本国では白磁の騎士とも讃えられるそのモビルスーツが基地の格納庫に戻って来た頃には、純白の美しい装甲はすっかり泥に塗れていた。特に脚部は搬送中に乾燥した泥がこびりついてしまっている。
そしてこの機体の専属パイロットであるエグザベは、コックピットから降りて機体を見上げ思わず「わあ」と間の抜けた声を上げた。
「地球で戦闘するとこんなになるんですね」
「あんた地球での戦闘は初めてだったのか」
基地の技術尉官が呆れたようにエグザベを出迎えながら、タオルと水のボトルを差し出した。
「それであの戦果なら大したもんだよ、あんたの上官達はたいそうお冠だがね」
「はは、やっぱり……」
エグザベがタオルで額の汗を拭うと、じりりと額が痛んだ。驚いてタオルを見ると、白かった筈のタオルに赤い点が飛んでいる。
「医務室に行ってきな、地球での怪我を放置すると洒落にならんぞ」
そう促されたエグザベは、技術尉官にギャンを任せて格納庫を出た。ほとんど勢いで飛び出してきたのでパイロットスーツは着ていない、士官服のままだ。激しい戦闘で体に伝わった衝撃は当然緩和されず、あちこちに痣が出来ている可能性があった。
上官達がお冠……という言葉には、嫌と言うほど心当たりがあった。この基地に奇襲を仕掛けようとしていたテロリストのモビルスーツ制圧という戦果を挙げたとは言え、正式な命が下る前に単騎で無断出撃したのだ。日頃温厚な彼らが目くじらを立てるのも当然のことだ。
医務室より先に中佐のところへ……と医務室の反対側に足を向けようとした時、カツン、と前方からヒールで床を打ち鳴らす音がした。
「エグザベ少尉」
決して冷たくはない、しかし怒気を孕んだ声であった。エグザベは思わず立ち止まる。
腕組みをしたコモリ少尉が、額に青筋を立てながら廊下のほんの五メートル先に立っていた。
「今、怪我の手当てより先に中佐への報告を優先させようとしていますね?」
「は、はい」
この時エグザベの目には、コモリが立ちはだかる壁のように見えた。ここを越えて行くことは出来ない……本能がエグザベにそう囁いた。
「貴方の独断専行に中佐は大変お怒りです。その上で手当てを後回しにした場合処罰が更に重くなる可能性があります。今すぐ医務室へ向かいなさい」
「ええと、処罰が重くなるのは報告を後回しにした場合なのでは」
「ごちゃごちゃ言わない! 回れ右!」
「りょ、了解致しました!」
エグザベは慌ててくるりと方向転換し、医務室へ走った。戻って来たらしばく──背中から伝わるコモリの怒気が、雄弁にそう物語っていた。
そうしてエグザベは医務室へ向かい、軍医によって容赦なく士官服を剥かれて肌の下に内出血が滲む痣にぺたぺたと湿布を貼られた。擦りむいた額にはガーゼを当てられ医務室用パジャマを着せられベッドの上に座らされ、いずれあなたの上官が来るのでそこで待機しているようにと言いつけられたのだった。
士官服はランドリールームに持って行かれ待機命令も出てしまったものだからとにかくここに座って中佐が来るのを待っている事しか出来ない。
自分の行動に後悔はない。あのモビルスーツの武装やエグザベの後続で出た特殊部隊からの通信を鑑みるに、対処が遅れていれば被害が出ていた可能性が高い。守るべき人達を守ることが出来た。
それはそれとして軍人の身でありながら上官の命令も待たずに無断出撃をしたことは事実だ。
沙汰を待つ心持ちで、エグザベは壁掛けの時計を見つめながらシャリアが来るのを待った。
やがて時計の長針が反対まで動いた頃、医務室に控えめなノックの音が響いた。
開いてるよ、と軍医が声を上げると静かにドアが開く。そして、エグザベの上官であるシャリア・ブル中佐が医務室に足を踏み入れた。手には畳まれた服を持っているが士官服ではない。整備作業時に着用するツナギだ。
エグザベが跳ねるように立ち上がって敬礼すると、「ああ、楽にするように」とだけ言われた。バイザーを掛けた表情は伺い知れないが、纏う空気は静かで怒気は感じられない。
だがこの人が自分の無茶を怒っていないわけがないのだ、とエグザベは過去の経験を思い出しながら心を引き締めた。
「動いても問題ないようなら、ひとまずこれを着てください。着替えが終わったら我々の部屋へ」
それだけ言い残し、シャリアはエグザベにツナギを渡して医務室を出て行ってしまった。
普段なら即お説教の流れなのだが、とやや拍子抜けしながらエグザベはそそくさとツナギに着替えて医務室を出た。
我々の部屋、とシャリアが言ったのはシャリア・コモリ・エグザベの部隊が地球滞在中に拠点として間借りしている会議室だ。基地のやや奥まった場所にあるが、医務室からは五分も歩けば辿り着ける。
扉をノックすると、「どうぞ」と返って来たので鍵の掛かっていない扉を開ける。
窓に背を向けるようにしてコの字型に配置されたデスクの一番奥、窓を背にしてシャリアが座っていた。
部屋の中にコモリはいない。どこに行ったのか、とエグザベが考えるより先に「コモリ少尉は陛下への定時報告で通信室にいます」とシャリアが言う。その声はやはりひどく静かだ。
「座ってください、軽傷とは言えまだ痛むでしょう」
エグザベの定位置をシャリアが指し示しながらそう言うので、エグザベはおずおずと腰を降ろした。
「貴方の独断専行を理由に何か処罰を与えるつもりはありません。テロリストによる基地襲撃を防いだ貴方の戦果は無視できないもので、まあ相殺して問題なかろうという、貴方の直属の上官である私の判断です」
それでは戦闘報告を聞きましょう、と、シャリアは手元のレコーダーを起動した。
エグザベは淡々と報告を上げた。テロリスト側のモビルスーツの武装の特徴、対峙して分かったパイロットの技量。
一通りの報告を受けてから、シャリアは小さく溜息を吐いてからバイザーを外した。ようやく見えたその目は静かで、けれど疲れ切っているように見える。
「……何故、あのテロリスト達に気付いたのですか。貴方が出た時、兆候は何も無かったでしょう」
「気付いたと言うより、予感がしました。この場所に向けた敵意のようなものを感じ、僕がすぐに行かなければここが燃える、敵意の方へ向かえば間違いないと。結果論ですが、事実連中はこの基地を標的としたテロリストでした」
「────」
シャリアは口を引き結び、黙りこくる。エグザベは黙ってシャリアの言葉を待った。
やがてシャリアは一つ、溜息を吐き出した。
「後出しじゃんけんは好かないのですが……ミーティング中だったでしょう、同じ場にいた我々に話そうとは思わなかったのですか」
「話している余裕はないと感じました」
「そのために君一人が負担を負って傷付いたとしても?」
「この基地を、貴方達を守ることが出来たので、意義はあると考えています」
「…………」
シャリアはしばし黙り込んでから、レコーダーを止める。それからちょいちょいと手の動きだけでエグザベを呼んだ。
エグザベが不思議に思いながら立ち上がってシャリアに近付くと、シャリアも立ち上がる。かたん、と椅子の脚が床にぶつかる音が静かな部屋に響き、次いで衣擦れの音がエグザベの耳を覆った。
いつの間にか、エグザベはシャリアの体温と白檀の仄かな香りに包まれていた。白檀──シャリアが好んでいる香水の香り。抱き締められていることに気付いて、エグザベは身動ぎしながらシャリアを見上げる。
「中佐……?」
「ここから先は上官としてではなく、恋人としての言葉だと思って聞いてください」
「はあ……」
戸惑うエグザベには素知らぬ振りで、シャリアは恋人としての言葉を続ける。
「君は軍人に向いていないと思うことがあります。君は軍人であるにはあまりにも真っ直ぐで、その身を顧みない……私の存在が君を軍に縛る限り、私は既に君のその人格と能力を戦いに利用する悍ましい存在へと成り果てているのではないかとすら思う」
「────」
独白に似たシャリアの言葉に、エグザベはなんと返したものかとしばし迷う。
あまり僕を侮るなよ、と叱りつけてやるのが一番手っ取り早かったしそう言ってやりたくもあったが、叱るには今のシャリアはあまりにしおらしかった。
「確かにあんたは僕に無茶振りばかりしますが、それは僕が必ず成し遂げると信じてのことでしょう。ちょっとムカつくことはありますけど」
なんとか口を開いたエグザベは、頭をフル回転させながら言葉を選ぶ。
「僕がこの身を賭けるのは、僕にとって、あんたやコモリ少尉がそうするに充分なくらい大事な人達だからです」
それに、上官だろうと恋人だろうとあんたは僕を大虐殺の尖兵にだなんてしないでしょう?
