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うけとめて(★)(和愁)

 虎石が根は割と繊細な事は知っているが、それにしたって今回は相当だな、と虎石の余裕のない表情を見ながら考える。だがそれはすぐ脳内を駆け巡る快感で塗り潰された。
 ゆっくり突き上げられながら、自分を見つめるグレーの瞳を覗き込む。当たり前だが、こいつの目には俺しか映っていない。
 腕を伸ばして背中に手を回してやると、甘えるように身を寄せられた。
 耳元で何度も名前を呼ばれるのであやすように背中を叩いてやると、ベッドと俺の体の間に手を滑り込ませて強く抱き締めてきた。密着する体温に僅かな安心感を覚えて俺は目を閉じた。
 何があった、とは聞かない。聞いてやらない。ただこうして受け止めてやればそのうち大人しくなって、明日になればけろっとしているだろうから。
 虎石の肩に小さく爪を食い込ませてやると、皮膚に僅かな赤が咲いた。それを見て思わず笑みを深める。
 今は、思う存分俺だけを抱いていればいい。

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please tie me(★)(再録)(和愁)

「愁はさ、なんでオレに抱かれたいって思ったわけ」
 急にそう聞かれ。
「……抱いてる最中に言うことじゃねえだろ」
 そう言ってやると、「それもそっか」と笑いながら虎石は空閑を深く奥まで抉るようにして突き上げた。
「っ……!」
 空閑は頭の中で弾ける光と全身を電流のように駆け巡る快楽による浮遊感から逃れるようにベッドシーツをきつく握った。だが虎石によってシーツを握る指はほどかれ、替わりに虎石の指が絡みつき空閑の掌をシーツに固く縫い止める。もう片方の手首もシーツに押さえつけられ、ベッドに固定されているような形だ。
 自由が効かない体勢にもかかわらず、目の前の男に抱かれながら縛られているような感覚に、空閑はひどい陶酔感を覚えて思わず口角を上げた。それを見た虎石は呆れたように笑う。
「……愁、ほんとこの体勢好きだよな……腰きつくねえの」 
「別に。お前の顔が見えるだろ」
「っ……」
 目の前の虎石の顔が赤くなるのと同時に自分の中の虎石が大きくなるのを感じ、空閑は笑みを深めた。
「ほら、来いよ」
 挑発するように言い終わると同時に、唇は唇で塞がれた。何度も角度を変えながら重なる互いの唇の柔らかさをたっぷり味わいながら、舌先を擦り合わせる内に混ざり合う唾液を空閑は必死で飲み込んだ。
 ぐちゅぐちゅと音を立てながら何度も抽送し、浅いところから奥まで、虎石は空閑の感じるところを自身で押し潰すようにしてひたすらに、けれど優しく蹂躙する。
 空閑は自身が奥まで暴かれる度に甘い声を漏らす。
「はぁっ……! ぁ、んぅっ、ふっ……」
「はっ……愁の中、すげえ気持ちい……」
 虎石によってベッドに繋ぎ止められている安心感で、空閑は躊躇無く快楽に身を委ねることが出来た。もっと深く繋がりたいと腰に脚を絡めると、虎石は呆れたように笑う。
「愁、ほんっとオレのヤんの好きだよな……」
「んっ……はあ、お前だから、な」
「はっ……」
 ぼっ、とまた虎石の顔が赤くなり、腰が止まる。
 女となら散々遊んで来ただろうに、俺相手だとこの反応。空閑は愉悦を覚えながら目を細め、それを見た虎石は恥ずかしそうに目を反らす。
「ほら、動け」
 強請るように空閑が腰を動かすと、虎石は「ああーっくそっ!」と呻きながら勢いよく空閑に腰を叩き付けた。
「んぁっ、あっ!」
 突如与えられた脳の許容を軽く越えるほどの快楽に目が眩み、空閑は全身を震わせた。虎石は空閑の最奥まで何度も抉って責め立てる。快楽の海で溺れそうで、上手く息が出来ない。
「愁……愁、愁っ」
「はっ……あ、ぁあっ」
 何度も名前を呼ばれながら奥まで暴かれ、上手く酸素が行き渡らないまま快楽だけを与えられる脳にその情欲で濡れた声は容易く染み込んでいく。自分の喉から漏れるのは意味を持たない喘ぎ声だけだ。
 虎石はその喘ぎ声すら逃すまいとまた唇を重ねてくる。呼吸は苦しくなるばかりなのに、唇に感じる柔らかい感触に縋っていると、何故かいつもより深く呼吸出来るような気がする。
 体の内側を波のようにせり上がってくる感覚に、空閑は無意識に笑みを深めた。そして、声無き声で呟く。
 
 ──お前に縛られてなきゃ、こんなに気持ち良くならねえよ。

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海に行こうよ(再録)(和愁)

虎石の片思い系和愁。

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 海行きてえ、土曜の夜に部屋まで押し掛けてきた虎石は急にそう言い始めた。
 
「は?」
「海だよ海。明日晴れるみたいだしちょうどよくね?」
「はあ」
 ちょっと愁借りるぜ、そう月皇に言い残して寮の外まで連れ出されるのはいつものこと。そして、急に遊びに行きたいと言い始めるのもよくあることだったりする。
「で、愁は明日空いてる?」
「……空いてる」
 だが、その虎石の急な思い付きに俺が付き合えることはなかなかない。
 それを思うと、良い予感に心がざわめいた。虎石はそんな俺の内心を知ってか知らずかニヤリと笑った。
「っしゃ! んじゃ明日行こうぜ、電車使って」
「バイクじゃなくてか」
「いーじゃんたまには。あんま遠くないとこにすっから」
「ったく……」
 バイクの方が楽だろうが。
 そう言いたい俺の内心を理解しながらウインクしてくるこの幼なじみにつくづく弱い自分を自覚しながら、俺は一つ溜め息を吐き出した。
 
*** 
 
「うわーっすげえ、意外と綺麗な海じゃん」
 虎石に連れて来られたのは、海に面した大型のショッピングモールだった。
 海と言うからてっきりどこかの海岸かと思えば。
 海に面した広場は公園のようになっており、芝生が植わった斜面には海に向かって白い石のベンチがいくつも並んでいる。今日のように晴れた日には日向ぼっこに丁度いいのかもしれない。
「ほら愁、ここここ」
 二つ並んだ一人一つ分の大きさのベンチが空いているのを上手く見つけ、虎石は俺をベンチに座らせた。ベンチはベッドのように寝転がることも出来るよう作られている。ベンチに横になると、雲一つない空の蒼が目に刺さるようだった。
「愁、そこで待ってろよ。なんか買ってくるわ」
「おう」
 虎石が行ってしまったので、俺はぼんやりと海を眺めた。海と広場の境界に立つ白い柵越しの海は、虎石が言ったように確かに思ったよりも綺麗な青をしていた。時々白いカモメが視界を横切り、柵に止まってはすぐに飛んでいく。風に乗った潮の香りが鼻をくすぐるので深呼吸してみると、ふわふわとした眠気が忍び寄ってくる。すると強い日差しと程よい気温の高さが急に心地よく感じられて、俺はそのまま眠気に逆らわずに目を閉じた。
 
「お待たせ~……って」
 オレが両手にプラスチックのカップに入ったアイスコーヒーを持って戻って来ると、愁はベンチで横になって目を閉じ、すやすやと夢の中だった。
「不用心だぞ……ったく」
 愁の隣のベンチに座り、ドリンクはベンチの肘置きに置く。自分の分のアイスコーヒーを飲みながら愁の寝顔を見ると、あまりに気持ち良さそうな寝顔に起こす気も起きなくなる。
 せっかくの二人きりで出掛けられるチャンスなんだけどなあ。愁は一人で夢の中。んなこと愁は気にしてないんだろーけど。気にしてんのオレだけかよ。
「……ま、バイトで疲れてるだろーしな」
 バイトが休みの日はなるべく自主練か寝るかしていたい愁がこうやってオレの思い付きに付き合ってくれるだけラッキーだ。
 起きたらたっぷり振り回してやるから、それまでゆっくり寝てろよお姫様。
 なんて気取ったことを内心で呟いてから、こいつ別にお姫様なんてガラじゃねーよなあ……と思い直しながら、顔にかかっていた愁の前髪をどかしてやる。
 ほんと、姫なんてガラではないけどきれーな顔してやがる。
 髪を指でくしけずると、愁の寝顔が気持ちよさそうに少しだけ緩んだような気がした。
 それを見て僅かに指先の温度が上がったような気がした。でもオレはそれに気付かないフリをしていたくて、黙って愁の顔から手を離したのだった。

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ヒント:豊洲駅すぐ側

before the start(★)(再録)(和愁)

小学生時代和愁。
本番描写はないけど18禁。つまりそういうことです。

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「愁さあ、もう『せーつう』した?」
「は?」
 母さんが働きに出ていて家にいない、平日の夕方五時頃。
 放課後のそんな時間に虎石が家に入り浸るようになってそろそろ一年になるが、その時の虎石の質問はあまりに突飛で、それも二人で向かい合ってリビングのローテーブルで宿題をやっている時だったから、俺はぽかんとした。
 虎石はテーブルに膝を突いてシャーペンをくるくる回しながら、テーブルに広げたノートやドリルではなく俺を見ている。
「だからさあ、精通したかって聞いてんの」
「あー……した、と思う」
 総合の時間を使って行われた性教育の授業の内容と自分の記憶を照らし合わせて答えると、「そっかあ」と虎石は頷いた。
「じゃーさ愁、オナニーは? する?」
 興味津々といった風で、虎石が身を乗り出して聞いてきた。
「……別に、しねえけど」
「なんで? きもちいよ?」
「興味ねえ」
 この言葉は本当だった。そろそろ出そうかな、と思ったら排泄の感覚で出す。それだけで十分だった。
「え~~~~~~っマジかよ」
 本気で驚いているらしい虎石だったが、俺はこの下らない話題をさっさと切り上げようとまた漢字ドリルに視線を落とした。
「ほんとにしねえの? ていうかきょーみねえの? マジ?」
「しねえって言ってんだろ」
「ふーん……」
 虎石はいったい何が不服なのか、俺をじろじろ見ている。ドリルを見ていてもそれは嫌でも感じる。
「……なあ愁」
「下らねえこと言って宿題の邪魔したら殴る」
「わーったって、宿題の邪魔はしねーから」
 口ではそう言いつつも、こっちが宿題を終えたら何かしてくる気満々なのが透けて見える。
 そして予想通り、俺が今日の宿題を終えた途端にそれを見届けた虎石がじゃれつくように俺に飛びかかってきた。
「よっし愁!」
「っ! おい虎石」
 俺をカーペットの上に押し倒すようにしてのしかかる虎石は、にやにや笑いながらこう言ってきた。
「今日は愁にオナニーの気持ちよさを教えてやろう」
 こいつは何を言っているんだ。
 俺が言葉も出ずに唖然としているのをいいことに、虎石はローテーブルの上のティッシュの箱をすぐ近くまで引き寄せてから俺のズボンに手を掛けた。
「は? おい待て、虎石」
 思わず体を起こして拳を握ると、虎石の手の動きが止まった。
「何する気だ」
「ナニって、男のカラダに生まれた喜びを愁に教えてやろうと」
「なに言ってんだお前」
「いーから大人しくしとけって。今更裸を見られて恥ずかしい仲じゃねーだろ」
 確かにクラス合同のプールの授業で同じ更衣室で着替えたことはあるし、互いの家の風呂はよく使う。しかしそれとこれとは話が違う気がする。
「な、愁」
 そして虎石ににこりと微笑まれると、何を頼まれても、まあいいか、と思ってしまうのはここ一年で付いてしまった俺の悪い癖だ。
 俺が呆れ半分諦め半分で体の力を抜いたのを良いことに、虎石は俺のズボンとパンツを下ろして俺の下半身を剥き出しにした。
「わ、愁のちんこでけぇな」
「そうか……? んっ」
 虎石が俺のちんこを握ると、体にびりりと電流が流れたような気がした。
 なんだ、これ。俺が自分で触ってもこうはならないのに。
 虎石が少し手を動かすだけで体に電流が走り、心臓がばくばく鳴り始める。頬は熱いのに、何故か血の気が引いて体温が下がっていうような感覚がして訳が分からない。
「愁、何かエロいこと考えてみろ」
「っ……エロいこと……?」
「そう。オナニーってのはな、こーやって触りながら……」
 急に虎石が俺のちんこを握る手を上下に動かして擦り始めるから、俺は目の前がちかちかするほどの感覚に全身を震わせた。
「んんっ! ひ、ぁ、」
「エロいこと考えて、どんどんちんこを立てていくんだ」
 エロいこと。エロいことって何だ。分からない。ただ、虎石に触られていると奇妙な感覚が身体中を走るからなんだか怖い。怖いけれど、嫌ではなかった。
「な、愁、どう? きもちい?」
「あっ……あ、あぅ、」
「お、濡れてきた。きもちいいんじゃん」
 きもちいい? 俺は今、きもちいいと感じている?
 足の間から次第にぐちゅぐちゅという水音が聞こえてくる。これが射精の前段階だということは知っている。でも自分で触っている時はこんな感覚にはならない。
 ぐり、と虎石が俺のちんこの先を指先で強く押した。
「っあ! ああ、あ、」
 体の内から何かがせり上がってくるような感覚に襲われ、俺は身をよじる。
「とらいし……も、やめっ、」
「なんで? きもちいーだろ?」
「きもち……いい……?」
「愁は慣れてないだろ? 今愁が感じてるのはきもちいいからだ」
「きもちいい……から……」
 ぼんやりと虎石の言葉を反芻する。きもちいい。俺が今感じているのは、きもちいいから。
「じゃ、愁やってみ」
 虎石の手が離れたと思ったら、俺の手を取って俺のちんこを握らせてきた。そして俺の手を上から包んで上下に動かす。
「んぁ、はっ、あ、」
 おかしい。今触れているのは俺の手の筈なのに、まだ虎石に握られているように感じる。体の内から外へとせり上がってくるような感覚はどんどん大きくなる。
 きもちいい、きもちいい。
 一度脳に入り込んでしまったその言葉が今の感覚と結び付いて、虎石によって動かされる自分の手の動きを鋭敏に感じ取ってしまう。
「どう、愁?」
「っ……きもち、いい……」
 言葉に出すと、手の中のそれがいっそう大きくなった。すると虎石がにやりと笑う。これはろくでもないことを思い付いた時の顔だ、と頭に僅かに残った冷静な部分で判断する。
「なあ愁、オナニーってほんとは一人きりの時にやらなきゃいけないって知ってた?」
「……?」
 やろうって言ったのはお前だろ、と冷静な部分が思っても、大部分が熱に浮かされた頭ではそれは言葉にはならない。
「愁はオレにちんこ握られて、オレの前でちんこ立てて、オレ達今イケナイコトしてると思わねえ?」
「イケナイ……コト……?」
 俺達はイケナイコトをしている、でもきもちいい、イケナイコトなのに、きもちいい、正反対の気持ちがぐるぐると頭の中を回って、
「……でも、きもちいい……」
 勝手に口からぽろりと出た言葉。その直後、目の前が真っ白になるような快感が背筋から脳天を駆け上がった。思わず体をしならせる。
「んぅっ!!」
 排泄感に似た、体の中から何かが抜けていく感覚。呼吸を整えるうちに、頭の中が少しずつクリアになっていく。
「ほら愁、出た」
 虎石が白い液で濡れた俺達の手を取って笑う。
「きもちよかった?」
 無邪気な笑顔のまま、濡れていない方の手を使ってティッシュで精液を拭う虎石。
 イケナイコト、恥ずかしいこと、の筈なのに、虎石相手なら嫌ではないことに気付いてしまう。しかしこのにやけ顔にそれを言えば調子に乗るのは目に見えている。だから俺は、虎石が拭っていない方の手をその額に伸ばした。そして勢いよくでこピンしてやる。
「いってえ!」
 額を押さえて転がる虎石。俺はさっさとティッシュでちんことその周りを拭いてからパンツとズボンを上げた。
「なにすんだよ愁!」
「テメェこそいきなりなにしてくんだ」
「いやだった? ならごめんな。でも愁きもちいいって言ってたじゃん」
「っ……」
 それを言われると、思わず頬がカッと熱くなる。そう、虎石にちんこを触られて射精までさせられたということ以上に、自分で触る時はそうじゃないのに、虎石に触られてきもちいいと感じてしまったという事実がなによりも恥ずかしかった。
 そもそも、オナニーって一人でやるもんだろ。一人できもちいいって感じるためのもんだろ。
 なのにそもそも、お前に触られないときもちいいって感じられないなんて、
「あれれ~どした愁、顔赤いぞ~」
「うるせえ!」
 赤くなった顔をこれ以上虎石に見せたくなくて、背中を向ける。とりあえず顔を洗おう、そうすればこの熱もなんとかなるはずだ。洗面所に向かい、鏡の中の自分の顔を見る。蛍光灯を付けていないから薄暗い、それでも分かるくらい赤い顔が映っている。
 ――きもちいい……。
 ふと、さっき虎石にちんこをしごかれていた時の自分の声を、全身の熱を思い出してしまい、いっそう顔に熱が上る。
 なんなんだ、俺になにが起きてるんだ。
 冷たい水がこの熱を誤魔化してくれることを祈りながら、俺は蛇口をひねった。

