、まさしく名は体を表していた。
「ああ、虫でしたっけ。蝶ネクタイの語源の」
「そう、蝶ネクタイの語源の蝶です。可愛い形だなと思いまして」
「なるほど……?」
やはりぴんときていないらしい。首をひねるエグザベに、シャリアはこの反応は想定内と特に気にせずとパスタソースの瓶と共にファルファッレの袋を大きなカートに入れる。
「今日の夕飯にしましょう。美味しそうなパスタソースもありましたから」
「分かりました。シャリアさんが食べたいのであれば」
君に食べて欲しくもあるんですがねえ、とぼやきながら、シャリアは端末の画面に表示されている買い物メモを眺めつつ乳製品コーナーを探した。
宇宙港からほど近くに建っている超大型スーパーマーケットは、過度な贅沢さえ考えなければ生活に必要な雑貨から食料まで概ね何でも揃う。しかも都心部の店より全体的に割安と来た。シャリアとエグザベの自宅からは車で三十分ほどかかるが、エグザベがこのスーパーでの買い物を好んでいることもあって月に一度か二度、二人でこのスーパーに買い物に来るのが習慣となっていた。
買い物を終えた二人は、後部座席とトランクに大量の買い物袋を車に詰め込んで自宅へと帰る。
「そう言えば、シャリアさんがご自分からこれ食べたいって言って来たの珍しいですね」
ハンドルを握りながら、エグザベがふと思い出したように呟いた。
「そうでしたか?」
「はい。普段は僕に食べたいものを聞いて来るので」
「それはエグザベ君への愛と言うやつですね」
「本心なのでしょうが、あなたが言うとやっぱり胡散臭いです」
「ひどいですねえ。私は悲しいです」
「過去の行いですよ」
軽口を叩き合いながら、車は二人の自宅へと進んで行く。
「でもやっぱり、僕はシャリアさんが自分からこれが食べたいって言ってくれたのが嬉しいです」
「……そうですか」
本人にその気のない直球の愛情表現。エグザベ君はこういったところがたちが悪い……とシャリアは思わず眉間を押さえた。
そして買い物中に決まった通り、今日の食事当番であるシャリアは夕飯にファルファッレとブロッコリーを茹でて、瓶詰のトマトクリームソースに和えた。オレンジ色のトマトクリームソースとブロッコリーの緑で彩られたファルファッレを皿に盛り付ければ見た目も可愛らしく完成したので、シャリアはこれを食べるエグザベを想像してつい笑みを浮かべた。
可愛い人が可愛い料理を食べている様は目の保養でしょう……と思いながらも、シャリアがエグザベのために皿に盛っている量は現役の軍人相応に可愛くない。エグザベは瘦せ型の割によく食べる。スーパーで買って来た総菜のチキンやサラダも大皿に盛り、シャリアはるんるん(自認)でダイニングテーブルに食事を並べた。
「エグザベ君、食事の用意が出来ましたよ」
シャリアに呼ばれ、エグザベが食卓についた。二人で手を合わせてから、食事を始める。
「食感が変わって面白いですね。スパゲッティと違って平たい部分と絞った部分があって」
ぱくぱくとパスタを食べながらのエグザベの感想。見た目が可愛いとか一切気にしない、それでこそエグザベ君……としみじみ考えながらもシャリアは頷いた。
「そうですね。私も初めて食べたのですが上手くいってよかったです」
「え、初めてだったんですか」
「はい。買った動機は君に食べさせたかったというだけなので」
「またあなたは……」
エグザベが小さく顔をしかめるのをまた可愛く思いながら、シャリアは微笑んだ。
「だって私、君が可愛いものを食べているのを見るのが好きですから」
「そうですか……」
呆れながらもエグザベはシャリアの手料理をぱくつく。
そう高級でもないパスタの一種とは言えいい買い物をした──シャリアはそう満足しながら、自分も小さな蝶を口に運んだ。
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