口から出かかったその言葉はすんでのところで飲み込んだ。しかしシャリアには伝わってしまったようで、エグザベを抱き締める腕に力が籠もった。
「……ごめんなさい、シャリアさん。僕には、どうしてあんたがそんなに心を痛めているのか分かりません。僕はずっと、僕の意思で行動しているだけです」
僕なんかと貴方のような高潔で美しい心を持つ人が傷を負うのとはわけが違うだろう。僕は貴方のためならいくら傷をこさえても痛くない、貴方が傷付くよりずっと良いから。
そう言ってしまえばシャリアはもっと傷付くのだろう、と理由も分からぬままエグザベは思う。機序は分からぬのに、結果だけはうっすらと見えてしまう。そんな自分がなんだか恨めしかった。
シャリアが傷付く理由を理解できなければ、きっと意味がないのに。
「君をずっと私の腕の中に閉じ込めていられたらと。考えてはいけないことを考えてしまいます……そうすれば君が傷を負うこともない……」
エグザベの耳元で囁くようにこぼれたシャリアのその声が泣き言に似ていたので、エグザベはシャリアの背中に腕を回した。
「そうしたいのであれば僕を監禁しても構いませんが、それで一番後悔するのはあんたでしょう? 僕はあんたの自傷の道具になりたいわけじゃありませんよ」
「……意地悪ですね、貴方は」
「意地悪で結構です。でも、あんたが僕のために心を痛めるのは……」
これを口に出していいものか、と迷う。けれど、正直に言わなければこの人と対等とは言えないだろうと、エグザベは言葉を続けた。
「嬉しいと、思ってしまいました」
気を引くことができて嬉しい、とそれはまるで幼い子供の思考。二十代半ばにもなる男が考えて良いことではない。それでも自分を愛してくれる人が弱い部分を曝け出している以上、エグザベもまたそうする。
「だから、あんたがそうして心を痛める理由の理解に努めようと思います。ごめんなさい、分からなくて」
シャリアの手がそわりと動く。もっと強く抱き締めたいのだろうが、エグザベの体を慮って我慢しているのだろう。代わりにその大きな手がエグザベの背を撫でた。
「……いいんです。これから、分かっていけば良いことです。私は……私だけではない、コモリ少尉も、君を大切に思っています。独りで傷付いて欲しくないと、思っています。どうかそれだけは覚えていてください」
「────」
傷付く時は、いつだって独り。それは難民になってからエグザベの人生において当たり前のことだった。それなのにこの人は、独りで傷付いてくれるなと言う。イズマの軍警に殴られた時は絆創膏を差し出し、殺し合いまで演じたのに今こうして抱き締めてくれる。
エグザベが戦果を挙げることよりも、傷を負っていることをこの人は気にする。
(ああ、そうか)
擦り剥いた膝小僧。傷口を洗って、パッドを貼ってくれた大きな手。膝のひりひりとした痛みに涙を堪えていると、パッドを貼り終えた手が頭に伸びてきた。
セピア色になってしまったそれらの光景がぱちんと脳裏に閃いて。
目尻がじわりと熱くなり、頬をなにか液体のようなものが伝った。
(どうして、忘れていたんだろう)
エグザベには確かに、愛し慈しまれた記憶がある。エグザベが傷を負うと、自分事のように悲しむ人がいた。そうやって、シャリアはただ当たり前にエグザベを愛していただけなのだ。エグザベがシャリアにして欲しくないことを、シャリアもまたエグザベにして欲しくないだけなのだ。
気付いてしまえば、堰を切ったように涙が溢れてくる。
自分ではどうにも止められなくて、エグザベはシャリアの首筋に額を押し付けたまま声を上げずにただ無言で涙を流した。
シャリアもまた何も言わず、シャリアのスーツの肩がしとどに濡れるまで、二人の抱擁は続いた。
カテゴリー: ジークアクス
sweetie bite
ぷつり、と鋭い牙が肌を貫通するその感覚はいつも甘い痛みをエグザベの全身に走らす。
エグザベの腕に牙を立てるシャリアが喉を鳴らす度に牙が僅かに擦れて、その甘い痛みが断続的にエグザベを苛み甘美な陶酔をもたらす。
陶酔の中、エグザベはシャリアを見下ろす。
シャリアさん。
僕の血が大好きなシャリアさん。
そんなに夢中で吸い付いて、僕よりもずっと歳上なのにあまりに可愛らしい。
「そんなに僕の血って美味しいんですか?」
シャリアの頬を撫でながら尋ねるとシャリアは小さく喉を鳴らし、上目遣いでエグザベを見上げた。
その様が情事を思い起こさせ、エグザベの心臓がどきりと跳ねる。そんなエグザベの様子に、シャリアが目を細めながらそっと腕から牙を離す。
ちくり、と牙が抜ける痛みにエグザベが小さく震えると、シャリアは赤い口元を見せ付けるようにうっとりと口角を上げた。
「──ええ、美味しいですよ、とても」
赤い舌が、ねっとりと口周りの血を拭う。
「一滴残らず飲み干して、君を全部私のものにしたいくらいに」
艶めいたその言葉に、エグザベの背筋をぞくぞくと興奮が走った。体の奥底から衝動が湧き上がる。
この美しい人にもっとめちゃめちゃにされたい。
この美しい人をもっとめちゃめちゃにしたい。
この美しい人と一緒に、めちゃめちゃになりたい。
「……シャリアさん」
体がひどく熱かったが、シャリアに吸血されたあとはいつもこうなので、今更気にならなかった。
熱に突き動かされるようにしてシャリアの肩に手を掛けると、シャリアが「どうぞ、君の好きなように」と耳元で囁いた。
【学パロ】古典的なおまじない
※学パロ(生徒18×司書29)
※学校司書エアプなので細かいところは見逃してください
◆◆◆
「そろそろ閉めますよ」
「あ、すみません」
図書室の一角、自習スペースで最後まで居残っていた生徒に、図書室司書のシャリア・ブルはそう声を掛けた。
熱心に問題集に向かっていた生徒ははっとして顔を上げ、慌ててノートや参考書を畳み始める。図書館の常連であるその生徒に、多くの生徒からは「なんか暗い」という印象を持たれているシャリアはふっと微笑んだ。
「今日も君が最後でしたね、エグザベ君」
「あはは、すみません……ここが一番集中できるので」
エグザベが困ったように笑う。三年生であり受験が近いエグザベは、毎日のように閉門時刻ぎりぎりまで図書室の自習スペースで勉強していた。他の多くの生徒のように予備校に通っているわけではないが、彼がいつも持っている赤本はそれなりの難関とされている大学だ。そんな彼が勉学に励む姿を、シャリアは好ましく思っている。
「閉門時刻も近いですから急ぎなさい」
「はい、いつもありがとうございます」
ばたばたと片付けを終えたエグザベは、きっと教科書や参考書でいっぱいなのであろう鞄を抱えて立ち上がると図書室の出口へ向かった。
「さようなら、シャリア先生!」
「はい、さようなら」