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今日はちょっといつもと違う(★)(再録)(和愁)

「なあ愁、たまには二人でコスプレエッチとか」
「頭打ったのか?」 
 某大型量販店で買った安っぽいコスプレ衣装の袋を抱えた虎石を冷たく一蹴し、空閑は読んでいた虎石の漫画に視線を落とした。
 ここは虎石の実家、虎石の部屋。
 短い夏休みの間、僅かな帰省期間ながら、空閑と虎石は毎日のように互いの家を行き来していた。これは高校進学する前からの習慣で、寮に入っても(主に虎石が)互いの部屋に行くのは当たり前、今更それが変わるはずもなかった。
 ──そして虎石にとっては、この帰省期間こそ色々な意味での大チャンスで。
「なあいいじゃーん、たまにはいつもと違うコトしようぜ?」
 肩からのし掛かってみればぐいと押し返され、
「おい虎石、これの続きの巻は」
「おう、そこの本棚に……ってそうじゃなくて」
 何事も無かったかのように虎石の発言を無視する空閑。流石オレの幼馴染はハートが強い、と自分がその元凶であることを棚に上げてしみじみとする虎石。
 とは言えなんとかして愁にこれを着て欲しい、だって着て貰うために買ったんだから。そう決意を新たにする虎石。
 そう、虎石の目的は単純だった。
 愁とコスプレエッチがしたい。本当に、そんなただただ単純な動機だった。
 虎石は知っている、色事に全く興味が無さそうな空閑が本当は性欲が強いことを。ただ普段はスイッチが入っていないだけで。そのスイッチさえ入れば、空閑は虎石が思わず音を上げるまで虎石を求めて来る。
 それでも寮生活を送っている以上チャンスはなかなか望めない。だからこそ、今がチャンスなのだ。今やらなくていつやるのか。
 それに、チャンスがあるうちに発散しておかないとお互い辛い。経験で分かる。あまりにお預け期間が長かった後での空閑は、際限ない体力で以て虎石を求めるし、強請るし、絞り取る。普通は抱かれる側の方が体力を使うはずなのに虎石の方がどっと疲れる。
(……仕方ねえ)
 だから虎石は、奥の手を使うことにした。

「おっ愁、おはよ~」
「……おい、なんのつもりだ虎石」
 昼食後に眠くなった空閑をベッドに寝かせ、爆睡している隙に着替えさせる。一度寝るとなかなか起きない幼馴染の習性を利用した我ながら完璧な作戦だ、と虎石は自画自賛した。
 空閑が着ている……というより着させられているのは、紐と体の一部を覆う僅かな面積のホルスタイン柄の布だけで構成された、もう露出度の高さのことしか考えられていないような牛のコスプレ衣装だった。頭にはしっかり耳と角のカチューシャ、首にはベルが付いた首輪。がっしりしていながらもしなやかな筋肉が惜しげもなく晒され、それを見た虎石は満足げに頷いた。
「いやー、よくお前に入ったよなこの衣装。ほぼ紐だからサイズ調節楽だったけどさ」
 そして空閑の枕元に立つ虎石が着ているのは、赤と白の薄い布のセーラー服だった。ギリギリまで短くしたスカートに、わざわざ白いハイソックスまで履いている。
 体を起こしてそんな虎石を一瞥した空閑は一言。
「ふざけんな」
「いいじゃん、可愛いぜ愁ちゃん」
 虎石はベッドに腰掛けてわざとらしく足を組んだ。ちらちらと、空閑に見せ付けるようにして足を揺らす。
「……つーか愁、オレの前だからってちょっと無防すぎね?」
「それもそうだな、次からぜってぇお前の前では寝ねえ」
「じゃ、今日の愁は今日だけのトクベツってことで……」
 少しだけ声に熱を込めて、空閑の太腿に手を這わす。
「なぁ愁、オレ今の愁のエロいとこすっげえみたいんだけど……愁はきょーみない? 今ヤったらどんだけ気持ちよくなるか、とかさ」
「っ……」
 露出している部分を触られ、空閑は僅かに体を強張らせた。
「いつもと違うカッコの愁、すげえ興奮する。愁は?」
「すげえアホだな、お前のセンスが」
 そう言いながらも、空閑の目に僅かな熱が籠もる。
 チャンス。虎石は、自分の目が獰猛に光るのを自覚した。そして空閑がしっかりそれを見たことも。
「……仕方ねえな、今日だけだ」
 空閑は虎石に顔を寄せた。そして、獲物を捉えた狩人のように目を光らせて笑う。
「来いよ」
 虎石はニヤリと笑うと、ベッドの上に乗り上げる。空閑の目の前で膝立ちになってスカートの裾を摘まみ上げると、レースで飾られた黒の女物の下着がスカートの中から覗いた。
「……お前ほんとバカだろ」
「いーじゃん、こういうのは雰囲気だよ」
 虎石が何も言わずとも、空閑は虎石が穿いている下着に手を伸ばす。ぐい、と躊躇いなく下ろすと虎石のそそり立つ男根が勢いよく姿を現した。
 スカートや女物の下着とは到底不釣り合いなそれに、しかし空閑は動じることなく虎石のそれを両手で支えて頬を寄せた。
 ぴたり、と頬が当たる感触に虎石は息を漏らす。空閑はうっとりと虎石のそれの感触を頬で味わってから、ゆっくりと舐め上げた。それを何度か繰り返してから、空閑はそれを口内に誘い込む。
 虎石をいっぱいに頬張って歪んだ空閑の顔を見て、虎石は体中の血が熱くなるような気がした。じゅぽじゅぽと音を立てながら、裸同然の服を着た綺麗な顔の幼馴染の口から自分の男性器が出し入れされる様はひどく背徳的で淫靡であった。
 ぞくぞくと背筋を駆け上がる快感は虎石の理性を溶かし、虎石は思わず空閑の頭を掴んで前後に揺さぶった。
「んぐっ……!」
 空閑は僅かにえずいたが、その舌はすぐまた虎石に絡み付く。
「っあ、やば、愁、すげえイイ……」
 譫言のように声が漏れる。夢中で空閑の口内を犯すうちに少しずつ体の内を何かがせり上がる感覚がした。
 やばい、とぎりぎり残った理性で慌てて空閑を引き離すと同時に、どくんと自身の内で音がして気付いた時には空閑の顔に白濁が飛び散っていた。
「……相変わらず早いな」
 体を起こした空閑がそう呟くので虎石は思わず顔を熱くしてうるせえ、とふてくされる。だが視線は空閑から逸らせない。自分が出したもので顔を汚す空閑はいっそう肉欲を煽り立てる。
 虎石のその様子を見た空閑は薄く笑い、顔に付いた白を乱暴に拭うと胸を覆う僅かな布を上にずらして胸を露わにした。
「ほら虎石、今日は吸わねえのか」
 唇を舐めながら挑発的に笑う空閑を、虎石は迷わず抱き寄せる。
「愁ちゃん、ノってきた?」
「かもな」
 虎石は自分の足に通したままの下着を脱ぎ捨てた。空閑を自分の足の上に跨ぐようにして座らせ、虎石はまず右胸にむしゃぶりついた。空閑の乳首を吸い、舌の上で転がし、出もしない母乳を求めるように一心に。
 空閑は熱い息をこぼしながら、自分の胸に夢中になっている虎石の頭をかき抱いた。全身を包み込むような安心感に満たされながら、虎石は左胸も吸い始める。
「んっ……はあっ……」
 虎石に胸を吸われながら、空閑はひくひくと体を震わせ体中を熱くする。
 空閑が牛の格好をしていることも相まって、本当に愁から母乳が出るんじゃないか、などと虎石の頭を過ぎり、ぎゅう、と一際強く吸い上げる。
「っ、あっ!」
 空閑は思い切り仰け反り、びくびくと体を震わせた。
 虎石は空閑の胸から口を離し、空閑の股間を見た。股間を隠すホルスタイン柄の僅かな面積の布は濡れ、白い液体が太腿に伝っていた。頬を紅潮させ、ぼんやりとした熱い目で虎石を見ながら肩を上下させる空閑の体は触れると汗で湿っていて、虎石はニヤリと笑う。
「どーよ、JKにおっぱい吸われてコーフンシてイっちゃうエッチな牛さんになったキブンは?」
 その言葉に空閑は唇の端を上げる。
「……は、その牛に咥えられて興奮してたのはどこのどいつだ?」
「言ってろ……!」
 ぐい、とベッドに押し倒せば空閑は躊躇い無くベッドに横たわる。不敵にぎらつくその目は牛どころか獲物を前にした肉食獣だ。
「来いよ、虎石」
「はっ、泣かされても知らねーぜ?」
「お前こそ途中でへばんじゃねぇぞ」
 凶暴そのものな視線が交わった後、二人は噛み付くようにして唇を重ねた。

 
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牧場を引きずりすぎている

First Time(再録)(★)(廉聖)

