スノードーム(再録)(ソーヒカ)

未来捏造とかディスウォ時空F4捏造(言及だけ)とか割と好き勝手やってます

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 一緒に暮らし始めてすぐに分かったことだが、ソーは機械音痴だ。機械の調子が悪くなったらすぐに叩くし、あるボタンはとりあえず全部押す。操作は全てフィーリング。
 調子が悪かったらとりあえず叩くって、ブラウン管テレビじゃあるまいし。そもそもブラウン管テレビだってソーの怪力に耐えられる性能のものは存在しなかっただろう。
「だからソーは、機械になるべく触らないでこの箒と塵取りを使って玄関を掃いてきて」
「……分かった」
 箒と塵取りを受け取った時のソーの不服そうな表情に、思わず笑いが込み上げる。
「大きなゴミを掃いてくれればそれでいいから。後は僕が掃除機で仕上げて終わり。ね?」
 今日は12月20日。
 ヒカルとソーは、ヒカルがニューヨークから日本に帰省する前に共に生活しているアパートの大掃除をしていた。だいたいのゴミはもうまとめて玄関前に置いてあるので、換気をしながら埃を取るだけ。
換気のために開け放した窓から吹き込む冷たい風に、ヒカルは肩を震わせた。
「少し寒くなって来たね、早く終わらせよう」
「そうだな」
 ヒカルが掃除機のスイッチを入れると、ソーは箒と塵取りを持って玄関へと向かった。

「お疲れ様、ソー。はい、ココア」
「うむ、ありがとう」
 ソーとソファに並んで座ってマグカップに入れたココアを両手で包み込むと、温かさがじんわりと冷えた指先にしみる。一口すすれば、喉を伝って胸まで甘く温かいものが広がった。
 ソーがしみじみとこう言う。
「地球の季節の移り変わりは、慌ただしいな。アスガルドの時は、もっとゆっくりと流れる」
「そうなんだ」
「ああ。だが、慌ただしい分愛おしくも感じる」
「……そっか。僕達人間にとっても、1年はあっと言う間だよ」
「だが、地球は季節ごとに様々な祭りをするのが楽しいな」
「お祭り?」
「そうだ。地球の中でも、地域によって全く違う祭りで季節を祝っているのが面白い」
 ソーの目は自分を見ていなかった。ヒカルがソーの目線を追うと、ソーは、ソファの前にテーブルに置いてあるスノードームを見ていた。ベルのように裾が広がった鈍い金色の台座の上に透明のボールが乗ったスノードーム。その中では、綺麗に包装されたプレゼントに囲まれたずんぐり太った熊が、サンタの帽子をかぶって座っている。その周りには白い雪が積もっていた。
「地球に来るようになってそれなりになる。クリスマスも何度か経験したが、あの置物は初めて見た。あれは何だ?」
「スノードームだよ。リチャーズさん……最近、研究を見てもらってる先生の奥さんに貰ったんだ。クリスマスプレゼントにって」
「スノードーム……面白いものを考えるな、人間は」
 ソーがスノードームを手に取ると、中で白い雪がふわりと舞って熊にふりかかる。
「おお!」
 ソーの顔が無邪気な子供のように輝くので、ヒカルはくすりと笑った。
「スノードームなら、こっちにたくさん売ってるよ」
「うむ、アスガルドの友にも是非見せたいものだな」
 ソーがスノードームをテーブルの上に戻すと、雪がふわふわとスノードームの底に積もっていく。ソーはまだスノードームから目を離せないようだ。
本物の雪でない事は見れば分かる。しかし、その白い物は水で満たされたガラスのドームの中で不思議な白い世界を作り上げているのだ。ソーはどうやらその白い世界に魅せられてしまったらしい。
 ヒカル自身も、スノードームは嫌いではない。だが、ソーがスノードームにすっかり心奪われているのを見ると、スノードームが一層特別なものに見えて来た。
「何なら、お店回ってみる?冷蔵庫の中身も空にしちゃったし、今日の晩御飯は外で食べようと思うんだけど」
「それはいい提案だな。そうしよう。それに最近、町中がとても光り輝いているのが見える。あれを近くで見てみたいのだが」
 冷静を保ちつつも、ソーの声はそわそわと落ち着きが無い。
 北欧神話の神様なのにすっかりクリスマスに中てられてる、そう思うとなんだかおかしくて、自然と笑いが込み上げて来た。