がばり、と勢いよく礼をするエグザベ。先生と呼ばれてはいるが教師ではないシャリアはそれをむず痒く思いながら、エグザベに手を振る。
たたた、とエグザベが小走りで薄暗い廊下を去る足音が聞こえなくなるまでシャリアは手を振っていた。図書委員の生徒達は既に帰した後で、残っている生徒がエグザベだけなのは確認した。再度図書室をぐるりと見て回って忘れ物が無いかどうかを確認して、ちょっとした締めの業務を終えたら図書室を施錠して、自分も帰宅するだけだ。
「……おや」
そして忘れ物はたいてい、日につき一つか二つは見付かるものだが、エグザベが先まで座っていた机の上に長方形の紙が一枚残されてあった。サイズ感を見るに栞だろうか。忘れ物は回収したら忘れ物ボックスに入れておいて、生徒が問い合わせしてきたら確認して渡す決まりになっている。シャリアは何気なくその栞を手に取り、そこに文字が書いてあることに気付いた。
そして悲しいかなシャリアの特技は速読であり、視界に入った瞬間意識するより先にその文字の内容が頭の中に飛び込んできた。
『合格したらシャリアさんに告白する!!!!』
力強い文字で書かれたその言葉。
その意味を認識した瞬間に、頭が真っ白になった。
(これを、エグザベ君が。告白? 私に?)
彼から見たらずっと年上であろう暗い男に、なぜ彼のような若さ溢れる学生が懸想をするのか……と思いを馳せかけたが、いや待て。
(迂闊すぎるのでは?)
告白しようとしている相手が働いている場所に毎日遅くまで居座る。
それはまあ、いい。大人だって恋に狂えば似たようなことをすることもあろう。まして彼は十八の若い盛りだ。
だが、そこにこの栞を持ち込んで挙句忘れて行くのは、ちょっと迂闊すぎるだろう。
「……っふふ」
エグザベのそんな過ちがあまりに可愛らしくて、シャリアは栞を手に思わず肩を揺らして笑ってしまった。栞は使っていない透明クリアファイルに挟んで、忘れ物ボックスにそっと入れておく。彼の思いはきっと純粋で、大人が粗雑に扱っていいものではないだろうと思えた。
そして翌日、一時限目と二時限目の合間の休み時間に図書室が開いてすぐ。
エグザベが、ひどく焦った様子で図書室に駆け込んできた。
「ああああの、昨日、僕忘れ物を」
「ああ、届いていますよ。これでしょう」
忘れ物ボックスから取り出した栞をクリアファイルごとエグザベに渡す。真っ青だったエグザベの顔に安堵で血色が戻る。クリアファイルごと栞を受け取ってほっと安堵した様子であったのもつかの間、またさあっとエグザベの顔から血の気が引いた。
「あ、あああの、見ました、か」
わざわざ聞かなくてもいいことを聞いてしまうエグザベに、この子は社会に出てから苦労するのではと心配になる。
「何の話ですか?」
素知らぬふりをしてやると、エグザベはぱちぱちと目を瞬かせた。
こういう時は見て見ぬ振りをしてやるのが大人のルールというものだが、彼にはまだ早かったのかもしれない……と。シャリアは、周りに生徒が誰もいないことを確認してカウンターから立ち上がると、そっとエグザベの耳元で囁いた。
「君が卒業したら、聞きますから。頑張ってくださいね」
「ッッ!!!!」
びくり、と勢いよくエグザベの肩が跳ねた。
さっと顔を離してまたカウンターに腰を降ろしてエグザベの顔を見れば、その顔は案の定耳まで真っ赤になっていた。
(ああ、なんて可愛らしいのか)
教育機関に関わる人間として言語道断の、生徒に対して抱くにはあまりに邪な感情。シャリアはそれにそっと蓋をして、いつものようにうっすらと笑う。
「もうすぐ二時間目が始まる時間でしょう、そろそろ戻りなさい」
だから待っていますよ、君が卒業するまで。
ウィッシュ・ベア
※エグザベの過去捏造がある
◆◆◆
「あ、こいつ……」
サイド7での極秘任務の合間、買い出しの体を取った僅かな非番中。ショッピングモールの一角で、エグザベが足を止めた。
隣を歩いていたエグザベが足を止めたので自然置いて行く形になってしまい、シャリアはすぐに足を止めて振り向いた。エグザベは、雑貨屋の店頭で足を止めてディスプレイをじっと見ている。
「どうかしましたか、エグザベ君」
「すみません、懐かしいものを見付けて……」
「懐かしい?」
シャリアがエグザベの視線の先を追うと、店頭に可愛らしくデフォルメされたクマのぬいぐるみのマスコットが並べられていた。色鮮やかなクマたちは皆ポシェットを提げている。
「これ、僕が子供の頃に故郷で流行ってたんです。サイド7にも展開してるんだなあ……」
エグザベは懐かしむように目を細める。
「故郷ですか」
「ほら、皆ポシェットを提げてるじゃないですか。このポシェットに願い事を書いた紙を入れて誰にも見せずに持ち歩くと願いが叶う、っていう噂がまことしやかに流行って……皆それを信じていたかどうかはもう定かではありませんが、流行ってるからとか、可愛いからとかで。僕くらいの歳だと持ってるやつが多かったんです」
「……君は、持っていたんですか?」
「僕は持ってませんでした。妹に誕生日プレゼントであげたことはあったんですけど」
懐かしいなあ、と。そう言って笑うエグザベの目尻が微かに潤んだ。この誠実で真っ直ぐな青年の心の柔らかな部分を丸ごと明け渡された心地になり、シャリアは狼狽えそうになるのをぐっと堪えた。
シャリアはエグザベに恋情を寄せているが、その思いは墓場まで持って行くつもりでいる。しかしそんなシャリアの思いを知ってか知らずか、エグザベは時折こうしてシャリアの心を揺らす。この青年のために何かしてやりたい、とシャリアは常々思っていた。
「折角です、買って行きますか」
「え、あ……」
シャリアの提案に、エグザベの瞳が揺れる。しかしすぐにその頬がぱっと綻んだ。
「あの、折角ならちゅ……シャリアさんとコモリさんの分も!」
「おや、まるでティーンのようですね」
「お嫌ですか……?」
シャリアが軽くからかったものだからエグザベがしょぼんと肩を落とす。濡れた小犬のようなその寂しげな佇まいにシャリアはこれまた動揺を堪えながら、ゆったりと微笑んだ。
「まさか、嬉しいくらいですよ」
そうしてエグザベは手ずから三人分のマスコットを選んだ。エグザベの分はオレンジ、シャリアの分は緑、コモリには青。欲しいのは僕だから絶対に自分が払うと言って聞かなかったので、シャリアは財布になるのを諦めざるを得なかった。
マスコットを三つ持って、エグザベは店内のレジに向かう。シャリアが雑貨店の外で待っていると、程なくして小さなショッパーを手にしたエグザベが戻って来た。
「あの、今キャンペーンやってるみたいでこれ貰いました」
エグザベが、シャリアの分の緑のクマと共に小さなカードを差し出した。ハートに型抜かれたそのカードはよく見ればクマの提げているポシェットに収まる大きさをしている。