「ねえ、廉はいつになったら俺を抱いてくれるのかなぁ」
「っ……?!」
 南條に唐突にそう言われ、北原は飲んでいたペットボトルの水を勢いよく噴き出した。ゲホゲホと咳き込んでいると南條が優しく背中をさすってくれた。
 呼吸を整え、隣にすわっている南條を睨む。
「っ……お前、急に何言い出すんだ」
「何って、そのままだけど。ちなみに俺的には、付き合い始めてそれなりになるのに未だに抱こうともしてくれないのは、廉は俺じゃ勃たないのかなあって少し悲しくなるかなあ」
「うっ……そ、それはだな……」
 なかなか痛いところを突かれ、北原は言葉に詰まった。
 一年の時に南條と仮にも恋人関係になってからもう半年以上は経っている。キスは済ませたが、その先まで進んではいない。互いの同室者が不在の時にこうして互いの寮を行き来するのは当たり前になっているし、そういうタイミングの度に南條がキスの先を求めていることに北原は気付いていたが、それでもわざと見ない振りをして来た。
「……わりーかよ……」
「悪いとは言ってないよ。ただ、いつになったら抱いてくれるのかなって聞きたいだけ」
「そういうのはな……もっとこう、大事にしたいって言うか……」
「……大事、って言うのは?」
「……時間かけたりとか……ムードとか……」
 北原はそう言いながらどんどん顔が熱くなっていくのを感じていた。思っていることをただ言っているだけなのだが、それが異常に恥ずかしい。そしてそれを聞く南條はいつものように飄々とした笑みを浮かべているのでなおのこと恥ずかしい。
「廉って意外とロマンチストだよねえ」
「うっせえ」
「俺は早く廉にその気になってほしいんだけど……まあ、廉がそう言うなら仕方ないかなぁ」
 そんな言葉の端々にも余裕が滲む。
 こっちは経験もないってのにこうして余裕をわざとちらつかせてくる辺りは本当に有罪だ。北原がそれを思ってふてくされていると、南條はくすりと笑って長い指でするりと北原の顎を掬い、上向かせた。自分を見下ろす紅い双眸に見すくめられ、そこから目が離せなくなる北原。南條はそんな北原の唇に自身の唇を重ねた。
 先までの会話が会話なので何をしてくるかと思ったがキスならいつもしている。北原は戸惑いながらも目を閉じ、何度か角度を変えて降る南條のキスに応じた。
 南條の舌が唇を撫でたので大人しく口を開けてやると、嬉しそうに口の中に入り込んできた。わざと水音を立てながら口腔内を舐め回され、粘膜と粘膜が擦れる感覚に北原は肩を震わせた。ぞくぞくと背筋を走る刺激に耐えながら舌を絡めてやれば、これまた嬉しそうに応じてくる。キスしてる時はやたら素直なんだよなこいつ、と、度重なる刺激に朦朧とし始めた意識の片隅の冷静な部分で考える北原。
 と、ぞわり、と急に今までより遥かに強い刺激が背筋を駆け上った。
「っ!!」
 思わず目を開けると、目に愉悦の色を讃えた南條とばっちり目が合う。視線だけ下に降ろすと南條の手はいつの間にか北原の股間に伸びていた。思わず南條の肩を掴んで離れると、南條は唇の端から唾液を垂らしながらくすくす笑いながらズボンの上から北原の股間を撫でた。
「廉のここ、すごい固くなってるよ?」
「っ……!」
 ただでさえ息が荒くなっているところに男の急所を撫でられて嫌でも呼吸が乱される。
 抵抗させる間もなく南條は楽しそうに北原のズボンのベルトを解き、ズボンを膝より下まで下ろす。北原のボクサーはテントを張り、その先端はボクサーより一段暗い色に変わっている。
 北原が抵抗も兼ねて睨むと、南條はクスリと笑った。
「なんだあ、ちゃんと俺でも勃つんだ。安心した」
 そう言う表情は、いつものように人を食ったような隙のない笑顔ではなく、心から嬉しそうな緩みきった笑顔で。どきん、と心臓が跳ねると同時に、どくん、と下半身に血が集まる。余計に固くなる北原のそれに笑みを深めた南條は「ねえ」と囁きながら北原に顔を近づけた。反射的に顔を背けそうになったが、南條の瞳に灯った熱に捕らわれ。
「これでもまだ……俺のこと、抱く気ないって言うの?」
 目を細め、蠱惑的に笑う南條にとん、と肩を押されたかと思うと、気付けば背中が床に触れていた。目の前には自分を見下ろす南條の顔。
「っ……お前、なんでそんなにオレに抱かれることにこだわんだよ。お前も男だろうが」
「好きなやつに抱かれたいって思うのに理由が必要かなあ? そこに男も女もないと思うんだよねえ、俺は廉だから抱かれたいんだけど。廉が女の子でも抱かれたいって思ったんじゃないかなあ」
 さらりととんでもない殺し文句を言われた気がする。そもそもオレが女だったらどうやって抱かせるつもりなんだこいつ……と思ったが、すぐに考えるのをやめた。こいつのことだから多少えげつなくともあの手この手を用意して来るに決まってる。
「安心していいよ、そもそも俺ゲイだし抱かれることへの抵抗とか全っ然ないから。後は女の子にとってもモテるのにまさかの童貞の廉に腹括って貰うだけ」
「後半は余計だ、有罪」
 南條はくすくす笑い、北原の顔をゆっくり撫でた。指先の動き一つ一つに興奮を煽られ、南條のペースに乗せられっぱなしで悔しくなり、北原はグイと南條の腰を引き寄せた。その時自身の腰に触れた南條の股間が固くなっていることに、こいつも確かに興奮しているのだと気付かされる。
「!」
 驚きで目を見開いた南條の表情に満足し、北原はニヤリと笑った。南條の頭を肩口に引き寄せ、耳元で吐息混じりに囁く。
「……分かった、抱いてやる。お前が満足するまで、完璧にな」
 ひくりと南條の体が震えた。
「っ……童貞だって言うのに、どこで覚えたの、それ」
 そう言って北原を見る南條の目は、熱で濡れている。
「さあな?」
 AVから、とは流石にこの空気では言えなかった。

「抱いてもらえるところ嬉しいんだけど、廉は男同士のやり方なんて知らないだろうから俺が全部やってあげるね」
「有罪!!」
 南條にズボンを全部脱がされたと思ったらベッドに押し倒されそうになった北原は慌てて腕を突っぱねて抵抗した。南條はきょとんとした顔になったが、すぐに目を細めて笑った。
「へえ~、廉、出来るの? 童貞なのに?」
「出来るかどうかじゃねえ、やんだよ。さっきも言っただろうが。つか童貞童貞うるせえぞ、有罪」
「じゃあ、一緒にやろっか」
 けろりとした顔で南條が言う。やっぱりペースに乗せられている気がしてならない北原は渋々頷いた。南條は北原を押し倒すのをやめると、ベッドの上に乗り北原の隣に座った。
「早速だけど廉はセックスの時相手に全部脱いでほしい方? ワイシャツくらいは羽織っててほしい方?」
「セッ……?!」
 南條の直接的な物言いにボッ、と顔が熱くなる北原。南條はそれを見てニヤニヤ笑っている。
「ちょっ直接的すぎるだろうが!!」
「どうせ今からすることなんだし、オブラートに包んでも仕方なくない? で、廉はどっちがいいの?」
「……おまえの好きな方でいい」
「そっか……」
 南條は少し考えてから自分のワイシャツのボタンをするすると全て外した。全開になった合わせの隙間から覗く白い素肌に、北原は生唾を飲み込んだ。
「ちなみに俺、普段は下着も着ないで直にワイシャツ着るなんて絶対しないよ。気持ち悪いし」
「……知ってる」
 着替えだけなら練習の合間の更衣室で散々見たことがある。合宿の風呂場で裸を見たことだってある。ただ、こうして無防備にワイシャツを身に纏う南條を見るのは初めてだからなのか、心臓が痛いほど鳴っている。
 南條がワイシャツを脱ごうとしたので、北原は南條の手首を掴んだ。
「待った、そのままで良い」
「着たままが良いの? どのみち下は全部脱ぐよ」
「いい。上は着てろ」
 南條は喉を鳴らして笑うと、自分の手首を掴んだ北原の手をそっと解き、ごろりとベッドに横たわったかと思うと北原の手を自分のズボンのベルトへと誘った。
「じゃあ廉、俺のこと脱がして」
「っ……」
 北原は震える手で南條のベルトのバックルに手を掛けたが、手の震えのせいでベルトを上手く外すことが出来ない。「廉、ゆっくりでいいよ」そう言う南條の見上げてくる熱のこもった視線を感じながら、北原は三分近く掛けてどうにかベルトを外すことに成功した。南條が腰を浮かせたのでズボンに手を掛けてゆっくり脱がしていく。ズボンが床に落ち、南條の白く長い脚が露わになる。急に増えた肌面積にガツンと脳を殴られたようになり、どうにか落ち着こうと北原はゆっくりと深呼吸をした。
「ね、見て、廉」
 南條は北原の手を取ると、まだ穿いているボクサーパンツへと導く。黒いそれはしっかりとテントを張り、布の下にある南條の雄の存在を主張していた。北原が震える手でボクサーを脱がすと、固くなった南條の屹立が露わになる。
「男同士の時はね、ここを使うんだよ」
 片手で自身の片膝の裏を抱えつつ、もう片方の手で南條は自身の秘部をそっと広げて北原に見せた。
「……そこに、入れんのか」
「そう。広げて、馴らしてからね」
 南條は枕元のローションの瓶を手に取り、北原に差し出した。いつの間にこんなもん用意してたんだ、と呆れる北原。よく見ると枕元には未開封のゴムがいくつか散らばっている。用意周到がすぎる、有罪。心の中でそう呟きながらローションの瓶を開けると手のひらに垂らしてみた。指に塗ってみれば、ぬるぬるとした感覚に奇妙な興奮を覚える。しばらく自分の指を擦り合わせてその感覚を味わううちに、北原はふと呟いた。
「……スライム思い出した」
「は?」
「小学生の時に遊んだスライムだよ……お前は触ったことも無さそうだけどな」
「ああ、夏休みの自由研究で作ってる奴が毎年いたねえ」
「それ……で、この指を、お前のそこに入れるってことでいいのか?」
「そう。ゆっくり、まずは人差し指だけ」
 南條に言われるままに、北原はそこに指を入れる。入り口でゆっくり曲げながら動かしてみると南條の媚肉が指にきつく絡みつき、思わず眉を寄せた。
「きっつ……ほんとにここに入れんのかよ」
「っは……そうだよ、だから、広げるわけ……ゆっくり、指で押して広げるみたいに……んっ」
 ゆっくりと、南條に指示されながら指を動かす。少しずつ解していくうちに、最初のようなきつさは感じなくなってきた。そして内壁を指先で刺激する度に南條が呼吸を乱すので、北原は少しずつ南條の悦ばせ方を理解しつつあった。
 もう一本入りそうだ、と北原は中指も南條の中に入れる。二本の指で孔を広げ、わざとらしく内壁に強く指を擦り付けてみれば南條は体を震わせ、北原の指を強く締め付ける。
「なあ聖、やっぱそこ弄られんの、気持ちいいのか」
「ん、ふっ……まあね、気持ちいいから、するんだし……セックスって、ん、そういうものでしょ」
「そうか、一緒に気持ち良くならねえと意味ねえもんな……」
 何の気なしに呟くと、ぎゅっと南條の中が締まった。思わず南條の顔をのぞき込むと、南條は僅かに頬を染めながら北原から目を反らした。照れを押し隠すようなその仕草と僅かに緊張したような表情は北原も見たことがなく。
「……有罪」
 そう呟くと、南條は先までのしおらしさはどこへやら、くすくすと笑うのだった。ふと、この体勢だと腰が辛そうだな、と気付き、北原は床のクッションを取ろうと指を引き抜いた。抜いた時に上がった「んぁ……!」という小さな叫び声と、腰の下にクッションを敷いている時のひどく熱い視線に、こいつは本気で俺を求めているんだ、と思い知らされ、北原は頬を熱くした。
 改めて指を入れ、勝手がまだ分からないものの、分からないなりに丁寧に南條の中を解していく。何事もやるなら完璧に──そのポリシーはこんな時でも有効だ。
「……指、そろそろ三本目、かな」
「お、おう」
 指を三本入れて広げられるくらいなら丁度良くなるということか。薬指も中に入れ、ばらばらとゆっくり動かしながら広げていく。南條は言葉も少なくなり、時折息を呑むようにして声を上げる。互いにだんだんと余裕がなくなっているのを感じ、北原は空いている手で南條の頬を撫でた。すると南條は一瞬目を見開き、しかしすぐに紅潮した目元を緩ませ北原の手に頬を寄せた。その顔は、「俺でも勃つんだ」と言って笑ったあの緩みきった表情と同じで、いや、それより一層色っぽく見えて。
 こっちもそろそろ限界だ、と北原は熱に浮かされた頭で思う。
「なあ聖、もう、」
「うん……廉の、俺にちょうだい」
 熱で濡れた低い声が脳を揺さぶる。北原は指を引き抜き、ボクサーを脱ぎベッドの下に放った。ついでだからと着ていたTシャツも脱ぎ捨ててやる。露わになった上半身、そして屹立する北原の雄を見てか、南條が小さく息を呑んだような音が聞こえた。先から余裕の無い自身にどうにかゴムを付け──この時ばかりは性教育の授業を真面目に聞いていた中学時代に感謝した──、自身の先端を先まで指で広げていたそこの入り口へ押し当てる。
「……入れるぞ」
「うん……」
 南條はそっと北原の顔に手を伸ばした。髪、耳、頬を撫で、首を傾げながら笑い、北原の頭を抱き寄せて耳元で歌うように囁く。
「……おいで」

和愁牧場(★)(再録)

※注意※

・愁が乳牛、和泉が酪農家という特殊設定パロです
・ほぼエロでギャグなので、中身はありません
・何でも許せる人や、深い事を考えない人向けです
・半年くらいかけてゆっくり書いていた関係で、途中で設定のブレや誤字が発生している可能性が少なからずありますが、ご了承ください

ガソリン返せ(★)(再録)(和愁)

※本文を読む前にこちらをお読みください※

・肉体的な攻め受けは虎石×空閑で間違いありません。
・ただし、空閑が虎石のアナルを開発したり、日によって上下が変わっているという描写があります。
・虎石がめちゃめちゃ喘いでいます。
・空閑がわんぱくモードです。
・頭の悪いエロです。とても頭が悪いです。
・もう一度言いますが、肉体的な攻め受けは虎石×空閑です。

以上の事項を了解した上でお読みいただければ幸いです。

sweet heart chocolate(再録)(★)(和愁)

 その日は月皇が実家に帰るという事で、夜十時を回っても寮の部屋には空閑一人だった。夕食を済ませて風呂にも入り、ベッドの上でだらだらと何もしない快適さを貪っているとこんこんこん、とノックの音が室内に響いた。こんな時間に誰だ、と思いつつ体を起こしてドアを開ければ、満面の笑みを浮かべた虎石和泉がそこにいた。
「やっほ~愁」
「……何しに来た」
「何しにって」
 大げさに肩をすくめてみせる虎石の手には、赤と茶色を基調とした小さな紙袋が提げられていた。なんだこれ、と空閑が考える前に虎石は胸を張って言う。
「今日はバレンタインだぜ? 俺がお前のところに来ちゃいけない理由でもあんのかよ」
「……。……ああ」
 そういえば朝、月皇が言っていた。バレンタインになると母さんがチョコレートケーキを焼くとか何とか。
 朝のバイトのコンビニでは店内にハートの装飾が施され店頭の目立つ位置にチョコレート菓子がずらり。
 昼から入ったバイト先のカフェバーは最近チョコレートを中心にしたデザートが限定でメニューに並び。
 さっきは那雪がチーム全員分手作りしたというチョコレートクッキーをくれた。旨かった。
 そうか、今日がバレンタインだったのか。納得する空閑に、虎石は紙袋をぐいと突き出す。
「このチョコすっげえ美味いからさ、一緒に食わねえ?」
 どうせ女に貰ったチョコだろ、とじっとりした目で虎石を見ると虎石は悪びれず「いいじゃ~ん」と空閑にもたれかかってくる。
「なあ一緒に食おうぜ~?」
「……ったく」
 こういう時に虎石に甘くなってしまう自分を少し悔しく思いながら、空閑は仕方無く虎石を部屋に上げた。
「ほらこれ」
 二人並んで空閑のベッドに腰掛け、虎石が紙袋から出してきたのはいかにも高級そうな箱だった。そして中にはいかにも高級そうなチョコレートが並んでいる。ところどころ隙間があるのは虎石が食べたせいだろう。
「うまそうだな」
「だろ~?」
 ほら、と箱を差し出され、空閑はとりあえず一番普通のチョコレートみたいな見た目をしているダークブラウンのチョコレートを摘まんで口に運んだ。
 一回噛むとほろ苦いチョコレートの味がふわりと口の中に広がり、もう一回噛むと僅かな甘みが鼻に抜ける。滑らかなチョコレートは口の中であっという間に溶けていき、飲み込むと不思議な後味が残った。
「ん……うまいな、これ」
「だろ?」
 体がなんだかふわふわする感覚を覚えながらも、空閑は二個目のチョコレートに手を伸ばした。

