ホームシック(再録)(ノバとガーディアンズ)

DWA時空のノバとガーディアンズの話。
DWA時空クィルの過去は映画とだいたい同じだと思ってます。他にも色々原作設定とか借りつつ捏造してます。

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 再来週の水曜の夜に流星群が見れるらしいんだ。東京からでもはっきり見えるみたいだよ。
 地球とは似ても似つかない色をした空の中を飛ぶ宇宙船の光の航跡に、そう言って柔らかに笑った親友の顔をふと思い出した。
「おいノバ!どこ見てやがる!」
「うお?!」
 ロケット・ラクーンの叱責に、ノバは我に返った。それと同時に、ガモーラのするどい蹴りがノバの腹に食い込んだ。地球に比べると僅かな重力しかない星ゆえ、ノバはガモーラが蹴った方向へと真っ直ぐに吹き飛ばされ、近くに転がっていた大きな岩に勢いよく叩き付けられた。
「いってえ……」
 思わず声を漏らすと、ガモーラの鋭い声が飛ぶ。
「注意力散漫。私が敵だったら死んでた」
「どうも……」
 腹をさすりながら立ち上がると、ガモーラは呆れたように肩をすくめた。
「今日はずっとそんな感じね、ノバ。少し頭を冷やしなさい」
「はいっす……」
「準備が出来たら呼んで」
 それだけ言うとガモーラは踵を返し、ミラノ号の方へと歩いて行った。
 ノバは肩を落として一つ、溜息を吐く。
「おい、どうしたんだよ今日は」
「私はグルート……」
 ノバとガモーラの戦闘訓練を傍で見ていたロケットとグルートが見兼ねてノバに歩み寄って来た。
「いつもの無駄に暑苦しいやる気はどうしたよ」
「私はグルート」
「うーん……」
 二人にそう聞かれても、なんと答えればいいものか分からない。ノバは首を傾げた。
「なんか今日調子出ないんすよね……」
「おいおい、ヴィランどもはこっちの調子なんてお構いなしなんだぞ?寝起きのクィルじゃねえんだからもっと気合入れろ」
 腰に手を当てて偉そうに言うロケットに、グルートがにこにこ笑いながら続けた。
「私はグルート」
「うるせえぞグルート!俺は別に良いんだよ!」
 顔を赤くして怒り始めたロケットと、楽しそうに笑って受け流しているグルートを見て、ふとノバの脳裏に過るものがあった。
 実は、来年からイギリスに留学しようかなって思ってて。ほら、天文物理学の権威のエリック・セルヴィグ博士っているでしょ……。
 大学のキャンパスで親友が笑いながらそう言ったのを聞いたのは、いつのことだったか。
「先輩」
「だからあの時の話はするな!」
「私はグルート」
「お前だって寝てる時はあほみてーな面してるじゃねーか!」
「あの、ロケット先輩……」
「あ?!」
 その剣幕に怯みながらも、ノバは恐る恐る言う。
「俺、スターロードと話がしたいんで、一旦失礼します」
 ロケットは怪訝そうな顔をしたが、すぐにひらひら手を振った。
「おう、行って来い」
 ノバは先程ガモーラが歩いて行った方へと飛んで行った。ミラノ号の乗降口から船内に入ると、スターロードの姿を探した。
 ミラノ号は外から見れば小さいが、中は意外と広い。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの五人が住むには少し狭いような気もするが。果たして、スターロードは船の底の居住スペースにいた。テーブルの上に展開した銀河の地図のホログラムを見ながら、ドラックスと額を突き合せて何か話し合っている。
「スターロード」
 声を掛けると、スターロードが振り返る。木・アライグマ・宇宙人・宇宙人という、地球人のノバからすれば独特の外見をしているガーディアンズの他のメンバーとは異なり、スターロードの外見は地球人である。実際は宇宙人と地球人のハーフで(これはスターロード自身もよく分かっていないようなのだが)、地球よりも宇宙で生きた年数の方が長いらしいが。
 とは言えノバは、年長者として、そして宇宙をホームグラウンドとする地球人ヒーローとしてスターロードのことを尊敬していた。スターロード達は、ついさっきまでやっていた戦闘訓練のように、ノバに様々なことを教えてくれた。宇宙での戦い方、宇宙に存在するいくつもの国家、宇宙に存在する大きな脅威、そして宇宙で活躍するヒーロー達のこと。ノバはつい一年前まで、地球外に自分のようなヒーローがいるなんて知らなかった。この出会いをもたらしてくれたアベンジャーズと親友に、ノバは心から感謝していた。