「ポシェットの中に入れる、願い事を書くカードだそうです」
そのカードは字を書くには小さすぎるような気がしたが、兎も角そうしてシャリアの手の中には、可愛らしいクマのマスコットとハートのカード。
「そいつのこと、大事にしてくださると嬉しいです」
エグザベが輝かんばかりの笑顔でそう言うものだから、シャリアは「ええ、勿論」と頷いた。あまりに何気なく贈られたエグザベからのプレゼントが手の中にはあって、目の前には喜色満面のエグザベがいる。
この状況で浮かれてしまう私が一番ティーンじみているのではないか……シャリアがそんなことを思ってしまうのも致し方ないのだった。
その夜、サイド7で拠点としているモーテルの一室で、シャリアは同室のエグザベがシャワーを浴びている隙にデスクに向かった。持っている中で一番細いペン先のペンを手に取って、あの小さなハートのカードに、小さな文字で。
『エグザベ・オリベの生涯が幸福なものでありますように』
エグシャリ(?)のプリパラパロ
Twitterでボソボソ呟いた、プリパラパロのまとめ。エグシャリと言うよりそれぞれ単体の方が多い。多分まだ増える。
◆◆◆
私が今見たいパロはエグザベくんとシャアが男プリに行ったらエグザベくんは15歳くらいの姿の「おりべくん」 に、シャアは10歳前後の姿の「きゃすばるくん」になったのでマネージャーのシャリ(たぬき)が「なるほど…………………………………………」みたいな顔してるやつです
おりべくんときゃすばるくんはなんやかんやを経てユニットを結成します
プリパラ、それは夢の世界。
なりたい自分になれる場所。
み~んなトモダチ、み~んなアイドル!
「……とまあ、こう言ったコンセプトのメタバースの試作開発が弊社では進んでおりまして」
「はあ……」
イオマグヌッソでの「事故」後に退役して民間企業に就職したシムスから協力してほしいことがあると言われたので何かと思えば、待ち合わせたカフェでやけにキラキラと派手な装丁のパンフレットを渡されそのようなことを熱弁された。
軍人時代からそうであったように低体温のまま、淡々とそのメタバース「プリパラ」とやらを熱弁するシムス。
何に携わっているかは一度置いておいて元気そうで良かった、とシャリアはサングラス越しにシムスとパンフレットの中身を交互に見ながら思う。
「私は主にハード面を担当しているのですが現在、様々な年齢・性別・職業・国籍のモニターを募っている最中なのです」
「ふむ……それで私にモニターになれと」
「ああいえ、私がお願いしたいのは中佐ではなく」
「おや」
「エグザベ少尉、今は確かあなたの部下ですよね?」
(書こうとして途中で我に返ったプリパラパロ。シムス大尉の中の人がプリマジスタなのはこれ書いてから一か月後くらいに知りました)
エグザベ・オリベ、性格はトゥインクルリボンなのに適性がブリリアントプリンスの男
シャリア・ブルって絶対クール系ブランドなんだけど(似合うけどセレブ系ではない)ホリックトリックかホリックトリッククラシックかは議論の余地があると思うんですよ
ザベはなんか性格がセレブじゃなさすぎるのにセレブ系ブランドが妙に似合うから着せられてる
メルティーリリーのシャリア・ブル、 多分29がプリパラチェンジしたら34になって現実世界に戻った29が我に返って「は?」ってなってるやつ
めが姉ぇ「今日のコーデはエレガンスギャンコーデね! 純白のドレススーツに金色の刺繍が映える、まさに白磁の騎士! 踊る度に揺れる腰のスカーフが華やかなアクセントになっているわ! 優雅で凛々しい騎士のコーデで、みんなを魅了して♪」
ザベ「エレガンスギャン、ハクジコーデ!」
エグシャリのトップをねらえパロ(ツイまとめ)
Twitterでボソボソ呟いた、エグシャリのトップをねらえ!パロとかのまとめ。元ネタは基本無印。トップをねらえ!はいいぞ
◆◆◆
スタジオおよび監督・シリーズ構成コンビの好きな女女およびおねショタの傾向を23歳男性軍人と34歳ヒゲ男性軍人に当てはめたのがエグシャリであるという可能性を否定できないまま放送日になってしまった
真面目(?)な話、お姉様に対する後輩/妹分とか女子高生/謎の女に対する男子小学生といった勾配で風下に来る存在が攻めをやってるみたいなそういうのがずっと好きだなこの人達みたいなところがある一方でgqxのサンコイチは全員17歳で さて彼らと別勢力にしっかりいますね年齢差のある上官と部下が
でも行くところまで行くって行ったの監督だし……その監督の代表作はおねショタと擬似姉妹シスターフッドだし……
↑ジークアクステレビ放送開始日のツイート。フリクリとトップ2のおかげでエグシャリを確信したみたいなところがありますね、なんでだよ
↓ここから放送終了後のツイート
攻め受け平等先天性女体化エグシャリのこと考えてたけどやっぱりトップをねらえ!すぎるな エグシャリって監督達の好きなシスターフッド男体化なんじゃないのか
エグシャリでトップをねらえ無印6話パロが見たすぎるんですよね
宇宙軍の学校で教官をしていたシャリ(40−50代)が宇宙怪獣の大量出現に伴って戦列に復帰するため昔の相棒のザベに10年以上ぶりに再会するんだけどずっと宇宙にいたザベ(実年齢30代見た目は20代のまま)はウラシマ効果でシャリとは体感せいぜい半年ぶりの再会のやつ
ザベはシャリアとの温度感の違いに戸惑いながらシャリアさんはやっぱり綺麗だなぁ……って思っていて欲しいし戦闘になれば違和感も帳消しになるくらいあの頃と同じで安心して欲しいし二人きりで地球を救って一万年後の地球に辿り着いて欲しい
この場合地球には「パパがパパの友達と会えますように」と七夕の短冊に書いているミゲルの息子がいます、あのシーン大好き
エグザベ・オリベのプリズムアフレコ(小ネタまとめ)
Twitterでボソボソ言ってた小ネタ(キンプリ(アニメ)パロ)のまとめ+αです。
◆◆◆
キシリア派に指導されていた時は心が何かに縛られているような気がしてせいぜい二連続までしか跳べなくて才能あるのに鳴かず跳ばずだったエグザベ君がシャリアに一時的に預けられたところ四連続跳べるようになるやつをですね。ジャンプと言ってもプリズムジャンプの話なんですが……
エグザベ・オリベのプリズムアフレコ、相手役がどう見てもザベより体格いい男だし髭も生えてる
♡(M)「デートの終わりにエグザベ君の部屋に招待された」
エ「あっあの、シャリアさん!」
♡「な、なんでしょう」
エ「僕、幸せです。これで本当の意味で貴方と二人きりになれた」
♡「エグザベ少尉……はっ!」
エグザベ、♡に抱き付く。