 虎石は膝の上にチョコレートの箱を乗せて、空閑が美味しそうにチョコレートを食べるのを見ていた。
 綺麗な形をした唇の間にそっとチョコレートが消えていくその光景はなんだか蠱惑的ですらある。おまけにその頬はうっすら赤みを帯びていた。
 なんか今日の愁エロい。そんな身も蓋もないことを考えながら、自分もチョコレートをつまむ。こんな時間にチョコレートなんて食べたら肌に良くないだろうが、バレンタインの今日だけは特別でいい。
 ふと、舌の上にカカオとは違うほろ苦さを感じた。そして鼻に抜ける香りに虎石はあれっ、と首を傾げる。
「ん、このチョコ酒入ってるな……」
「酒?」
「うん、入ってないやつもあるみたいだけど……」
「そうか……」
「……愁、食べるペース早くねえ?」
 気が付いたらほとんどのチョコレートが箱からなくなっていた。空閑がよく食べる方だとは言え、随分とハイペースだ。夕飯足りなかったのか、と気楽に考えていると、
「虎石……」
「なに?」
「ん」
 空閑の顔が近付いてきたと思ったら唇を奪われた。
「……っ?!」
 空閑は驚愕で固まる虎石の頬を両手で押さえ、唇を吸い、舐めて、甘噛みして、たっぷり虎石の唇を堪能している。それをされている虎石はというと、大混乱していた。
 空閑とこういうことをする関係になってから短くはない。しかしこうやって空閑の方からアプローチを仕掛けてきたことは一度もなかった。どうして急に、と考えてすぐ、はっと気付く。
「っ……愁、お前もしかして酔った?」
 空閑の肩を掴んで離すと、目を潤ませて頬が紅潮した空閑が物惜しそうに虎石を見ていた。こころなしかその目尻はとろんとしている。
「……べつに、酔ってねえけど」
 呂律ははっきりしている。しかしそれを言う空閑の表情も行動も、明らかに酒に酔っている人間のそれなのだ。
 チョコレートのお酒くらいで酔うのかよ、と思わず頭を抱えたくなる。
 虎石はそっとチョコレートの箱を脇に置き、立ち上がろうとした。
「水持ってくる」
「いらない」
「うお?!」
 立ち上がりかけの体勢のところをぐいと左手首を強く引かれ、視界がぐるりと反転する。左手首をベッドに押し付けられ、気が付けばベッドの上に組み敷かれていた。
「虎石」
 空閑は目を細め、長い指で箱からチョコレートを一粒摘まんだ。空閑が最初に食べたチョコレートと同じ形だ。虎石の勘が正しければ、あれには酒が入っている。空閑はそれを歯でくわえると、そっと虎石の口元に運んできた。
 ああ、そういうこと。どこで覚えてきたの、やるじゃん愁ちゃん。
 虎石は唇を開くと小さなチョコレートを受け入れた。唇を重ね、二人で一つの小さなチョコレートを舐めると自然と舌が擦れ合う。柔らかい唇と舌の感触に二人の口の中で溶けていくチョコレートの甘さが加わって更に興奮を掻き立てる。
「ん……はぁ……」
「ふっ……んむ……」
 酒のせいもあるかもしれないが、どんどん体の熱が上がっていく。虎石は自分の上に覆いかぶさる空閑の腰に手を回し、そっと服の下に手を忍ばせた。腰を撫で回すと空閑の体が震える。
 二人でゆっくりゆっくりチョコレートを味わい溶かしながら、虎石は自分の意識も甘くどろどろに溶けていくような錯覚を味わっていた。チョコレートみたいに甘く溶けて、一つになってしまいたい。そう思うと下腹部がずしんと重くなる。ひくりと空閑が震えたので、わざと下腹部を更に押し付けてやると空閑も下腹部を押し付けて来た。空閑も興奮している、それをはっきり感じ取り煽るように更に深く口付けた。口腔の上を舌でなぞってやれば空閑の腰ががくがく震えたが、空閑もお返しとばかりに虎石の口の中を蹂躙するばかりの勢いで舌を絡めて来るし虎石の弱い部分を刺激して来る。その度に声を上げそうになるが全て空閑に飲み込まれて行く。
 快楽に身を任せて互いに漏らす吐息は獣のようなのに、いつもよりずっと甘くて、くらくらする。
 チョコレートを溶かし切って飲み込んだところで唇が離れたが、粘ついた銀糸が二人の唇を繋いでいる。
「なーに愁ちゃん、興奮してんの?」
 からかうように聞いてやると、空閑は目を細めて首を傾げた。
「……かもな」
 熱に浮かされた目に至近距離から射止められ、ずくりと体全体が疼いた。ゆっくり空閑の口角が上がり、弧を描く。
「な、虎石……」
 空閑は虎石の耳元にそっと唇を寄せる。熱く甘く囁かれたその言葉に、虎石は笑みを深くした。

 ふわふわと浮いているような意識の中で、空閑は自身の中に虎石の熱を感じていた。
 俺に入れるんじゃねえの、なんて挑発めいたことを言われた気がしたが、今日はこっちの方が良かった。どちらにしろ虎石の上にはいるわけだし。
 虎石の上に跨り、その綺麗な体の上に手を突いて自身の身体を揺する。
「っ……はっ、愁……」
「はあ……んあ……」
 虎石のペニスが自分の気持ちいい所に当たると自然と喘ぎ声が漏れる。中がきゅっと締まって、虎石の存在をいっそう強く感じる。
「虎石、大きい……」
「はっ、愁ちゃん今日は随分ノリノリじゃん?」
「ん、気持ちい……」
 目の前がちかちかするくらいの快感に身を委ねて腰を振ると、虎石も気持ち良さそうに笑う。身を屈めて虎石にキスすると、虎石の手が空閑の背中を撫で上げた。少しごつごつした指が背中を這う感触が心地好くて思わず目を閉じると、「ほーら、動きが止まってるぞ」と下から突き上げられる。
「ぁあっ! 虎石、もっと、」
「はは、今日の愁やば……」
 虎石の腰遣いは乱暴なようでいて的確に空閑を気持ちよくしてくれる。浅い所も奥もぐりぐりと突かれて、身も心も気持ちよさで溶け出していくようだ。チョコレートみたいにどろどろになってしまう。
「愁、もっと顔見せて」
 両手で頬を挟まれ、虎石と視線を交差させる。欲でぎらついた、けれど甘やかな目が真っ直ぐに空閑を貫く。その視線に貫かれるとぞくぞくしたものが背中を駈け上がり、身体中できゅんきゅんと感じてしまう。
「可愛い……」
 うっとりした甘い声がするりと耳から脳に届き、意識を溶かしていく。
「好きだよ愁……」
「俺も……んっ、あはぁ……」
 虎石の腰の動きに合わせて自分も腰を振り、体の中でうねる快感の波が増幅し、自然と笑みがこぼれた。
「とらいし、とらいし」
「なーに?」
「ふふ……」
 虎石の名前を呼ぶだけでなんだか楽しくなってきて、子供みたいに何度も名前を呼ぶ。虎石はあやすみたいに空閑の背中を撫で、ぽんぽんと頭を軽く叩く。
「愁、きもちい?」
「ん、きもちい……」
「今日の愁すっげえエッチだぜ? いつもかわいーけど、今日はもっとすごい……」
「……? んあっ!」
 虎石が急に上体を起こし、よろけたところを抱き止められた空閑は挿入されたまま虎石の正面に座る形になる。体勢が変わったために、虎石のペニスが今まで当たっていなかった場所を穿ち、空閑はぴんと背を反らして悲鳴に似た喘ぎ声を上げた。しかしすぐに痛いほどの刺激は快感へと変換される。
「ぁ、あ、イイ……」
 自分の体重でどんどん繋がりが深くなっていき、空閑は笑みを深めた。
 虎石は空閑の顔のあちこちにキスをしてから、空閑を揺すぶる。
「ぁっ、きもちいい、とらいし、もっと、」
 貪欲に快楽を求める空閑を見ながら、虎石は自身の内にどんどん獣じみた衝動が膨れ上がるのを感じていた。もっと手酷く抱いてやりたい、ぐちゃぐちゃになるくらい抱き潰したい。空閑が脚を虎石の体に、腕を首に絡めてきた。より深い繋がりを求めるようなその仕草が愛しくてまた何度も唇を重ねた。
「愁、これ食べて」
 虎石は一度律動を中断するとベッドの端に手を伸ばし、最後の一粒だけ残っていたチョコレートを摘まんで空閑の口許へ運ぶ。
「ん……あむ……」
 空閑は虎石の指ごとチョコレートをくわえて舐め始めた。
「美味しい?」
「ん……」
 とろんとした目はこちらを煽るようだ。指を空閑の舌が這い、時に大胆で焦らすような、その舌付きにぞくぞくしたものが背中を駈け上がる。虎石は空閑がチョコレートを食べ終わるのを見計らってそっと空閑の口の中から指を引き抜き、指に付いた溶けたチョコレートを舐め取る。
「愁の味がする」
「そうか……?」
「うん、おいしい」
「虎石もうまいぞ……」
「っ……可愛いこと言ってくれるじゃん」
 虎石は空閑の前に手を伸ばして立ち上がったペニスを握り込んでぐちゅぐちゅと扱き、下からの突き上げも再開する。
「ひゃっ! ぁあっ、はぁ、んっ、あぁ、んあ」
 空閑の嬌声が堪らなく艶やかで、虎石は何度も何度も空閑を突き上げた。その分中の締め付けがきつくなり、虎石は今にも達しそうだった。
「愁、俺、もうイキそ……」
「あっ、おれ、も、はっ、ああっ、一緒が、いい……」
「分かってる、っは、一緒にイこうぜ……」
「とら、いし……あ、ああっ! は、あ、あああ……っ!」
「愁……っ!」
 ピンと空閑の背筋が伸び、ペニスからどろりと白濁が流れ出す。手にその感触を感じながら、虎石はきゅううっと締め付けられ目の前がちかちかするほどの快感と共にその中に勢いよく欲望を叩き付けたのだった。
「あ……ぁっ……」
 空閑は体を震わせて虎石にしがみついている。虎石はあやすように背中をとんとんと叩き、自分も呼吸を整えながら空閑の呼吸が整うのを待つ。
 空閑の呼吸が整ったのを見計らってそっと空閑から自身を引き抜くと、白濁が溢れた。優しくキスを落としてから、その体をベッドに横たえる。白いスーツに横たわるまだ赤く色づいている体は扇情的だしもっとしたいが、これ以上無理をさせるわけにはいかないと虎石はなけなしの理性を総動員して判断した。
 空閑の隣で横になり、その顔にキスしていると空閑に名前を呼ばれる。
「なあに?」
「もう終わりとか言わないよな?」
「……は?」

 ……そういえば、チョコレートには媚薬効果があるとか何とかどこかで聞いたことがある気がする。まさかそのせいじゃねえだろうな、酒のせいなのもあると思うけど。
「……明日どうなっても知らねえからな」
 もうどうにでもなれ、と思いながら言ってやると眼下の空閑は楽しそうに笑い、来いよ、舌舐めずりをしたのだった。

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Are you ready?(再録)(★)(和愁)

「愁~」
 空閑が自宅のリビングの床に座って新聞を読んでいると、後ろにずっしりとした重みと熱を感じた。誰なのかは見ずとも分かるので、空閑は誌面から目を離さない。
「なんだ」
「んだよ、連れねーな」
 振り向かずとも、自分にのしかかる彼がどんな顔をしているのかは分かる。拗ねるように口を尖らせ、けれど眼だけはやたらに楽しそうなのに決まっている。
「せっかく地元に戻って来たのに」
「そうだな」
「こっちにいる間くらいはもっと愁と一緒にいられると思ったのにさあ」
「まだ帰って来てから2日目だろうが」
 適当に応対はしてやるが、なんせ7月下旬の冷房もかけず窓を開け話しているだけの室内なので暑い。密着している背中がじわじわと汗を描き始める。
「こっちいれんの1週間だけだろ、そのうちの2日ってのは超貴重なんだからな」
 その腕が肩越しに空閑の胸の前で交差し、耳元に熱い吐息がかかる。
「な、愁」
 名前を呼ぶ声にこもる熱に、嫌でも肩が震える。仕方ない、という体を装ってゆっくり振り向いてやると、幼馴染――虎石のにやにや笑う顔が目に飛び込んできた。空閑は呆れて眉を顰める。
「発情期の猫か、お前は」
「んー、虎だから間違ってねえかも」
「だいたい俺の家で盛るな、誘ってくんな」
「え、じゃあ俺の家だったらいいってこと?」
「……」

