トリック・オア・トリート!(再録)(team鳳)

「トリック・オア・トリート!」
 10月31日、チーム鳳の練習に向かう道すがら。
 お決まりの文句を言いながら那雪の前に飛び出してみる。那雪は「えっ?!」と目を丸くしたが、すぐに笑って、
「はい、カントリーマ○ム」
 鞄の中から、個包装された季節限定のカボチャ味のクッキーを取り出して星谷の手にそっと乗せてきた。
「さっすが那雪!ありがと!」
 星谷はもらったクッキーをすぐには食べず、そっとブレザーのポケットに収める。
「どういたしまして。毎年妹に言われるからね……そうだ星谷君、僕からも、トリック・オア・トリート」
「はい!」
 星谷は鞄から個包装されたチョコレートクランチを出して那雪に手渡す。包装にはハロウィンらしいジャックオランタンのイラストが描かれている。
「星谷君、もしかしてハロウィン楽しみにしてた?」
「うん!練習忙しくて仮装は出来ないけど気分だけでも味わいたいし!」
「あはは、やっぱりそうだよね」
 それぞれ貰ったお菓子をポケットに、二人は笑いながら練習室へと向かうのだった。

「天花寺、月皇!トリック・オア・トリート!」
「僕からも、トリック・オア・トリート!」
 自分達より少し早く練習場所に来ていた天花寺と月皇に二人して手を差し出してみると、天花寺も月皇も呆気に取られた顔をした。
「いきなり何なんだ野暮助……」
 天花寺がそう言った直後に、月皇が「ああ、なるほど」と呟いた。
「今日は10月31日だったな」
「そういうことか……ったく」
「トリック・オア・トリート!お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ!」
 星谷がぐいと掌を皿のようにした両手を天花寺に向かって押し付けると、「わーったよ!」と天花寺が切れ気味に叫んだ。
「仕方ねえな……ちょっと待ってろ」
 天花寺は鞄の中を探り始め、月皇も「少し待っていろ」と鞄の中を探り始めた。
 星谷と那雪は顔を見合わせ、にやりと笑う。
 先に二人の掌にお菓子を乗せたのは天花寺だった。
「ほらよ、これで我慢しろ野暮助」
「……これ……」
「龍角散のど飴……」
 渋い色合いの小さな袋に入った飴にしばし神妙な顔になる二人だったが、
「よく効くよね、龍角散のど飴!ありがとう、天花寺君!」
「そ、そうだよな!苦いけど効き目は抜群だよな!」
 せっかくくれた物を無下にするわけにはいかなかった。
「ありがたく思えよ、この天花寺翔様御用達ののど飴だ」
 そう言って胸を張る天花寺。それを見て何故か悔しそうな顔をしている月皇。
「どうしたんだ月皇?」
 星谷が尋ねると、月皇は何故か苦々しげな顔で二人の掌にお菓子を乗せた。
 月皇からのお菓子は、はちみつカリンのど飴だった。
「あはは! 月皇も天花寺ものど飴だ!」
 なんだかおかしくて、星谷は思わず声をあげて笑う。那雪も口に手を当てて笑い出した。月皇は顔を赤くして腕を組んだ。
「う、うるさい!仕方ないだろう、これしか持ち合わせが……」
「ごめんごめん。はい、お返し」
 那雪は笑いながら貰ったのど飴二つをポケットにしまい、クッキーを天花寺と月皇に渡した。
「俺からも!」
 星谷もチョコレートクランチを二人に手渡す。
「ったく浮かれやがって野暮助……礼は言っとくぜ」
「あ、ありがとう……」
 呆れながらも悪くは思っていないであろう顔の天花寺と、顔が少し嬉しそうに綻んだ月皇。
「あとは空閑だな!」
 星谷がわくわくしながら練習場の扉を見ていると、やがて扉が開いて空閑が入って来た。
「空閑!」
「空閑君!」
「?」
 空閑が練習場の扉を閉めて四人の方へ歩いて来たところで、
「トリック・オア・トリート!!」
 星谷と那雪で声を揃えて空閑の前に手を差し出す。空閑はきょとんとしたように立ち止まった。
「……?」
「今日は10月31日、ハロウィンだ」
 月皇が助け舟を出すと、空閑は納得したように頷いた。
「そうか……」
 少しだけ困ったような顔になった後、空閑は鞄の中をまさぐった。
「……悪い、これしかない」
 空閑が淡々とした口調ながらもどこか申し訳なさそうに差し出したのは、銀紙に包まれた板状のガムだった。
 思いもよらない物が出て来て目を丸くする星谷と那雪。
「ブラックミントだ」
 淡々とした口調でガムの種類を告げられ。星谷と那雪は顔を見合わせて、ぷっと噴き出した。
「っははは……なんか空閑らしい!」
「ほんと、空閑君って感じだ!」
「……?」
 空閑が不思議そうに二人を見る一方、天花寺と月皇も釣られて笑い出した。
「あはは、はい空閑! これ!」
「僕からも!」
 星谷と那雪それぞれにお菓子を渡され、いっそう不思議そうに二人を見る空閑。それから天花寺と月皇を見て、ガムを差し出した。
「お前達もいるか?」
「ああ、いただくよ」
「ほらやるよ」
 空閑と天花寺・月皇もガムとのど飴を交換し、五人全員の手の中にお菓子が行き渡る。
「そもそもハロウィンってこういう行事じゃねえだろ……」
 天花寺はそう呟いたものの、どこか楽しそうだ。
「いいんだよ、楽しいから!」
 星谷が満面の笑みで言ったその時、練習場の扉が勢いよく開いた。
「ボーイズ、Trick or Treat!」
 扉の向こうから現れたのは、チーム鳳の指導者にして彼らの先輩である、鳳樹だった。ただし、その顔には顔の上半分を覆う白い仮面を付け、制服ではなく古風な燕尾服を身に纏い上から黒いマントを羽織っている。そしてその手にはやたらと巨大なトランクケース。
「オペラ座の怪人……ですか?」
 月皇がそう尋ねると、仮装のテーマを言い当てられた鳳は嬉しそうに頷いた。
「そう。今日はせっかくのハロウィンだからね。稽古開始時刻よりまだ早いけど、ちょっとだけ準備に時間をかけていつもと少し変わったレッスンをしようじゃないか」
「変わったレッスン、ですか?」
 星谷が首を傾げる。鳳は仮面の下でにやりと笑い、トランクケースを床に置いた。
「さあボーイズ、この中から好きな衣装を選んで!」

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初めて書いた星劇二次創作。
2015年10月末に書いたものなので、放送初月中には書いたことになります、早い。
1期作中のリアル10月がハロウィンどころじゃなくなるとは思いもしませんでした