flashback

※ザべ君が難民時代モブから性的暴行を受けていた設定
※ハッピーエンドです!!!!!!!!
※時系列は多分全部終わったあと
 
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(怖い)
 パチリ、と。静電気のささやかな痛みに似たその言葉がシャリアの脳裏をひらめいた。
 それが目の前の……今まさに自分がベッドの上で伸し掛かろうとしていた青年から聞こえてきたので、シャリアは動きを止める。
 そのまま、エグザべの美しいバイカラーの瞳を覗き込んだ。
「……あの、シャリアさん?」
 怖怖と尋ねるエグザべの両頬に手を添えて、目を合わせる。
「……君、もしかして気が進まない?」
「そっ、そんなことはありません!」
(どうしよう、やだ、ばれた)
 エグザべがどれほど表情を取り繕おうと、聞こえる心はあまりにも雄弁だ。
 シャリアは真っ直ぐにエグザべを見詰めた。
「君は、私がこの行為を望んでいるという理由で同意してくれている。ですが私は君が望まぬ行為を強要したいわけではありません。理由は言わなくていい、君の本心を聞かせてください。聞かせてくれるまで、そして聞かせてくれた言葉によっては私は君に手を出しません。約束します」
「っ、あ……」
 エグザべは小さく口を開き、それからその瞳にはみるみる涙がたまり始めた。
 そして涙が決壊して頬を伝った時、エグザべはしゃくり上げながらシャリアにしがみついた。シャリアはゆっくりとエグザべの背に手を回し、触れてもエグザべが恐怖を感じていないことを確認してからその背中を擦った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、怖いです」
 読もうとせずとも流れて来たのは恐怖、怯え、痛み……シャリアはエグザベから自分の顔が見えないのをいいことにそっと顔をしかめた。恋人とは言え他者がおいそれと覗き込んで良いものではない。この青年であればそれを見たことを許すであろうから、尚のこと。
「あなたは僕に酷いことしないって、分かってるのに、なのに、体が、勝手に、」
「……ありがとう、教えてくれて」
 それを伝えることすらどれほど勇気がいることか。シャリアはわんわん泣くエグザべの背中を幼子にするように抱き続けた。
「何があったかは私からは聞きません。君から無理に話す必要もありません。ただ相談窓口の番号は君に伝えさせてもらいます。……私に出来ることがあれば協力しますから、ね」
(みすてないで)
「大丈夫、見捨てません」
 エグザべの肩に手を回し、体をそっと離してから手を取る。冷たくなってしまっているその手を揉み込むように握るうちに、少しずつその手に血の温もりが通い始めた。
(あったかい)
 エグザべが落ち着き始めたので、どうやら自分はこの子を温めることが出来るようだと安堵しながらシャリアはエグザべの手を離してベッドから立ち上がった。
「温かいココアでも入れてきます。それを飲んだら今夜はもう寝ましょう」
「……あの」
 エグザべがハッとしたようにシャリアの手を握った。エグザべが口を開く前に彼の思念がシャリアに届く。
(一緒に)
「いいですよ、一緒に行きましょう。寝る時も、ね」
「……!」
 エグザべの顔が少し明るくなった。
 不便も多いが、こうした時に心が読めるのは幸いであると思う。
 シャリアはエグザべの手を引いたまま立ち上がった。
 背中にしがみついたまま動かない恋人の体温を感じながら二人分のココアを入れ、ソファに並んで腰を下ろす。
「……ごめんなさい。初めてなのに、準備もしてくださってたのに」
 ココアを半分ほど飲み終えた頃にエグザべがぽつりと呟いたので、シャリアはエグザべの肩を抱いた。
「君が謝ることではありせん。人の心が読めるなどと自惚れておいて、直前まで君の本心に気付けなかった私にも非はありますから。確かに準備は面倒ですが、君のためなら幾らでも」
「…………」
 シャリアが何気なく付け加えた言葉を聞いたエグザべの頬がボッと赤くなる。と同時に自分の痴態の妄想がどっと流れ込んできたものだから、シャリアは噴き出すのを必死で堪えたのだった。

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