 というわけで、というわけでもないが。
 今にも歌い出しそうなくらい上機嫌な虎石に半ば引っ張られる形で、空閑は虎石の家まで連れ込まれた。歩いて5分かからない程度の大したことない距離なのだが、そもそもどうしてこいつが俺とセックスしたいからって互いの家を行き来しなきゃならないんだろう、と空閑は道すがら冷静になって考えた。しかしいざ誰もいない虎石の家に着いて、よく見知った玄関をくぐり、階段を上がり、虎石の部屋に入るついでに虎石がちゃっかり部屋のエアコンを付け、そしてベッドにじゃれ合うようにして押し倒されて唇を重ねられるとそんなことはなんだかもうどうでもよくなってしまい、空閑は目を閉じて虎石の唇を受け入れた。
 いつも虎石の方から誘う事がきっかけで始まるとはいえ、空閑も気持ちのいいことは嫌いでは無かった。相手が虎石ならば、尚の事。
 角度を変えながら何度も唇を重ねるうちに、口付けはどんどん深くなる。唇を割って入って来た虎石の舌に自分の舌を絡めてやれば、ねっとりとこすれ合う舌の感触も、触れ合う唇も、時折漏れる互いの熱い獣のような吐息も、浮かされたような声も、否が応でも互いの熱を高めていく。空閑が虎石の唇を貪るのに夢中になってる間に、虎石は空閑のTシャツに右手を滑り込ませて肌をまさぐり始めた。
「んぅ……あ……」
 熱い空閑の身体より少しだけ体温の低い虎石の指が妙に冷たく感じて、空閑は体を震わせる。少しごつごつとした指が空閑の鍛えられた腹筋をなぞり、腰骨を這う。その手付きは急いているようで妙に優しい。
 しかし心臓の鼓動が高鳴って、おまけに唇を塞がれているせいでだんだん息が苦しくなり、空閑は慌てて虎石の背中を叩いた。
「っぷは……」
「っは……は……」
 互いに肩を上下させながら離れた二人の唇を、粘ついた銀糸が繋ぐ。虎石は赤い舌でそれをゆっくりと巻き取った。それが妙に艶めかしくて、空閑は目を離せない。一方で虎石は熱に浮かされた目のまま空閑のTシャツを胸までたくし上げ、うっとり呟いた。
「愁の身体、すっげーキレイ」
「は……んぁ!」
 何言ってんだお前、と言いかけたところで左胸の先端をつままれ、間抜けな声を上げてしまう。慌てて唇を引き結ぶと、虎石は空いている方の手で空閑の唇を優しくなぞった。
「声、我慢すんなよ」
「ん……」
 虎石の指の心地好い感触に唇を解きそうになるが、どうしても羞恥が優って空閑は首を横に振り、両手で口を塞いだ。
「ふーん」
 虎石の目がぎらりと光り、口角がにやりと上がった。空閑は思わずその眼に射竦められて、動けなくなる。ちろり、と肉厚な舌で唇を舐める虎石。
「愁ちゃんは強情だなあ~」
 こり、と空閑の乳首に爪を立てる虎石。電流のように全身を走る快感に、必死で声を噛み殺しながら空閑はびくりと背中をしならせた。
「っ! ん、んんっ」
「愁はこうされるの好きなんだろ? 分かってんだからな」
 直接に刺激を与えられたかと思えば焦らすように乳輪をゆっくり撫でられ。緩急を付けながら乳首を責め立てる虎石の手付きに脳が痺れ蕩けたようになり、ざわざわと体の内を何かがせり上がってくる。更に刺激を求めるように、無意識に空閑は体をくねらせた。
「ははっ、今の愁、すげえエロい」
「ん、んん……」
「可愛い、可愛いよ、愁……」
「は、あ……」
 虎石の甘い声はするりと空閑の意識に入り込み、媚薬のように脳や体を蕩かせる。口を押える手の力は自然と弱まり、だらりとベッドの上に投げ出された。すると虎石は空閑の胸への愛撫をやめた。
「あ……」
 急に刺激がやみ、思わず空閑は声を上げる。愛撫を与えられた左側の乳首だけがぷっくり膨らんでいるが、もっと刺激して欲しかった。右側も触って欲しい。そんな空閑の思いを見透かすように、虎石は見てくれだけは優しく笑いながら空閑の頭を撫でた。
「どうして欲しい、愁? 言ってみて?」
「っ……」
 思わず虎石を睨む空閑。しかし自分を見下ろす虎石の瞳に映る顔はひどく蕩けていて、とてもではないが睨んでいるようには見えない。それに気付いた空閑は、急に戻って来た理性から生まれた羞恥で顔が更に熱くなるのを感じながらも、震える唇を開いた。
「っ……触れば、いいだろ……」
「触るって、どこに?」
 意地悪く質問を重ねて来る虎石。この野郎後で覚えてろ、と思いながらも空閑は目を閉じて虎石から顔を背けた。
「だから、俺の胸、両方……好きにしろ」
「それじゃお言葉に甘えて」
 空閑が羞恥心でいっぱいな一方、空閑を見下ろす虎石はぞくぞくとした興奮を覚えていた。嗜虐心のような、征服心のような、腕の下にいるこの男を自分の思うようにしてしまいたいという獣じみた衝動を堪えながら、虎石はにっこり笑う。
 そして、それまで触れていなかった空閑の右乳首に顔を近づけた。そして舌先でぺろりと空閑の乳首を撫でる。
「っあ?!」
 びくりと体をしならせる空閑の右手首を押さえつけながら、虎石は空閑の右乳首に吸い付いた。左は先までと同じように手で愛撫を与えてやる。ざらついた舌で舐めてやれば空閑は艶めく声を上げた。
「やめ、ぅ……や、あ、」
 舌先で転がし、べったりと舐めてやると空閑はもっともっとと強請るように体をくねらせた。軽く甘噛みしてやれば「んぁっ!」と高い声が上がる。
 口では嫌がってても体は正直だな、なんて陳腐なフレーズが思い浮かぶ。虎石はさっきから空閑の乳首を責め立ててはいるが、下には一回も触ってない。それなのに乳首だけでこんなに感じていて、さっきから虎石の腰には大きくなった空閑のが当たっている。
 このままだと乳首だけでイッてしまいそうだが、服を着たままだと空閑が後で困るだろう。
「愁、下脱がすぞー」
「ん、あ……」
 一旦胸から顔を離して言うと、空閑が早くしてほしいと言いたげなめでこちらを見た。潤んだその眼にこもるこちらを煽るような情欲に、虎石は下半身がずんと重くなるのを感じた。
 そそくさと空閑のベルトを解いてズボンを下ろすと、テントを張る黒いボクサーパンツが虎石の眼前に現れた。
「なーに愁ちゃん、乳首だけでこんなにしちゃったの?」
「うるさ……や、あ、」
 勃ち上がった陰茎を下着の上から軽く撫でてやるだけで空閑はびくびくと体を震わせる。ズボンを完全に足から抜き取りパンツも脱いでやると、立派に屹立する男根が現れた。先走りでぬらぬらと濡れたそれがひどく卑猥で、虎石は思わず笑みを深くする。しかしそれには触ってやらずに空閑のTシャツも脱がし、ついでに自分も服を全部脱いでベッドの外に放り出す。
お互い全裸になったところで虎石は今度は空閑の左乳首に吸い付き、右乳首は指で弄ってやる。
「いやら、あぅ、んっぁ、」
 嫌がるような言葉を口から漏らしながらもその声はホットチョコレートみたいに甘く熱く、色づいた体は少しでももっと多くの快楽を得ようと動いている。そう言う時の空閑が、虎石はたまらなく好きだ。自分しか知らない、自分だけしか引き出すことの出来ない、幼馴染のあられもない姿。
「とら、いし……」
「どうした、愁?」
 名前を呼ばれたので、顔を上げて空閑の顔を覗き込む。
 空閑は汗に濡れた顔を真っ赤にし、蕩けた焦点の合わない目には涙を溜めて長い睫毛を震わせている。熱い吐息をこぼしながら空閑は唇を開き、消え入りそうなくらい小さな掠れた声で言った。
「キスしろ……」
 虎石はすぐにその唇を塞いでやる。舌は入れずに、唇を何度も吸い、少しずつ柔らかくなっていくその感触を堪能する。両手で乳首を弄ってやることも忘れない。空閑の喘ぎ声は全部虎石が飲み込んでいく。空閑の眦から涙が一筋零れた。
「愁、もうイキそう?」
 それに気付いた虎石はその涙を優しく舐め取ってやりながら問い掛ける。空閑はこくこくと必死に頷いた。
「それじゃ……」
 ぐり、と一際強く両乳首を抓ってやると「うあ! やめろ、あ、」と嬌声と共に空閑の身体が跳ねた。
「今日はこっちだけでイッてみような」
「ばか、やめ、あ、ひっ!」
「愁ほんと可愛い……可愛いし、すっげえエロい」
 胸への愛撫を続けながら耳元で熱を込めて囁いてやれば、空閑の身体はびくびくと震えた。
「も、無理、イく、あ、ああ、」
「大丈夫、ちゃんと見てるから」
 虎石の眼下で、空閑は絶頂へと導かれて行く。汗が光る滑らかな肌も、喘ぐことしか出来ない形の良い唇も、ガクガク震える体も、今の空閑はひどく淫らで、美しい。
「あ、うあ、ゃ、ふあっ、んん、や、ああ――っ!」
 がくん、と空閑の体が一際強く震え、肩で息をしながらぐったりと脱力した。腹筋にぱたぱたと液体がかかる感触に、虎石はにっこり笑う。
「愁、乳首だけでイッちまったな」
 わざと意地悪く言ってやると、空閑はとろんとした目で虎石を見た。睨んでいるつもりなのかもしれない。虎石は空閑の 額に優しく唇を落とした。
 一方で空閑は、射精した筈なのに妙にぼんやりした意識の中で虎石のキスを受け止めた。正直言ってこれだけでは足りず、後ろが先から疼いている。虎石の脚の間で屹立する太くて立派なモノが自分を貫く瞬間を思うと、欲を吐き出したばかりの筈の男根は嫌でもまた立ち上がりそうだ。
 乳首を弄られたりアナルに突っ込まれて気持ち良いと感じてしまうのも全部、虎石にそう覚えさせられたからだ。だがそれは決して嫌では無かった。そして何よりも空閑は、虎石とするセックスが堪らなく好きなのだった。
「愁、挿れてもいいか?」
 熱い息を吐きながら訪ねて来る虎石の目は欲でぎらついている。空閑は微笑みながら、答えに代えて手を伸ばし、虎石の頭を抱き寄せて優しくキスをした。