エ「今だけは、世界の全てからあんたを独り占めさせてください」
♡「きゅ〜ん!」
公国最強NTは可愛い部下に絶対脱がせたくない
※最終回後、ブロマンスのシャアとシャリア
※多分一応エグシャリ(ややコモエグ)
◆◆◆
「エグザベ少尉に脱がせないために私と一緒に脱いでください」
「なんだって?」
カレンダーの撮影に協力して欲しい──ジオン公国はアルテイシア公王のシークレットサービスよりそう書かれた書簡が地球に滞在中のシャア・アズナブルの下に届いたのは、シャアが日雇い労働の土木作業に勤しんでいる最中のことであった。
「シャアさん何かやらかしたの?」
書簡を届けに来たアマテ・ユズリハ及びニャアンのじっとりとした視線に、シャアはさてと首を傾げた。
「心当たりはないな」
「ホントにぃ?」
「本当だとも」
その書簡はこの時代に珍しく直筆の手書きで、その筆跡には見覚えがあった。かつての部下であり、MAVであり、そしてシャアをジオンから放り出した張本人──シャリア・ブルのものだ。
「まあいい、随分回りくどいことをする男だ。あんな口を叩いておいて私の力が必要になったということであれば馳せ参じてやろうじゃないか」
「ヒゲマンに拳骨されそう」「懲りてないのかも」
マチュとニャアンが何やらこそこそ言っているが、シャアはどこ吹く風であった。
端的に言ってこの時シャアはちょっと浮かれていた。あのような別れ方をしたとは言え、友人である男にこうして頼られる己に酔っていたと言い換えることも出来る。
それゆえ、元軍人として思ってしまったのだ。カレンダーの撮影とやらは何かの隠語であろうと。
それが字義通りの依頼である可能性など何一つ考慮せず、シャアは数年ぶりにサイド3に「シロウズ」という偽名で渡り、書簡に指定されたビルへ足を踏み入れ、エントランスで来客として案内されたフロアに通され、そうして冒頭のやり取りに至った。
そこにあったのはスクリーンバック、カメラ、レフ板。そして慌ただしく動くスタッフ達、そして黒を基調としたシックな服に身を包んだシャリア・ブルが、そこにいた。
「まずこちら、ジオンの財政状況をまとめた書類です」
楽屋でシャアはシャリアと二人向かい合っていた。シャリアはシャアにタブレットを見せる。タブレットには表やグラフの載せられた画面が映っている。
「現在のジオンは非常に懐が苦しい状況にあります。ザビ家による旧体制下における軍備増強、中でもビグ・ザムなどという金食い虫が量産されおまけにイオマグヌッソなどという愚か千万の巨大兵器が建造されたことが大きな原因として挙げられます。イオマグヌッソに至っては先の『事故』に伴い各国への賠償金支払いも発生しまして、ええ、率直に申し上げて火の車です。現在アルテイシア様が財政立て直しに尽力なさっておりますが、それでもまだまだ厳しくはあります」
「な、なるほど」
シャリア・ブルの目は据わっていた。今だけではない、今日初めて顔を合わせた時から、その目は何か凄まじい覚悟を決めいてるかのようであった。
「そこでアルテイシア様が考案なされました。『ジオン軍人カレンダー』を作って売ろうと」
「なんだって?」
「連邦でもそのような物があるそうで。軍人の中でも特に顔や体格の良い者を集め、脱がせ、あるいは美しい格好で着飾らせた写真でカレンダーを作る。当然売り上げは国の物になります」
「ふむ、それで財政の一助にしようというわけか」
我が妹ながらなかなか思い切りのよいことを考えるものだ……と感心するが、そこではたと気付く。そのカレンダーの撮影現場に自分が呼ばれているということは、自分はそのカレンダーの被写体に選ばれているという事ではないのか。
「そして、アルテイシア様からの伝言です。『兄さんがイオマグヌッソに搭載した予算度外視びっくりどっきり変形機構でイオマグヌッソの建設費は当初の三倍に膨れ上がったことが調査で判明しました。職業体験ついでに多少なりとも体で支払ってこれまでの所業を反省してください』。伝言は以上です。貴方をこの企画に呼ぶことを提案したのはアルテイシア様です」
シャアは絶句した。
最初に自分を脱がせようとしたのは妹だった。
「アルテイシア様は貴方のことを心配しておられる。なので見張るついでに定期的に様子を見ろと私に仰りますが、それも貴方がソロモンをグラナダに落とそうとしていた件は未だに許しておられないゆえです。多少なりとも償う意思をここで見せておくのが得策と存じますね。でないとアルテイシア様が貴方を殺してしまう」
「……それが、軍人カレンダーだと。素顔で」
何故。何重かの意味で。
「亡命中のガルマ様は貴方のご友人、ミネバ様はザビではなくお母方の姓を名乗っておられる。ダイクン家に敵対するザビ家は事実上消滅しています、貴方の素顔を見られたところで困ることもないでしょう。困ることになれば我々が動きますし」
「……そう、だな」
言われてしまえば、その通りであった。長年の習慣として常にサングラスを掛けているが、それ本当に要りますか? とララァ・スンには何か見透かしたような笑顔と共にいつも言われている。
「とは言え貴方は公王庁関係者の一般モデルとして参加することになっていますし、顔が完全に出ないような形での撮影も可能と聞いていますから、そこの選択は貴方にお任せします」
「……まあ、私に多少選択の自由があるのなら良いだろう」
強引なようで妙に気配りされているのを感じ、それが有難い一方で気に食わないような心地でシャアは鼻を鳴らした。
「で、なんだ。アルテイシアではなく貴様が私を脱がせようとする理由をもう少し詳しく聞かせろ。可愛い部下のためだと?」
「はい」
シャリアは頷くとタブレットを引っ込め、手元で軽く画面を叩いた。
「お察しの通り、彼もこの企画に呼ばれていましてね。私は上官権限で断るつもりだったのですが、どうしてもと企画部に土下座までされてしまい、エグザベ少尉本人が折れて参加する形になりました」
シャアはエグザベ・オリベと直接の面識はないが、コモリという少尉共々シャリアが随分可愛がっている部下らしい、ということはマチュとニャアン越しに聞いている。
シャリアが再度差し出したタブレットには、少尉の制服を着た若い男の写真が表示されていた。休憩中の瞬間なのかソファに座って菓子を手にしているが、どうにも笑顔が硬い。
「こちらが彼の写真です。見ての通り写真は苦手なのですが、とても大衆受けする顔をしていましてね。企画部は彼を脱がせる気満々でした。しかし私及びコモリ少尉は、彼に軽々に脱いで欲しくないのですよ。我々が彼を可愛がっているというのもありますが、彼の情緒はまだカウンセリング通いが必要なレベルなもので」
「……なるほど」