「どうしたノバ。ガモーラを怒らせたのか?」
 スターロードはにやにや笑っている一方でドラックスはいたって真面目な顔だ。
「ガモーラを怒らせたのか。きちんと謝ったのか?」
「謝るのはこれからっす……スターロード、話がしたいんだけど大丈夫ですか?」
「ああ、いいぜ。悪いなドラックス、続きは後でだ」
「うむ」
「二人きりで話した方が良いか?」
「出来れば」
「よし、それじゃついて来い」
 スターロードはノバをミラノ号のコックピットへと案内した。ノバは何度か宇宙でガーディアンズと戦いを共にしたことはあったが、コックピットの中へ入るのは初めてだ。ノバのヘルメットとスーツは、地球人であるサム・アレキサンダーに地球外で活動する能力と宇宙船に匹敵する高い飛行能力を与えているため、わざわざ宇宙船に乗り込む必要も無いのだ。
 スターロードは操縦席に、ノバは副操縦席に座り、椅子を回転させて向かい合う。
「で、珍しくしおらしい顔したヒューマンロケットが俺に何の用だ?」
 スターロードに問われ、ノバは一瞬だけ迷った後こう尋ねた。
「スターロードってホームシックになったことあります?」
「…………」
「…………」
 気まずい沈黙がコックピットに漂う。しかしノバは大真面目に、スターロードがなんと答えるか黙って窺う。ノバの質問にスターロードはしばらく困ったような顔をした後、「あー、」と声を出しながら、記憶を手繰るように話し始めた。
「俺は小さい頃地球からラヴェジャーズって荒くれ者連中に攫われて宇宙に来た……この話はしたな?」
「聞きました」
「そんで、そのラヴェジャーズのボスのヨンドゥってやつに育てられたみたいなものなんだが……で、なんだ?ホームシック?お前俺が攫われて来た時いくつだったと思ってるんだ?9歳だぞ?いくら今の俺が伝説のアウトロー、宇宙最強のトレジャーハンター、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのリーダーとは言え9歳のガキがいきなり宇宙に連れて来られてホームシックにかからないわけがあるか?」
「そ、そっすね……」
「でもな、意外とすぐ慣れたぜ。慣れないといつラヴェジャーズの他の連中に取って食われるか分かったものじゃなかったからな。気合で慣れた」
「と、取って食われる?」
 この人はなんと過酷な幼少期を送ったんだ、とノバが思う一方でスターロードは昔を懐かしむような顔をして頷いている。
「ま、要は慣れだ慣れ。どうしたノバ、地球が恋しくなったのか?」
「……そんな感じっす」
「お前は地球で生きた年数の方がまだ長いから、それは仕方ないかもな……でもなノバ」
 急に、スターロードの表情が厳しくなる。ノバは思わず背筋を伸ばした。
「偉そうなこと言えた立場じゃないが、お前は何で宇宙に来ることを決めたんだ?地球と宇宙を股にかけて活動することを決めた理由を思い出してみな」
「俺が、宇宙に来ることを決めた理由……」
 スターロードの言葉を反芻するノバ。
 自分が宇宙に来ることを決めた理由。地球と宇宙を股にかけて活動することを決めた理由を、思い出す。
 アベンジャーズと一緒に戦い、ガーディアンズと出会い、「世界」が地球に留まるものではないことを知った。そして、自分のヘルメットを見たスターロード達から、自分の力の由来を教えられた。元よりヒーローとして戦っていた身である自分は、自然と宇宙へ飛び出すことを考え、そして実行に移すことにした。せっかくドルマムゥの手から守った地球なのだ、宇宙の更なる大きな脅威に晒したく無い。そう強く思ったのだった。
 それから、地球の事を思うと決まって思い出す親友の事も考えた。日本は今頃夏休みだし、流星群を観察したいとも言っていた。流星群が日本から見える時間はもうすぐなのではないだろうか。
 サム、また宇宙に行くの?……そっか、気を付けてね。
 故郷・アリゾナの母に勝るとも劣らない程に毎回心配そうな顔をして見送ってくれるあいつは、今も元気にしているだろうか?