 虎石に抱き起された空閑は、目の前に虎石の右手を差し出された。
「舐めて」
 空閑はその手をそっと取る。虎石の手は自分のより少しだけ小さいが、指は男らしく太い。けれども無骨ではなくむしろ古代ローマの彫刻のような優美さすら感じられ、きちんと切り揃えた上で磨かれた爪はとても綺麗な形をしている。空閑は虎石の手の甲から指にかけてうっとり撫でた後に、そっとその指に舌を這わせ始めた。指全体を舐め上げて唾液で濡らしてから、じっくり味わうように一本ずつ舐め上げる。
「んぅ……はあ……」
 フェラチオをするかのようにわざといやらしく虎石の指を舐めながら、その指を唾液でとろとろにしていく。指の間の皮膚の薄い所を舌先でつついてやると、虎石の身体が震えるのが分かった。舌で指を味わうように舐めるだけでは飽き足らず、口を大きく開けて指全体を招き入れる。
「っ……愁……」
「あむ……んむ……」
 舐めて、吸って、甘噛みして、口腔全体で虎石の指を堪能する空閑。上目遣いで見上げれば、獣のようにはっはっと息を吐きながら眉を寄せる虎石と目が合う。こちらを視線だけで抱き潰してしまいそうなその目に、ぞくぞくした興奮が背中を駆け抜けた。
「愁、もういい」
「ん……」
 虎石に言われたのでそっとその指から口を離す。そしてわざとゆっくりベッドに仰向けになると、見せ付けるように足を開いて膝を抱えた。
「……来いよ」
 虎石は答えの変わりに空閑の菊門の縁をそっとなぞった。これまでに何度も虎石を受け入れてきた空閑のそこは、縁を撫でるだけで愛しい男を求めるようにひくついた。空閑は期待でごくりと唾を飲み込む。
「入れるぞ」
 まず人差し指がぷつりと音を立てて空閑の中に入ってきた。
 悔しいが、虎石は指を入れて解すのが上手い。空閑が痛い思いをしないようにとゆっくり空閑のアナルを綻ばせながら、空閑が悦ぶところを刺激しては快感を引き出していく。空閑も自然と、もっと気持ち良くなりたいと腰を揺らした。
「あっ、とらい、ひ、」
「指増やすぞー」
「ん、はうっ……」
 増えた指を動かされて、空閑はびくびく体を震わせる。虎石の指をくわえ込むように襞がうねった。だらしなく開いた口からは涎がこぼれ、酸素を求めて浅い呼吸を繰り返している。
「気持ちいい?」
 虎石に尋ねられながら優しく頭を撫でられると、頷かざるを得ない。でも、指だけじゃまだ足りない。
「お前の、早く欲しい……」
「もうちょっと待っててな。痛い思いさせたくねーから」
 欲に満ちた目をしているくせに、それを隠そうともしない上でこんなことを言ってくるのだから堪らない。こういう時だけ妙に紳士なのはずるい、と空閑は思う。どうすれば空閑が気持ち良くセックス出来るのか、虎石には自然と分かっているかのようだった。
 ばらばらと指を動かされると、刺激を求める腸壁がうねって虎石の指を締め付けた。
「はは、せっかちだな愁ちゃんは。そういうとこすっげー可愛い」
「う、るさい……」
 空閑が虎石を求めているように、虎石は空閑に早く入れたくてうずうずしていた。しかしはやる気持ちを抑えて空閑の中を解していく。照れからかそっぽを向いてしまった空閑がまた可愛くて、虎石はわざと前立腺をとんとんと叩いてやる。
「もー少しだからな」
「んぁっ、やめ、ひっ!」
 空閑は面白いように体を震わせ、その拍子にぽろぽろと濡れた瞳から涙が溢れた。
「ふ、ああ、はっ……」
 ぐちゃぐちゃにしてやるくらいに、けれど丁寧に掻き回してやれば空閑の屹立からはだらだらと先走りが流れ空閑は泣きながら喘ぎ声を上げる。
 そろそろ良いだろうと思い、虎石は指を空閑から引き抜く。
「それじゃ、愁……」
 耳元に唇を寄せて、飛びっ切り甘い声を出す。
「一気にと、ちょっとずつ、どっちがいい……?」
「っ……はや、く……」
「ん?」
「……っ、いちいち焦らすな、っ、早くいれろ!」
「りょーかい」
 口調こそ荒いが目はとろんとして、頬を紅潮させる空閑はひどく厭らしい。虎石は空閑の額に優しくキスをして、ひたりと、解れた空閑のそこに己の陰茎をあてがう。
「行くぞ」
「ん……」
 そんな期待した目で見られると、堪らない。空閑の腰を押さえると望み通り、ずんと一気に貫く。
「ぁああっ!」
 空閑は一際高い声を上げ、目を大きく見開いて背中を反らす。しかしその肉肛は虎石をスムーズに受け入れ、嬉しそうにうねりながらくわえ込んだ。
 虎石が汗で顔に張り付いた髪をそっとどかしてやると、充血した目が良く見える。労るように頬を撫でると、空閑は肩で息をしながらも幸せそうに目を細めて頬を寄せてきた。そんな可愛いことされたら、堪らなくなる。
 腰を動かし始めると空閑は「あぁっ」と高い声を上げながら体を震わせた。
 ピストンのスピードを上げていくと、空閑はぎゅっとシーツを掴みながらぼろぼろ涙をこぼした。
「っあ、は、」
「はっ、愁、気持ちいい……?」
 空閑はこくこく頷きながらきゅっと虎石を締め付けた。射精を促されるが、虎石は眉を寄せて耐えた。こぼれる涙を舌で掬いながら、空閑が特に感じるところを重点的に抉ってやる。
「ひうっ、あ、らめ、そこは、や、」
「駄目じゃねーだろ、喜んでるくせに……な、愁、気持ちいいだろ?」
「は、きもちい、や、」
「はあ……可愛い、すっげー可愛いよ、愁……」
 自分の下で淫らに蕩け乱れる幼馴染みの姿に、自然に恍惚としてしまう。こんな時しか見られない姿だ、瞬きするのすら惜しい。
 普段はクールで硬派な幼馴染みが男に抱かれて快感に喘ぐ姿は自分しか知らないし、これからだって自分以外に知られてほしくない。愁を抱いていいのは俺だけだ。そんな独占欲を隠そうともせず虎石は何度も空閑を突き上げた。
「あぁっ! ひゃ、やっ、虎石……」
「ん?」
 空閑がすがり付くように虎石に向かって腕を伸ばして来た。虎石はすかさず、空閑が腕を回しやすいように上体を屈める。空閑の手が背中に回され、更に腰に脚が絡まる。更なる深い繋がりを求めるような幼馴染みが愛しくて、虎石は思わずその首筋に唇を落とした。吸い付いて、甘噛みして、印を刻むように痕を残していく。
「愁、愁……ん、可愛いよ、愁……」
「は、とらいし……ぁっ、」
 空閑は揺さぶられる視界と明滅する意識の中で、熱に浮かされたような虎石の声を聞いていた。全身に感じる虎石の熱と際限なく与えられる快楽に、虎石と完全に融け合って一つになったかのような錯覚すら感じる。
 こいつとなら一つになってもいいか。どうせ小さい頃から一緒なんだし。ああでも今は一つになるのは駄目だな、もうすぐ合宿だし。
 意識の片隅でぼんやりそんなことを考えていれば、一度ぎりぎりまで引き抜いた虎石の肉棒が勢いよく空閑の最奥を穿つ。
 快感が電流のように全身を駆け巡った後、それはとめどない波となって空閑を襲った。
「あ、がっ! だめだ、そこ、んあ!」
 虎石は何度も何度も、空閑の体に己を覚えさせようとしているかのようにピストンを繰り返す。
 空閑は目を見開いてびくんと体を海老反りにし、屹立からどろりと白濁を吐き出した。けれど虎石は突くのをやめない。絶頂しても無理矢理与えられる快楽に陰茎はまた立ち上がり、空閑はぼろぼろ涙をこぼしながら喘ぎ続けた。理性はすっかり焼き切れてしまっていた。
「あう、ひ、きもちいい、あぁあ、らめ」
「きもち、いいっ……? 俺もだよ……」
 優しく涙を舐め取られても、目尻を這う舌のぬめりとした感触と顔に当たる獣じみた息遣いが更に空閑の興奮を煽る。
 もっともっとと、空閑は虎石をきゅうきゅうと締め付けた。空閑の後肛は虎石の形をはっきりなぞり、虎石にいっそう強く吸い付いた。虎石の男根の形を感じて、空閑は熱い息を吐き出す。
「っ……愁、俺もう……っ」
 切羽詰まったような虎石の声に、空閑は必死で応える。
「とらいし、あぁっ、はぁ、お前の……俺に……早く……」
「愁……っ!」
 がつがつと抉られながら噛み付くようなキスをされ、空閑は唇を開いて虎石を受け入れる。互いの唇の感触をたっぷり堪能した後、虎石は空閑の唇から離れて呟いた。
「もう、出そう……」
「来て……虎石の、俺に、くれ………」
 熱く囁くと、虎石は頷きながら力任せに叩き付けるように空閑の最奥を貫いた。
「んああっ!! ああああ、あっ、ぁああ……」
 空閑はピンと足を伸ばし、ガクンと体を震わせた。全身を強烈な快感が駆け巡ったかと思えば下腹部が甘く痺れ、その痺れはざわざわと空閑の全身を駆け巡る。持続する絶頂の感覚に空閑は大きく目を見開き、はあはあと息をする。射精することはなく、その陰茎からは透明な蜜がだらだら溢れているだけだ。そして強い締め付けに虎石は小さく呻きながら、空閑の中にどろりとした欲望を吐き出した。
 空閑は朦朧とした意識の中、腹の中に感じる熱に愛しさを、同時に自分の中で無駄になる子種に僅かな切なさを覚えた。
 虎石はそっと空閑から陰茎を引き抜く。アナルからはとぷりと白濁が溢れ、空閑が微かに物惜しそうな声をあげると虎石は笑って空閑の唇に唇を重ねた。触れるだけの優しいキスの後、空閑は呟く。
「……虎石」
「ん、何? 愁」
「好きだ」
「……俺もだよ」
 優しく頭を撫でられながらそう言われ、空閑は自然と頬が緩んだ。そして全身を包み始めた幸せな眠気に逆らうことなく、そっと目を閉じたのだった。

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Good Morning!(再録)(★)(和愁)