話が見えて来た。エグザベ少尉を脱がせたい企画部、そして脱がせたくないシャリア・ブル。その間でどのようなやり取りがあったのか、考えても無駄だろうとシャアは思った。
この強情な男が企画部相手に弁論で切った張ったした結果が自分そして「公王庁関係者の一般モデル」の半裸なのだろう。
「そういうわけなので大佐。エグザベ少尉とアルテイシア様のため、向こう一年だけ私と一緒に人身御供になってください」
これから挑むのが軍人半裸カレンダーでなければ最高に心ときめく殺し文句と言えたかもしれない……とシャアは自分の目が遠くなるのを感じた。私のMAVはあまりにも逞しすぎるな……としみじみしたところで、ふと閃いた。
「……『灰色の幽霊』相手にその条件で飲んだ企画部も一体何者だ?」
「前線を退いた独立戦争従軍者揃いです」
「尚の事何者なんだ」
自分に逃げ場がないことを悟ったシャアは深々と溜息を吐き出した。しかしそれは思いの外嫌ではなく、アルテイシアやシャリアが自分を案じた結果でもあることを思うと愉快ですらある。
顔を出す出さないは好きにしろと言われたが、仮面を脱いだ素顔を世間に晒すのは心に未だ巣食う『赤い彗星』という呪縛からの解放であり、己は最早何者でもないという自由の表明のように思えた。それはなんと清々しいことか。
「……いいだろう。貴様の提案を飲んでやる、シャリア・ブル」
知らず知らずに笑みを浮かべながら、シャアは正面のシャリアを睨む。そしてシャリアもまた、口角を上げる。
「ご協力感謝します」
こうしてジオン独立戦争の二人の英雄は、少なくともシャアはそうと知られることなくジオン軍人カレンダーでその鍛え上げられた、あるいはしなやかなその肉体を被写体としてカメラの前に晒すことになった。
軍人カレンダー発売後、しなやかに筋肉の付いた裸身を晒す美しい顔の半分を長い前髪で隠した物憂げな金髪の男(正体不明)の登場に、ジオンのSNSは大いに湧いた。
そしてシャアの撮影現場を見ていたシャリアは、カメラマンの要望に片っ端から応え何なら少し調子に乗ってすらいたシャアを見て、何事も体験だからとやらせてはみたがこの人に芸能関係の仕事をやらせると大衆の偶像が形成されてしまう恐れがあるな……とひっそり学んだのだった。
さて、一方企画部肝入りとして、エグザベ少尉は全身かっちりとした白い燕尾服に身を包んで教会を背景に撮影を行い、こちらの写真は「軍人カレンダーの脱いでない方バージョン」の六月に使用された。
これはこれでシャリア・ブルとコモリ・ハーコートが大騒ぎすることとなり、そんなシャリアにシャアは呆れ果てることになったのだが、それはまた別の話。
少年と幽霊
※ショタザベ(人間)×木星シャリ(怪異)の現パロ。
※CP要素はまだ薄め。続くかもしれないし続かないかもしれない。続いたらエグシャリになる。
◆◆◆
エグザベが「ゆうれいさん」の存在に気付いたのは、間もなく小学生になろうかという頃だった。
休日に家族で公園に遊びに行った時、木立の中に紛れるようにしてその男は立っていた。
伸び放題の髭とぼさぼさの髪に汚れた作業着を着ているその男は、灰色だった。まるでその男がいる場所だけ、世界から色が無くなったかのように。
父親とキャッチボールをしていたエグザベはその男に気付いて、ボールを手にしたままその男を見詰めた。その男の存在はこの明るい昼下がりの公園において間違いなく異質であり恐ろしいと感じたのに、エグザベは男から目を離せなかった。
その灰色の男はどこを見ているのかも分からなかったが、ふとゆっくりと首を動かした。伸びた前髪から、男の目が覗く。ぱちり、と目が合った。その男の目が、全てを吸い込む底なし穴のように見えて。エグザベが小さく息を飲んだ時、父が自分の名を呼ぶ声がした。すると辺りからはしゃぐ子供の声や鳥の鳴き声がエグザベを包み込むようにわっと湧き上がり、エグザベはこの時、自分はしばらくの間何も聞こえなくなっていたのだと気付いた。
父の方に視線を向けると、数メートル先でグローブを着けた父親が立ってグローブをはめた方の手を振っていた。エグザベは慌ててボールを投げ返してから、また木立の方を見る。先までそこに立っていた筈の男の姿は既になく、エグザベは目を瞬かせた。
自分は何を見たのだろう、と首を傾げながらも、エグザベはそのまま父親とのキャッチボールを続けた。
それから、その灰色の男はその後時折エグザベの行く先々に現れた。そして自分以外にこの灰色の男は見えないのだとエグザベが気付くのにもそう時間は掛からなかった。
あの人は「ゆうれい」なのではないか……テレビで放送される心霊特集バラエティを見て、エグザベはそう考えた。テレビの中の「ゆうれい」はそこにいるだけで人々に怖がられ、あるいは手形を壁やガラスに残したり、誰もいないはずの場所で物を動かしたりしている。そして「ゆうれい」は、見える人と見えない人がいる。
だからテレビが言うようにあの男の人はきっと「ゆうれい」なんだ。でも何か悪いことをするわけでもなく、ただ黙ってそこにいて、時々僕を見るだけだ。
──ぼくだけにみえる、ゆうれいさん。
そう思った時、どういうわけか胸がとくんと鳴った。
そしてこれは「ときめき」と呼ばれるのだと……そう、単語だけは知っていた心の動きを、エグザベは生まれて初めて自覚したのだった。
「あなたに首ったけ」
あまりにも浮かれているのではないか、と。
恋人に贈るプレゼントが入った紙袋をショップで受け取りながら、シャリアはそう我に返った。
明日は交際を初めてから初めて迎えるエグザベの誕生日であった。
せっかくなら何か特別なものを、と考えたシャリアは、エグザベの喜びそうな、それでいて実用的なものを、と考えてネクタイを贈ることにした。
それもただのネクタイではなく、シャリアが愛用しているブランドの物を。
そうしてショップに足を運ぶと、自分のネクタイと色違いの新作が出ているのを発見してしまった。黒にペールグリーンのコントラストが美しく、自分が使うには少し若すぎる気がするが、エグザベのような若く美しい青年にはとても良く似合うだろうと思い、シャリアはそれをプレゼントとして選んだのだ。
ところがいざ美しい化粧箱に入ったそのネクタイを店員に見せられ、包装紙に包まれたその箱をショッパーごと受け取ったシャリアは今更に我に返り、そして気恥ずかしさが込み上げてきたのだった。
そうは言っても当日は誕生日祝いのディナーの予約が入っている。エグザベはモビルスーツの調整のために出勤予定なので、レストランに入っているホテル前で待ち合わせてディナー後は部屋まで取ってあるのだが……冷静に考えて、自分は何から何までは浮かれ倒して恥ずかしいことをしているのでは? と、我に返ってしまったことをきっかけに自分が組み立てた予定を次から次へともう一人の自分が指摘してしまう。
