2月に出した本にページ数調整用おまけとして掲載したお話の再録です。
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存在を公にされていない公王直属部隊の所属であるシャリアとエグザベは非番も休暇も不定期である。自宅でエグザベがゆっくり手料理をする暇など週に二度あれば御の字であるが、同棲を始めてからこの方、その少ない機会の合間に料理初心者であった筈のエグザベの得意料理は、切った野菜を放り込んでまとめて煮込むだけのスープに始まり、煮込みハンバーグに煮込みチキンと着々とそのレパートリーを増やしていた。
……若者が作るにしては煮込み料理ばかりなのでは?
そこを突っ込んで良いものか、食べてばかりのシャリアは迷ったが、しかしエグザベがレシピに素直に従って作る料理にまず失敗はなかった。アレンジするにしても無茶なく無理なく料理初心者の身の丈にあった確実に美味しいアレンジをしてあっというまにエグザベの味にしてしまうものだから、優秀な軍人が私生活においても優秀なことが本当にあるのかと感心してしまった。
野菜の切り方や味付けは少し大雑把だが、だからこそ素朴な優しい味。エグザベは何も言わないが、これはきっと彼の考える家庭の味なのだろうとシャリアは思った。少なくともシャリアにとっては、既にエグザベの作る料理が「家庭の味」になっていた。
「今日はなんと、ロールキャベツに挑戦してみました」
珍しい二人揃っての休日のディナーに、食卓に配膳を終えたエグザベはエプロン姿で胸を張った。
「いつも作っている料理研究家のレシピなので、間違いないと思います」
「へえ、あれ同じ料理研究家のレシピだったんですか」
「はい。初心者の僕でも分かりやすく用語レベルの解説までしてくれる人で、一度SNSで見たレシピで作ってみたら味も凄く美味しく出来たので。この人のレシピで料理の練習をしていけばのちのち応用も利くかなと思って、レシピ本も買っちゃいました」
「また料理に随分と熱心に……」
おまけに、料理一つ取っても勉強の勘所の掴み方が上手いので感心してしまう。
「どうしてそこまで頑張ってくれるんです? 極端なことを言ってしまえば私は三食レーションでも耐えられますし、君の料理の上達が多少遅くても気にしませんよ」
「そう言われましても……」
エグザベはシャリアの向かいに腰を下ろし、スプーンに手を伸ばした。
「やっぱり大事な人に美味しいものを食べて欲しいと思うのは、自然なことじゃないですか?」
「…………」
とすん、と、心臓に矢が突き刺さる感覚を覚えた。
「それにシャリアさん、三食レーションでも耐えられるなんて言ってる割に美味しい物大好きじゃないですか。栄養は大事ですが、耐える必要もない時に耐えなくてもいいと思うんです、だから僕は料理が上手くなりたいと思って」
ぎゅうう、と心臓が甘く優しく締め付けられる。
エグザベがいつも以上に眩しく見えて、シャリアは何度か瞬きをした。
「早く食べないと冷めてしまいますよ?」
「あ、ああ、そうですね」
エグザベの言葉にシャリアは慌ててナイフとフォークを手に取り、ロールキャベツにナイフを入れた。少々不格好なロールキャベツを半分切って口に運べば、キャベツの甘みにコンソメスープとひき肉のうまみがじゅわりと口の中に広がる。
ああ、やっぱり美味しい。
思わず口もとが綻んだ。
このロールキャベツも少しずつエグザベの味になっていくのだろうと、いっそう愛しさが増す。
シャリアとて木星航路以前の生活で身に着けた最低限の料理は出来るものの、こうして誰かと共に食べるための料理ではない。
当たり前に家族を愛し愛されることを知っているエグザベの作る料理は、きっとシャリアが作っていたそれとは根本的に違う。
「……あなたの作る料理は美味しいです、とても。人を大切にすることを知っている味だ」
噛み締めるように呟くと、エグザベは照れくさそうに微笑んだ。
その飾らない素朴な笑顔に、シャリアは思う。彼の心根の美しさに見合う人にならねばと。
そしていつか私も、彼のために──。