 耳に届いた無機質なアラームの音で、空閑愁の意識は覚醒した。
 タオルケットを肩までかけて気怠い体を横たえている自室のベッドの上は、少し窮屈に感じる。
 目を開くと、眠りこけている幼馴染み……虎石和泉の顔が目に飛び込んできた。鳴り続けている携帯のアラームも知ったことかといった様子だ。
 空閑はもぞもぞとタオルケットから這い出すとサイドボードに手を伸ばし、携帯のアラームを止めた。体を動かす度に腰が鈍痛を訴える。スマートフォンの時計は朝六時半過ぎを知らせていた。
「んん~~……愁、もう起きたの~~……?」
 くいくいとタンクトップの裾を引っ張られたので視線を向ければ、眠りこけていた幼馴染みが眠そうな目を擦りながらこっちに手を伸ばしていた。
「おはようさん、虎石」
「起きるのはえーよ……」
「どっちかが朝飯作らねえと駄目だろ」
「ええ~まだいいだろ……今日俺達二人ともオフだぜ? 滅多にないじゃん、奇跡じゃん」
 だらけきった虎石の言葉に、空閑は呆れて溜め息をつく。
「お前だけ寝てろ」
「やーだね」
 虎石に腕を引かれ、抵抗する間もなくその腕の中に収まる羽目になった。
 小さい頃から何度も自分を包み込んだ温もりに、ふと胸が苦しくなる。
 虎石は楽しそうにこう続けた。
「愁を一日中独占出来るのなんて久々じゃん」
「……一緒に住んでんだから顔ならしょっちゅう見てるだろ」
「丸一日、ってとこが大事なんだよ愁くん」
 甘えるように首筋に頭を押し付けられ、空閑はまた呆れて溜め息。こうなると虎石は何を言ってもなかなか聞かない。空閑は抵抗を諦めた。
「つーか腰いてーんだけど。お前がっつきすぎ」
「その後で今度は俺が上やるからもう一回とか言って俺にがっついて来たのは誰だ?」
「……俺だな。まあいいじゃん」
 鎖骨の辺りに唇を落とされ、くすぐったさで思わず身じろぎする空閑。そして自身の脚に絡まってくる脚に気付く。
「……おい」
 声を低くして唸ると、虎石はにやりと笑って上目遣いで空閑を見る。その瞳と吐息には熱がこもっていた。
「お前とセックス出来たのも、久し振りだったしなあ」
「っ……」
 この万年発情期、そう言いかけた唇は虎石の唇で塞がれた。
 僅かに開かれた空閑の唇から虎石の分厚い舌が入り込んだ。歯列をなぞり、口蓋を刺激し、空閑の口内を思う存分堪能してから、空閑の舌に絡めてくる。
 空閑は自分が弱いころを重点的に攻めてくる虎石の舌使いに体から力が抜けていくのを感じながらも、虎石の舌に自身のそれを絡めてどうにか応戦した。
 いつの間にか虎石は、空閑に覆い被さって来ていた。
 口付けの角度を変える度に唇の端からは唾液が溢れ、僅かに唇が離れる度に熱い吐息が漏れ出す。
 息苦しくなるのを感じながらも、唇の感触と布越しに感じる虎石の体の熱さは不思議な陶酔をもたらした。
 そしてその熱に、寝る前のあの獣のようなまぐわいを思い出し、自然と体が夜の熱を取り戻し始める。
 虎石が空閑の右手に自身の左手を重ね、シーツに縫い止めるように指を絡めてくる。空閑は自然とそれに応え、指を絡めた。
 このままだと流される。
 熱に浮かされ始めた頭の片隅でそう感じながらも、抵抗する気はあまり起きなかった。体は怠いし、腰も痛い。昨晩汚したシーツは洗って外に干しっぱなしだし、互いの寝間着は既に汗で濡れ始めている。このまま続けたら後々また面倒なのは理性と経験で理解している。
 けれど、こうして幼馴染みと互いの熱を交わし快楽を貪るのは決して嫌いではなかったのだ。
「っ……ぷはあ」
「っは……」
 虎石がようやく唇を離したので、空閑は肩を上下させて酸素を求めた。
 二人を繋ぐ銀糸を、虎石の赤い舌がゆっくり舐め取る。
「朝っぱらから盛りやがって、とか言わねえの?愁ちゃん」
 少し意地悪に口角を吊り上げて笑う虎石に、空閑は眉をひそめた。
「分かってるなら……」
「はいはい」
 皆まで言うな、と言わんばかりに、虎石は空閑の唇に優しく人差し指を当てる。
「俺がしたいだけ。だから、無理はさせねーし、最後まではしない。いいだろ、ハニー?」
 そして、女の子のファンなら堪らないであろう笑顔でウインクを一つ。
「……好きにしろ」
 歯の浮くような芝居がかった仕草に腹が立ったのでぶっきらぼうに返してやると、今度は宥めるように額に唇を落とされた。
 空閑が完全に体の力を抜いたので、虎石は空閑のタンクトップの下から空閑の肌にそっと空いた手を這わせる。決して柔らかくはない、鍛えられ引き締まった空閑の体を虎石の指が優しく撫でる。
「ん……」
 虎石の指先が胸の先端を掠めたので空閑が小さく声を漏らすと、虎石は「愁、かーわいっ♪」と歌うように呟いた。
 そして虎石は空閑と絡めていた指をほどくと体を起こしーーこの時虎石の肩に引っかかっていたタオルケットがぱさりと床に落ちたーー、空閑のタンクトップを胸より上までまくり上げた。
 虎石はほんのり桜を帯び始めた空閑の右胸の先端に触れ、軽くつまむ。
「っ……」
 むず痒さにも似た刺激に、空閑は声を漏らすまいと唇を引き結ぶ。
「愁ちゃーん、声我慢しねえの。ここ俺達しかいねえんだけど」
「うるさ……ああっ」
 口を開いた瞬間に両胸を刺激され、空閑の体はびくりと跳ねた。
 虎石は朱に染まっていく空閑をうっとりとグレーの瞳に映し出しながら、空閑の胸を刺激し続けた。
 薄く涙が滲んだ目を細めながら艶かしい声を漏らす幼馴染みに、虎石は下腹部の熱がいっそう上がるのを感じた。
 空閑は一昨年の特撮ドラマでダークでクールな主人公の仲間を演じてからお茶の間にも少しずつ知られた顔になり、もうすぐ新しい主演ミュージカルの稽古も控えている。世間ではクールでミステリアスな若手注目株とされている幼馴染みが、自分にだけ見せる顔。虎石はぞくぞくとした興奮を覚える。
 撫でるだけでは我慢が出来ず優しく胸に吸い付くと、空閑はいっそう高い声を上げた。固く立ちつつあるそこを舌で転がす度に空閑の体が震える。
 虎石とて舞台を中心に活動し、最近は連続ドラマにも準レギュラーとして出演。ファンも定着してきている身だ。今も次の舞台の稽古期間中。
 互いに世間に知られた顔だし、人の目に己の身を晒す俳優という職業に魅せられている。けれど、決して互いにしか見せない顔があるのは二人しか知らない。
「愁」
 時々とびきり甘い声で名前を呼びながら、胸への愛撫を続ける。
 しかし空閑は朱の差した顔で虎石を睨んだ。
「っは……おい虎石……」
「なに?」
「さっさと終わらせろ……ん、朝飯……」
「……俺が腹一杯にしてやってもいってえ!!」
 空閑の膝で尻を蹴り上げられ、突然の痛みと衝撃に虎石は愛撫をやめて尻をおさえた。思わずうずくまる。
「うお……腰に響く……」
 アクションもこなせる俳優・空閑愁が本気を出せばもっと痛いのだろうが、痛いものは痛かった。
「っはあ……最後まではしないって、言ったのは、どの口だ……?」
「とか言って愁もノリノリじゃ……」
 今度は顔面めがけて枕が飛んできた。空閑は上体を起こし、呼吸を整えながら低い声で凄む。
「……下らねえこと言ってると、もうやめるぞ」
「分かった分かった……もう調子には乗らねえよ」
 虎石は空閑の肩に手を起き、宥めるように額にキスをする。
「それじゃ、お望み通り」
 虎石が空閑の穿いているジャージに手を掛けようとすると、空閑はわざとらしくそれより早く腰を浮かせ、ジャージと下着を同時に下ろした。
 唖然とする虎石を尻目に長い脚を曲げてジャージと下着を爪先から抜いて床に落とした空閑は、してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「どうした、虎石」
 そして虎石の体を挟み込むようにして両足を伸ばす。
「来いよ」
 タンクトップ一枚で蠱惑的な笑顔を浮かべる空閑。その男根はしっかりと屹立している。
「……愁、お前やっぱ超かっこいいな」
 うっかり惚れ直した。そう呟きながら、虎石も寝間着のショートパンツと下着を脱ぎ捨てた。そして屹立している自身と空閑のそれを右手で同時に握り込み、左手は空閑の肩に乗せる。
 そのままぐちゅぐちゅと厭らしい水音を立てながら擦り合わせれば、押し寄せる快楽に二人は熱い吐息を漏らす。虎石は快楽をあるがままに享受して笑い、空閑は快楽を堪えるように眉を寄せながら。
「っは……すげーいい、な、愁」
「ぅ……」
 空閑は虎石の腕をぎゅっと握って快感に堪えている。
「我慢すんな」
 耳元に口を寄せて囁くと、空閑は首を横に振った。
「相っ変わらずの強情じゃん……」
 空閑の亀頭に軽く爪を立てると、空閑は嫌々をするように首を横に振った。
「やめろ……ぁっ、あ、」
「……愁」
 虎石は空閑の頬に左手を当て、その顔を真っ直ぐに見つめた。
 整った顔立ち、朱が差した汗滲む肌、蕩けた目尻、薄い涙の膜が張った菫の瞳、薄く開かれた唇。ずっと昔から毎日のように、今となっては四六時中見ている顔の筈なのに、はっとするほど綺麗だ。
「……和泉」
 名前を呼ぶ艶めく声に突き動かされて擦り合わせる手の速度を早めれば、互いの呼吸はいっそう荒くなる。
 菫に映る自分の顔がひどく欲にまみれているのを見て、誤魔化すように空閑の顔に何度もキスをする。
 本当は余裕なんてない筈なのに、空閑は虎石の頭を包み込むように撫でながら言う。
「お前……は、……ほんと、キスするの好きだな」
「わりーか、よっ……お前も好きだろ」
 憎まれ口も、興奮剤。
 上り詰める感覚に、虎石はぎゅっと眉を寄せる。
「愁、俺いきそ……」
「……俺も……ん、」
 二人は体をびくりと震わせ、同時に絶頂に達した。
 白くどろりとしたものがべったり虎石の手を汚し、受け止めきれなかった白濁がぱたぱたとシーツに零れて染みを作った。
「っは……」
「はー……」
 互いに脱力し、空閑はヘッドボードに背中を預け、虎石はへたりこんで呼吸を整える。
 空閑はヘッドボードにもたれながら虎石を睨む。
「ったく……少しはシーツ洗う面倒も考えろ」
「わーった、今度から気ぃ付ける」
「どうだか……ほら」
 虎石が空閑からティッシュの箱を受け取って処理をしている間に、空閑はさっさと処理を済ませてズボンを穿いてベッドから立ち上がった。
「早くしろ、朝飯作るからシーツ洗っといてくれ」
「りょーかい」
 虎石は手早く処理を終えるとベッドから立ち上がり、シーツを引き剥がした。
[newpage] 「……そうだ虎石。お前に言っとかねえといけないことがある」
「ん?」
 朝食を終えてシーツを干し終え。そのままなんとなく二人してリビングのソファでだらだらしていると、肘掛けにもたれかかって新聞を読んでいた空閑がおもむろに口を開いた。
 虎石はなんとなく見ていたニュースを消して、空閑を見る。
 空閑は新聞を畳んで床に置くと、体を起こした。そして少しだけ迷うような顔をしてから、虎石の目を真っ直ぐ見て言った。
「前話したよな。そろそろアメリカに行くつもりだって。決めた……ちゃんとビザ取って、今度の舞台が終わったらニューヨークに行こうと思ってる」
 虎石は思わず息を飲む。
 空閑は淡々と話し続けた。
「事務所に相談して、もうオーケーも出てる。……しばらく向こうに滞在して、オーディション片っ端から受けるつもりだ」
 空閑は眉を下げ、小さく息を吸った。
「決まったのは、先週なんだけどな。落ち着いてる時に直接言いたかったから、ずっと黙ってた……悪い」
「……そっか。次の舞台、終わんのいつだっけ?」
「……四ヶ月後」
「結構、すぐだな」
「ほんと、悪い」
「謝んなよ」
 虎石は空閑の方へ身を乗り出し、その頬を両手で挟んだ。
「だってお前、ブロードウェー行きたいって言ってただろ。あそこの舞台に立ちたいって……夢叶えに行くんだろ、もっと胸張れよ」
 いや、と空閑が急に真顔になる。
「一緒に寝れる時にお前が盛ってこなかったらもっと早く言ってた」
「……マジで?」
 思わず冷や汗が流れる虎石。
「冗談だ」
 ふ、と空閑の表情が緩む。
「でも、次の舞台が始まったらそう一緒に寝れる時間もなくなるだろ。……そう思うと、な」
「……そっか」
 目の前の恋人がいじらしくて、虎石は空閑の頬から手を離すとその体に腕を回した。
「ばーか……さっさと言ってくれたらもっと丁寧にしたっつーの」
「そんなのお前の柄じゃねえだろ」
 空閑が虎石を優しく抱き締め返す。鼻の奥がつんとするのを感じ、虎石はいっそう強く空閑を抱き締めた。
「別に一生会えなくなる訳じゃねえよ」
 空閑のその声はとても優しい。けれど、何だか空閑が自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
 ああ、やっぱりこいつも寂しいんじゃないか。
「それでも大ダメージだっつーの」
「……じゃあお前もアメリカ来い、アパートのスペースは空けといてやる」
 空閑の優しい声が沁みる。
 今まで何度も抱き締めたその存在が、体温が、急に何よりも愛おしく思えた。手離したくないとすら思う。
 けれど、空閑が見ている景色にいるのは自分じゃない。もっと大きな夢を追いかけている。もっと大きなステージへ飛びたいと願う幼馴染みを自分の傍に留めることなど出来るはずもなかった。
 空閑に誘われてミュージカルのに脚を踏み入れ、その世界の輝きに魅了されて引き返せなくなった虎石だから、それは痛いほど分かっていた。
 だったら、ミュージカルを始めた時みたいに、またこいつを追い掛けて、隣に立ってもっとでかい夢を見るのも悪くない。
「はは、それいいな」
 空閑は多分気付いていないけれど、空閑の隣に立って見る夢は、虎石にとって何よりも色鮮やかな景色だ。
 ただ幼馴染みと一緒にいたいからミュージカルをやって来たんじゃない。幼馴染みが魅せる夢が他のどんなものにも負けないくらいに、目を反らせないくらいに綺麗だから、虎石は躊躇うことなくその夢に手を伸ばす。
 虎石は空閑の耳元に口を寄せた。
「それじゃ、俺が行くまでステージで待ってろよ、愁」

 色々言い訳はしたものの、結局俺が臆病だっただけだ、と空閑は思う。
 アメリカ行きを決めたことを言い出す勇気が無かった。
 小さい頃から一緒にいて、ミュージカルの世界でも肩を並べて歩いてきた幼馴染みの元から離れると決めたことを、言い出せなかった。
 甘えるより甘やかす方が得意なくせに、空閑には誰よりも甘えている虎石。そして空閑だって誰よりも虎石に甘えている。
 自分を包む、そして自分が包んでいる体温に感じる安らぎが何よりの証拠だ、と空閑は思う。小さい頃から、互いの体温が何よりの慰めだった。きつい時に抱き締めてくれる人の温かさは何よりも心に効く。それを空閑に教えたのは虎石だった。
 けれど、アメリカに行ってしまえばこの体温を感じることは出来なくなる。
「別に一生会えなくなる訳じゃねえだろ」
 甘えるように強く抱きついてくる幼馴染みを抱き締め返しながら空閑は言う。それは自分への言い聞かせでもあった。
 くぐもった声が返ってくる。
「それでも大ダメージだっつーの」
 どこか拗ねたようなその声に空閑は苦笑する。とっくに二十も越えてるのに、こういうところは相変わらずだ。
「……じゃあお前もアメリカ来い。アパートのスペースは空けといてやる」
 何となく口から出た言葉だった。けれど、自分が今抱き締めている男は、いつだったか、自分の何となくの言葉に乗せられてミュージカルを始め、スターの階段を駆け上がってここまで来てしまったとんでもない男なのだった。
「はは、それいいな」
 案の定、虎石は少し乗り気になったようだ。
 ひょっとしたら自分より才能があるかもしれない男の行く道を、自分が決めてしまっているようで後ろめたくもあり、けれど追い掛けて来てくれるのは嬉しくもあり。
 そんな空閑の胸中に気付いてか気付かずか、虎石が耳元で囁いた。
「それじゃ、俺が行くまでステージで待ってろよ、愁」
 その声にこもった熱に、空閑は目を見開き。胸の中がじわりと温かくなるのを感じた。
 夢を見て新しい地へ向かう不安も恐怖も包み込んで推進力に変えてくれるような、それはまるで魔法の言葉。
「……ああ」
 空閑は瞳を閉じ、静かに言葉を返した。
「早く来いよ」
 きっと、お前と肩を並べて立つブロードウェーのステージは最高に気持ちが良い。

[戻る]

cat?(再録)(★)(ソーヒカ)

兄さんに猫耳が生えるなどします。
魔法って便利ですね……

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アメリカやヨーロッパに比べれば少ない方ではあるかもしれないが、日本でもヒーローとヴィラン同士の戦いが勃発することは決して少なくない。日本に古くから存在する裏社会を苗床にヴィラン達は力を蓄え、彼らが人々に危害を与えようものならアベンジャーズのように世界を股にかけて活躍するヒーローや彼らと親しいヒーロー、あるいは日本のヒーロー達がそれを阻止する。
ある日ヒカルが巻き込まれかけたのもそう言った戦いの一つだった。しかしその戦い自体はあっと言う間に決着がついた。その時ヒカルのすぐ傍にいたのは世界にその名を轟かす雷神にしてアベンジャーズのメンバー・ソーであり、戦いの切っ掛けとなったヴィラン達はさして強くも無い者達だったからだ。
ヴィラン達は大きな銀行を襲おうとして騒ぎを起こし、ヒカルとソーは偶然にもその場に居合わせた。二人が歩いていたのはその銀行の大通りを挟んですぐ向かいの歩道だった。
そして、警察からの要請を受けて日本最強のミュータントであるサンファイアーや、日本のヒーローチームであるビッグヒーロー6が到着したのは、もうソーがヴィラン達を叩きのめした後だった。
ソーはヒカルにすぐ家に戻るよう言い含めてからサンファイアー達に事情を説明しに行った。ヒカルはソーに言われた通りに真っ直ぐ帰宅した。
帰宅してしばらくした後に、浮遊感にも似た強い眠気に襲われた。ソーや、まだ学校に行っているアキラの帰りを待っていたヒカルはふらふらとリビングのソファに倒れ込み、深い眠りに落ちていった。

「……いさん。兄さん!」
「……ん?」
弟の声でゆっくりと意識が明るくなる。いつの間に帰って来ていたのか、制服は着ていない。
目を開けると、アキラが自分を覗き込んでいた。
「あれ、アキラ」
「兄さんどうしたんだよ。もう六時過ぎてるよ?」
「えっ……」
アキラの言葉に一気に目が醒め、ヒカルは跳ね起きた。壁にかかった時計を見ると、時計は6時15分を示している。
「ごめんアキラ!まだご飯の用意してにゃい……!簡単にゃものしか出来にゃいけどいい?!」
「あっ、う、うん……?」
その時のアキラの困惑した声に、ヒカルは気付かなかった。そして自分の発する声のわずかな変化にも。夕飯を作り始める前に顔を洗おうと洗面所に向かい、そして鏡を見て気が付いた。
いつもと変わらぬ自分の顔。しかし頭頂部と両側頭部の間に生えている、自分の髪と全く同じ色の、三角形のそれ。それはまるで、猫の耳のように見えた。
「にゃ、にゃにこれ……?」
思わず後ずさりすると、ぴりり、と尻から背中にかけて微かな刺激が走った。
「ひっ……?!」
振り向くが、そこにあるのは洗面所に初めから備え付けられている収納の戸棚だけ。だが視界の隅に何か異質なものが閃くのを捉えた。パッ、とそれを手で掴む。すると先より強く、びりりとした刺激が背中に走る。
強く目を閉じて刺激に耐え、それを恐る恐る見る。それはどういうわけか、ズボンと己の背中の間の隙間から飛び出していた。毛皮に覆われて細長く自分の髪と全く同じ色をしたそれはさながら、猫の尻尾の様だ。
「え……?へ?」
「ヒカル!」
「ひっ!」
リビングからソーの声が聞こえる。その大きな声にヒカルはびくりと体を震わせた。
「大丈夫か、ヒカル!」
「にゃ、待って……」
思わず制止の声を上げるも、ソーはすぐに洗面所へと足を踏み入れて来た。そしてヒカルの姿を見た途端、
「遅かったようだな……」
と悔しげにつぶやいた。
「へ……?」
「今から説明する。こっちへ」
事態を上手く飲みこめずに固まっているヒカルにソーは歩み寄り、優しく肩を抱いてリビングへと導き、ソファに座らせた。
ソーがヒカルとアキラに語るには、どうやらあのヴィランの中に妖術を操る者がいたらしい。操る……と言ってもまだ未熟だったとか何とか。そして暴発した妖術がヒカルに作用してしまったらしい。その妖術の効果は「術をかけられた者が一時的に猫になる」というもの。現場に居合わせた全員に妖術の影響が出てしまっている恐れもあるので、アメリカからドクター・ストレンジを呼ぼうという話がヒーロー達の間で持ち上がっているようだ。
成る程、至高の魔術師でありオカルト方面のプロフェッショナルであるドクター・ストレンジならば事態解決もすぐであろう。そう思ってヒカルは安心しかけた。しかしその思いはすぐに裏切られることとなる。
「だが、肝心のストレンジに連絡がつかないようでな……今はミッドガルドの外にいるようだ」
「じゃあ、兄さんがいつ治るか分からないってこと?」
「そうなる」
「そっか……」
落ち込むアキラを見て、アキラに心配をかけてしまっている、と僅かに胸が痛む。自分は悪くないと分かっていても、どうしてもそれを気にしてしまう。
その上に、自分は今こんな状態だ。いつ元に戻るのかも分からない。ずっとこんな状態では外に出るのも難しいだろう。尻尾が妙に敏感なのはさっき十分に実感した。自分の身体が自分の知らない間に作り変えられているという恐怖を嫌でも感じる。ヒカルは思わず俯いた。すると頭の耳が一緒に項垂れているのが分かった。
「だが案ずるなヒカル」
ソーの声にヒカルは思わず顔を上げた。
「お前は必ず元に戻る」
ソーが真っ直ぐにヒカルの目を見て言った。その真剣な眼差しに、思わず心臓が跳ねる。
「私が誓おう。このムジョルニアの名にかけて」
その言葉に、強張っていたヒカルの頬が自然と緩んだ。それを言われると、圧倒的な安心感がヒカルの胸いっぱいに広がる。
「……ありがとう、ソー」
「兄さん、困ったことがあったらすぐ俺に言ってよ!俺、出来ることなら何でもするから!」
「アキラも……ありがとう」
ソーの真剣さとアキラの優しさに目が潤んだ。自分がどうなるかは分からないが、きっと何とかなる……そんな気がした。