お揃いのネクタイを贈った挙句ホテルの部屋を取ってあるのは、それはもう……十一も歳下の恋人相手にやりすぎ浮かれすぎなのではないか。
プレゼントとしてネクタイを贈る意味をエグザベが知っているかどうかは怪しいが、ホテルに部屋まで取られたらもうあまりにも分かりやすいのではないか。いやしかし、自分にはろくな恋愛経験がないので加減とか程度というものが分からない。三十代半ばの人間がする恋愛であればこれくらいはごく一般的なのでは?
地下鉄に乗っている間から慣れた家路までぐるぐるとそんな益体もない思考を巡らせながら帰宅すると、トマトスープの良い匂いがする。合鍵で入ったエグザベが夕飯を作っているようだ。
ショッパーをそっとクローゼットの奥にしまってからキッチンへと足を運ぶと、エプロン姿のエグザベがまさに火に向き合っているところだった。
「ただ今帰りました」
「あ、シャリアさん! お帰りなさい」
声を掛けると、エプロン姿のエグザベが振り向いた。
「間もなく出来るので、少し待っていてください。今日はハンバーグとミネストローネです」
お玉を手にそう言って微笑むエグザベは、古典的表象における若妻とはかくやと言わんばかりの可愛らしさ。抱かれているのは自分の方なのだが。待て、なんだこのホモソーシャルに染まったあまりにも中年くさい思考は。自分はまだそこまでの歳ではないはずだ。
キッチンがよく見えるダイニングテーブルに腰を下ろし、いそいそと動くエグザベをアイスティーを飲みながら眺める。
交際を初めてから、一人だと食事を適当に済ませてしまうシャリアのためにエグザベは料理を練習して、共に過ごせる時は手作りの食事を用意してくれるようになった。
初めはホットサンドとインスタントのスープだったのがみるみる腕を上げ、今や手作りハンバーグとミネストローネである。そんな努力がいじらしいのもあり、シャリアは完全に胃袋を掴まれてしまった。
キッチンからハンバーグの焼ける匂いが漂い初め、シャリアは目を細めた。
初めての恋人にここまでされてしまっているのだから、浮かれてしまうのも仕方ないか、と。ひとまず、今日はそんな自分を受け入れることにしたシャリアなのであった。
10 years after
ジオン公国のアルテイシア総帥即位から十年が経っていた。
アルテイシア自身が初めからそう望んでいたようにジオンはゆっくりと共和制に推移し、「ジオン共和国」成立から五年経った今では、ジオン国内の治安は随分と安定を取り戻したと言える。
そうしてジオンの安定を認めたエグザベ・オリベとシャリア・ブルもまた、人生の転換点を迎えた。
荷物を新居に運び込み終えた引っ越し業者のトラックを見送り改めて新居のドアをくぐりながら、エグザベはつい頬が緩みそうになるのを必死で堪えた。もう三十三になるというのに、ことシャリアのことになると感情が素直に表に出てしまうのを抑えられない。それは君の可愛いところでもある、とシャリアは笑うが、もう出会ってから十年経つのだ。ピカピカの新卒少尉であったあの頃とは違うのだと見せ付けてやりたい思いくらいはある。
リビングに足を踏み入れると、ソファに腰を降ろしているシャリアがローテーブルに置いたケトルで湯を沸かしていた。エグザベが戻って来たのを認めたシャリアは、柔らかな微笑みを浮かべる。
「疲れたでしょう、インスタントですがコーヒーを用意します」
「ありがとうございます」
エグザベはシャリアの隣に腰を降ろし、その体に緩く腕を回す。初めて出会った頃、そして正式に恋人関係となった頃と比べると随分痩せた。最近はデスクワークが増えたとは言え政権交代後の数年間は激務に次ぐ激務を潜り抜けてきたのだ、その頃に失った体重はまだ完全に戻っていない。自分がそうさせたという自覚もあってエグザベは少し複雑な思いと共にシャリアを抱き締める。
「こら、コーヒーが淹れられないでしょう」
エグザベの思いを知ってかあえて無視してか、シャリアは呆れたようにエグザベの手をぺちんと軽く叩いた。勿論痛くもなんともない。エグザベはそれがとてもむず痒く思えて、誤魔化すようにシャリアの耳元で囁いた。
「お湯が沸くまで……」
「すぐに沸きますよ」
シャリアは呆れて言いながら、エグザベの髪を梳くように撫でた。その感触が心地よくて、小さく喉を鳴らす。
シャリアの言う通りにケトルはすぐに湯が沸いたことを知らせ、エグザベは渋々シャリアから体を離す。シャリアは丁寧な手つきで、二人分のマグカップに湯を注いでインスタントコーヒーを淹れていく。インスタントとは言えシャリアが気に入っている銘柄のそれは豊かな香りをリビングに立ち昇らせた。
右手でマドラーを持ったシャリアはカップを押さえながらコーヒーをかき混ぜる。カップを押さえる左薬指に光る銀色の指輪に、エグザベは思わず言葉を詰まらせた。
「どうしました、エグザベ君?」
シャリアがエグザベにマグカップを差し出した。九年前だったか、シャリアの監視という名目で同じアパートに住んでいた頃に買った、色違いの揃いのマグカップの片割れ。シャリアはオリーブグリーンを、エグザベはオレンジを。それらは今もシャリアの手の中にあって、新居で初めて飲むコーヒーで満たされていた。
長かった、と、シャリアからマグカップを受け取りながらエグザベは思う。
思いを自覚してから十年、恋人関係になってから九年、それから正式に籍を入れるのにこんなに時間が掛かるとは思わなかった。それでも、どれだけ時間が掛かっても、確かにここまで来たのだ。
「……今日この日を迎えられて、本当に良かった」
エグザベが呟くと、シャリアは目を細めて「そうですね」と笑った。
「我々がプライベートを優先しても問題ないくらい、ジオンは安定しました。君とコモリ大尉が頑張ってくれたお陰でもあります」
「貴方が一番働いていたじゃないですか。僕とコモリ大尉にどれだけ怒られても、そんなに痩せるまで」
涙声になりながらエグザベはコーヒーを口に運ぶ。コーヒーはゆっくりと喉を通り、体を温めていった。
「でも、もういいんです」
エグザベはマグカップをローテーブルに置いて、シャリアの膝にそっと手を乗せた。エグザベの左薬指にも、シャリアと揃いの指輪が光る。
「道程はどうあれ、僕達はここまで来た……僕達はやっと、家族になれたんです。僕はもう、それだけで幸せです」
シャリアもマグカップを置くと、エグザベの手にそっと己の左手を重ねた。重なる温かな体温にエグザベは口元を綻ばせ、そっとその手を掬い上げると手の甲に口付ける。
「……改めて、これからは家族として。よろしくお願いします、シャリアさん」
エグザベの言葉にシャリアは顔を赤くしながらも、「こちらこそ」と珍しくはにかむような笑顔を見せたのであった。
with you.