「……いや待てよ?お前今回はこっち来てからまだ3日しか経ってないような気がするんだけどよ……」
 スターロードが何かに気付くがお構いなしにノバは立ち上がって宣言した。
「ありがとうスターロード!俺、目が覚めた……訓練頑張ります!頑張って、宇宙最強のヒーローになってみせる!」
「お、おう……頑張れよ」
「ところでガモーラどこにいるか分かります?!」
「シャワーでも浴びてるんじゃねえか?」
「あざす!」
 ノバはコックピットから飛び出し、シャワーブースまで走る。ガモーラがシャワーを浴び終えたらすぐに謝って、また訓練を付けてもらおう。強くなるために。
「よっしゃー!頑張るぞー!」
 

 ノバを見送ったスターロードは、その威勢に気圧されてしばらく操縦席に腰かけたままだった。だが、船内の方から聞こえて来た「頑張るぞー!」の声に思わず吹き出し、そして肩を震わせて笑い出した。
「ったく……手間のかかる後輩だぜ」
 それから、コックピットのウィンドウ越しに空を見る。宇宙の星には、その星ごとの空の色がある。今ガーディアンズがいる星の空は、菫色の中に白を溶かし込んだような淡い色をしている。
「地球、ね」
 余所者として訪問することになった故郷の星。その空は、突き抜けるような青さだった。地球と同じような色の空をした星は無いわけではなかったが、それでも地球の空は地球だけの色だ。
 地球は今の自分にとっては「第一の故郷」であっても、ノバにとっては唯一無二の故郷。しかしスターロードは、初めてノバを、正確にはノバのヘルメットを見た時の驚愕を思い出さずにはいられなかった。
 コックピットから、訓練を再開するためにミラノ号の外に出たノバ、ガモーラの姿が見えた。どうやらドラックスも参加するようだ。
 ノバの姿を見たロケットは、戦いの後スターロードにこう言ったのだった。俺らが見てないとやばいかもしれねえ、と。
 だからこうして、時々ノバを宇宙に呼んで面倒を見ることにした。
 いつかノバは、地球と宇宙の双方を揺るがす大きな脅威に直面することになるだろう。サノスにチタウリ、ギャラクタス。宇宙には、ガーディアンズがこれまで関わったこともない(出来れば関わりたくもない)ヤバいやつらがたくさんいる。
 ノバはまだ未熟だ。しかし、いずれはアベンジャーズにも肩を並べるヒーローになる。スターロード達はそう確信している。
「その面倒なホームシック癖が治ればもっと早く強くなれるんだろうけどな」
 肩をすくめると、操縦席から立ち上がった。
「さてと、たまには俺も訓練に付き合ってやるか……」
 ミラノ号の外に出てみれば、ガモーラとドラックスを相手に必死で立ち回っているノバの姿があった。ロケットとグルートは少し離れたところからそれを見守っている。
「おい、俺も混ぜろ!」
 声を掛けるとノバが「まじですか!」と嬉しそうにスターロードの方を振り向いた。しかしその直後にガモーラの回し蹴りがノバにヒットし、ノバは勢いよく吹き飛ばされて行ったのだった。

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サム……健やかに育っておくれ……