音もなくほどけた緑髪が彼の背中に流れて項を隠すのを見て、はっと夢から醒めたような心地になる。
彼の向こうに見えていた彼の人の面影はいつの間にか潜められ、羊飼いの英霊がこちらを見て少しだけ困ったように笑っていた。
「そんなにじろじろ見て、どうかしたのかいマスター?」
「……ごめん。何でも」
髪結んでたなんて珍しいね、とか、言える事はある筈なのに、その言葉が言えない。だって、自分が今見ていたのは彼ではなく。
もう一度、羊飼いの方を見る。
彼の人の面影はもう見えなかったけれど、その瞳に煌めく新緑は、彼の人と同じ色をしていた。
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一日限りの逃避行(ぐだダビ)
「……こんな時間が、ずっと続けばいいのにね」
燃え上がるような夕陽を前にして陳腐な言葉しか言えない自分の貧弱な語彙が惜しい。それでも、ベンチの隣に座るダビデ王は「そうだね」と言って笑ってくれる。
レイシフト先でダビデの魔力を使ってカルデアからのありとあらゆる追跡手段を絶つことで手に入れた、たった一日限りの正真正銘の二人きりの時間。
一日だけでいい、ダビデと二人きりになりたかった。理由は分からない、曖昧なままここまで付き合わせてしまったのに、結局二人きりで一日過ごしても分からなかった。
「……ありがとう。俺の我が儘に付き合ってくれて」
「僕は君のサーヴァントだからね。満足出来たかい?」
「……うん」
「それは良かった」
ダビデは微笑むと、飲んでいたカフェオレの缶をベンチに置いた。
「……さあ、そろそろ時間だよ、マスター」
燃えるようなオレンジの光がダビデに降り注ぐ。若草色の髪は光に呑まれ、一瞬光の色に染め上がった。どこか悲しげだが優しい笑顔の中若草色の瞳だけがそのままで。
俺が声を上げる間もなく、意識はぷつんと途切れ闇に閉ざされた。
blessing for you(再録)(ぐだダビ)
本番描写はないですが魔力供給をするにあたりマスターが童貞です。
一・五部までのネタバレとか原典からの自己解釈とか色々注意。
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夢を見た。
どんな夢かは具体的には覚えていない。
ただ、その夢が暗く、重く、痛く、苦しく、寂しく……喪失感に満ちていた事だけは、目が覚めた時酷く胸に迫ってきた。
恐らくサーヴァントの誰かの夢なのだろうと思う。誰の夢なのかは分からない。ただ、その夢を見ていた誰かがそっと夢から自分を出してくれたような気はした。
ぼんやりする頭を押さえながら、時計を見る。六時半。起きるには丁度良い頃合いだ。
ふと、無性にあの羊飼いと話がしたいと思った。