ここではない何処かに行きたい、とまでは言わない。
ただ漠然と、見たことのないものをこの目で見てみたい。
エグザベの中にそんな想いが芽生え始めたのは、ジオンが新体制となってから一年ほど経った頃だった。
正式なジオン国籍を取得しているとは言え、難民上がりゆえにいつでも吹けば飛ぶような価値の命で生きるために失敗は許されなかった旧体制下。その頃と比べれば今の職場は随分恵まれていて、真っ当に人として扱われていると感じる。
だからなのか、同僚のコモリ曰く「極まった無趣味」であったエグザベは少しずつ趣味や好きなものを意識するようになり、その中で風景写真を見るのを好むようになった。
雄大な山脈や果てしなく広がる海原、鏡のように光る湖と、それらは主に地球の風景を写した写真であったが、一際エグザベが心惹かれたのは極地や雪原……雪景色の写真だった。
自分のギャンを思わせる白銀の雪。地球の一部地域では、冬になると大気の作用によって空から雪が振り、世界を白く染め上げるのだという。恐ろしくもあるが、なんと美しいのだろう。
雨はコロニー内部で降ることもあるが、雪をわざわざ降らせるようなコロニーは観光用途以外で存在しない。きっとほとんどのスペースノイドがそうであるように、エグザベは雪を見たことがない。
(いつか、見てみたいな……)
「なるほど、君が今興味を持っているのはそれですか」
「わっ!?」
背後から声を掛けられ、ソファの上で跳び上がるエグザベ。その拍子に膝の上に乗せて読んでいた写真集がカーペットの上に音を立てて落ちたので慌てて拾い上げた。図書館で借りてきた物なのだ、傷つけるわけにはいかない。それから振り向くと、同居人にして恋人のシャリアがバスローブ姿で立っていた。
「驚かせてしまい申し訳ない……と言いたいところですが、珍しく気付かないとは随分集中してようですね」
「あ、いえ、集中といいますか……」
四人掛けソファのすぐ隣にシャリアが腰を下ろす。シャワー上がりの高い体温がすぐ側にあるので、エグザベの心臓がつい跳ねた。しかし動揺している事を押し隠すポーズくらいは取りたくて平静を装う。
「今日、図書館で借りてきた写真集の写真があまりに綺麗だったので。いつかこの目で見ることが出来たら、と」
エグザベは写真集を持ち上げて、シャリアに表紙を見せる。『地球・雪の世界』というシンプルなタイトルのその写真集を見て、シャリアは顎に手をやった。
「ふむ……地球ですか。以前任務とマチュ君達の訪問を兼ねて訪れたのは赤道に近い地域でしたから、こうした景色とは無縁でしたね」
「はい。僕の中での地球って、ああいう青い空と海に高い気温と湿った空気ってイメージだったんです。学生時代の地球降下訓練は一瞬でしたし……だからこんな景色があるとは思わなくて、図書館で写真集を借りてきてしまいました。いつかこの目で直接見てみたいです」
エグザベは写真集を開くと、山の中に建つ古城が雪で白く染まった写真を撫でた。この写真は一際気に入っていた。
「そうですか。渡航時期を選ぶ必要はありそうですが……君ならすぐに旅費も貯められそうだ」
どこか他人事のようなシャリアの言葉に、エグザベの胸がじりりと焦がされた。
もうとっくに恋人関係だと言うのに、少なくともエグザベはそう思っているのに、この人は時折こうしてやけに他人行儀な態度を取る。距離を取るような、わざとエグザベから離れようとするかのような……これが試し行為ならまだ良かったのだが、残念ながらシャリアのこれは無自覚だ。
いい、分かってる。こんなの今に始まったことじゃない。だから何度だって。エグザベは写真集から顔を上げて、眼前のシャリアを睨むように見詰めた。
「あんたの旅費も僕が稼ぐからな」
シャリアは何も言わずエグザベを見詰め返している。その翡翠の瞳の中の虚無のその更に奥にまで届かせるように、エグザベは啖呵を切った。
「あなたも一緒に来るんだ。……僕の見たいものを、あなたにも見てほしい」
「……」
シャリアの長い睫毛が揺れて瞼が降りる。また瞼が上がった時、その瞳の奥には小さな光が灯っていた。そしてくすりと肩を揺らして笑う。
「……やっぱり、君には敵いませんね。そう言われると、私分の旅費は私が持つので一緒に行きますと言いたくなる」
「言えばいいじゃないですか、僕より稼いでるだろ」
「ええ、そうですね。……君の旅に、私がついて行っても?」
「付いて来いってさっきから言ってます」
子供みたいな拗ね方をしている自覚はあった。そしてそんな自分の子供じみた仕草をシャリアがいたく好んでいることも知っている。
だけど少し拗ねて見せるくらいは許して欲しいとエグザベは思う。どれだけ思いを伝えればこの人に全部伝わるというのだ。
「……ありがとう、エグザベ君。楽しみにしています」
そんなエグザベに、シャリアは更に距離を詰めてその身体に両腕を回した。慈しむような抱擁に、エグザベの中の拗ねる思いはあっという間に萎んでいく。
(僕だって、こういう時のこの人には敵わない)
だから僕は、この人と一緒に旅をしたいのだ──その思いはきっと筒抜けているのだろうが、構うことなくエグザベもまたシャリアを抱き締めた。