結局夕飯はピザのデリバリーで済ませたが、どうやらヒカルの舌も変化しているようだった。熱いピザやポテトがなかなか食べられず、食事にはいつもの倍近い時間を要した。
ヒカルがソーやアキラの力を借りつつ検証したところによると、耳は今のところ形だけであり、耳としての機能はまだ自身の耳が果たしている。尻尾はバランス云々と言うより感覚器官としてだけ作用しているようだ。舌はややざらついて猫のそれに近くなっている。その上舌が上手く回っていないのか、時々「にゃ」が言葉の中に混じる。それ以外はまだほとんど人間のままだ。
「……しかし、改めてみるとお前のその姿は新鮮だな。可愛らしくもある」
「恥ずかしいよ、もう……」
夜も更け、ヒカルの部屋でソーとヒカルはベッドの上に並んで腰かけていた。ヒカルはパジャマに着替え、ソーはミッドガルドでの宿泊時に時によく着る半袖のTシャツにスウェットというラフな洋服を着ている。
ソーがヒカルの頭を優しく撫でると、ヒカルがびくりと肩を震わせた。
「待って、やだ」
「どうした、ヒカル」
「わ、分かんない……でも、頭は嫌だ……」
「ふむ……」
日頃であればヒカルはソーが頭を撫でても嬉しそうに受け入れる。
もしかしたら、猫は頭から撫でられるのが苦手なのだろうか。ヒカルもソーも思っている以上にヒカルは猫に近付き始めているのではないか、とソーは憶測する。
「顎とか喉なら、いいかも」
「そうか」
ソーはミッドガルドの猫という動物に触れた回数は決して多くない。だが、触れた時のかすかな記憶を頼りにそっとヒカルの顎を撫でる。
「ん……」
ヒカルは目を閉じ、幸せそうに喉を鳴らす。ヒカルの尻尾がゆっくり揺れるのを見て、ソーの中で好奇心が首をもたげた。
「……ヒカル」
「何?」
「尻尾を撫でても?」
「いいよ」
ソーはヒカルの喉から手を離し、パジャマのズボンから伸びているふさふさした尻尾にこわごわと触れた。すると、
「みゃっ……!」
ヒカルが体を震わせながら丸め、顔を赤くしながら声を漏らした。
「!すまんヒカル」
ソーが慌てて尻尾から手を離すと、ヒカルは首を振ってソーの手を掴んだ。
「大丈夫、だから。もっと触っていいよ」
その声が艶を帯び始めている。ソーは誘惑に耐えきれず、ヒカルの尻尾に手を伸ばした。
尻尾は優しく滑らかな手触りで、触っていてとても心地いい。ソーはその手の中の感触をしばし楽しもうとした。しかし、尻尾を撫でられているヒカルは顔を赤くして口を僅かに開けて浅い呼吸を繰り返している。耐えるように拳を強く握っているその姿は嫌でも劣情を催すもので、尻尾の触り心地どころではない。
これ以上ヒカルに無理をさせてはならないという思いと、ヒカルにもっと触れたいという思いがせめぎ合いを始める。
ソーはそっと、ヒカルの尻尾から手を離した。
「?にゃんでやめるの……?」
ヒカルがソーを見上げる。その瞳は潤み、目じりには朱が差している。しまった、と思いつつソーはヒカルに問い掛ける。
「お前は、どうされたい。ヒカル」
ヒカルはソーの目を見ながら、唇を震わせた。
「……もっと、触って……すごく、熱いんだ……でも、ここ家だしアキラも隣の部屋にいる、から……」
どうすればいいのか分からない、そうヒカルは訴えている。
「そうか。ならば、お前の望む通りに」
ソーはヒカルを一度横抱きにすると、ベッドに横たえた。その上に覆いかぶさると、ヒカルの唇に自身の唇を乗せる。浅い口付けを何度か交わした後に、互いの舌を絡め合う。ソーの舌が口腔に触れる度にヒカルが小さく声を漏らし、一方でソーはヒカルのざらついた舌の感触の快さに酔いしれた。
ソーの中心は既に強い熱を帯びている。そしてそれはヒカルも同じようで、ソーはそれを服の布越しに感じた。
早く楽にしてやらねば、ヒカルが辛い。
ソーはヒカルから唇を離すと、手早くヒカルのパジャマの上着のボタンをすべて外した。素肌が外気にさらされ、期待と肌寒さでか、ヒカルの尻尾が僅かに震えた。
普段であればヒカルが堪えられなくなるまで焦らすところだが、今は普段とは状況が違う。いつもと違う自分の身体にヒカルは戸惑っている。不安も感じていることだろう。だからそれを早く和らげてやらねばならない。
ズボンの上からヒカルのそれを撫でると、ヒカルはギュッと目を瞑って身を震わせ、甘い声を漏らした。
「うにゃ、あ……!」
「……愛らしいな」
思わず笑みを漏らすと、ヒカルが目を開けて恨めしそうにソーを見る。
「すまない、思わずな」
そう詫びながらヒカルのズボンに手をかけると、ヒカルがソーのシャツを掴んで引っ張った。
「待って、ソーも……」
シャツを脱いでほしいという事か。ソーは頷き、Tシャツを脱ぎ捨てた。ヒカルはうっとりした目でソーの鍛え上げられた上半身を見る。
「ね、早く……」
「分かっている」
ソーはまずヒカルのズボンと下着を脱がせ、次いで自分のズボンと下着を脱ぐ。ヒカルの足の間で屹立し透明な液体を滴らせるそれを右掌の内に包み込み、何度か度手を上下させる。
「にゃ……!」
ヒカルは目を見開き、体を震わせた。だがすぐに自身の出した声に驚いたのかすぐに両手で口からを塞いだ。ふーっ、ふーっと本物の猫の唸り声のような呼吸音と共にヒカルは肩を上下させている。
ソーは右手の動きを休めることなくヒカルの手を取って口から退け、ヒカルの唇を自身の唇で包み込んだ。その柔らかさを味わう様に何度も唇となぞり、ヒカルは漏れそうな声を必死でソーの内に逃がす。
そしてソーは頃合いを見つつ、己の剛直をヒカルのそれに擦り付けた。
「っ……!ああ、や、んん……!」
喘ぎ声を必死で堪えるヒカルの姿、そして直接的な刺激に、ソーは目が眩むような快楽を感じた。理性が吹き飛びそうになるのを必死で堪える。
ソーが腰を動かす一方で、ヒカルもまた、より強い快楽を得ようと腰を動かし、両足をソーの腰に巻き付けはじめた。
「んん……はあ、そー……」
「大丈夫だ、ヒカル」
不安そうなヒカルの頬を優しく撫で、角度を変えながら何度も口付けを交わし合い、互いの熱を共有するかのように動く。熱は次第に大きくなるが、ソーは眉を寄せて堪えた。
「んあっ……や、ひっ、うあ……!」
時折漏れる生娘のような喘ぎ声は、嫌でもソーの脳を揺さぶる。
「……ヒカル」
「そー、もっと……」
恥じらいながらも、しかし快楽には抗えないのか必死でソーを求めるヒカルの姿は、初めて男を知った生娘のようであり、しかし淫らな雌猫のようでもあった。
「もっと、ちょうだい……」
男でなければ得られない刺激から快楽を得ながらも、生娘のように喘ぎ、人のものではない猫の耳や尻尾を震わせるその姿のなんと背徳的で甘美な事か。
「与えよう。お前が望むものなら何でも」
ヒカルの耳元で囁き、首筋に吸い付く。
「んにゃ……ああ……っ」
ヒカルの身体は震え、気持ち良さそうな声が上がった。ソーは暫しヒカルの首筋に吸い付いた後、顔を離してヒカルに印が残ったことを確かめる。
「ここも……良いのだったな」
続いて、普段床で行為に及ぶ前にしているように、ヒカルの胸の突起を指で優しく捏ねた。
「みゃっ!や……」
大きな声を出すまいとしながら、肩で大きく息をし、押し寄せる快楽を細い体で受け止めているヒカル。愛おしさは嫌でも募る。
「……愛している、ヒカル」
耳元でそう囁けば、ヒカルは微笑みを返す。
「ぼく、も……」
微笑むヒカルの目尻から、涙が伝う。
ソーは腰をより一層強くヒカルに向けて動かした。
「ああっ!あ、んあ、はっ、ん、んん、や、ああっ……!」
びくり、とヒカルが強く体を震わせた。強く目を閉じ、体を弓なりにしならせて。ソーもまた限界を感じ、目を閉じて体を震わせた。互いの放ったそれで、二人の腹は白濁で汚れる。
ソーは自身も荒い息をしながら汗で額に張り付いたヒカルの前髪を優しく額から退けた。ヒカルは肩で息をしながら、申し訳なさそうに笑う。
「ごめんね……急に僕の家で、こんにゃ……」
二人で床を共にし、その上で行為に及ぶ時は、必ずどこか家以外の場所に行く。ヒカルが家族と暮らしているから……というのが大きな理由だ。そしてヒカルの家でこうして行為に及ぶのは初めての事だった。
「気にするな……私が変な好奇心を起こしたせいだ」
ソーは立ち上がってティッシュの箱を手に取り、まずヒカルを、次いで自分の身体を拭く。
「どうする?風呂に入るか?」
「ううん……疲れちゃったから、寝るよ……」
「そうか」
ソーはティッシュをゴミ箱に捨ててティッシュの箱を元の位置に戻すと、部屋の電気を消した。ベッドの上に乗ると、ヒカルの傍らに横たわり掛布団を肩まで引き上げて二人の身体の上にかける。ヒカルが甘えるようにソーに擦り寄るので、ソーは自分の二の腕にヒカルの頭を乗せさせた。
ヒカルの猫の耳が僅かに鼻に触れ、そのこそばゆさにソーは笑みを漏らす。
「……ゆっくり休め、ヒカル」
「うん……おやすみ……」
それから程無くして、ヒカルの口から寝息が漏れ始めた。ソーはヒカルの頬を優しく撫で、自分も目を閉じた。

翌朝、目を覚ましてすぐにヒカルはソーと共に自分の身体に何か変化が起きていないかどうか確かめた。あまり大きな変化は起きていないので安心はしたものの、早くドクター・ストレンジに解いてもらいたいかな、とヒカルは苦笑いした。
ヒカルとソーがアキラを学校に送り出してから1時間ほど経った頃、マンションのエントランスから通じているインターホンが鳴った。誰だろうと思いつつヒカルが出てみると、なんとドクター・ストレンジその人だった。
異次元に行っていたストレンジはサンファイアーから連絡を受けていたことについ先ほど気付いたのでここへ来た、と言った。町全体を「視た」ところ、どうやらヒカルだけが術にかかっていたらしい。
「案ずることはない、この程度の呪いであればすぐに解ける」
ストレンジはそう言って、ヒカルの額に指先を当てた。ソーが見守る中、淡い光がヒカルを包み込み、ものの1分もしないうちにだろうか、ヒカルの頭から生えていた猫の耳と尻尾は綺麗になくなった。
「これで治ったはずだ、鏡を見て来るといい」
ストレンジに言われるままにヒカルは洗面所に行き、自分の耳と尻尾がなくなっていることを確かめた。
「あ、ありがとうございます……」
あっと言う間に治ったことに戸惑いながらヒカルが礼を言うと、
「至高の魔術師である私には容易い事。君達は我が友だ。何か困りごとがあればいつでも行ってくれたまえ。では、さらばだ」
そう言い残し、ストレンジはテレポートでどこかへ消えてしまった。
ソーとヒカルは顔を見合わせ、相変わらずな人だ、と笑った。
ヒカルの耳と尻尾は消え、またいつも通りの生活を送れるようになった。
「数時間だったけどね、すごく不安だったよ……ソーとアキラがいてよかった」
そう言って笑うヒカルが堪らなく愛おしくて、ソーは思わずヒカルを強く抱き締めた。頭を優しく撫でると、ヒカルは嬉しさで肩を揺らした。