【ドルPパロ】アイドル

※アイドル×プロデューサーパロ
※ちょっとだけモブ(ファン)がいる

 ◆◆◆

 その白い光を、覚えている。
 真昼間のアーケード街で、何よりも鮮烈に、善を為そうと駆けて行ったその目映い姿がいつまでも、強烈に瞼の裏に焼き付いて離れない。
 気が付けば、ひったくり犯を駆け付けた警察官に引き渡して鞄を奪われたのであろう女性に鞄を渡してその場を立ち去ろうとしていた彼の背中に声を掛けていた。
 そうして私は、エグザベ君という光と出会った。

 ◆◆◆

 ステージの上には、アイドルが一人。
 白地に金糸が煌めくアイドル衣装を身に纏った青年が、スポットライトを一身に浴びて伸びやかに歌い踊っている。
 私ははそれを、ロープで囲われた客席エリアに立って見つめていた。
 ステージの上に立つエグザベ君は、私がプロデュースしている新人アイドルだ。今時珍しくグループに属さず、ソロアイドルとしてついひと月前にデビューした。配信番組と楽曲配信でファンを獲得し、今日はとある巨大ショッピングモールの通称「噴水広場」でのデビューイベント開催となる。
 エグザベ君がぴたりとキメのポーズを決め、曲が終わる。ぱらぱらと周辺から拍手が聞こえた。ちらりと客席エリアの外を見ると、ロープのすぐ際に何人かの女性が立っている。男性アイドルのファン層に多い傾向の彼女らの服装や持っている団扇を見るに、既にエグザベ君に付いているファンと見て良さそうだ。
 またステージ上に視線を戻すと、エグザベ君は肩を上下させながらも「ありがとうございました!」と一礼した。
「……うん。いいですね」
 リハーサルの手応えも上々。緊張しているようでまだ少し動きが硬かったが、それでもこのステージを楽しんでいるのが伝わって来た。
 私は音響・ライト共に問題ないことを横に立つスタッフに伝えてからステージの前に進み、スタッフ用マイクを受け取ってステージに上がった。
 この噴水広場は三百六十度上から見下ろされる形となり、音響設備も用意されていることから多くのアイドルやアーティストがイベントに利用する。私もかつてのデビュー直後にこの景色を見た。
 ちらりとエグザベ君に目線を送り、頷いて見せる。君のステージは素晴らしかった、と。エグザベの表情が明るくなったので、私はステージの外に視線を向けた。
「リハーサルは以上です。ご希望の方にはあちらで入場整理券をお渡ししていますので、この後の17時から始まるデビューイベントにもお越しいただければ幸いです」
 私のアナウンスにまた拍手が上がる。元アイドルとして、こうした時に顔出しするプロデューサーの立場を取ったのは正解だったなと思いながら隣のエグザベ君に挨拶を促す。
「皆さんリハーサルからありがとうございました! この後のイベントも絶対……いや、無理なく! 来てくださいね!」
 絶対じゃないのか、と彼の素朴さを微笑まえしく思っていると「行くよー!」とファンから黄色い声が上がる。そのレスにエグザベ君はパッと顔を輝かせた。
「あ、わあ! ありがとうございます!」
「エグザベ君、そろそろ」
 マイクを通さず耳打ちすると、エグザベ君は「それではまた後で!」と深々一礼してステージから捌けていく。私も一礼してから、彼と同じルートでステージから降りる。
 ステージのすぐ脇にあるドアから関係者専用通路を通って控室に入ると、エグザベ君の肩から力がどっと抜けた。
「き、緊張しました……」
 パイプ椅子の上に崩れ落ちるように座る彼からジャケットを脱がしてハンガーに掛けてやってから、キャップを開けた水のボトルを差し出す。
「お疲れさまでした」
「あ、ありがとうございます……」
 エグザベ君は受け取ったボトルから水をひと息に半分ほど飲んでから、不安げに私を見上げた。
「あの、本当に大丈夫でしたか?」
「ええ、素晴らしいパフォーマンスでした。初ステージにしては上出来でしたよ、この調子なら本番も大丈夫」
 するとエグザベ君の目が潤み、頬も緩んでどこか締まらない笑みとなる。
「シャリアさんにそう言っていただけると安心します……」
 ああ、その凛々しい顔立ちから繰り出される小犬のような表情が私はじめ数多の人間をこれから虜にしてしまうのだろう。
 そのギャップにくらくらしながらも、私は頼れる敏腕プロデューサーとしての笑みを浮かべてみせるのだった。

 ◆◆◆
 
 一方その頃、噴水広場近くのコーヒーショップの一角。エグザベとシャリアは聞き得ない、二人の女性による会話。
「は~やば……生ザベ君ガチでビジュ良すぎ」
「ね、シャリア・ブル目当てで見始めたけど全然ザベ君も推せる」
「てかさ」
「うん」
「……あの二人、さあ」『(スマホ画面に入力)付き合ってて欲しすぎる』
「……ッ! ッッッッッ!!」(「わかる」のスタンプ連打)

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